VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action9 −内部−
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いよいよ宇宙中継基地ミッション内部に突入開始となった。
現場責任者を一任されたメイアが全命令を下し、サポートに徹底するブリッジクルーがバックアップを行う。
外部からの障害は無いかどうかを再度確認し、ドレッドに乗り込んだ探索隊一行は一路内部へと出撃したのである。
侵入経路は至って簡単で、長年その規模を維持しているミッションの唯一の決壊を突いたのだ。
そう、カイの突入した大穴である。
今回の探索はミッションに残されていると思われる物資の徴収だけがメインではない。
ニル・ヴァーナの危機を救い、そのまま行方不明となっているカイの救助も必須となっている。
もしもカイの乗っていた予備ドレッドが暴走でもして、ミッションに突撃してしまったのなら怪我をしている可能性もある。
最悪、壁に激突してドレッドが爆破してしまい重傷になっているやもしれないのだ。
事故が起きたのなら、カイはまだ現場で倒れているかもしれない。
憂慮された事態を考え、ブザムは真っ先に予備ドレッドとカイの生存確認に向かうように命じたのである。
つまりその為の経路であり、安全と可能性を考慮した最善のミッション突入口だった。
『ミッション突入を開始する。各自内部突入後船を接続し、そのまま待機。
勝手な行動は禁じる』
『ラジャー!』
流石に始終不慣れだったカイとは違う。
メイア達探索チームは慎重かつ丁寧な操縦で大穴を潜り抜け、無事に内部突入に成功した。
先頭を切って駆け抜けるメイアは、ミッションの内部構造を目にし改めて息を呑んだ。
外壁だけに穴が空いているのではない――
各階層に合わせる様に連ねている内部壁が一枚一枚破壊されて、一本のルートを築き上げている。
余程勢いに乗って突入したのだろう。
最高加速に匹敵する勢いで壁にぶつかり、予備ドレッドは内部へと侵入したのだ。
戦闘用に整備されているドレッドとはいえ、これでは堪ったものではない。
恐らくかなりの損傷を受けているか、完全に大破しているかのどちらかだろう。
ドレッドがそれ程のダメージだと、中にいるパイロットも――
(・・・無茶しか出来ないのか、あの男は・・・)
メイアはコックピット内で額を押さえる。
一日以上の漂流だけでも危険なのに、ミッションへの無茶苦茶な接触を試みている。
幸いにもミッションの機能そのものは停止しているから良かったものの、稼動していたらカイはただではすまなかった筈だ。
いや、むしろもう大怪我の一つや二つしているのかもしれない。
カイの取った行動はお世辞にも誉められたものではない。
とはいえ、頭ごなしに否定するつもりもなかった。
その無茶なカイの行動力が船を救った――
それは紛れもない事実であり、あの時二の足しか踏めなかった自分に責める権利はない。
自分がカイの立場だったら、あのような行動が取れたかどうかは怪しい。
まずブザムやお頭に相談し、検討して、出撃準備をして・・・・・と、時間ばかり食っていたであろう。
そう考えると、自分は色々なモノに縛られている――
メイアは今初めてそう思った。
(立場・・・責任・・・・・
今まで私が固執していたモノ。私の全てだったモノ。
それが・・・・・)
―自らを縛っている鎖だというのか―
考えた事もなかった。
マグノ海賊団に所属し、与えられた任務をこなす。
それが自分の出来る全てであり、新しく進む道なのだと信じていた。
弱い自分を捨てて、強くなるために必要な条件なのだと――
疑問に思った事もなく、今疑問に思えたのも不思議だった。
壁の穴を潜り抜けながら、メイアは曇りなき瞳で前を見ながら思う。
(そういえば・・・・・)
『責任よりも大事なものがこの世にはあるんじゃねえか?』
砂の惑星でのカイの問い。
それが何か、とはカイは結局一言も言わなかった。
何が正しいのか、何が一番大切なのか――
カイは、何も言わなかった。
言わなかったのに・・・・・・・・・
『何をそんなに死にたがっているのか知らねえけどよ、お前がここで死んだら俺が一生馬鹿にするからな。
どっかの誰かさんは責任を放り出して逃げた卑怯者だ、てな』
死に逝く寸前だった自分。
責任や立場、生きるという行為そのものから逃れようとしていた自分を罵倒したのもカイだった。
メイアは考える。
(責任より大切なもの・・・・
でも、責任からは逃げてはいけない・・・・・?)
相反するカイの言葉。
責任よりも大切なものから目を背けず、それでいて責任そのものからも逃げるなというのだ。
考えると、おかしな気がした。
(・・・結局あの男は私に・・・どうしろと言うんだ・・・・)
立場や責任を第一に考えていた自分を否定しながらも、いざ自分が否定するとまた否定する。
矛盾―――ではないのだろう。
食い違った物の言い方に見えて、カイの発した言葉の意味はもっと別にある気がした。
責任よりも大切なものを優先しながらも、責任からは逃げない人生――
メイアには分からなかった。
そもそも、カイという男に関してもメイアは分からなくなっている。
自己中心的で、身勝手な行動ばかりする最低極まりない男。
メジェールが主張する『男』の典型とも言える存在。
出会ったばかりの頃はそう思っていた。
いや、つい最近までその認識を持ち続けていた筈だ。
今は・・・・どうだろうか?
