VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 7 -Confidential relation-






Action20 −心中−




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 故郷から強制的に離反させられた女達で構成される組織・マグノ海賊団。

心に傷を負う者、居場所を無くした者、自ら海賊入りを志願した者等さまざまな女性がいて、一人一人が自身の任務を遂行している。

海賊と言う危険極まりない仕事をこなす上で、多岐に渡る分野の仕事が必要とされるのだ。

仕事の種類を詳細別にすると目が回る程の多さとなるが、部署別にするときちんとした分類が出来る。

機関部・レジ・キッチン・クリーニング・エステ・イベント・警備(保安)・パイロット・ブリッジ。

他に医療や上層部のような特別な仕事も存在するが、ほぼ全クルーがどこかの部署に所属して己が任務を全うしている。

仕事内容は完全に違い、所属する上で各部署による制服着用を義務付けられている事からも構成が完全である証拠だ。

自分の仕事に誇りを持たせ、一個人が海賊団を支える柱となる。

完璧な職務分岐によるこうした構成が組織を拡大し、タラーク・メジェールを脅威に陥れたマグノ海賊団を生み出した。

とはいえ、何の問題もないと断定は出来ない。

一見すると見事な組織構成に思えるが、区別された仕事に割り当てられる事により、クルーの任務遂行能力は特化される。

一つの部署で一つの仕事に着手し、その道のプロフェッショナルになる事により、ある弊害が生まれてしまうのだ。

部署ごとの派閥である。

当然だが毎日同じ部署で同僚と働けば、自分の仕事に仲間に愛着を覚えてしまう。

ましてマグノ海賊団は職場のみならず、己の生活の場でもある。

一つの職場環境を共にすれば、日常生活でも共に過ごす様になり、ある種の共同体という考えを生み出す。

特にマグノ海賊団には個性の強い女達が集まっている。

自分の仕事に誇りを持ち、同じ職場でのクルーに仲間意識を持てば、その部署が自分の一つの居場所となりやすい。

結果、部署ごとによって考え方・価値観・行動までもが完全に分別されてしまう。

交差する時もあれば、すれ違いにより海賊団内部で小規模ながらに対立する場合もあった。

もっとも、同じ故郷で同じ圧政を受けた者が集う場である。

対立する事はあっても、これまで大きな問題に発展する事はなかった。

クル―達一人一人の繋がりは蜘蛛糸のように細く分かれているが、決して切れない。

団結力の強さ、それがマグノ海賊団の強さでもあった―――















「はあ〜、駄目だったか・・・」

「だから言ったぴょろ。相手にされないって」


 融合戦艦ニル・ヴァーナ・元海賊母船側。

ワーキングエリアと呼ばれるクルー達の職場が存在する区域内を、カイとピョロは歩いていた。

たった今出て来たばかりのフロアに背を向け、カイは溜息を吐いた。


「それにしたってひどくねえか?
俺はただ何か仕事があったら気軽にどうぞって、友好的に言ってるんだぞ。
なのに一言で『必要ありません』とかぬかしやがった」


 憤懣やるせないといった様子でカイは愚痴るが、ピョロは冷たい眼差しで対応する。


「お前の普段の態度が原因だぴょろ」

「女相手に媚びてちゃ男が廃るってもんよ」

「それで仕事が来ないんなら、本末転倒ぴょろ」

「うぐ・・・・最近言うようになったな、お前も」


 ピョロの言葉にげんなりした様子で、カイは通路内を歩き続ける。

マグノ海賊団クルー入りを拒否し、新しく仕事を開業した事を宣伝する自筆ポスター製作にカイは数時間かけて完成させた。

計百枚のポスターが出来上がったその時には、時刻は夜に差し掛かりつつあった。

