VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action7 −連帯−




---------------------------------------------------------------------------------------------



「っち、久々のでかい獲物だってのによ!」


 忌々しそうに舌打ちをして、ラバットは手元を見つめる。

腕の手首に巻きつけている小さな装置は淡く光っており、何らかの反応を示していた。

傍らで装置の反応を覗き込みながら、険しい顔でカイは尋ね掛ける。


「俺ら以外に誰か来たってのか?」

「ああ。しかも団体さんのようだな・・・・」


 ミッションでの目的を知り、行動開始となった途端に起きた出来事。

ラバットのみならず、カイも出鼻を挫かれた気分だった。

「何でそこまで分かるんだ?
その手の奴が外の状況を教えてくれているみたいだけど」


 カイの疑問に、苦々しい顔をそのままにラバットは返答する。


「これは俺の船とリンクしている。
ここの施設は通常外部からの進入を妨げるセキュリティがあるんだが、長年の放置で役立たずみたいだからな。
発着させた船のシステムを起動させたまま、外の状況を随時監視させているのさ。
誰か来たら、こうしてすぐ教えてくれる」


 ポンっと小型装置を触って、ラバットは説明する。

不時着したカイは別にしても、ラバットはミッション探索に警戒心を怠らずに入念な仕掛けをしていたらしい。

カイは素直に感心しながら、ラバットを横目で見る。


「で、その装置で分かった事を教えてくれよ。
誰が来たのかとかは分かるか?」


 今日一日で見知らぬ基地に見知らぬ男と、今までにない新しい兆しが見えている。

ニル・ヴァーナでの最近の生活に、窮屈さとむず痒さを覚えていたのは事実。

折角の探検に水を差されたのは不満だが、興味がないといえば嘘になる。

旅ならではの出会いと事件に、カイは半ば眠っていた興奮が蘇って来るのを感じていた。


「そうだな・・・今検索させているが、見慣れないタイプの船だ。
しかも、厳重な警戒網が敷かれてやがる。
くそ、厄介な事になってきた」

「見慣れないタイプ?団体・・・・・・
!?まさか・・・・・・・」


 カイには覚えがあった。

ちょっとした拍子に思い出したのだが、ラバットはその変化を見逃さなかった。


「お前、何か心当たりがあるのか?」

「いや、まあ断定出来ないけどよ・・・」


 歯切れの悪い言葉に、ラバットは苛々した様子で促す。


「早く教えろ!即座に対応しねえと、商売がパーになっちまう。
お前だって他人事じゃないんだぞ」

「分かっているよ!
え〜とな・・・さっきはぐらかしたけど、もしかすると俺の目的の奴かも知れねえ」


 カイはそのままラバットを見つめ、真剣な顔で正面から言う。


「おっさん、『刈り取り』って知っているか?」















「これよりミッション内に突入する。
班の振り分けは、警護・探索・救助担当の三班とする。
各自、己の役割を忘れず任務に没頭するように」


 ニルヴァーナ元海賊母船側・作戦会議室にて――

探索決行が決定されて、ミッションに突入するメンバーが招集された。

一同の先頭に立つのは、探索現場責任者に任命されたメイアだった。

以前の怪我も完治して、パイロットスーツを着こなす彼女の姿は堂々としている。

集められたクルー達の表情も引き締まっており、今回の任務に気を入れているのがよく分かる。

メイアは一同を見渡して、淡々と説明を続けた。


「班のメンバー構成は、先程説明した通りだ。
警護班は保安クルーで構成、リーダーは保安チーフとする。
任務は探索・救助班の護衛に、ミッション内外の警戒だ。
何か少しでも気になる事があれば報告するように」


