VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 7 -Confidential relation-
LastAction −漂流−
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「・・・・このデータに間違いはないのか・・・・?」
「勿論だぴょろ!」
愕然とした表情に掠れた声で尋ねるブザムに、ピョロは真剣な目をして頷く。
胴体を形作る画面が切り替わって、キューブ・ピロシキ型の内部構造が映し出された。
ピョロは艦長席前に浮かび、メインブリッジ・中央モニターに画像データを射出する。
画像データは画面に映し出される表示と同様、鮮明な敵データ画像としてモニターにはっきり映る。
「ピロシキ・キューブ両機共に、内部の中心部からエネルギーを加速的に高めているんだぴょろ。
敵が攻撃をしないのも全エネルギーを無駄なく貯め込んでいるからだぴょろよ!
初めから敵は戦うつもりなんかなかったぴょろ・・・・・・
この船と心中するつもりなんだぴょろ!」
カイの命を受けて、ピョロは一目散にここメインブリッジへとやって来ていた。
誰よりも早く敵の目的を推測したカイ。
考えがあってか、ただの勘か。
ピョロには分からなかったが、敵の内部を調べてみろと言ったのは他でもないカイだった。
事実を掴んだカイが行動に移し、ピョロもまた行動を開始した。
敵の目的を阻止する為に―
この船の皆に危機を知らせる為に――
ピョロは調べ上げた全てのデータを、メインブリッジにいる全員に見せたのである。
一同の驚愕は如何なるものであったか、想像に難くない。
「て、敵内部観測完了!データに間違いはありません!」
「ぜ、全機ニル・ヴァーナの周囲に展開。包囲網を固めています!」
ピョロの指摘に、手早く外部状況を一からやり直したのは二人。
アマローネ・ベルヴェデール、最前線網羅に勤しんでいるブリッジクルーである。
ピョロから事実を聞きつけた二人は、素早く敵状況の把握にかかったのだ。
それぞれの得意分野、内部状況と外部状況の把握を――
短時間で、しかも命令を待つ事無く自分の職務をこなす二人に、ブザムも疑念を挟まない。
「く・・・完全に裏をかかれた・・・・」
口から漏れた悔恨の呟きをそのままに、ブザムは強く唇を噛み締める。
優美なラインを描く唇の端から血が滲み、細く流れ落ちた。
攻撃するか、様子を見るか。
選択に迷った末が、この有様だった。
キューブ数機・ピロシキ一機による自爆――
内部出力を臨界値以上に高め続け、自身をオーバーロードさせて爆裂させる。
限界を超えた内部エネルギーの放出は自爆した本体はおろか、周りにまで破壊力を拡大させてしまう。
敵が攻撃を試みる事無く、周囲を隈なく囲んでいたのもようやく頷ける。
融合戦艦ニル・ヴァーナの逃げ道を封じ、確実に破壊する――
ブザムが気がついた時には、既に状況は王手の一歩手前だった。
『すぐに逃げましょう!僕、巻き込まれるのは嫌ですよ!』
「駄目だ!下手に逃げたら、敵に勘付かれて御陀仏だよ!」
ニルヴァーナ・ナビゲーション席。
操舵手を勤めるバートが泣きそうな顔をして訴えるのを、マグノは一喝する。
いつもならマグノに反対されればあっさり退くバートだが、今回は違った。
「じゃあどうすればいいんですか!
このままじゃ船が破壊されてしまいますよ!!」
他人事ではなかった。
現状況で敵が狙っているのは、マグノ海賊団総員百五十名と男三名を乗船させている母船である。
もし取り囲んでいる敵が一斉に大爆発を起こしたら、船はただでは済まない。
当然船とリンクして一体化しているバートに船の損傷が伝わり、本人も負傷する。
よくて大怪我、最悪の場合は船と心中の可能性すらある。
マグノの言う通り、逃げようにも逃げ道はないのだ。
船が沈めばどのみち一蓮托生だが、自分が傷つくのを何より恐れるバートは何とかしてもらいたかった。
バートの痛切な訴えに、マグノは難渋の容貌を見せる。
事態を打開したいのは何もバートだけではない。
バートを含め、女性150名の命運を背負っている身として、敵の目論見を何としても打ち破らなければいけない。
マグノは必死で考えていた。
周囲を包囲されているのなら、逃げる方法はないだろう。
とすると、どうにかして周囲の敵を倒さなければいけない。
だが、どうやって―――?