消灯時間までに全部署を回っておこうと、カイとピョロは今も営業に勤しんでいる。

カイがこれから行う仕事は、マグノ海賊団が大切なお客となる。

毎日激務に追われる彼女達を手伝い、報酬をいただく事でカイの今後の生活を成り立たせる。

仕事依頼をしてもらう為には、自分が独立しどういう仕事をするかのアピールをしなければいけない。

その為、カイは各部署に顔を出している最中だった。

―――のだが成果は今一つ芳しくなかった。


「まだ警備クルーはポスターを貼るのは許可してくれたからましだぴょろ」

「・・・エステの連中なんて門前払いだったからな」


 持っているポスターをピラピラさせながら、カイは苦虫を噛み潰したような顔をする。

カイが製作したポスターは当然読まれなければ意味がない。

しかしながら、ただ無遠慮に壁に貼ればいいというものではない。

クルーの往来が活発な場所であり、人の目に付く目立つ場所に貼る必要があるからだ。

通路内はマグノの許可を得ているので自由に貼れるが、問題なのはセキュリティのある区域である。

部署やクル−の部屋のある区域はクルーの出入りが激しいエリアであり、宣伝にはもってこいの場所だ。

ただそうした場所にはセキュリティが設置されており、カイには近づく事は出来ない。

セキュリティを解除してもらうには、エリア内のクルー達の許可が必要となる。


「にしてもよ・・・」


 カイは少し考え込んだ顔で言った。


「あいつらって意外と複雑なんだな」

「?言っている意味がよく分からないぴょろ」

「連中の態度だよ、態度。
仕事場によって、俺への態度が違ってただろう」


 指摘されて、ピョロは気がついたように声を上げる。


「そういえば、警備チーフは話は聞いてくれたぴょろね。
エステは何にも聞いてくれなかったのに」

「警備のチーフとはちょっとあったからな。
考えてみれば、青髪が怪我した時以来だよ。あんなに話したのは」


 カイと警備チーフとの付き合いはあまりない。

お互いに顔を合わす時は幾度かあったが、その殆どがカイがトラブルを起こして連行される時である。

それ以外で話をしたのはカイが警備クル−見習いとなった時と、メイアが医療室へ担ぎこまれた時だった。

強気なチーフがメイアが重症を負った時に見せた弱々しさは、今でもカイは忘れられない。


「その点パイロットとは仲がいいみたいだぴょろね、旦那」


 ピョロの目が細まり、揶揄するように目線でカイを追う。

ピョロの嫌らしい視線に、カイはやや狼狽したように言った。


「い、一緒に戦っているんだから当然だろうが!」

「ディータ、仕事を一緒に手伝うって言ってたぴょろ〜」

「・・・・頼むから思い出させるな。
説得するのに必死だったんだから」


 ピョロのからかいに、カイが頭痛のする額を抑えた。















 宣伝活動を開始して、まず最初に向かったのがドレッド格納庫だった。

パイロットの職場はドレッド内であり、宇宙であり、戦場である。

船内での決まった持ち場がない戦場の女神達が主に集う場所がここ、ディータ・メイア・ジュラ機以外の全機保管されている格納庫だった。

自分がクルー入りを拒んだ事、独力で生きて戦う事を決めた事。

共に戦う事は殆どなかったが、それでもドレッドチームの面々にカイはきちんと話をしておきたかった。

カイが訪れた時、その場にいたパイロット達は一斉に驚いた顔をする。

それも当然で、カイが乗り出す蛮型は男側の区域に位置する主格納庫にある。

メイア・ジュラ・ディータ機と共に保管されているその場所とこことは何の繋がりもない。

カイが今までこのドレッド格納庫に訪れた事はなかった。

意外な沈着に目を丸くする中で、一人目を輝かせたのがその場にいたディータである。

カイのセキュリティ問題で訓練が中止されている為暇を持て余していたディータが、カイの来訪に飛びつくように喜んだ。

