VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 7 -Confidential relation-
Action9 −談判−
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正午に至るまでの午前中、朝早くからクルー達が懸命に仕事に励む。
消灯時間内で充分な睡眠を取った者が次々と自分の職場に就いて、スケジュールに沿った仕事を分担してこなすのである。
海賊を生業としているクルー達ではあるが、全員が全員共同生活を行っている身。
無駄な活動は一切なく、一人一人の仕事が仲間達全体の生活を支えているとも言えよう。
個人能力こそ一長一短はあるが、優秀な上司が職場を取り仕切る限り何の問題もなかった。
特に海賊団に集う人材は、母星メジェールを離れざるをえなかった難民やはぐれ者がほとんどの者達。
それゆえに職場を任される女性は厳選され、能力の高い者が任命されるがこそ各職場は安泰となるのである。
マグノ海賊団内での一日、所属するクルー達はどの時間帯もどの職場も忙しく働き回っていた。
任された仕事をこなし、皆が責任を持って日々を生きるために懸命になっている。
――と思われるが、実はそうでもない。
少なくとも、ここメインブリッジでは一生懸命という言葉があまりにもそぐわない雰囲気を醸し出していた。
「それでさ、カイったら本格的に閉め出されたみたいなのよ」
「昨夜も騒ぎを起こしたのはカイなんでしょう?懲りないわね・・・」
戦闘体制では自分の片腕となるコンソールに肘をついて、女性二人は楽しそうに話し合っている。
ベルヴェデールにアマローネ、センサーと艦内を網羅する役割を持っているクルーである。
緊急時や仕事に入ると優秀さを発揮する二人だったが、今この場では憩いの時を過ごしていた。
「整備の子達も朝から大変だったらしいわよ。
全エリアに最新鋭のシステムを導入して、セキュリティも敷いたみたい」
「ふ〜ん、徹底してるのね・・・・
あいつもこれで少しは大人しくなるのかな」
二人の話の話題に上っているのは、言わずと知れたカイの待遇改善である。
いや、本人からすれば改悪だろう。
女性達のいるあらゆる場所にセキュリティが搭載され、カイは女性達への行動を制限をされたのだ。
本来ならバートやドゥエロも対象者なのだが、彼ら二人は一クルーとして活動するに十分な認証レベルを与えられている。
加えて普段マグノ海賊団クルー達と積極的に歩み寄る事のない二人には、不便さすらも感じていない筈だ。
この現状はアマローネやベルヴェデールからすれば、カイ一人の為に導入された規則に見えている。
今頃行動抑制に嘆いているであろうカイを想像して、アマローネは不憫げにしていた。
そんなアマローネの口からぼそりと出た言葉に反応してか、ベルヴェデールは笑って手を振った。
「そんな訳ないって。
今頃きっと私達がいる船側へ闘志を燃やして行ってると思うわ。
あいつ、負けん気強いし」
ブリッジクル−見習として一時的に配属されたカイと仕事をしてもう一ヶ月以上になる。
少しずつ話せる間柄となって、一本気なカイの性質がベルヴェデールも少しずつ判るようになって来ていた。
ベルヴェデールの指摘に、アマローネもまた面白そうに笑う。
ただ、意地悪な色を浮かべた瞳を向けて――
「ふ〜ん、カイの事随分判ったような事言うじゃない、ベル」
「な、何よ!言っておくけど、カイには同情なんてしてないんだからね!
