VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action1 −行方不明−




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 タラーク軍が誇る母船イカヅチ・マグノ海賊団シンボル船が融合した戦艦ニル・ヴァーナ。

故郷へ向けて一路宇宙の航海を続けていた船だったが、ここへ来てその歩みは留まりを見せていた。

敵再来から一日半余り。

ピロシキ・キューブ型全十数機一斉自爆と言う未曾有の危機を、マグノ海賊団は危うくはあったが何とか突破は出来た。

主力ドレッドチームは出撃する事さえなくニル・ヴァーナにも傷一つない、まさに理想的な戦果。

パイロットも、船内のクル−の誰一人も怪我をする事もなく無事だった。

本来なら敵の卑劣な罠を乗り越えられた事を喜ぶべき所なのだが、マグノ海賊団の誰もが諸手を挙げて勝利を祝う気にはなれなかった。

原因はよく分かっている。 その目で事態を見ていたマグノ達も、事実を知らされたクル−達もはしゃぐ気持ちにもなれないその理由を知っている。

今、この船にいない者。

巻き起こった事態を敏感に察して、危機の渦中に飛びこんでいった人間。

帰って来なかった、一人の男。

自らの危険を顧みず、船内にいる全ての男女の為に、男は敵を遠ざけて消えていった。

今もまだ、帰って来ていない――


「予備ドレッドの整備状況を考えると、長期運航は出来ない。 どこかで停止している筈だが・・・」


 ニルヴァーナ首脳陣が陣取るメインブリッジにて――

場を仕切るブザムの声が、懸命にコンソールを動かす最前席の二人に投げ掛けられる。

期待と不安が入り混じるブザムの呟きに、アマローネは首を振って答える。


「駄目です。ドレッドの反応はおろか、残存エネルギーも微弱すぎて辿れません」


 無念そうなアマローネの報告にブザムは表情を険しくして、隣の席のベルヴェデールに視線を向ける。


「信号もしくは金属反応はないか?
ドレッドに絞らず、敵の断片的な機体表面の反応でもいい」


 細い蜘蛛の糸にしがみ付くかのように、ブザムは問い詰める。

表情こそ感情の波すら見受けられないが、明らかに焦りの色が見え隠れしていた。

ブザムがこれほどの焦燥を見せるのは珍しい。

少なくとも、部下の前では決して見せなかった反応である。

それもそのはず。

部下に自分の動揺を見せてしまうと、命令を忠実にこなす部下までもが動揺してしまうからだ。

指揮する者が部下を不安にさせるなど愚の骨頂。

指揮官にはそぐわない心理的弱さである。

ブザム本人は気がついてはいないが、問いを重ねられたベルヴェデールにはブザムの内面の乱れが聞き取れてしまった。

ベルヴェデールは居心地悪そうな顔をしながらも、報告は義務としてこなす。


「敵反応はありません。恐らく完全に消滅してしまったものと思われます。
ドレッドからの救難信号及びマーカーの反応もありません・・・・」


 手掛かりとなる情報の一つも発見出来ないとあって、報告を聞いたブザムは深い嘆息を漏らす。

ブリッジではブザムのみならず、皆が重苦しい雰囲気を漂わせていた。

カイが行方不明になって一日半余りが経過。

敵と共に消えて行った予備ドレッドの航路の形跡を頼りに船は進み、探索も繰り返し行われている。

故郷への帰参を一時中断しての懸命な捜索にもかかわらず、カイの乗るドレッドは影も形も見当たらなかった。

成果は全くなかった―――訳ではない。

カイの捜索開始から数時間後、手がかりは確かにあった。

宇宙に漂う無数の「遺体」――

激しい激突か、大規模な爆発があったと思われるキューブ・ピロシキの機体の破片が大量に見つかったのだ。

採取して調べた結果、ニル・ヴァーナとの心中を目論んだ敵の残骸である事が判明。

手がかりはそれだけではない。

ある意味有力な、ある意味望ましくもないモノがそこにはあった。

予備ドレッドの機体破片――

幾つも発見されたのではないにしても、明確な破損が刻まされた破片が見つかったのだ。

