VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action6 −断片−




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 全長一キロを超えるミッションは、全体的に円形となっている。

軸を中心に広大な設備を数々作り上げて、宇宙ステーションとしての役割を果たして来た。

タラーク・メジェールの祖先の星である地球より、植民船団が宇宙の数多に可能性を見出した時代。

植民船時代と後世に名づけられたその時代に、ミッションは航海する者の安息場として大いに貢献した。

時は流れ、今――

植民船が人類未踏の惑星に辿り着き、航海は終えてしまった。

地球と惑星間において沢山の人間に貢献したミッションは役目を終え、破棄されてしまう。

過去の遺物と化してしまったミッション。

長き時代を乗り越えて今も尚現存するミッション内は、使用する者もなく朽ち果ててしまっている。

老朽化した通路内を歩きながら、カイはそんな時代の名残を見つめていた。


「にしても、ぼろい所だな・・・・
俺が不時着した所も船はあったけど、全部使い物になりそうになかったし」

 旧時代必要とされた宇宙ステーションも、使い物にならなければ意味がない。 

少なくともカイにとっては興味を向けられるものはなかった。

カイは周辺を見て回りながら、自分の前を歩いている男に声をかける。


「おっさん、本当にこんな所に宝なんぞあるのかよ?」


 宝捜しを手伝え――

突然ラバットがカイに言い放った言葉がそれだった。

宝。 文字通りの意味とするならば、旧来のこの宇宙ステーションには大きな価値のある物が存在することになる。

好奇心の強いカイが目を輝かせたのは言うまでもない。

他人から命令される事は嫌いなカイだが、ラバットの言葉には興味があり同行する事となった。


「分かってねえな、おめえは・・・・
こういう廃棄施設だからこそ、お宝は眠っているんだよ。
考えてもみろ。
普段から大勢の人間が詰め掛けるような基地に、目ぼしい物が取れると思うか?」

「それは・・・・って、取るのかよ!?
じゃあもしかして、お宝ってのは・・・・」

「察しがいいな。つまりはそういうこった」


 ピンと来たカイに、ラバットはいかつい笑みを浮かべて頷いた。


「ここは現在使用されていない宇宙ステーション。
植民船時代にはミッションと呼ばれていた中継基地だ」

「ミッション・・・・・
つまり使用不能になっている廃棄された施設って事か」


 自分の今居る場所を反芻しながら、カイは口にする。

この基地に辿り着けたのは単なる偶然だったが、思わぬ未開拓地へと到着したようだ。

空腹もようやく落ち着き、カイは元来の調子を取り戻して元気良くする。

カイの様子を何気なく見ながら、ラバットは返答する。


「ここまで言えば大体分かっただろう?
俺がここに何をしに来たのか」


 興味が膨らむのを感じながら、カイは頷いて自分の考えを言葉に変える。


「あんたがこの使い捨てられらた基地内に残された物を狙っているんだな?
物資か、それとも他に何かあるのかは分からんが」


 カイの言葉に、ラバットはああと肯定する。


「これだけ広大な基地だと、まだ使える物が残っている可能性はでけえ。
うまく見つけられれば大儲けになるってもんだ」

「キーキー!」


 威勢のいいラバットに合せる様に、ラバットの周囲を跳ね回るウータンは高らかに鳴く。

人の声質とは違う発声は、天井まで届き響き渡る。

ウータンの元気さに苦笑して、カイはふと思いついた疑問を述べる。


「でもよ、お宝って言っても本当にめぼしい物があるのか?
あんたの話が本当なら、ここはとっくに見捨てられた施設なんだろう?
有効利用出来るもんがあるとは思えねえけどな・・・・」