 メイアの呼びかけに、メンバー総員の中にいたチーフが頷いて敬礼する。


「了〜解。腕利きを揃えているから、すぐに対応出来るよ。
他の班の皆も何かあったら、あたしに報告よろしくね。
何かあってからじゃ遅いんだからさ」


 おどけた様子ながらの言葉に、一同の緊張が解きほぐされる。

良くも悪くも、あっさりとした性質の女性なのだ。

チーフの快活な顔つきはラフながらに、凛々しく整っている。

メイアはリップサービス入りの頼もしい返答にやや息をつき、続けた。


「次に探索班だがリーダーをジュラ、バーネットはサポートについてくれ」

「了解、任せてよ」

「こちらも了解」


 気取った態度のジュラに、規律よく敬礼するバーネット。

二人の性格の違いがよく分かるが、メイアは特に不安な素振りを見せない。

協力して二人が仕事に望めば、きちんとした形で成果を出せる事は知っていたからだ。

それに――


「皆もよろしくお願いね。
副長やお頭も、ミッションの物資には期待を寄せているみたいだから。
わたし達の任務には今後がかかっているわ」


 自分の班員に、はっきりとした声色でどこか優しく語りかけるジュラ。

ほんのつい最近まで、ジュラはいつも任務にはあまりやる気を見せなかった。

投げやりとまではいかないにしろ、自分の任務を他人事のように行っている様子すら見受けられたのだ。

まるで何かあっても誰かが何とかしてくれるといった、気だるげな仕事への態度。

サブリーダーとしては問題のあるジュラの職務態度には、メイアも前から問題視していた。

注意は何度か行ったのだが、まるで変えようとする意思もない。

いつもはぐらかされたり、聞き流されたりしてほとほと困り果てていたのである。

ところが、近頃は様子が違う。

今でも人の気を引こうとする自尊心はあるようだが、以前とは違って前向きな姿勢を見せている。

熱が灯ったと言うべきなのだろうか?

今の部下に話し掛ける言葉の内容や態度にしても、頑張ろうとする気持ちが見える。

メイアは首を傾げるしかない。

どういう心境の変化があったのか、まるで分からないのだ。

自分には出来なかった事が、今目の前で起こりつつある。

変化としてはまだまだ小さい。

立派になったとは言い難いし、サブリーダーとしての気質には遠い。

ジュラは外見こそ美しく大人の魅力が浮き出ている女性だが、その内面は子供のような弱々しい心細さを持っている。

現にバーネットがいなければ一人ではやっていけないだろうし、一人責任を任せれば弱気になるだろう。

もっと言ってしまえば、自立していないのだ。

サブリーダーとして任命されたのも、本人の表面的な実力と年齢に見合った経験でしかない。

本当に一人前になるには、まだまだ改めなければいけない部分が多い。

メイアもジュラには仕事を一人では任せられない。

小さな変化。

だけど、確実に変化は起きている――

ジュラが頼もしくなったのは喜ばしいのだが、変化の始まりに心当たりのないのが気持ちを複雑にする。

それに・・・変化が起きているのはジュラだけではない――


「最後に救助班だ。
皆はもう知っていると思うが、行方不明だったカイがミッション内にいる可能性が高い。
生存確認が取れた訳ではないが、生きているだろうと我々は判断した。
よって、カイの早期発見と救助にあたってくれ」


 メイアの説明に、一同は複雑な顔をしてざわつきを見せる。

そんな中で、真っ直ぐに手を上げる者がいた。


「はいはいはーーーーーい!リ−ダー、リーダー!!」

「・・・呼びかけは一回でいい、ディータ」


 手を上げるだけでは足りないのか、その場でぴょんぴょん飛び跳ねて訴えるディータにメイアは嘆息する。

ディータが次に何を言うのか、もう分かりきっていた。


「どうした?言いたい事があるなら、早くしてくれ」

「は、はい!
ディータ、リーダーさんになりたいです!!」


 満面な笑顔に決意の炎を宿して、ディータは大きな声で願い出る。

予想通りの申し出に、メイアは頭が痛くなりそうだった。

救助班のリーダーになりたい――

ディータがこの申し出をしたのは一度や二度ではない。

この集会が行われる前から、ディータはメイアに個人的に何度も何度も申し出ているのだ。

勿論、メイアとて黙ってはいない。


「駄目だ」


「ど、どうしてですかぁ!?
ディータ、一生懸命頑張りますから!」


 ディータの執拗な願いにも、メイアは冷淡に突っぱねる。


「お前にリーダーはまだ早い。
意気は買うが、気持ち一つで行える程軽くはない」


 メイアもディータが嫌いで反対しているのではない。

ディータを苛めるつもりも、蔑ろにしたい訳でもない。

カイを普段から付き慕うディータからすれば、今回の任務は何が何でもやり遂げたいのだろう。

ディータがどんな気持ちで一生懸命に願い出ているか、その心意気が分からないメイアではない。

でも、リーダーとなるとそうはいかない。

何故なら、何かあればディータ一人の責任では済まなくなるからだ。

リーダーとなる以上、部下を従えて行動しなければいけない。

何もなければ問題はないが、いざ何かあればリーダーは冷静に対処しなければいけない。

要所要所で的確な判断を要求され、部下を支えなければいけないのだ。

それは任務に対する責任感や気持ちの入れようでどうにかなる問題ではない。

器――

経験は積み重ねればどうにかなるが、器は短時間でどうにかなるものではない。

ディータはまだパイロットとしても月日が浅く、新人に近い。

リーダーを任せるにはまだ早かった。

メイアははっきりと、その事実をディータに突き付けた。

のだが――


「や・・・・やらせて下さい!!!」

「ディータ!?」


 場が静まり返る。

メイアはおろか、周りにいた全員が目を丸くしてディータを凝視する。

メイアがきちんと言えば、いつも根負けして引いていたディータ。

今回とて例外ではないと思っていた。

しかし、そんな思惑に反してディータは頬を高潮させて声を張り上げる。


「宇宙人さんはいつもディータを助けてくれました!
皆を・・・・ディータの大好きな皆を助けてくれました!!
だから・・・だから・・・・・
今度はディータが助けるんですぅ!!!」