攻撃して撃退、普通ならそのやり方だろう。
普通、なら―――
『お頭、ドレッドチーム出撃の許可をお願いします。
敵が策を弄しているのなら、すぐにでも攻撃に掛かるべきです』
「駄目だ」
事態に気付いたメイアは取り急ぎ出撃の許可を求める。
ピョロが持って来たデータを通信回線を通して知り、敵の目的を理解したのだろう。
事態の緊急性を懸念するメイアに、今度はブザムが一喝する。
「敵に攻撃を仕掛ければ、その攻撃の余波で爆発する可能性が高い」
敵は今、ぎりぎりまでエネルギーを高めている状態にある。
臨界点に達しつつある敵に向けてビームやレーザーを放てば、そのエネルギーで爆発する可能性があった。
高出力兵器もそうだが、ミサイル類の火力兵器も論外である。
焼け石に水などという呑気な話ではない。
ブザムやマグノが手を出しあぐねているのも、攻撃出来ない状況にあるからだ。
ブザムの意見を聞いたメイアはその意味を悟り、目を伏せる。
八方塞り――
攻撃も出来ず逃げる事も出来ないのなら、最早ただ事態の成り行きを静観するしかない。
爆発する瞬間、シールドを張って身を守る――
頭脳明晰なブザムが考えに考えて出した結論がこれだった。
勿論この策が一番の有効な手立てかといえば疑わしい。
自爆した際の爆発力も分かっていなければ、シールドの強度がどれほど保てるのかも疑問だった。
結局、敵の思惑に踊らされているに過ぎない。
自爆を許してしまえば、敵は目的を達成した事になるからだ。
身を守るだけのこの策では、無傷で済む可能性は皆無だった。
そのまま誰も何も言う事無く、ブリッジに再び重い沈黙が宿ってしまう。
進言出来る者も、策を立てる事が出来る者も―
事態を打開できる者もいない――
ブザムは自分の無力さをこの時初めて呪った。
今まで副長に任命され、乗り越えられなかった試練は一度としてない。
なのにこの旅に出てからは事態や敵に翻弄され、後手に回らされてばかりで有効な手立ては全くうてずにいる。
今にしてもそうだ。
目の前で危険が迫っているのに、部下はおろかお頭すら守れない。
カイは敵である自分達を何度となく助けたというのに――――!?
そこまで考え、ブザムははっとする。
「ピョロ、お前はどうして敵の目的が分かった?
何故敵が自爆を目論んでいる事を知った?」
答えは分かっていた。
分かっていたが、ブザムはあえてピョロに尋ねた。
これ以上にない鋭い目を向けられ、ピョロは萎縮して答えた。
「カ、カイだぴょろ・・・・カイが調べろって言ったんだぴょろ」
ピョロの言葉にその場にいた全員が、モニターに映っているメイアがぎょッとした顔で視線を向ける。
ブザムはやはりと言った顔で、ピョロを凝視する。
「我々に知らせるように言ったのもカイか?」
「そうだぴょろ。
自分はドレッドで出撃するから、お前は皆に知らせて来いって言ったんだぴょろ」
ピョロの言葉に違和感を感じるブザム。
どこがどうおかしいのか数秒間言葉を反芻し、ようやくその招待を悟る。
あまりにもさらっと言ったので、当たり前のように聞こえてしまうその単語を。
その意味するところを――
そしてそれは聞いていた皆も、モニター越しのメイアも、お頭であるマグノも例外ではない。
意図する訳でもなく、皆は声を揃えて・・・・
それは――
『ドレ・・・・』
射出されるドレッド。
『・・・・・ッ・・』
追い掛けていく敵。
『・・・・・・・・ドォォォォ!?』
――刹那の出来事。
「・・・・・・・・・・・」
声を揃えて叫んだと同時に、一同は同じく顔を見合わせる。
一瞬の内に起きた急変を。
突然の状況転換をものの数秒で引き越した宇宙を。
一同は呆然とした様子で、船の外に視線を向ける。
固まる事数十秒。
はっと誰よりも早く我に帰ったのはマグノだった。
「今のは何だい!?」
「確認します!アマロ、ベル、エズラ、状況を報告!!」
マグノの声に我に帰ったブザムは、慌てて命令を行う。
程なくして、結果が伝えられた。
「船内よりドレッドが一機射出!保管庫に格納されていた予備ドレッドと判明!
