VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 7 -Confidential relation-
Action21 −葛藤−
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頬を涙で濡らすキッチンチーフに、困惑に立ち尽くすカイ。
周囲から見れば修羅場同然なこの状況を逸早く認識したのは、関係のない第三者だった。
「旦那ぁ〜、また女を泣かせたぴょろねぇ〜」
ひょうきんな手の動きで、ちょんちょんと横からカイを突っつくピョロ。
つい二ヶ月前まで一体のナビゲーションロボに過ぎなかったとは思えないピョロのからかいに、カイはようやくはっとする。
そのまま怒りか恥ずかしさか、本人でも分からない程狼狽し顔を赤くした。
「俺のせいかよ、これ!?それにまたって何だ!?」
「とぼけちゃいけませんぜぇ〜、こんな礼儀正しい子を泣かすなんてぇ」
「知らんつってるだろう!変な言い方はやめろ、こら!」
怒鳴ってピョロを牽制しつつ、カイは話題の涙の主を見下ろす。
自分の胸元程の背丈しかない、綺麗に二つに纏まった金髪の女性。
カイはキッチンチーフから伝わる温かみに、胸の底から湧き出してくる衝動を堪えながら、背中を軽く慎重に摩る。
ゴツゴツした男の体格とは違う、衣服越しに伝わる柔らかさ。
そして、男にはない胸の弾力。
少しでも強くすれば壊れてしまいそうで、どんなに乱暴に扱っても心地良い感触を与えてくれそうな女の身体。
ここまで急接近された経験は、この船に乗るようになってからまだ数回しかない。
突発的な事故か、相手側の故意。
カイはその度に困惑し、自らの想像の範囲を圧倒的に超える女の身体に頭の中が真っ白になってしまっていた。
「あ、あのよ・・・・」
相手は海賊であり女だという微かな拒否反応を、圧倒的に凌駕する本能的衝動。
今この時も背中を撫でる手は別の欲求に突き動かされそうになっているが、ぎりぎりカイは理性を保っていた。
紳士を気取る気もなければ、未知なる気持ちに身を任せる気もない。
カイは何とか平静さを装って、恐々話し掛ける。
「お、落ち着けって。な?
何があったのかちゃんと話してくれよ」
いわくがありそうな話だとはカイも気づいているが、断片的な情報で話の詳細が見えてこなかった。
分かるのはクルー入りの両方のきっかけとなったセキュリティに、マグノの思慮が複雑に絡んでいる事。
そして――
マグノ海賊団の仲間入りを自分が拒否した事に対して、自分の責任だとキッチンチーフが嘆いている事。
居た堪れないもどかしさを感じながら、カイは泣き続けているチーフに話し掛けた。
そのまま返答を促す事はせず、ただじっとしている事五分余り。
ぐすぐすと鼻を鳴らして、カイの胸元にいるチーフはそのまま顔を上げる。
「・・・スン・・申し訳ありません・・・取り乱してしまって・・・・」
目を真っ赤にして、涙で潤んだ瞳をカイに向けるチーフ。
ようやく泣き止んでくれた事への安堵とチーフの熱っぽい眼差しに恥ずかしさを覚えながら、カイは視線を逸らして言う。
「とりあえず場所変えて、飯食う所にでも行かねえか?
ここじゃ落ち着いて話も出来ないだろう」
カイはそう言って、何気なくそっとチーフの身体を離した。
チーフは涙で濡れる目元を拭き、周りを見て自分が通路で泣いていた事に気づき赤面する。
「そ、そうですわね!私ったら気づきもしないで・・・・
今は清掃中ですから、他の皆さんもいないのでちょうどいいですわ」
「お、そうなんだ?てっきりいつも女の溜まり場になっているとばかり思ってた」
溜まり場と言う表現に、チーフは苦笑いを浮かべる。
カイの粗暴な言葉遣いを嘲笑しているのではなく、むしろ好ましく思っている様子で言った。
「何言っているんですか、カイさん。皆さん、毎日仕事で忙しいんですよ。
トラベザが混み合うのは食事時と休憩時間のみです。
入れ替わりで訪れますので、いつも数人はいるのは事実ですけど」
船内には複数の職場があり、仕事内容によってスケジュールは別々に管理される。
部署としては独立した体系であり、クルーの労働時間はその職場のチーフが管理しシフトを組む。
休憩時間はおのずと別々となり、カフェテラスに訪れるクルーは時間によってまちまちだった。
「そうなのか?ま、人がいないなら都合がいいな」
「ええ、少し込み入った話になりますし・・・・・あ」
「うん?」
突然言葉を切るチーフに怪訝な顔をするが、チーフはカイを見ていなかった。
カイは首を傾げてチーフの視線を辿って行くと、自分の背後を見ている事に気がつく。
チーフが何を見ているのか、カイは見ずとも分かり額を抑える。
「あー、後ろの馬鹿については気にしないでくれ。
置物かなんかだと思ってくれていいから」
「置物とは何だぴょろ!失礼な奴ぴょろ!」
けたたましい音声にカイはしかめ面をして、背後を振り返る。
ピョロは目を尖らせて、滑らかなデザインの手を不満そうにブンブン振らす。
カイも負けじとジロリと睨んで、指を突きつける。
「失礼なのはてめえだ!