そんなディータと他のパイロット達に、カイは今までの事情と今後についてを話した。

話していくにつれて、パイロット達は驚きから戸惑いに、戸惑いから苦笑に変わる。

理由を聞けば聞くほど、カイらしく思えてきたからだ。


『一つ聞くけど、パイロットまで辞めるんじゃないのよね?』


 ディータと同じパイロット見習いの一人ミシェールが尋ねるのに対し、カイは頷く。


『当然だ。故郷を見捨てられないってのは俺も同感だからな。
あいつらは全員叩きのめす』

『なら良し。あんたにはリーダーを助けてもらった借りがあるからさ。
何か仕事があったら頼むわ、ね?』


 ミシェールが笑顔で問い掛けると、周りのパイロット達も一様に頷く。


『ポスター、何枚かお預かりします。
格納庫だけじゃなく、他の場所でも貼れる場所はありますから』

『風当たり強いとは思うけど頑張りなよ』

『クルー辞めてすぐに次に取り掛かれるカイの行動力がたまにすごいと思えてしまうわ』


 口々に、パイロットの皆が暖かい励ましの言葉をかける。

ウニ型撃退・身を呈しての味方救出・大規模艦隊の撃退。

数々の戦い振りと数度に渡っての救出ぶりは、カイへの信頼を成立させつつあった。

勿論男への不信は消えた訳ではなく、今だ確固として彼女達の頭に根付いている。

彼女達のカイへの認識は言ってみれば「タラークの男らしくない変わった奴」だった。

中には、そんな価値観を超えて全面の信頼を向ける者もいるにはいる。


『宇宙人さん、ディータお仕事手伝うよ!』

『馬鹿いえ。お前は海賊の一員だろう?自分の仕事をしろよ』

『じゃあディータも辞める。それなら一緒だよね』

『一緒だよね、じゃねえ!んな簡単に決めるな!』

『え〜!じゃあどうすれば一緒にお仕事出来るの?』

『戦う時、一緒じゃねえか。
そうでなくても、いつも人の部屋遊びに来るくせに』

『ディータは宇宙人さんと一緒にお仕事したいの』

『駄目ったら駄目。
おいお前ら、この能天気女になんか言ってやれ』

『頑張ってね、ディータ。カイをしっかり助けるんだよ』

『カイー、冷たくするのはひどいと思うぞ』

『そうですよ、ちゃんと愛情をもって接してあげてください』

『煽るな、お前ら!』















・・・・・















 弟一歩目から足止めを食ってしまい、ディータを説得するのに時間をかけすぎてしまった。

思い出せば出すほど、出て行く際にがっかりしていたディータの顔を思い出して、カイはきまりが悪そうな顔をする。

ディータの事は嫌いではないのだが、ああまで積極的に関わって来ようとするのはどうしてだろうか?

理由は分からないにしても、しょんぼりさせてしまった事には変わりはない。


「そんなに気になるなら連れて行けばよかったぴょろ」


 カイの内心を見透かしたのか、ピョロは巧みに突いてくる。

ピョロの鋭い指摘に、カイはぎょっとながら答えた。


「馬鹿いえ。俺はまがりなりにもあいつらの仲間入りを断ったんだぞ。
ここで赤髪に手伝わしたら、俺の言葉が軽くなっちまうだろう」


 頼ってばかりでは、いつまでも成長は出来ない。

タラークの酒場にいた頃より、遥か彼方の夢をずっと見るだけで燻っていた自分。

カイは今の自分の状態をいい機会だと思っている。

一人でどこまで頑張れるか、どこまで貫き通せるか。

限界は訪れるかもしれないが、第一歩から誰かの手を借りたくはなかった。


「それに、赤髪連れて周りの連中もいい顔しないだろう。
さっきの話に戻すけど、俺の事をちょっとは気にかけてくれる連中もいれば、心底嫌っている奴等もいる」


 カイの表情からは何の感情も見出せない。

自分を嫌っている存在が身近にいる。

一人や二人ではない、多人数だ。

自分を嫌っている連中に対し、逆にカイは決して嫌ってはいない。

その事実が何よりカイを辛くさせているのではないか?