 壁一つ見回しても、汚れや傷が目立つのである。

全体的に広くても、人間の手が離れた場所に残るのは荒廃のみだ。

人工構造物がいかに頑丈であれ、手入れされなければ腐り果てる。

植民船時代がどれほどの過去なのかカイには見当もつかなかったが、昔である事には間違いはない。

少なくともタラーク・メジェールが存立する以前だろう。

そんな昔から廃棄された施設に価値のある物が見つかるか、カイにははなはだ疑問だった。

ラバットはそんなカイの疑問に、振り返って面白そうにたずねる。


「じゃあ聞くがよ、お前今何を吸ってる?」

「はあ?」 


 意味が分からずに怪訝な顔をするカイに、ラバットはそのままの表情で問い重ねる。


「何を吸っているって聞いたんだ?
口閉じて生きられる奴はいねえだろうが」

「んなもん空気に決まって・・・・あっ」 


 カイが何に気づいたのかを表情で察したラバットが、そういう事だと腕を組む。


「ここが放棄されたのは一年や二年じゃねえ。
数十年間ほったらかしにされ、誰も足を踏み入れなかった所だぜ。
なのに、どうして普通に呼吸が出来る?」

「それじゃあここは・・・・!?」


 驚愕の表情を浮かべるカイに、ラバットも真剣な顔で重々しく頷いた。


「そうだ。
ミッションはまだ死んじゃいねえ。
空調設備がちゃんと稼動してやがる」


 本当にミッションを支えるシステムが不能になっているなら、施設内に空気があるのはおかしい。

照明設備が蛍光しているのは電力が残っているだけだとも考えられるが、空気はそうはいかない。

直径一キロを超える設備といえど、十年以上も経てば空気も枯渇している。

カイやラバットが悠々と施設内を歩ける訳もない。

加えて、二人も一匹も平気な顔で床を歩いている。

宇宙の真っ只中に基地がある以上、引力や重力の制御は一切ない筈である。

安定して床を歩けているのも、高基準の制御システムが稼動している証拠だった。

宝捜しというラバットの計画が思いつきではなく、ちゃんとした推察の元で成り立っているのが分かり、カイは舌を巻いた。

軽薄な態度とは裏腹にラバットは思いつきだけでは動かず、念密な計画性で行動している男のようだ。


「さーて、次はこっちの番だな」

「あん?」


 突然の物言いにカイが眉を寄せるが、ラバットはかまわずに言う。


「お前の疑問にはちゃんと答えた。
だから今度は俺の質問に答えてもらうぜ」

「意外に細かい奴だな・・・・
何だよ、聞きたい事って」


 軽い気持ちで聞いた質問に見返りを求められ、渋面になりながらもカイは一応答える気でいた。

礼には礼をと言われたら、男として拒否するのは気が引けたのだ。

カイの心情にも気づかずの様子で、ラバットは遠慮なく聞きに来る。


「改めて聞くが、お前タラークからどうやってここまで来た?
ミッションに激突するような腕前で来れる距離じゃねえぞ」

「うっさいわ!色々と事情があるんだよ!」


 不時着した事実をからかわれて、カイは顔を赤くしながらいきり立つ。

必死な剣幕だったが、何ら臆する事もなくラバットは平気な顔で話す。


「だから、その事情ってのを教えてくれって言ってんだよ。
どう見ても軍人やお偉いさんには見えねえただの小僧が、仮にも船に乗っている理由をよ」

「誰がただの小僧だ!?
こう見えても、俺は宇宙一のヒーローになる男だぞ」


 自分をびしっと親指で指して、カイは堂々と言った。

――が、肝心の反応は、

「・・・・・はあぁ〜?」


 ラバットの浮かべた表情は誰が見ても一目瞭然である。

何言ってやがるんだこいつ、といった如実な呆れ顔。

ラバットの反応にカイはカチンときたが、


「・・・俺の夢なんだよ。宇宙に出た理由はそれさ」


 激昂はしなかった。

強硬な反応を出した所で、呆れている相手には伝わらない。

何を言っても、馬鹿な事を言っているだけだと取られるからだ。

妄想じみた事を言っている当人が訴えかけた所で何も通用しない。

言葉だけでは何の意味もない――

旅立つ前に自分を諌めたマーカスが、カイの脳裏に蘇る。

この宇宙は甘くはない。

150人の女達にすら自分の夢も言葉も存在も――届かなかったのだから。

カイは首を振る。

本当に未練たらしい・・・・・そう思う。


「一人単身で、その夢の為に飛び出したってのか・・・なるほどな。
船はどうしたんだ?
お前のじゃないだろう、どう考えても」


 カイの神妙な顔を見てか、ラバットはそれ以上茶化さない。

ラバットの質問に、カイは気が乗らなさそうな顔で答えた。


「・・・・借りたというべきか、もらったというべきか・・・
どっちにしても、もう・・・返せそうにない代物だよ」


 タラークから持ち出した蛮型は、融合戦艦ニル・ヴァーナに置いて来た。

ニル・ヴァーナから持ち出したドレッドは、ミッションに激突して故障した。

タラークにも、ニル・ヴァーナにも、もう戻れない身。

身動き取れなくなっている自分に、カイは皮肉を感じずにはいられない。

帰れられない事に悔やんでいるのか、帰れない事に悲しんでいるのか――

割り切れない気持ちはあるものの、気持ちの行く末が見えない事がカイは情けなかった。


「なるほどな・・・・」


 カイの表情を横目で見て、感じ入るようにラバットは呟く。

が、途端にプッと吹き出して、心底楽しそうに笑った。


「にしても、こんな時代に夢を見て宇宙に飛び出す馬鹿がいるとはな。
はっはっはっはっは、こいつは愉快な野郎に出会ったぜ。
そうか、宇宙一にね・・・・はっはっはっはっは」

