VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action10 −停電−




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『―――してもらいたんだ』





 ミッション内中央通路にて――

誰もいないのを幸いに、カイとラバット二人が座り込んで作戦会議をしていた。


『敵の注意を引き付けて、時間を稼ぎさえすれば大丈夫だろう。
おっさんが言ってたんだぜ?
ミッションはまだ死んじゃいねえってよ』


 ここ宇宙基地ミッションに不審な船が接近を試みている――

状況とこれまでの経緯から『刈り取り』の一味だと判断したカイは、戦略を練ってラバットに説明していた。

カイはにっと笑ってラバットに詰め寄る。


『・・・・出来るんだろう、おっさんには』

『ぐ・・・・』


 あからさまに舌打ちをして、ラバットは顔をしかめる。


『何でそう思うんだ?
俺は何も知らない頭の悪い男かもしれねえぞ』



 カイはすぐさま首を振る。


『絶対ありえねえ。
おっさん、ここが初めてって訳じゃねえだろうし。
旅慣れている上に、ここの構造だって妙に詳しかったじゃねえか。
仮にも宝捜しに来る奴が何の情報も知識もないんじゃ、商売もくそもねえよ』


 カイの指摘に、ラバットは視線を逸らして黙り込む。

何やら考え込むような複雑な表情が浮かんでいるが、カイの言葉を否定しなかった。

沈黙を肯定と捉えたカイはにんまりと笑う。


『じゃあ任せたぜ。
おっさんがあそこに行って作業さえしてくれたら、万事解決だ。
めぼしい物取って、ここから出ればいい』

『ちっ・・・・しょうがねえ。やってやるよ、その役目。
だが、俺の方はうまくいったとしてだ・・・・』


 じろりとカイを睨み、ラバットは指を突き付ける。


『肝心のてめえがしくじったら話にもならねえ。
お前の言う事に乗るかどうかは、お前が実際にどうするか聞いてからだ。
実行力のない奴とは組めねえからな』


 一応の承諾はしたものの、ラバットはこれが条件とばかりにカイに提示する。

半ば状況の流れでカイに乗っかるつもりではいるラバットだが、盲目的に信用するつもりはまだない。

悪い奴ではないとは思っている。

内心何か企んでいるとか、他人を犠牲にして自分一人助かろうと考えているような男にも見えない。

今までの月日が生んだ人を見る目と、相棒であるウータンの懐き様をラバットは信用していた。

が、それとこれとは話が違う。

信用出来るのと頼りになるのとでは別問題だ。

特に今は敵の正体が不明な上に、相手次第では命懸けになる可能性がある。

カイの戦略が底の浅いものであれば、言う事を聞く事は出来ない。

これまでの困難を独力で解決してきたラバットは、己が実力を信じている。

自分を信じられない者が出来る生き方ではない、ラバットの人生は――

ラバットの問いに、カイはふむと唸って口を開く。


『まあもっともな話だ。
あんたに重要な役目を任せる以上、俺もきちんと仕事はするさ。
もっとも、俺は時間稼ぎだからな。
戦略の骨組みは立てるけど、何かあったらその場その場で対処する』

『・・・・それって行き当たりばったりとかいわねえか?』


 早くも暗雲が立ち込めそうな雰囲気に、ラバットはげんなりとした顔をする。

目の前の男には何かあると感じていたのだが、自分の直感が疑わしくなってきているラバットだった。

そんな目の前の男の心境とは裏腹に、カイは呑気な顔で話し始める。


『気にするな。
とりあえずまず敵への事前対処として――――姿を見せずに行動する』

『姿を見せないだぁ?』

『そう。
んで、影に隠れながら連中を撹乱する』


 目を白黒させるバットに、カイはとつとつと説明する。


『素直に正面から出て行ったら、囮にもならないだろう。攻撃されて終わりだ。
俺の武器は十手一つだぞ?
連中相手に一人で対抗出来ると思えるほど、俺は自惚れちゃいねえよ』


