VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action11 −誘導−




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『なるほど、照明を壊す訳か・・・・』





 納得したように聞き入って、ラバットは感嘆の声を上げる。

ミッションに接近している敵に備えて、罠を仕掛ける事にしたカイ。

状況奪回の鍵となる戦略を、カイの口からラバットは引き続き聞かされていた。


『おっさんから聞いた情報によると、連中はさっきあんた等と出会った場所から来ようとしてるんだろう?
あそこ、数個しか照明が点いてなかったからな。
やって来た敵さんの目を盗んでその照明さえ壊せば、あそこは一瞬で真っ黒になる』


 カイが予備ドレッドから着陸した場所は、見渡す限り広く薄暗い環境だった。

物珍しさも手伝って調べまわった際に、天井にも目を向けていたのである。

ミッション内は現在最低限しか機能していない。

照明施設とて、それは例外ではない。

数個しか点いていない明かりを消せば、例え膨大な広さを保有していても密閉している限り闇に閉ざされる。

突然視界を遮られれば、誰でも動揺はする。

刈り取りを実行している無人兵器でもそれは変わらない。

むしろ突然の異常事態に状況把握に手間取り、当初の思惑通り足止めになるだろう。

――と、そこまでラバットは楽観的には見れなかった。


『だがよ、肝心なのは・・・・』


 ラバットはカイをじっと見る。


『照明が壊せるか、だろう?
お前、あそこの天井までの高さを知らない訳じゃないだろう。
見つからずに実行するのは無理だぜ。
しかも大勢いる機械仕掛けの敵さんに見つからずだぞ?』


 予備ドレッドが停泊している場所は、船が鎮座して並んでいた保管庫だった。

その高さは真っ直ぐ見上げても届かない程である。

大の大人でも力一杯跳んだ所で照明に手を届かすなど不可能である。

飛び道具も何もなく、しかも照明を壊すには敵の居る中へ飛び込まないといけない。

あらゆる視点から見ても、作戦実行には難があった。

が――


『そう、俺一人では無理だ。
俺一人だったらな・・・・・』


 カイはにっと笑って、じっと見る。

向かい側のラバットを―――――ではない。


『ま、まさか・・・・こいつに手伝わせるのか!?』

『ああ、うってつけだと思うぜ。俺は』


 ラバットの背後にいるもう一人に、カイは笑いかけた。



















「・・・・今の所順調だな・・・」


 耳を済ませながら、カイは通路の奥を見つめた。

ラバットと二手に分かれた後、カイは作戦準備を整えて今この場にいる。

故障した予備ドレッドがある保管庫とミッション中央を繋ぐ通路。

説明を行っていたその通路の入り口―――

本当なら今敵がいるであろう場所を偵察に行きたがったが、それは出来なかった。

カイ本人が立てたこの戦略の骨組みは、徹底した隠密行動にある。

敵に姿を見せないからこそ戦略成功率は高まり、敵を撹乱させる事が出来る。

今は興味と好奇心を抑えて、冷静に行動しなければいけない時だった。

カイは興奮と緊張に高鳴る胸の鼓動を抑え、思考を走らせる。

敵が侵入して、早くも数十分が経過。

時間の確認が満足に出来ないのが痛いが、今の所成功していると見ていいだろう。

光源遮断による人為的停電――

敵を足止めさせる為に必要な処置だが、無事に照明を落とす事が出来た様だ。

今回の作戦の要である貴重な助手。


(ウータン・・・・よくやったぜ・・・・)


 ラバットの相棒で、オランウータンであるウータン。

長く引き締まった手足は驚異的なバネと柔軟性があり、高い跳躍力と機敏な行動力を兼ね備えている。

人間に比べて小柄な体格は、一度影に潜んでしまえば分かり辛い。

隠れる所の多い保管庫で、高い天井に手が届き、失敗の許されない作戦を任せられる知能性のある者。

ウータンはまさにうってつけの助手だった。

作戦内容をウータンに教え、カイは実行するように頼んだ。

嫌な顔一つせずむしろ楽しそうな様子で作戦を聞いたウータンは、了承の返答なのか元気よく鳴いて答えた。

途中まで行動を共にし、今は先行して作戦に取り掛かってもらっている。

もし失敗すればすぐに自分の元へ駆けつけるか、それが出来ないなら大声に鳴く様に伝えている。

その失敗の合図がない所を見ると、無事に作戦を実行出来たのだろう。

この作戦に失敗は許されない。

もしもウータンがしくじれば敵に捕らわれて、無残に刈り取られてしまう。

ウータンなら成功してくれるとは思っているが、万が一の可能性もある。

心配の種は消えない。

安全確認はきちんとは出来ていない分、特にカイの心中は穏やかではいられなかった。

だからこそ―――


(・・・あいつは大丈夫。集中しよう)