今から俺とチーフは大切な話をするから、お前はどっか行ってろ」
しっしと手を振って追い払おうとしているカイに、ピョロはいきり立つ。
「なんていう言い草だぴょろ!
折角忙しい時間を割いて、お前の仕事の手伝いをしてやっているピョロに!」
「お前はこの船中で一番暇だろうが!
使ってやっているだけでもありがたいと思え!!」
「女達の仲間入りを拒否して、一人孤独になった奴に言われたくないぴょろ!」
「人間の仲間入りも出来ねえ奴に言われたくねえよ!」
「あー!ピョロが気にしている事を言ったぴょろね!言ったぴょろね!!」
「言ったがどうした、この野郎!!」
しんみりしていた雰囲気もどこへやら、カイとピョロは激しい言い争いをする。
すっかり置き去りにされているチーフは二人の剣幕に目を丸くして見つめていた。
が――
「ふふ・・・・」
涙の名残はそのままに、チーフは小さな微笑みを零した。
チーフの言葉通り、ここカフェテラス「トラペザ」に人はいなかった。
マグノ海賊団クルー総員が食事を取れる唯一の場であるトラペザは、食事時は絶え間ない喧騒で包まれる。
船内は娯楽施設が少ない事もあり、トラペザはクルーの憩いの場としても重宝されている。
そんなトラペザに二人のみでいると静寂さが際立ち、耳鳴りがしそうな程無音が目立つ。
皆がいる時間帯にしか訪れた事のないカイは妙な息苦しさを感じながらも、空いているテーブル席の一つに座っていた。
正確にはもう一人いる事はいるのだが、不貞腐れた様子でカイの対面に座り込んでいる。
まだ尾を引いているのか、ピョロは自身の小型モニターを点滅させていた。
カイもカイでピョロを相手にはせず、そのまま黙して待っている。
第三者がいれば息苦しい事この上ないこの空間を、トラペザの奥の扉の開閉音が破った。
「お待たせしました、カイさん」
扉から出て来たチーフに、カイは顔を向ける。
「・・・ちっとは落ち着いたか?」
「ええ、もう大丈夫です。ご心配おかけしました」
泣き腫らした顔は水で洗われ、目は真っ赤だが表面上は元通りだった。
ここへ来て早々顔を洗いたいと申し出たチーフに、カイは快く頷いて今まで待っていたのである。
チーフはそのままカイの座るテーブルへと近づき、対面側に腰を落ち着けた。
すっかり落ち着いた様子のチーフにカイは口元を緩め、そして表情を引き締める。
「んじゃあ、早速だが話してくれ」
「はい。
・・・・・どこから話せばよろしいでしょうか?」
しっかりと頷き、チーフはしばしの沈黙後小首を傾げた。
思わず脱力感に突っ伏しそうになりながらも、カイは気力で支えて顔を上げる。
「元々あんたが話を持ってきたんだろうが!俺に聞くなよ」
「ご、ごめんなさい。
でも私、どこまで話しましたかしら?」
こくりこくりと可愛らしく首を左右に傾けるその姿に、わざとらしさは全くない。
すなわち真剣に、嘘偽りなく、これ以上はない程に、チーフはカイに話した内容を覚えてないのだ。
カイは顔を歪めて片手で抑えながら、うめく様な声を上げる。
「・・・・俺も正直全然分からんから、もう一回最初から説明してくれ・・・・」
「最初からと言うと、え〜と・・・・」
「俺達がクルー入りした辺りから。
俺がセキュリティレベル0なのは何か理由があるとかないとか、ばあさんがどうこうとかって言ってただろ?」
混乱したまま聞いていた事もあり、カイが耳にした話は半分も伝わっていない。
情報不足なカイの言葉にそれでも合点がいったのか、チーフははいと答える。
そのまま座り直し、チーフは真っ直ぐな瞳でカイを見つめた。