ピョロはカイの心境を思いやり、気遣いの表情を浮かべる。


「元気出すぴょろ。パイロットの女達やレジの皆はカイを応援してたぴょろ」


 必死で励ましの材料を検索しながら、ピョロはカイに激励をかける。

ピョロの心遣いが伝わったのか、カイも明るい笑顔をピョロに向けた。


「だな。
それに、イベントクルーやクリーニングの連中もそう煙たがっているって感じでもねえ。
ま、どうにかなるだろう」


 数ある仕事場を回り、部署を巡る事でカイはマグノ海賊団全体が自分を反発している訳でもない事を知った。

一部の女達、幾つかの職場ぐるみで嫌われているようだ。

パイロット達やメインブリッジクルー等、仕事でも私生活でも顔を合わせている女達は比較的話せるようにはなっている。

問題なのは仕事でも私生活でも顔を合わせない女達。

エステや警備に代表される、ほぼ自分と無関係なクルー達がカイによからぬ感情を抱いている。

今日実際に話に行って、チーフやその職場の女達の反応でカイは思い知っていた。

気分が悪いのは事実だが、カイはどこかで納得していた。

そもそも初めて話したのは見習いでの時で、後は顔もあわせていない。

ましてや、カイは男なのだ。

どういう人間か分からず、まともに話していない男を信頼しろというのは無理な相談だ。

カイはそう考え、相手側がどのような対応を取っても平静に対処して来た。


「・・・・・・ふ〜ん・・・」

「んだよ?じっと見て」

「思っていたより落ち着いていると思ったぴょろ。
ちょっと前だったら、女が嫌な顔したら絶対突っ掛かっていたぴょろよ」


 言葉の内容はややカイには失礼だが、ピョロなりの賞賛が含まれている。

カイはちっと舌打ちし、それでも快活な表情でおどけて言う。


「相手はお客さんだからな。怒らしたら駄目だろう」

「・・・カイも物を考えられるようになったんだぴょろね」

「言うじゃねえか、こいつぅ〜」

「いたたたたたたっ!?痛いぴょろ、ぐりぐりはやめてぴょろ〜〜!」


 卵型のボディにカイが拳をぐりぐりさせると、ピョロは悲鳴を上げて泣き叫ぶ。

通路の真ん中であるにも関わらず、二人は無遠慮に騒ぐ。

そんな騒音に混じって、カツカツと小気味いい足音が近づく――


「カイさん!こちらにいらっしゃいましたか!」

「お?キッチンのチーフじゃねえか、ちょうどいい所に。
今お宅の職場にお邪魔しようと・・・・・」

「クルーを辞められたというのは本当ですか!」

「思っ・・・・・・え?」

「本当なんですね!」

「あ、その・・・」

「本当なんですね!!」 

「そ、そうだけど・・・ちょ、ちょっとどうしたんだ?」


 思いがけない剣幕に、カイはたじろいて一歩下がる。

突然出会ったかと思えば、大声で詰め寄られたのだから無理もない。

自分が興奮していることに気がついたのか、チーフは頬を赤らめて下を向いた。


「私とした事が・・・・
すいません、はしたない所をお見せしました」


「いや、別に気にしていないからいいけどよ。
一体どうしたんだ?様子が変だぞ」


 普段は上品で落ち着いた感じのあるキッチンチーフがここまで取り乱すのは珍しかった。

付き合いの浅いカイでも、今のチーフが普通ではない事には気づく。

カイの問いかけに、チーフは唇を噛む。


「カイさん、あの・・・・・」

「うん?」

「・・・・私の事は恨んでくれてかまいません。
・・・ですが、どうかお頭だけは恨まないであげていただけませんか」

「・・・は?」


 言っている事の意味が分からず、カイは目を白黒させた。

そんなカイに気づく事もなく、チーフは必死な顔で言葉を続ける。


「分かっております。
あれほどの事をしておいて許してもらおうなどと・・・虫が良すぎますね」

「い、いや、何を言って・・・」

「でも!」

「は、はい!?」


 チーフの勢いに押されて、つい反射的に聞き返してしまうカイ。

完全にチーフの雰囲気に飲まれていた。


「・・・お頭も苦渋の選択だったんです。
ああするしかなかったんです・・・・」

「お頭?ばあさんがどうしたって?」

「お頭は・・・・私の大切な部下さんや他の人達の事も考えて・・・・
カイさんの認証レベルを・・・私もそうするしか・・」

「え?え?」

「まさか辞められるなんて・・・・・・・・・
ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・ううぅ・・・・」


 清楚な顔を涙に濡らし、カイの胸元で泣き崩れるチーフ。

カイはただ困惑し、それでも彼女の背中を優しくさすった・・・・・























<続く>

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