 無精髭の残る顎を撫でながら、ラバットは思案げな顔をする。


『だが、隠れてばかりじゃ意味がないだろう。
敵に注意を引き付けるにゃあ、気を引く何かがないといけねえ。
その役をお前が買って出たんじゃねえのか?』


 囮役を引き受けたカイがやけに消極的な作戦を展開しようとしているのを聞き、ラバットは疑問の声をあげる。

先程正面から戦うといったのは、当の本人である。

ラバットが疑問視するのは無理もない。

その疑問が来るのは分かっていたのか、カイは狼狽を見せずに言う。


『それは分かっている。
ただ、連中に姿を見せるのは後々困るんだ』

『自分が狙われるからか?』


 保身を気にしているのかと裏で問うているラバットに対し、カイは真面目に答える。


『・・・それもある。
連中のやばさは肌で体感してきたからな』


 相手に対して臆する気持ちがないといえば嘘になる。

少なくとも今は、カイは否定するつもりはなかった。

ラバットに対して臆病な面を見せたくなるという面は勿論ある。

あんな奴等怖くねえよ――

口で言うのは簡単だが、何度も敵に追い詰められた自分が空威張りする事への羞恥心はカイは持ち合わせている。

いや、この旅で気付かされたと言っていい。

今でも昨日の様に思い出される―――






『・・・・覚悟はしておいてくれ』


   ドゥエロの憎たらしい程冷静な声。


『頭部への外傷が酷い上に――――』


 淡々と話される死への順路。


『もう・・・助かる見込みはないらしい』


 悲痛に暮れるガスコーニュの声。


『リーダー、死んじゃうのかな・・・・?』


 悲しみに満ちたディータの声。





 ・・・最悪だった。

思い出すだけで苦々しく、涙腺が緩む。

目の前で、誰かが死のうとしている。

理不尽な、あまりに理不尽な死。

初めて触れた死のリアリティ――

脆く消えていく命の儚さ――

それは、まぎれもない恐怖だった。

下手な強がりや口だけの威勢では何もならない。

強がっても、目を背けても、何の意味もないのだ。


『敵は人間じゃねえ・・・・
何の感情もなく命を刈り取る化けもんだ』


 鋭い瞳で虚空を見つめながら、カイは続ける。

背伸びをしても、目を背けても意味がない。

感情に身を任せ、憎しみに心を焦がして戦っても敵は倒せなかった。

メイアを倒し、そのまま遠のいていく鳥型の姿は今でもまだ目に焼きついている――


『機械に常識は通じない。
それに、どうもこっちの戦力を逐一把握しているみたいだからな。
下手に姿を見せると、どういうデータを取られるのか分からない』

『おいおい、ちょっと待て!』


 言葉を遮って、ラバットは質問の手を上げる。


『機械と言ったな。
人間じゃない化けもんってのは無人兵器なのか?』

『そうだ。
説明が遅れたが、敵は種類によって形が違う。
そのくせ厄介な事この上ないからむかつくんだけどな。
一目見れば分かるぜ』

『ふ〜む・・・・・』

『?何だ、一体?』


 説明を聞いて重々しい顔で考え込むラバットに、カイは怪訝な顔をする。

そんなカイの声も聞こえないのか、ラバットは考えを休めない。

無人兵器、カイは確かにそう言った。

特殊な形をしているのだと。

だとすると、今ミッションの外にいる当の敵は該当しない事になる。

ラバットの腕につけている受信機は外部状況をモニタリングさせている船と接続しており、詳細を逐一伝えてくる。

その情報によると、外にいる連中は明らかに有人船である事が分かる。

型こそ戦闘タイプではあるが、パイロットが中にいるのは間違いない。

船から送られる情報と、カイの言っている情報は一致しない。

どちらかが間違えているのではなく、どちらの情報も正しいのだろう。


(・・・別口だな・・・・)