「カイさんはセキュリティが導入される事になった理由を聞いていますか?」
突然の振りにカイはきょとんとしながらも、少し考え込んで頷いた。
「ブザムから聞いたよ。
俺達に好き勝手されては困るから、セキュリティ仕掛けたってな。
それに、最初にものの見事に引っかけられたのは俺だぜ」
「うふふ、そうでしたね。
カイさんのお陰で、私も安眠を妨げられたんですよ」
クルー入りを通達される数時間前。
夜に目が覚めたカイは眠れずに船内を歩き回り、プライベートルームに忍び込もうとしてセキュリティにかかったのだ。
当然非常警報はあの時全域に流れ、チーフの部屋にも響いている。
言葉や態度こそ咎めているようだがチーフの目は笑っており、カイも苦笑気味に頬を掻く。
「まさか本当に出番があるとは思わなかったとかほざいてたぞ、あん畜生」
「実用化は以前からされていたんですけど、まさか本当に男が来るとは思いませんでしたから。
・・・多分、皆も・・・・」
突如声が細くなったのに敏感に反応し、カイは口をつぐんだ。
これ以上口出しするのは、それこそ無神経だろう。
何も言わずただ待つカイに気づいてかいないでか、チーフはそのまま話し始める。
「二ヶ月前、お頭が捕虜三人をクルーにすると艦内放送で言われた時、当然ですが皆反対しました。
何で男なんかを自分達の仲間にって。
・・・・私も、その中の一人でした」
カイは驚かなかった。
カイにしてみても、当時心境は同じだった。
驚異的な敵がいて故郷が危ないのは認識出来ていたが、女なんかと一緒に旅するのかと思った。
正面から嫌悪する程嫌いではなかったが、受け入れられない面があるのは事実だった。
そんな自分に目の前の女性を非難など出来る訳がない。
カイはそのまま耳を傾ける。
「でも私達は仕方がないんだ、一時的な措置だと自分に言い聞かせて受け入れました。
カイさん達を、ではありません。
お頭の命令を受け入れたんです・・・・」
自分達を今まで導き、助けてくれたマグノ=ビバンの命令だからこそ皆を反発させずに済んだ。
命令だから仕方がない。
言われたから、不本意だが渋々共にやっていこう。
上辺だけの承諾――
いつ切り離しても後腐れのない、霞の如く何時でも消えそうな繋がり。
好きで一緒に旅をするんじゃない。
後々の別れが決定付けられているからこそ成立する「共同」だった。
「仲間ではなく、何かあれば手伝わせるだけの関係。
私達は皆、カイさん達を対等ではなく見下ろしておりました。
男は最低の生き物。
生きているだけで害を生み出すばい菌だと思っておりましたから・・・・」
メジェールで生まれた女性は誰もが知っている常識。
常識は当たり前だからこそ常識が成り立ち、共通の意識でもある。
何度も何度も罵倒され、冷遇されたカイは今更のように馬鹿らしさを感じた。
男を知らないのに男を見下ろすメジェールの女達に。
そして、
女を知らないのに女を見下ろすタラークの男達に――
「私達はこの状況を楽観視していました。
タラークの男がいるとはいえ、たった三人。
私達の助けがなければ何も出来ない無力な男達に何が出来るのか、と。
もしも何か良からぬ事を企てれば船から追い出せばいい、と――」
女は男を爪弾きにした。
男は女を相手にしなかった。
互いに相手を見下し、保身を第一に考えて、干渉を持とうとも考えない。
皮肉な事に、共同生活は男と女が関わりを持たないからこそ均衡を保っていた。
「・・・・ですが、それは大きな勘違いでした」
チーフは言葉を切り、カイに正面から視線をぶつける。