自業自得よ」
いきり立って言うベルヴェデールに、何かを感づいたのかアマローネは同情の眼差しをむけた。
「手料理作った時の事、まだ怒ってるのね・・・・・・無理もないか。
でもベル、あれはベルが悪いと思うわよ。
砂糖と塩の量を間違えるのは誰でも不味いと感じるわよ」
「しょ、しょうがないじゃない!ちょっと間違えちゃったんだから!」
鳥型襲撃事件で見事カイが敵を打ち倒した時、お祝いにとベルヴェデールとアマローネは料理を作った。
二人とも強制的な約束だったので最初は渋っていたものの、カイが皆を守って戦い抜いたのは事実なので作ってあげる事にしたのだ。
一品ずつ作る事になり、二人は完勝パーティ時にこっそりカイに食べさせてあげたのである。
アマローネが作ったのはチーズオムレツで、自分の得意料理であった。
カイは一口食べた後、喜色満面であっという間に平らげたのは作った本人もどこか小気味良かった。
問題なのはもう一人、ベルヴェデールの料理だった。
実は普段料理などしないベルヴェデールは何を作っていいか分からず、簡単な卵焼きに挑戦した。
初心者が選ぶ料理としては悪くはないのだが、問題は調味料である。
味の根本となる調味料の量は美味しさのバランスを担う重要なエッセンスなのだが、ベルヴェデールはその時塩と砂糖の量を間違えたのだ。
結果形は何とか整ったものの中身は強烈な塩辛さとなってしまい、カイは一口食べて舌が麻痺してしまった。
「あの時のカイの顔ったら傑作だったわね・・・・
『一生懸命作ったんだから食べなさい』ってベルに言われて、涙ながらに食べてたじゃない」
「う〜ん・・・ちょっと可哀想だったかな・・・」
「ちょっとどころじゃないと思うけど」
二人は顔を見合わせて、思い出し笑いを浮かべた。
見ているだけで楽しそうな二人の光景を前に、普段なら楽しそうに口添えをするエズラだが今回は様子が違った。
オペレーター席に座っているのは何時も通りなのだが――
「す〜・・・・・す〜・・・・」
首をこっくりとさせて、エズラは気持ち良さそうに熟睡をしている。
戦闘時においては鬼気迫る表情すら見せるエズラだが、平穏時においては彼女の出来る仕事は少ない。
クルー達と連絡を取り合う必要もない上に、概況は何事もない静けさである。
暇を持て余したエズラには、日頃のストレスもあってか眠りについているようだ。
最もエズラの場合は妊娠をしていると言う事もあるのだが――
アマローネ達の賑やかさにエズラの就寝。
メインブリッジの穏やかな様子をじっと目にして、艦長席の傍らに待機しているブザムが感想を一言コメントする。
「平和すぎるというのも考えものですね・・・・・
クルー達に緊張感が足りません」
職務怠慢とも取れる三人の様子を目に咎めたのか、やや不満げな表情でブザムが言う。
私生活から職務まで厳しいブザムからすれば、いざ何かあった時きちんと対応できるのか不安に思うのだろう。
目の前を見ていれば、いやがおうにも口に出さずにはいられないのかもしれない。
ブザムの独り言めいた言葉を耳にして、静かに座っていたマグノはちらりとブザムを見て口を開いた。
「不穏な言葉だね・・・・・・
あんた、いつから軍隊になり下がったんだい?」
見ているメインブリッジの光景は同じでも、マグノにとっては違う風景に見えるようだ。
ブザムが「緊張感のない怠惰な」クル−達と見るのなら、マグノは「明るく平和な」光景と見えるのだろう。
心情的な問題なのだが、ブザムは咎められているのだと察して反論する。
「しかし、クルーの志気がこれでは低下します」
対するマグノも負けてはいない。
「アタシ達の仕事は海賊だろう?海賊なりのやり方でいけばいいさね」
軍隊であるのなら日々鍛錬を怠らず、常に戦闘に入れる体制でいなければいけない。
それが職務であり、彼らに求められるプロ意識だからだ。
だが、海賊は違う。
確かに敵船へ襲撃をかけるという点こそ軍隊と変わりはしないが、その目的意識は全く違ってくるのだ。
生きるためという根本こそ変わりなきものの、戦いが主とする訳ではない。
目的の為に戦闘が必要となるのであり、目的にそぐわなければ回避も出来るのだ。
故郷へ向かうこの旅は戦いを避ける事は確かにできないが、戦いのみに目を奪われてはいけない。
マグノの深い視野を垣間見たブザムは、若干納得はいかないものの反論する材料もなかった。
そのまま黙して一礼し、マグノもまた何も言わずに首を振る。
その後アマローネとベルヴェデールの話し声も途絶え、メインブリッジ内は静寂に満たされる。
かといって仕事に専念しているかと思えばそうでもなく、やる事もない為にじっとしているに過ぎなかった。
現在進んでいる宙域には敵の姿もなければ、その気配もない。
何か惑星が見える訳でもなければ、特別な状態である訳でもない。
どこまでも果てしない宇宙空間のみであり、注意さえ怠らなければブリッジでは行うべき仕事もなかった。
艦内も何事もなく平和であり、対応すべき事柄は一切ない。
艦長のマグノも平穏な空気を満喫し、ゆったりと席に落ち着いたまま身体を休めていた。
が、その静寂も次の瞬間あっさりと破られた。
「・・・・・・・ぅらぁぁぁぁああ!