この場にある手掛かりから推測できる事実は二つ。

敵はこの場で滅んだ―

そして―――――予備ドレッドも巻き込まれた。

残骸からでは安否は確認出来なかったが、何しろ敵は全長三キロはあるニル・ヴァーナを宇宙の藻屑にせんと狙っていたのである。

戦艦クラスの船を撃滅出来る規模の爆発に巻き込まれればどうなるかは自明の理であった。

生きているのか、死んでいるのか。

天秤はどちらに傾いたのは分からない。

希望へ傾いたのだとは信じたいが、現実は甘くない事はマグノ海賊団の誰もが知っている――


「反応一つなしか・・・・・ふう・・・」


 探索は難航し、結果の一つも出ていない。

さすがのブザムも精神的な疲労は隠せない様子で、我知らず溜息がこぼれる。


「副長、少しお休みになられてはいかがです?」


 ブザムの様子が気になったのか、オペレーター席のエズラが気遣いを見せる。

副長席から近いエズラに溜息が聞こえたのだろう。

エズラの優しさに、ブザムは頭を振って厳しい眼差しのまま述べる。


「まだ任務は終わっていない。私なら大丈夫だ。
それよりエズラこそ休んではどうだ?
昨日からずっとかかりっきりだろう」


 ブザムの言葉は正しく、エズラはカイが行方不明になってからというもの探しに探し続けていた。

任務交代の時間になっても席を離れず、ドレッドの機体反応を探し続ける。

時折こちらからも船体反応や通信回線を開いて、カイとのコンタクトを取るべく呼びかけたりもする。

コンソールから常に目を離さないエズラは、不眠不休でカイを探し続けていた。

もともと体力がない上に、エズラは妊婦である。

時間外労働の連続がどれほど身体に負担になるかを考えると、そろそろ限界が近かった。

ブザムの休息を促す言葉に、今度はエズラが首を振る。


「お気遣い、ありがとうございます。
でも、もう少し続けさせて下さい」


 いつになくはっきりした言動で、エズラは言葉を重ねる。


「カイちゃんは私達を助けてくれました
だから、今度は私が助けてあげないと・・・・・」


 エズラはマグノ海賊団一と明言出来る優しさと暖かさを兼ね備えた女性である。

凡そ海賊という枠に当てはまらない穏やかな気性でクル−の間でも親しまれているのだが、欠点もある。

平和的な思考を持つがゆえに、状況に流されやすい面があるのだ。

悪く言えば、優柔不断なのである。

自分の意思を明確に指し示す事はあまりなく、マグノやブザムといった頼りに出来る人達に身を委ねてしまう。

一般人なら誰にでもある性格面なのだが、エズラも例外ではない。

そんなエズラが毅然とした意思を持ち、自発的に行動するのは珍しい事だった。

妊婦であるエズラには辛い作業であるというのに――

心情面では休ませてあげたいが、懸命にカイを見つけ出そうとするその姿にはブザムとて口は出せなかった。

口を挟むのも阻われてブザムはエズラから離れ、ふと左隣に視線を移す。

視線の先には緑の髪を乗せた可憐な顔を露出させ、クマの着ぐるみをきたアンバランスな女の子がいた。

不思議そうに見るブザムに気づいたのか、顔をちょこっと横にして女の子が顔を見せる。


「?副長?」 「いや・・・・」


 小首を傾げて疑問符を浮かべる女の子はセルティックだった。

顔だけ着ぐるみを取っている姿は本来なら不釣合いなのだが、セルティック程の美少女だと可愛らしく見えてしまう。

ブザムは咳払いを一つして体裁を取り、改めて話を切り出した。


「何か発見は出来たか?
カイは馬鹿だが、無能ではない。
不測の事態に陥っても諦めたりはしないだろう」


 タラークを、そして男を敵対するメジェールの価値観から、頭ごなしにカイを否定するクルーはまだまだいる。

客観的に見れば一方的な決め付けなのだが、それが彼女達にとって根付いた思想なのだ。

カイを否定する事が過ちなのだと断定する事は出来ない。

ブザムはそんなメジェールの価値観を扶植して、カイをきちんと見つめていた。

初めて出会ってからの数々の事件。