 敵か味方かを考えれば、確実に敵だろう。

送られてくる情報から照らし合わせられる船のタイプは、ラバットが見た事のない船である。

が、カイの言う『刈り取り』ではない。

元々怪しんではいたが、これで決定的だった。

となると、敵の正体が余計に気にかかるのだが・・・・


(こいつは・・・ちょっとおもしれえ展開になりそうだな・・・)


 敵は手強そうで、しかも集団。

それでも逃げ切れる事は十分出来そうだが、そうなるとミッション内の獲物を捨てる事になる。

滅多にない美味しい獲物をみすみすくれてやるのも惜しい。

かといって、この苦境を乗り切れる手は今の所思いつかない。

ここは一つ―――


『おーい、おっさん。老人ボケでも始まったのか』

『俺はまだそこまで年食ってないって言っているだろうが。
まあいい、話の途中だったな。続けてくれ』


 自分にとって敵である事には変わりはない。

なら、カイの戦略とやらを聞いてみるのも悪くはない。

いざとなれば本当に囮にして退散すればそれでいい――

ラバットは心の底でほくそ笑み、真実を胸にしまう。


『え〜と、どこまで話したっけ・・・・・
そうそう、敵への攻め方だったな。
さっきも言ったが、敵に見つかるまではなるべく姿を隠しておきたいんだ』

『でも有効的じゃ・・・・』

『まあ聞けよ。
ようするに、敵に姿を見せずに戦えればいいんだ。
なら、簡単じゃねえか』

『簡単だとぉ〜?』


 平然と言いのけるカイが信じられないラバット。

疑わしい目を向けるラバットにカイはにんまり笑って、


『すんげえ簡単だぜ・・・・・・』


 ぴんっとカイはそのまま頭上を指差す。


『連中の目を奪えばいいんだ』
















(な・・・・何が起きた!?)


 視界のシャットアウトに、周りから響く大量の困惑の声。

メイアは思わずその場に伏せて、突然の事態の変化に狼狽を露にする。


(何故急に暗く・・・・先程の金属音は一体・・・敵?
でも敵は周囲にはいないと・・・・いや、それよりもこの暗さでは状況が・・・)


 思考がばらばらになり、主体性が損なわれる。

あまりにも突然過ぎた事態の変化だった。

カイが不時着したと思しき場所に辿り着き、船を停止させてミッションに入ったその直後だ。

何事もなく無事に中への侵入が出来た事から生じた気の緩みがいけなかった。
冷静さを保とうと懸命になるが、暗転した視界がそれを許さない。


(照明は先程まで点いていた筈・・・・それが落ちた?
壊れたのか?だが、タイミングが良過ぎる・・・いや、悪いのか・・・)


 心音が不定期に強まる。

目と鼻の先も見えないこの状況でもし敵に教われたら?

いや、遠距離から撃たれたら反撃出来ない。

しかし、照明が壊れたのならどうする事も出来ない。


(どうする・・・どうする・・・・?
この暗さでは・・・・
・・暗い・・・・・・・・)


 恐怖症――

多感な頃からの劣悪な環境と、蝕まれた過去が生んだ傷跡。

心理的圧迫を受ける状態になると、心も身体も震えてしまう。

どうしようもなかった。

メイアとて、克服はしたい。

以前の蛮型機上時も練習を積み重ね、気力を振り絞って戦いに望んだ。

が、結果は無残だった――

失態に失態を繰り返し、本来守るべき仲間にまで迷惑をかける始末。

心がいくら気丈に叫んでも、身体は言う事を聞かない。

いやむしろ―――心の奥が悲鳴をあげているのかもしれない。

(・・・母さん・・・・・)
