搭乗者はその・・・・カイだと思われます・・・」
言い辛そうに、それでもしっかりと事実をベルヴェデールは報告する。
隣のアマローネも同様だった。
「ニル・ヴァーナ周囲に機影一つ見当たりません!
敵全機・・・・・ドレッドを追尾したと思われます・・・・・」
アマローネの報告に、さしものブザムも絶句した。
あれほど悩まされた敵が、遠ざけたいと痛切に願っていた存在があっさり姿を消した
のである。
カイ一人を追って――
「親玉に子分は、と・・・・・
よし!ちゃんと全員俺を追ってきたみたいだな」
予備ドレッド・コックピット内。
長い間格納された影響で埃が目立つモニター画面を見ながら、カイは一人ほくそ笑む。
外部状況を示すモニターには後方よりドレッドを追う敵の反応があり、明確に飛び出した予備ドレッドを追って来ていた。
「そうだよな。手前らが逃げるのを許すわけがないもんな。
けっ・・・・・・・・
たった一人逃げるのがそんなに気にくわねえか」
敵がニル・ヴァーナもろとも自爆して果てるのだと悟ったカイは、ブザムと同じく対処を考えた―――訳ではない。
目的を見破った時に生じた閃き――
何度となく前線に出向き、敵と真っ向から戦い抜いた戦歴がカイに戦略をもたらした。
敵は刈り取り作戦を強行し、阻止しようとする自分達を倒そうとしている。
その執拗さは倒しても倒しても襲い掛かってくる今までが物語っていた。
今回の襲撃にしてもそうだ。
自爆という行為は、当然自身そのものの消滅をも意味する。
自分を犠牲にしてまで敵を倒そうとするその行為は崇高のように見えがちだが、敵は無人兵器を
駆り出している。
つまり何機自爆させても、敵そのものは痛くも痒くもない。
敵にしてみれば、全戦力のたった一欠けらが消えただけに過ぎないだろう。
なのに、道連れにされる側は壊滅的ダメージを被ってしまう。
陰険にして執拗。
カイは敵の正体こそ分からずとも、性質そのものは理解し始めていた。
敵は決して妥協しない、慈悲も与えない、何の敬意も払わない。
まして人間の臓器を平気で狩り出そうとしているのだから、最早人間性そのものすら危うい連中なのだと――
そんな敵の差し向ける無人兵器が、例えば自爆から逃れるべく母船を離れる船一つでも見逃すだろうか?