カイが今まで解決した事項はブザムにとって賞賛に値する功績だった。

男だとか、捕虜だとかは関係ない。

少なくともブザム自身、自爆を試みる相手を自らの体を張って囮となれるかどうかは分からない。

カイはそんな危険な役を自分から買って出たのである。

何の考えもなく海賊である自分達を助けようとするとは思えない。

今までの経緯から、カイがぶっきらぼうな態度とは裏腹に人一倍情があるのは分かっている。

捕虜として冷遇した者達を何度も助けているという事実が何より証明している。

が、自己犠牲が強い男でもない。

自分か、他人か――

どっちを取るかを選択させれば、カイはどちらも取るだろう。

状況証拠だけ見ればカイが生き残っている可能性は低いが、カイはそれでも生きている。

少なくとも生きようと頑張っているように、ブザムは思えてならなかった。

ブザムの問いに、セルティックは少し複雑そうな顔をする。


「・・・副長はあの人を信頼しているのですね」

「私はただカイという男を客観的に判断して、可能性を示唆しているだけだ」


 日頃は気弱で人見知りのするセルティックが、厳格で有名なブザムに話し掛けるのは珍しかった。

やや戸惑いつつ冷静に答えるブザムに、セルティックは口を尖らせる。


「あの人に固執するのは止めた方がいいですよ。
振り回されて嫌な思いするだけです」

「・・・・随分嫌っているようだな」


 ブザムが苦笑しているのにも気づかず、セルティックは淡々とした顔で言う。


「当たり前です。
帰って来なければいいと思ってます」


 何の躊躇いもない言葉。

躊躇もせず、すらすらとはっきり答えるセルティックの表情に微塵も迷いはない。

心の底からそう思って言っているとしか思えない顔だった。

しばしの間無言が続き、セルティックが操作するコンソールの音だけが響く。

捜索を続行し続ける手。

外部状況を映しているモニターを見て、コンソールを動かす手もそのまま。

そのまま――――


「・・・・どうせ帰って来るんでしょうけど」


 声は小さく、広いブリッジの片隅で消えてしまう。

でも、ブザムの耳にはっきりと届いた。

ブザムはそれ以上何も話さず、作業に取り組んでいるセルティックの様子を遠めに見る。

規律からすると制服着用していないセルティックは規律違反なのだが、マグノ海賊団は元来自由をモットーとしている。

最低限の規則を守り、与えられた任務をこなすのなら服装の自由は認められていた。

セルティックはブリッジクル−の中では最年少だが、仕事振りは皆も認めるところだった。

クマの着ぐるみという遊び心満点の衣装は目立つ事この上ないが、セルティックは好んで着こなしていた。

セルティックにとってはオシャレ感覚で特殊な衣装を着るのを趣味としている。

が、彼女が全身をスッポリ覆う着ぐるみを着る理由に、趣味以外で敵対する男に対しての意味もあった。

自分の姿すら男には見せたくはなく、男がいる空気すら我慢出来ない。

頑なに着ぐるみを毎日着る背景には明確な拒絶があった。

そう、あったのだ――


「・・・カイと何かあったらしいな・・・」


 顔だけではあるが、昨日から脱ぎ捨ててしまったセルティック。

帰って来ないでほしいと言いながら、捜索に懸命になっている微笑ましい矛盾。

何の理由もなく、あの男を極端に嫌っていたセルティックの心情が変わるとは思えなかった。

完全に受け入れた訳でもないだろうが、少なくとも旅の始まりに比べて確実な一歩を歩んでいる。

ブザムはセルティックの変化にカイが関わっているのを敏感に察した。

それは同じブリッジクルーであるアマローネ・ベルヴェデールにも言える。

任務交代の時間はとっくの昔に過ぎているのに、不眠不休で頑張り続けている。

通常業務には見られない熱心さと集中力が、彼女達三人を支えていた。

カイは捕虜ではなくなったにしても、仲間でもない。

なのに、助けられたと言う理由では説明出来ない懸命さが三人から伺える。

人が人に一生懸命になれるのはよっぽどの事だ。

どうやってここまで心を解きほぐしたのだろうか?