カイは眉を潜め、そしてはっと顔を向けた。
「まさか・・・・俺、か?」
やや呆然として言ったカイにチーフは少し躊躇い、そして頷いた。
「カイさんは・・・・私達の理解を超えておりました・・・」
互いに不干渉という暗黙の了解を、根底から破った存在。
カイ=ピュアウインド。
自分の職務を全うすればいいものを、いちいち踏み込んで来る男。
「何にも捕らわれず、自由気ままに行動するカイさん。
例え相手がお頭や副長でも堂々と意見を言い、私達の考えも及ばない行動に出る。
そんなカイさんを皆は疎ましく思い、嫌っていました・・・・」
初対面では命すら張って、カイは海賊達と敵対した。
その後捕虜となり囚われても、自分が納得出来なければ相手が誰であろうと聞かない。
それでいて共同の旅が始まれば、何度も女達を助けてきた。
味方なのか、敵なのか。
カイはマグノ海賊団にとって今までに出会った事のない、全く焦点を絞れない男だった。
ただ、確かな事は一つ。
カイは女達を幾度も助け、幾度も女達との間でトラブルを起こした――
「だから、俺をクルーにしても何の権利も与えなかったってのか」
それまで黙っていたカイが確認するように言う。
自分が疎まれているのは当の昔に知っていた。
周りの女達の反応を見ればすぐに分かる。
セキュリティレベルを通達された際にも、ブザムはきちんと伝えている。
『クルー達の意見を反映して、それぞれの度合いに担ったレベルを与えている』、と。
自分にはレベルそのものすら与えられなかった。
つまりは、そういう事なのだ――
今更話を聞くまでもない。
カイは嘆息して話を終わらせようとしたが、その時チーフは立ち上がった。
「それは違いますわ、カイさん!」
「な、何が・・・?」
突然の剣幕にカイは目を丸くするが、チーフは止まらず言い続ける。
「確かにカイさんを悪く言う人は今でも大勢います・・・・
ですけど、カイさんを見直している人だって増えているんですわ!」
「はぁっ!?」
初耳だった。
今まで嫌われているのが当然だと思っていて、カイも周りに好かれようともしなかった。
なのに、チーフの今の言葉は自覚していた本人の当たり前を覆す程の威力があった。
チーフは身体を震わせて言う。
「・・・私達だって・・・馬鹿ではありません・・・・
カイさんが何度私達を助けてくれたか・・・・・
何度励まして勇気付けてくれたか・・・・・・分かっていますわ・・・」
敵が到来し、危機が訪れる度にカイは前線へ繰り出して来た。
傷つき力及ばずとも、悩み苦しんで挫折しそうになっても、カイは一度も逃げなかった。
目を逸らさずに現実を見つめ、皆が助かる道を選んだ。
「メイアさんがお怪我をされた時でもそうです。
カイさんはあんなに必死になって、メイアさんや皆さんを励ましていたではないですか」
敵の強大さに、大切な味方が死にそうになっている事実に、皆がへこたれ絶望に身を伏していたあの時――
『誰もが皆、それぞれに背負っているもんがある。
辛い事や悲しい事なんぞ誰にでも持っているし、持ってない奴なんぞいねえ。
少なくとも、ここにはな』
敵なのに――
『確かに今のこいつらは駄目駄目だし、情けねえ顔ばっかりしてやがるよ。
だけど、それでも必死こいて頑張っているじゃねーか!
やばい状況の中を、命の危険に晒されながらも、仲間は何とか生き残ろうと懸命なんだぞ!』
男なのに――
『それに比べて、お前は自分が恥ずかしいとは思わないのか。
一生懸命頑張っている周りの連中に申し訳ないとは思わないのか。
何のために皆汗水流して努力しているんだと思ってんだ!