急速度で母船から離れたカイをわざわざ全機で追うその姿勢が、何より雄弁に答えを述べていた。
「とりあえず第一段階は成功だな」
予備ドレッドは速度を落とす事無く、最大加速で真っ直ぐに宇宙を飛び続けていた。
ニル・ヴァーナを飛び出して数十分、最早コックピットの中央モニターを見渡しても影も形も見えない距離まで離れている。
上戦用の蛮型とは雲泥の差であるこの飛行速度が、ドレッドの最大の武器であった。
カイの乗るSP蛮型は通常規格を遥かに凌駕する機能性があるが、それでもドレッドの加速には及ばない。
モニター越しに感じられる加速感は、カイを内側から高揚させていた。
現在最大加速、スピードだけで酔えそうな程カイはゾクゾクしている。
突然射出した時には混乱の連続だったが、今ではもう乗り慣れつつあった。
「よし・・・・これだけ離れりゃあ十分だろう。
そんなに爆発したいんなら、望み通りにしてやるよ」
敵が母船に取り付いて爆破しようとしているなら、自爆する前に離せばいい。
カイがドレッド出撃を急がせた理由がこれだった。
爆発する前に出撃して敵の目を引き付けなければ意味がない。
ガスコーニュや他の皆に説明する時間すら惜しみ、カイは出撃を強行した。
お陰で成果は実り、ニル・ヴァーナは完全に安全圏にまで距離を取った。
そもそもブザムやマグノが攻撃制止を余儀なくされていたのは、爆発に巻き込まれるのを恐れてである。
その母船が彼方にまで遠ざかった以上、何の遠慮もいらない。
カイは執念深く追いかけてくる敵を攻撃しようとして、気づく。
「うがああああっ!!!!
反転出来ないんだったーーーーー!?」
予備ドレッドは真っ直ぐに加速し続けている――
それはカイがきちんと操縦しての賜物ではない。
出撃前に乱暴に操作した上での偶然の要素であり、暴走に近いと言っていい。
事実カイは速度を緩める操作も知らなければ、背後に迫る敵に向けて機体を反転させるやり方も知らない。
ただ、真っ直ぐに進んでいるだけだ。
「っていうか、攻撃もどうすればいいのか分からねえ!?
確か青髪達はビームとかよく撃ってたよな・・・・・」
今までのメイア達の戦いを参照に、カイは手元の操作パネルを見る。
自分の座るシートを中心に、ボール型の操縦桿を駆使してドレッドを操縦するのだとはニュアンスで分かる。
だが、どうやって攻撃すればいいのか分からない。
幸い敵が自爆を狙っている限り攻撃を仕掛けて来ることはないが、いつまでも逃げ切れるかは分からない。
敵が少しでも心変わりして反転して戻ってしまえば、カイが取った行動に意味はなくなる。
チャンスは今しかない――
「ええい!こうなったら気合と根性だ!!
攻撃しろ、攻撃!攻撃、攻撃、攻撃!!」
操縦桿を必死で握ったり左右上下に動かしながら、カイは必死の形相で叫ぶ。
素人以下の無茶苦茶な操作で、手当たり次第という言葉が似合うくらい操作パネルの全てを触りまくる。
カイなりに懸命な行為が功を奏したのか、ドレッドの両翼から一筋の光が発動する―――
「よっしゃっ!って、馬鹿野郎ぉぉぉぉ!!!」
―――何もない前面に向かって。
ビームは前面にいる敵に対しての出力兵器であり、後方にいる敵にはどうしようもない。
後方に照準に向けられる兵器など、咄嗟の機転が利かないので意味はない。
「くそっ・・・・どうする!?」
髪の毛をくしゃくしゃさせて、カイは苦渋に満ちた顔をする。
敵が前にいればビームを発射出来るが、ドレッドの加速を緩める事は出来ない。
第一敵が前に出るのをいちいち待っていれば、背後から爆発して巻き込まれる危険性もある。
敵はカイと遊ぶ為に追いかけているのではない。
船から離れたカイを抹殺する為に追尾を続けているのだ。
ビームは撃てない、通常兵器では応用が利かない。
操舵がうまく出来ない上に進む船を止める事も出来ない。
もう一歩の所で手詰まりとなってしまった戦況に悩んでいると、カイの脳裏に――
『・・・俺が笑っている内にやめとけよ、そういうジョークは』
『あはははは。一応念のためにつけておくね』
「そうか!?ホーミングミサイル!?」
カイは手元に目を落とし、先のビームを発射した操作を繰り返す。
整備中に接続した兵器ならば、特別な操作を必要とはしないだろう。
カイの予想は正しく、操縦桿の傍に外部付属操作パネルがあった。
カイはにやっと笑って、モニターに映る敵勢力に目を向けて叫んだ。
「宇宙の藻屑となりやがれーーーーー!!!!!」
ドレッドから発射される数十のミサイルの群れ。
全弾発射されたミサイルは後ろへと飛んでいき、修正に修正を重ねて、迫り来る敵一体一体に突き刺さる。
「・・・・終わった、か・・・・」
連鎖して起きる大爆発。
モニターが真っ白になり、コックピットが眩い光に照らされる中、カイは安堵したように目を閉じる。
宇宙の闇に燦然と輝くエネルギーが暴走し、急速に拡大した光の渦がドレッドそのものを呑み込んでいった・・・・・
「カイちゃん、応答してください!