カイを探す理由がまた一つ増えた気がした。


『副長』

「メイアか。どうした」


 考え事を切り上げて、ブザムは顔を上げて中央モニターを見る。

モニターにはドレッドコックピットにいるメイアが映っていた。


『指定された探査区域には手掛かりはありませんでした。
探索範囲を広げる許可をいただきたいのですが・・・』

「これ以上範囲を広めると、敵襲撃に対処出来ないのではないか?」

『可能性としてはあります。ですが・・・・』


 メイアは少し言いよどみ、再び口を開いた。


「敵がもし襲撃を加えるなら、我々よりカイに向く筈です。
『我々は、そしてカイは今でも敵の領域内にいます。
たった一機とはいえ、敵がそのままにしておくとはとても思えません。
カイを一人にするのは危険です』


 一つ一つ理を積み上げて可能性と根拠を説明するメイア。

状況判断力は流石としか言いようがなく、ブザムも異論を挟めない。


「・・・分かった、許可しよう。
だが、周囲の警戒は常に怠るな。敵がどこに潜んでいるか知れない」

『了解。ご許可、ありがとうございます』

「いや。
それにしても・・・・・」

『はい?』

「カイが生きていると信じて疑っていないようだな」

『・・・・・・・・』


 ブザムの指摘に、メイアは目を見開いてうろたえる仕草を見せる。

もしカイが死んでいれば探索は無意味であり、探索範囲を広めるのは船の危険率を上げるだけである。

マグノ海賊団の安全を優先するのなら、カイを必要以上に探すのはマイナスにしかならない。

今の今までメイア本人も自覚していなかったのだろう。

返答に詰まったように何度も咳払いをして、視線が泳いだまま答える。


「ぶ、部下の何人かが率先して、カイの探索にあたっています。
私一人の我侭を通す訳にもいきませんので」


 カイを探すのは自分の意ではないと、メイアは頑なに訴える。

表層的な気持ちとしては本音に近いのだろうが、動揺を見せた後では説得力に欠けていた。

ブザムは無言の眼差しを向けると、メイアは視線を逸らした。


『では、私は探索に戻りますので・・・・『リーダー、リーダー!!』・・・』


 通信映像を切りかけたメイアに重なるように、大画面で別回線が開かされる。

突然大声で呼びかけてきた声の主は、同じパイロットであるディータだった。


『リーダー!リーダー!!あのね、あのね・・・!!』

『落ち着け、ディータ!何があった』


 周りを気にせずに激しい勢いで迫るディータを制し、メイアは静かに尋ねる。

余程興奮しているのか、頬を高潮させてディータは叫んだ。


『手がかりがあったよ!』


 その時メイアのみならず、ブリッジにいた全員が驚きの顔を向ける。

生死を気遣われていたところへの前向きな報告なのだ。

皆が注目するのは無理もなかった。


「本当か、ディータ!?何を見つけた!」


 有力な手掛かりなら、カイの生存確認も出来る。

一同を代表してブザムが尋ねると、ディータは興奮冷めぬままに答えた。


『えへへ、ディータが見つけたんです・・・『ちょっと!見つけたのは私でしょう!わ・た・し』よ・・・』


 笑顔で話し始めるディータに被さって、また新しい通信回線が開かれる。

同じくドアップで映し出されたその顔はジュラだった。

ジュラの怒りのこもった言葉に、ディータがふくれ顔をする。


『もう・・・・折角ディータが皆に教えようとしたのに・・・』

『手柄を横取りしようとしてもそうは行かないわよ。
あいつを見つけて恩を売って、絶対次こそ合体するんだから』


 こうして堂々と本音を話せる所も、ジュラの美点なのかもしれない。

――時と場合にもよるが。

二人の様子に呆れ顔を見せて、ブザムが割り込んだ。


「どちらでもいいから報告してくれ。何があった?」


 ブザムの言葉に二人は我に帰って静まり返る。

お互い顔色を伺っていたが、やがてジュラが口を開いた。


『実はカイを探しに割り当てられたポイントを探っていたら・・・・』


 ジュラはそのまま言い切った。


「前線基地のような施設があったんです」

「前線基地?」


 ジュラの報告に、ブザムは眉をひそめた。
































<to be continues>

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