 今日会ったばかりの自分を、ラバットもウータンも信じてくれている。

提唱した作戦が成功するように、二人とも奔走してくれているのだ。

心配だからといって不安に駆られていては、折角の二人の努力が無になる。

まだ、作戦は終わっていない。

むしろ、今からが――――自分の行動にかかっている。


(時間は今・・・・半時間って所か。
敵だって馬鹿じゃない。
照明を落とされたのだと気づけば、すぐに行動に移すはず・・・)


 敵は縦横無尽に戦い抜く無人兵器。

周りが見えなくなったからと言って、ミッションの侵略を諦めるとは思えなかった。

機械的な分析力とプログラミングされた情報を持って、対処にかかるだろう。

ひょっとすると懐中電灯のような何かを持っているかもしれない。

もしくは・・・・


(明るい場所に移動するか、だな)


 停電させたのはあくまで保管庫のみ。

保管庫から出た通路は照明はそのままになっており、光を辿れば外に出れる。

通路に出れさえずれば、照明は全域に渡って設置されているのだ。

結局、目くらましは一時的にしか効果は果たせない。

戦略を練っていた時から分かっていた事である。

これだけで何とかなる程、敵は甘くない。

敵は惑星そのものを荒廃させて、惑星内にいた人々を皆殺しに出来るのである。

情けの欠片もないやり方と相手側の戦力を把握し対抗する力。

こちらも徹底しなければいけない。


(偶然か故意なんて関係ない。
照明を消されて、敵はより警戒心を強めている。
そんな連中に対抗するには・・・・)


 カイは先程から自分の手に握り締めている物を見つめる。

水筒――

金属製の頑丈なこの水筒はカイが飲み乾してしまって中身はなく、空っぽになっている。

宇宙に漂流して衰弱していたカイに飲ませてくれた水が入っていたのだ。

二手に分かれる際に、ラバットから作戦に必要だと借りたのである。


「せ〜〜〜の〜〜〜〜〜〜でぇっ!!」


 何を思ったか、カイは豪快にスイングして天井へ水筒を投げつける。

手から離れた水筒は勢いに乗って放物線を描き、光を照らす照明の一つに激突した。



ガチャンッ!?



 派手な音が静寂な通路を満たし、反響して響き渡る。

同時に床で激しい衝突音を鳴らして、水筒は力なく通路に転がっていった。

水筒にぶつかって割れた照明が完全に破壊され、床に破片が散りばめられる。


(今の音でここに誰かがいるのが分かった筈だ。
警戒はするが、ミッションに関する手掛かりがない以上ここに様子を見に来るだろう。
後は・・・・)


 カイはそのまま歩き、床に散らばった照明の破片の一つを手に取る。

水筒に、床にぶつかって割れてしまったガラス破片。

カイは尖がった破片の断面を見ながら、ごくっと息を呑む。

作戦はもう決行されている。

ラバットとウータンは動き出し、敵はすぐそこまで来ているのだ――


(あんまり・・・やりたかねえけどな・・・・)


 今からやる自分の行為。

考えただけで、カイは顔をしかめてしまう。

戦略上必要であり、実行すれば確実に敵をどうにか出来る。

見事なまでの分析力のある刈り取りの連中も、このやり方なら作戦の真意を見透かされる事はないだろう。

後は己次第。

覚悟を決めなければいけない。


(・・・自分、か・・・・)


 乗り越えなければいけない。

今こそ、倒さなければいけないのだ。

男になる為に。


「・・・連中が来たら、その時は・・・・」


 カイは握り締める。

天井からの光に反射して輝いているガラスの破片を。

不規則に割れて凶悪に尖がる破片の先端を―――



























<to be continues>

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