 声を振り絞るように、心から吐き出すように、


「宇宙人さんが今危ないのも、お船さんを守ってくれたからじゃないですか!
それなのに、ディータ一人じっとなんて出来ません!!
お願いです。
ディータにやらせて下さい・・・・お願いしますぅ!」


 ディータは深々と頭を垂れて、哀願する。

その姿勢には軽はずみな思いは全く見られず、情熱と使命感に溢れていた。

ここまで一生懸命なディータは誰もが皆初めて見る。

変化――

メイアはディータにも、その兆しが見えていた。

仲間を助けたいとか、同僚が危ないからとかのレベルではない。

たった一人。

この宇宙で唯一の大切なモノ――

ディータの心を鷲掴みにしているその何かが、ディータをここまでにさせているのだ。

ここで拒否をすれば、それこそ落胆するどころではないだろう。

ディータにとって、この責務の放棄は自分の一部分を喪うのに等しいのだ。

覚悟の度合いが違いすぎる。

メイアは思考錯誤し、諦めた様に嘆息する。

リーダーにはまだ早い。

今でも確実にそう思える。

だけど――――気持ちは分かる。

助けたいという気持ちは――――


「・・・ピョロ」


 メイアの小さな呼びかけにも、敏感に反応を示した。

集っていた女性達の間からふわりと浮かび、ピョロはメイアの前に来る。


「何ぴょろ?」

「ディータに付いてやってくれないか?
初めてのリーダーとしての任務なんだ。
ミッションの案内役であるお前ならサポートも出来るだろう」

「リーダー!?それじゃあ・・・」


 期待の篭ったディータの眼差しに、メイアは肩を落としつつも口元を緩めて頷いた。


「何か不手際があれば、即座に解任する。
カイを助けたい気持ちも分かるが、自重して行動に移れ。
いいな?」

「・・・はい!頑張ります!!」


 今回のミッション内部の案内役にピョロは適役として、今回の任務に抜擢された。

イカヅチに長年休眠していたピョロは、元々イカヅチが殖民船だった頃のナビゲーションであった。

今ではペークシスの影響で人間らしい動きを見せているが、内在しているデータは破損こそあれど顕在している。

ミッション内部構造のデータこそなかったが、殖民船時代のデータがあれば役に立つと判断されたのだ。

最も理由はそれだけではない。

ミッション探索には、ピョロ本人が自分から出願したのである。

理由はカイと今まで一番長く連れ添っている、それだけで十分だった――

案外似たもの同士かもしれない、この二人は。


「よろしくね、ロボット君〜〜」

「ピョロだぴょろ!苦しいぴょろ!?」


 嬉しそうに抱きしめるディータに、じたばたあえぐピョロ。

仲睦ましい光景に、場の緊張感が和らぐのを感じる。

メイアは二人の様子を見つめて表情を和らげて、全員を見て言った。

「準備が整い次第、ミッションへ突入する。
各自、気を引き締めて成果を出すように。以上だ」

『ラジャー!』


 メイア率いる探索隊は、いよいよその職務を決行に乗りかかっていた―― 















「・・・・なるほどな・・・」

 二人は走っていた。

誰もいない広大な空間を、並列して駆け抜ける。

二人の速さはほぼ均一だったが、片側がやや息を荒げていた。


「はあ、ふう・・・・
それで俺は今タラークを目指しているんだよ。
故郷潰される訳にはいかねえからな」


 侵入者が来ていると分かり、カイとラバットは行動に移した。

じっとしていても、事態は何も変わらない。

起こりえてしまった以上、対処にかからなければいけないからだ。

カイは走りながら、ラバットに心当たりを説明していた。

刈り取り――

話すかどうか迷っていたカイだったが、ここまできて黙り込めなかった。

今訪れている侵入者が刈り取りを行っている敵の可能性があるからだ。

確定ではないが、完全に否定できる要素もない。

何しろ以前立ち寄った星では、その敵が星そのものを荒廃させていたのだから――


「で、その『刈り取り』だったか。
その連中がここに来たって事は・・・・」


 ラバットの先を、カイが繋げた。


「戦わなければ、刈り取られるって事だ。
協力してくれるか?」

「お、何か手があるってのか?」

「ああ、俺にいい考えがある」


 ラバットの意外そうな声に、


「対抗手段がな・・・」


 カイはにっと笑って、そう答えた。  





























<to be continues>

--------------------------------------------------------------------------------




小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     










[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]