『日頃は責任だの、自分は強いだの、大口叩いておいてそれかこら!』


 心を覆う闇を切り裂く力強い声。


『どっかの誰かさんは責任を放り出して逃げた卑怯者だ、てな』
















 顔を上げる――

それまで真っ暗だった目の前だったが、よく目を凝らすと闇に動きがあるのが分かる。

仲間達だろう。

突然暗くなった事に困惑し、行動を掴めないでいるのだ。

天井を見る――

場を照らしていた照明の殆どが消えている。

が、全部ではない。

よくよく見ると、仄かな光を点す照明が幾つか残ってはいた。

恐らく全体を照らしていたメインとなる光が何らかの原因で消えて、補助的な証明だけが残されたのだ。

耳を澄ます――

すると今まで何も聞こえなかった耳に次々と響く。


「ちょっと何よ、これ!?」

「何で真っ暗になるのよ!?」

「誰かライト持ってない?これじゃあ何にも見えないわ」

「うえ〜ん、宇宙人さ〜ん!」


 困惑し、動揺する仲間達の声。

姿こそ見えないが、声だけでも身動き取れずに四苦八苦しているのが分かる。

そうだ・・・・自分はリーダーなのだ。

不測の事態に陥ったからこそ、冷静に対処しなければいけない。

震えている暇はないんだ。

その声を聞いて、メイアは急速に頭が冷えているのを感じた。


「落ち着くんだ!」

『!?』


 メイアの第一声に、場が静まり返る。

暗闇の中毅然とした佇まいを見せて、メイアは周囲を見渡しながら言う。


「班を指揮するリーダーは部下をまとめ、点呼。
探索班は非常用ライトを用意し、周囲を照らしてくれ。
警護班は第一次警戒態勢、周囲の警戒並びに状況を確認。
各自、急げ!」


 余念のない完璧な命令を受けて、動揺していたクルー達も落ち着いていく。


『探索班、了解!』 

『警護班、了解!』


 予測不能の事態とはいえ、彼女達は普通の女の子達ではない。

数々の危機を乗り越えてきた歴戦の海賊達なのだ。

メイアの指示を受けて思考を切り替えて、行動に移していく。

頼もしい部下達を前にして、メイアも満足げに見つつ回りに気を配る。


(事故か・・・・それとも故意か・・・・?
故意ならば、何故何も仕掛けてこないんだ・・・・?)


 もしもこの暗闇が誰かが仕掛けた罠だとしたら、自分達に危害を加えないのが不思議だった。

暗闇の中右往左往している今なら、絶好の襲撃時である。

今でこそ落ち着いてはいるが、先程などメイア自身取り乱してもいた。

周囲の闇に目を奪われ、試行錯誤も満足に出来ない。

あの時襲われていたら、いや今でも襲い掛かってきたら危ないだろう。

なのに、何も仕掛けてくる気配もない。

敵の匂いすらも感じない。

となると、証明が落ちたのは事故なのだろうか?

照明が落ちたのが偶然とは考えにくい。  

全員が到着した途端照明が落ちる確率がどれほど低いか―――


(警戒を強めなければ・・・・)


「リーダー!リーダー!!
こっち、こっち!!」


 暗闇に負けないくらいの明るい声に、つい釣られて振り向くメイア。


「何・・・?
ディ、ディータ!?」


 向かって左側――

やや遠方に入り口のように区切られた空間があり、その先より光が見えている。

その光の中央でこちらに手を振るディータの姿があった。


「何をしている!今は用心を怠るなと・・・・」

「リーダー!こっち、来てくださーい!!
奥の方まで道が続いています!!
すっごく明るいんですよ」

「通路が・・・?」


 ディータの話が本当なら、照明が消えているのはこの区域だけという事になる。

光が漏れているのを見ると、向こう側は相当明るいのだろう。

この場に留まるよりは、通路に移動した方が安全かもしれない。


「ディータ、そこで待っていろ」


 メイアは全員を招集し、通路へと向かっていった。


(何もない・・・・・のか・・・?)


 煮え切らない何かを感じながら・・・・・



























<to be continues>

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