・・・・カイちゃん!!」
何度も手元のコンソールに呼びかけるエズラ。
船を飛び出したまま消えてしまったカイの乗るドレッドに交信し、無事を確かめようと頑張っていたのだ。
一分が経ち、十分経ち、そして―――
エズラは声を落とし、首を振った。
「応答、ありません・・・・
・・・・船の反応も・・・・敵の反応も・・・・
・・・・消え・・・・ました・・・・・・」
暗く、悲しみの混じった声でエズラは報告する。
船の反応が消失――
その意味するものはたった二つだった。
一つ、反応を探知出来ない程の遠距離まで離れてしまった。
そして、もう一つ。
船そのものが消えてしまった―――
エズラの報告を聞いていたメイアは、口元を手で覆う。
衝動的――
口を手で押さえていないと、何かが衝動的に飛び出してしまいそうだった。
自爆寸前の敵。
飛び出したドレッド。
追いかけていく敵。
彼方まで遠ざかったドレッド。
彼方まで追いかけていった敵。
―消えてしまった二つの反応―
認識したくなかった。
認識するという事は、認めてしまうという事。
納得してしまうという事、現実だと受け入れてしまうのだという事。
カイが・・・・敵と共に消えたのだと―――
メイアはただ、口元を抑えていた。
自分が唇を深く、深く噛み締めている事に気づかぬままに―――
「・・・・カイ・・・・・」
カイが何を狙っていたのかを理解した。
理解してしまった・・・・・・・
整備中の蛮型を置いて、わざわざ乗り慣れないドレッドまで駆り出して戦場へ出たその訳を。
全てが終わってしまった、決定的な遅れの後で――
静まり返るブリッジの中央で、ブザムは我知らず拳を握り締めた。
カイの取った行動の理由。
単独で許可を得ずに飛び出して、敵を引き連れて消えていったその意味――
誰が見ても一目瞭然で分かる。
分かるからこそ、ブザムの内部よりやり場のない熱が沸き上がっていた。
そして―――沸き上がっている熱に愕然とする。
問題ばかり起こしていた捕虜が一人いなくなった――
そう思えない自分がいる。
それが何を意味しているか、分からないブザムではなかった。
「・・・あの子は・・・・」
全身を覆う法衣の下で、マグノは我知らず数珠を握る。
カイの取った行動は正しかった。
自分達を助け、自分を犠牲にして敵を退けた――
捕虜として、邪魔な男としては最大限の有効利用であり、厄介払いだった。
仲間にはならないと明言したのはカイだ。
マグノ海賊団入りしない、それは自立を意味する。
仲間ではないのだから、自分の責任は全て自分が取る。
今カイが取った行動は独断であり、感謝する事も悲しむ事もない。
そうは―――とてもではないが思えなかった。
「・・・・カイ・・・・」
結局、追い込んだだけだ。
何もかも全て押し付けて、責任を擦り付けてしまった。
そして、消えていった―――
マグノは全身を焼かれそうな悔恨の炎を胸に宿しながら呟く。
「・・・・カイ、アタシは結局あんたに何もしてやれなかっ・・・・」
「帰ってきますよ」
ブリッジ内がざわめく。
高くも低くもない声色。
大きくも小さくもない普通の声量。
なのに、その声はブリッジ内に全域に染み渡る。
マグノやブザムが驚いたように声の主を見つめる。
驚いたのは声が聞こえたからではない。
言葉の内容でもない。
声を発した主があまりにも意外だった為であった。