自己中心的――――にしては、時折信じ難い行動を取る。
今にしてもそうだ。
仲間入りを拒否したのにも関わらず、全員を助ける為に自らを呈して最悪を回避させた。
結果宇宙の迷子となり、ひょっとすると最悪死に至っているかも知れない。
自分本位な人間に出来る行動ではない。
思えば、今回に始まった事ではなかった。
イカヅチでのレジスタンスからディータ達の救助、仲間達の援護。
仲違いをしていた自分を庇った事もある。
そして――
『・・・・心配して・・・くれたのか・・・・』
『・・・・悪いかよ・・・・・・・』
負傷した自分を前に、子供の様に泣きじゃくっていた――
(・・・・分からない・・・・)
男は、ではない。
カイ、カイ=ピュアウインド。
いったい何者で、何を考えているのかが分からない。
我々を何度も励まし助け、そのくせ仲間入りは拒否する。
他人を思いやれる善意の持ち主かと思えば、自分勝手な行動をする。
本当に、分からない――
悩み続ける思考に、ふと笑いの衝動が沸き起こる。
分からない者の言葉を、その意味を考える自分。
―大切なものなんかいらない。そんなものがあるから弱くなる―
・・・・今までそう考えていたのではなかったのか?
(・・・・・・・・・・・・・)
『・・・・ーダ、リーダー!!』
「?・・・・ディータか」
耳に途切れがちに聞こえる声に、メイアははっと顔を上げて左右を見る。
何回、何十回、何百回と腰を落ち着けているコックピット。
整備を欠かせずに前線に駆り出している愛機。
白きドレッドに乗っている自分を再認識し、メイアは状況確認を行う。
何時の間にかドレッドは停止しており、機体は壁の穴の奥にまで到達していた。
思っていた以上に熟考していた事を内心恥じ、メイアは即座にモニター画面をチェックを入れる。
「すまない、考え事をしていた。何か連絡か?」
普段どおりの冷静さを取り戻しているメイアに安心したのか、画面越しにディータはほっとした顔をする。
『はい!え〜と・・・・全機、無事に到着しましたぁ。
皆、探索に入りたいって言ってます』
ミッション探索隊・カイ捜索メンバー隊長。
大仰な肩書きだが、ディータに与えられた任務による地位がそれだった。
カイを助けたいと願うディータに、メイアが根負けしての結果である。
本来リーダー格になるクルーは徹底した研修と教育が行われるのが常だが、今回は突発で時間もなかった。
とにかく自分勝手な行動をしない事、何かあれば逐一報告とだけメイアは命令していたのだが、ディータはこなしているようだ。
余程張り切っているのだろう、明るい笑顔が魅力のディータに添える様に頬を赤らめている。
新米リーダーの報告を受けて、メイアは外部状況を分析する。
(ここは・・・・発着場のようだな。
船が並んでいる所を見ると、収容スペースはかなりのものらしい)
船の外の様子を的確に調べ、メイアはディータに命令する。
「機体を発着させ、全員をミッション内に。
事前に安全確認はしているが、警戒は決して怠るな」
『ラジャー!あ、それとそれと!!
リーダー、大ニュースです!!』
「大ニュース?
・・・ディータ、言葉はもっと慇懃にしろ」
自らが望んだ立場なのに全く今まで通りのディータに、メイアは探索前から頭が痛くなる思いだった。
メイアの心労にひきかえ、ディータの態度は変わる様子がない。
ぎゅっと可愛らしく両拳を握って、力強くディータは言った。
『宇宙人さん、生きています!』
「ほ、本当か!?確認できたのか!?」
今の自分の姿にも気づかず、メイアは腰を上げて文字通り画面に詰め寄る。
本来見れないメイアの珍しい熱さなのだが、元より熱が高まっているディータは気にも留めない。
むしろ同調するように、テンションの高まりを見せる。
『はい!この広〜い所の隅っこにありましたぁ』
「隅の方に・・・?」
モニターを広角に範囲を広げて、薄暗いフロア内を調べて回る。
程無くして、メイアはディータの言う様に予備ドレッドを確認し絶句した。
半壊した機体――
辛うじて原形を留めているが、表面の装甲は無残な裂傷を覗かせている。
所々は削げ落ちており、内部の配線が焼きついて火花を散らしていた。
ある程度予想はしてたが、想像と現実の違いがあまりに大きい。
リアリティの高い目の前の姿に、メイアはややかすれ気味に声を出す。
「カイはどういう状態だ?
いや、むしろカイは何処にいる?」
『え・・・?あ・・・・・』
ディータの表情の変化を見逃さないメイア。
一瞬で表情を厳しくして、メイアは鋭く声を張り上げる。
「救助班に連絡し、予備ドレッドのコックピットをすぐに確認させろ!
一刻を争う事態かも知れない」
『えええっ!!?宇宙人さん、死んじゃうんですか!?』
「それを確かめに行けと言っているんだ。早く!」
『ラ、ラジャー!
えと、えと、皆さん!あの〜・・・・・』
別回線でメンバーと連絡を取り合っているディータに、メイアは深く嘆息する。
リーダーとはいえ、安心して任せられる器ではない。
メイアは即刻現場で指示すべく、ドレッドを完全停止させてコックピットを開ける。
ミッション内に漂う乾いた空気にやや顔を顰めつつも、そのまま飛び降りて床に着地し――
ガチャン!?
バリン!バリン!!
「なっ!?」
視界が、暗転した――
<to be continues>
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