「キキッキー!キーキキーキーー!」

「いたたたたっ!?こら、ウータン。
俺は別にこいつを馬鹿にした訳じゃねえよ!」


 大声出して笑うラバットに、引掻きまくるウータン。

カイを笑った事に敏感に反応したようだ。

突っ込もうとしたカイも、ウータンの早業には度肝を抜かれて何も言えなくなる。


「いつつつ・・・本気で爪立てたな、ウータン。
ま、だが馬鹿にした訳じゃねえのは本当だ。
それがお前の夢ってんなら、俺がとやかく言うことじゃねえしな」


 引っ掻き傷を摩りながら、ラバットはカイを見て言った。


「行動に出れるだけ立派なもんだ。
口だけじゃねえ何よりの証拠だからな。
嘘か本当か、どちらかにするのはてめえ次第だ」

「お前・・・・信じるのか?」


 理由を聞かれ、確かにカイは素直に答えた。

ラバットはその理由をあっさり聞き入れて、本当にしている。

それが不思議でならなかった。

今まで自分の夢を真面目に受け入れた人間なんて誰もいない。


「嘘を言うなら、もっとまともな事を言うさ。
ここまで来た経緯はともかくとして、タラークから出た理由は夢の為なんだろう?
それに関しちゃ納得出来る」


 ラバットは口元をふっと吊り上げて、足の歩を進める。

カイは不思議そうな顔をして、ラバットを背後から見つめた。

がっしりと鍛えられた大きな背中――

バートにも、ドゥエロにもない懐の大きさをカイはその背中に感じられた気がした。


「・・・・俺からも聞いていいか?」

「後でお前も答えるならいいぜ」

「ち、分かったよ。じゃあ聞くけど・・・・」


 カイは瞳を鋭くして疑問を飛ばす。


「あんた、何でタラークを知っているんだ?」


 少し考えてみれば、すぐに浮かび上がる疑問。

ドゥエロ・バート以外に初めて出会った男。

タラーク出身ではない事は、ラバットの口振りから分かる。

なら――何故知っているのか?

以前ブザムの今後の展望を伝えた艦内放送によると、タラーク・メジェールへはかなりの距離があるとの事だった。

ラバット自身からもその事実を匂わせる言葉が何度も出てきた。

そんな遠くにある星について、何故ラバットは知っているのだろうか?

じっと見つめたまま、カイはそれ以上を語らない。

ただ、ラバットからの返答を待つのみ――

しばし沈黙が流れた後、ラバットはゆっくりと吐き出すように告げる。


「俺は星々を旅して回り、色んな商品を売買する商人でな・・・」


 ラバットの口調は先程と変わらない。


「辺境とはいえ、タラークの話くらい耳にするさ。
その偏った文化や事情って奴もな・・・・」


 動揺もなく、すらすらと答えるラバット。

その言葉には嘘同様の気配は微塵もなく、真実味を帯びていた。

カイはそのまま姿勢を崩さずに、表情を険しくする。


「偏った・・・文化?」

「おっと、質問は一回きりだぜ。
今度は俺の番だ」


 おどけた態度を見せて、ラバットは聞き返す。


「質問が重複するが、お前はどうやってここまで来た?
複雑な事情があるみたいじゃねえか」


 カイが故郷を出た理由には納得しても、経緯の疑問は晴れなかったらしい。

追求するラバットに、カイは嘆息する。

聞かれたくない質問だった。

どうしてもマグノ海賊団について触れなければいけない。

そして、刈り取りの事も―――

別に内緒にしなければいけない訳ではないが、ベラベラ話していいものかどうかは迷う

。 触れ回るには、あまりに重要過ぎる事実なのだ。

マグノ海賊団に関しては、別の意味で話したくはなかった――


「・・・・・しょうがねえか・・・・」


 悩みに悩んで、カイは答える事にした。

約束もそうなのだが、カイはこの目の前の男には興味が出てきているのも事実。

このまま離れるには惜しかった。

まだ数時間の付き合いだが、たったそれだけの時間でもラバットという男に試行錯誤しているのだ。

このまま同じく行動するだけでも実りがありそうだった。

カイは全てを伝えることにし―――


「・・・ちょっと待て」


 ラバットは急に真剣な顔をして、ズボンのポケットから何かの機械を取り出す。

カイが覗き込むようにして見ると、機械の画面に何かの反応があるのが見えた。


「やれやれ・・・面倒な事になりそうだ・・・」

「何だよ?何があった?」


 ラバットの変異に戸惑いながら聞くと、ラバットは渋い顔をして答えた。


「お客さんだ。お前と一緒でここに誰か来たのさ」

「何だと!?」


 カイは、ラバットは――

誰が来たのか、現時点では知りようがなかった。





























<to be continues>

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