くそばばあ!!どこにいやがる!!!」
自動扉が開閉して、一人の人影が荒々しく入ってくる。
その声と剣幕に一同は驚いて出入り口付近を見るが、誰が入ってきたかは姿を見ずとも分かっていた。
お頭であるマグノにそこまで無礼な口の利き方が出来るのは、広い艦内でも一人しかいない。
「あんたね・・・・
ここにいるのが分かっているのに、どうして居場所を聞くんだい」
「うっさいわ!そんな些細な事はどうでもいいわい!
今度という今度はもう我慢できねえぞ、ばばあ!!」
カイの口の悪さをたしなめるマグノだったが、カイは聞く耳をもたない。
余程腹を立てているのか真っ直ぐにマグノの前へ足取り悪く歩いていき、正面から睨み付けた。
「それで?アタシに何が文句があるようだね」
「おおありだ!これは何だ、これは!」
カイがそう言って、艦長席に何かを力強く叩きつける。
マグノが訝しげな顔でカイの手元を見つめると、そこには昨晩渡したクルーの証となる一枚のカードがあった。
「これがどうかしたのかい?」
「どうかしたのかい、じゃねえ!このカード、何の意味もねえじゃねえか!!」
「おやおや、カードの情報が壊れていたのかね?」
「そういう意味じゃねえ!何で俺のレベルが0なんだよ!!
何にも出来ないじゃねえか!!」
朝から起きている環境の変化を思い出しながら、カイは文句の言葉を叩きつけた。
ようやくカイが何を怒っているのかに気づいたマグノは、悪戯をしている子供のような笑顔を浮かべて言った。
「それがお前さんの与えられる最大限の特権だよ」
「ふざけんな!殆ど何も出来ないじゃねえか!
エレベーターまで使用禁止になってるんだぞ!!
カフェからここまで来るまで階段を必死で走らなければいけない俺の気持ちがわかるのか、てめえ!!」
「汗でびっしょりなのはその為か・・・・」
艦長席の横で様子を見ていたブザムは、カイの全身に浮かんでいる汗に納得したように言う。
本当に走ってきたのか息もまだ落ち着いておらず、服も汗でびっしょりだった。
マグノはそんなカイに呆れ半分感心半分で返答する。
「朝から元気だね、お前さんは・・・・・
あの非常階段を往復して来たのかい」
「好きでやった訳じゃねえ!
お前のつけたセキュリティのせいだろうが!!」
「だけど、もう取り付けちまった後だからね。
いまさら文句を言われても対処が出来ないよ」
カイの剣幕にもまるで動じず、マグノは飄々と述べる。
何か援護しようとも考えたブザムだったが、その必要もない様子に気づき二人の様子をただ見守っていた。
カイはどう言っていいか少し悩んだものの、すぐに思いついて文句を口に出す。
「そもそも俺が0なのは何でだよ!
バートやドゥエロはあんなにレベルが高いのに!!」
聞いた時から疑問に思っていた事だった。
憎き男であるという理由なら、ドゥエロやバートに高レベルが与えられるのはおかしい。
かといって仕事の出来具合だと言うのなら、二人以上に働いている自信がカイにはあった。
聞くまで絶対に納得しないぞという態度を見せるカイに、マグノは躊躇う事もなく言う。
「昨日の夜、ちゃんと言ったじゃないか。
クルー達の意見を反映して、お前さん達にはそれぞれの度合いに担ったレベルを与えている、と。
つまり、お前さんへの皆の評価がその数値なのさ」
マグノの言葉に改めてショックを感じたかのように、身体をぐらつかせる。
セキュリティレベル0、つまりは女達のカイに対する評価も0という事なのだ。
「な、何でだよ!俺は今まで一生懸命頑張ったじゃねえか!!