お前が帰って来るって、皆信じているからじゃねーか!!』
嫌っていたのに――
『俺が宇宙一のヒーローになって、お前を幸せにしてやる』
相手にしなかったのに――
『お前の仲間は一人も死なせない』
それでも――
『約束だ』
カイは約束を果たした――
「こんなに思い遣ってくれて、何も思わない訳ありません。
私はあの時ようやく、お頭や副長がカイさんを目にかけているのか分かった気がしました。
カイさんは・・・・・敵じゃない。
誰よりも頼りになる―――味方なんだって」
女性の口から生まれた初めての言葉、『味方』。
二の句が継げないカイに、チーフはそっと顔を伏せる。
「でも・・・・男が敵だと私達は故郷でずっとそう教えられてきました。
それは、事実なんです。
事実は・・・・・簡単に覆せません・・・・」
生まれてから教え込まれた「真実」。
絶対なのだと信じていた「真実」が間違いなのだと改めるには、彼女達は余りにも大人へと近づき過ぎた。
十数年生きて刻まれた「真実」は急には変えられない。
それは、決して罪ではない――
常識を疑うという事は、自分の過去を例え一部でも否定するのと変わらないのだから。
「カイさんは正しい事をしてきたと思います。
でも、その正しさを正しさだと思えない人達がいる。
カイさん達が正式にクル−入りする時に、一番の悩みの種となったのがその人達でした。
仲間入りさせると、カイさんを今でも否定する人達を除外する事になる。
それは決して犯してはならないんです。
お頭は・・・・・マグノ海賊団そのものを背負う立場なのですから・・・・」
組織を成り立たせるのが目的なら、一人や二人切り捨ててもそれでいい。
でもマグノ海賊団が結成された目的は、路頭に迷った人達をクルーとし救済する事にあった。
たった一人でも簡単に見放す事は出来ない。
「反対するクル―の意見を無視出来ない。
だからといって、これまで沢山頑張って下さったカイさん達をそのままには出来ない。
それで・・・・それで・・・・・」
身体の震えは広がり、小さな手先はぎゅっと自分の制服を握る。
「・・・・お頭の苦しみは・・・私にも分かります・・・・
だって私もカイさんに・・・カイさんに・・・・・・」
懸命になるが、声も震えて言葉にならない。
それでも何とか事実を打ち明けるべく口を開いた時、ぽすっとチーフの頭に力強い感触が生まれる。
はっと顔を上げると、カイが穏やかな顔でチーフの頭に手を置いていた。
「・・・・もういいよ」
「で、でも・・・・・」
「いいって、分かったから」
カイはチーフの言葉を遮り、頭を振る。
「・・・・・ようするに、俺に白羽の矢が立ったんだろう?」
チーフはカイの言葉にびくりと身体を大きく震わせる。
賛成も反対もしなかったが、その反応が何より雄弁に語っていた。
「何かと目立つ俺がセキュリティ0なんていうふざけた待遇にされたら、反対する連中だって渋々だけど納得する。
考えてみればドゥエロやバートは連中の迷惑になることはしてねえからな。
いやむしろ怪我人を治したり船を操縦したりと、俺よりあいつらに貢献しているかもな・・・・
俺一人さえ冷遇されれば、二人は全員総意でクルー入りが出来るって訳だ」
「カイさん、それは・・・・・・・!」
「あんたの部下だってそうだろう?」
「!?・・・・・・・・・・・」
カイの指摘に、チーフは黙り込む。
「初めからおかしいと思ったんだ。
ここだけ俺は隔離されたり、晒し者みたいな扱いだったからな。
他はただ進入禁止なだけなのによ」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・俺への処置はばあさんと同じく、あんたが部下の気持ちを汲んで・・・・」
カイの言葉はそこまで言って、そのまま黙り込む。
チーフが辛そうな顔をして俯いていた。
「そうです・・・・そうです!私がやったんです・・・・
ゴザも、何もかも私が・・・・」
チーフもまた辛い立場にいたのだ。
キッチンスタッフはカイにいい感情を持っていない。
セキュリティシステムも導入され、万全な体制が整った以上、チーフである自分がカイを優遇する訳にはいかない。
かといって立ち入り禁止にすれば、カイは二度とここへは来ない可能性もある。
カイを見直しつつあった今、それだけはどうしても避けたかった。
部下全員を納得させ、その上でカイにここを最低限利用出来るようにさせる環境を作る。
チーフにとっても苦肉の策だったのだ――
「なあ、チーフ」
「・・・・はい・・・・?」
「話は分かった。
あんたが俺に悪い事したって思っているんなら・・・・・」
「・・・・・・・」
チーフは苦渋に満ちた顔をしたまま、カイの言葉を待つ。
もしもここで土下座をしろと言われたらするつもりだった。
そこへ、カイからの次の一言が―――
「このポスター、一枚でいいからここのどっかに貼っていいか?」
「・・・・え?」
何を言われたのか理解出来ないといった顔で、チーフはカイを見る。
彼女の瞳には、事実を知っても何の変わりもない無邪気な顔をしているカイが映っていた。
<続く>
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