「あの人、ずうずうしいですから。
何の遠慮もしないで、自分勝手な事ばっかりして、いつも人を困らせて。
そんな人が死ぬ訳がないです」
包まれた姿。
自分の本当をずっと―――隠していた。
仮面を被って逃げていた。
でも―――
少女は首に手をかけ、そっと持ち上げる。
陽気な表情を浮かべている偽りの着ぐるみを―――
「きっと今でも笑ってます。敵を追っ払って、悠々と笑ってます。
悩んでいる私達なんか気にもしてません。
だからわたし、あの人嫌いです。
嫌いだから・・・・・・文句言いに行きたいです」
少女は、セルティックはそう言って――――にっこりと笑った。
素顔のままで。
マグノとブザムは驚愕の顔でそのまま固まっていたが、
「分かるわ、セル。その気持ち。
私も嫌いよ、あんな奴。
少しは後先考えて行動してほしいわよね」
「レーダーにも反応がないみたいだから、かなり遠くまで行ったわね。
探すこっちの身にもなりなさいよ。
だから嫌われるのよ、もう・・・・・・」
面倒そうな顔をしながらも、表情は穏やかで温かい微笑み。
アマローネとベルヴェデールはセルティックに視線を向け、頷く。
対するセルティックも頷いて、晴れやかな顔で手元のコンソールに向かった。
「駄目よ、カイちゃんをそんなに悪く言っちゃあ。
カイちゃんにだっていい所はたくさんあるんだから」
咎めるようにそう言いながらも、先程の暗さは微塵もない。
エズラは普段通り表情を緩ませて、てきぱきと仕事に取り掛かった。
『お頭。これより、パイロット一名の探索に取り掛かります』
「メイア、お前さん・・・・・」
目を見開くマグノに、メイアは気まずげに視線を逸らしながら言った。
『わ、私はドレッドチームを指揮する立場にあります。
で、ですから、あの・・・・・予備とはいえ、ドレッドとそのパイロットを常に把握しておかなければいけません・・・・
では、失礼します!』
返答を返す暇もなく、そのまま強引に通信を切ったメイア。
が、マグノには見えていた。
通信回線が遮断された寸前、メイアが頬を若干染めていた事に――
「・・・・・ふふふ・・・・・」
「お、お頭?」
我知らず笑みを零すマグノに、ブザムが怪訝な顔をして声を出す。
マグノはそのまま微笑を崩す事無く、静かに言った。
「アタシは少しあの子を見損なっていたかもしれないね・・・・」
「それはどういう・・・」
「お前さんだって、そうじゃないのかい?」
「・・・・・・・・・・」
図星を指されたように、ブザムはそのまま俯いて黙る。
マグノは艦長席から周りを見渡した。
命令もなく、強制もない。
ただ純粋に、捜索に懸命になっているブリッジクルー総員の姿を――
そして顔だけを覗かせるセルティックの横顔を見て微笑み、そして声を張り上げる。
「さあ、うちの暴れん坊を迎えに行くよ!
バート!!」
マグノの呼びかけに、バートは心得たように大声で答える。
「了解っす!
あの馬鹿、後で面倒かけた文句を言ってやる!!」
そのまま軌跡を描き、ニル・ヴァーナは一路向かっていく。
生きていると、信じて――
信じられる存在なのだと、ただ信じて―――
<Chapter 7 -Confidential relation- end>
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