この前の戦いも俺がいたから勝てたんだろう」
「だから、その点はちゃんと評価したじゃないか。
第一見返りを求めて戦ったのかい、お前さん?」
「う・・・そ、そういう訳じゃないけど・・・」
カイがあの時全力前進で戦えたのは、戦いに勝利した後の栄光でも何でもなかった。
あの時カイにはそんな欲に突っ張った考えなど微塵もない。
目の前の危機を何とかしたくて、機器に苦しむ周りをどうにかしたくて。
何より、死に逝く一人のパイロットを何としても助けたくて頑張ったのだ。
別に皆に認めてもらいたいわけでも、褒めてほしい訳でもない。
助けた事によりクルー達が自分をどう思うかなど、カイにはどうでもよかったのである。
マグノの切り返しにカイはひるんだが、気を取り直して話を続ける。
「じゃ、じゃあ0である事はいいとしよう。
別に誰かに認めてほしくて戦ってたわけじゃねえからな。
お前らがどう思おうが、俺はこれからも戦い続けるまでだ。
で、だ」
「まだ何かあるのかい?」
「当然だ!黒髪から話を聞いたぞ、てめえ!!」
「?黒髪?」
聞きなれない呼称に眉をひそめるマグノだったが、ブザムがすぐに補足した。
「バーネットの事です。
どうもカイは周りの人間を髪の色で呼称するようで・・・」
「なるほど、でもあの子の髪は純粋な黒じゃないよ」
「どうでもいいわ、そんな事!
それよりてめえが許可したらしいな、あの献立!」
「献立?・・・・・・・ああ!
ふふふ、バーネットの料理気に入ってくれたようだね」
「誰が気に入るか、馬鹿たれぇぇぇ!!!」
バーネットが新設して作ってくれた新しいカイ専用の献立メニューがこうだった。
『白御飯』『野菜サラダ』。
白米はメジェールでの料理には多数の献立に使用されており、メジェールに料理が発祥した頃から根強く今日まで結ぶついた調理材料である。
野菜サラダも同様で、調理を行う上で当たり前のように作られ続けている。
言ってみれば、この二品がある限り人間が最低限生きてはいける料理と言えた。
生きていくのに、最低限という意味で。
「でも、アタシが指示した訳じゃないよ。
あの子が提案したのをアタシが賛成しただけさね」
「反対しろよ、そこで!
何でカフェにはあんなメニューがあるのに、俺だけご飯と野菜だけなんだ!」
本来ならご飯も野菜にも縁がない身なのだが、カイはディータや他クルーに幾度となく料理をご馳走になっている。
ペレットよりも遥かに舌を唸らせる料理の数々に興味を持ったカイが、常に献立内容を聞いているのだ。
お陰で大体の素材知識が身につく結果となっていた。
逆にいえば、メジェールの料理を知ったからこその文句とも解釈できる。
カイの不平に、マグノは落ち着いた眼差しで答えた。
「それがお前さんの現状という訳さね。
バーネットが役目をかって出てくれたんだ、むしろ感謝するべきだと思うけどね」
「うーん、俺は料理はできないけどよ・・・・だからって!」
「立ち入り禁止になるよりはましだろう?」
「う、う−ん・・・・」
確かにもしバーネットが申し出なかったら、カイはカフェテリアで食事を取る事も出来なかった。
むしろセキュリティレベル0の身でご飯だけでも食べられる身の上になった事を、感謝しなければいけないのかもしれない。
そもそもの根本をさて置いて、カイは納得しかけてしまう。
そこへふとまだ言ってなかった事を思い出して、カイはマグノに詰め寄った。
「って、そうだ!まだてめえに言わなきゃいけない事があったんだ!」
「まだあるのかい?随分しつこいね、お前さんも」
疲れてきているのか、ややげんなりした様子でマグノは話を促した。
カイは持っていたカードをヒラヒラさせながら、声を荒げる。
「このカードには仕事の働きに見合ったポイントが加算されて、ポイント分だけの活用が出来る。
お前、昨日そう言ったよな?」
「ああ、説明したとおりさ」
カイが何をいいたいのか分からず、首を傾げながらとりあえず同意するマグノ。
「つまり、俺がパイロットとして功績を上げた分だけポイントがこのカードに支給される。
そのポイント分でお前らの施設を取り扱ったり、飯を食えたりするんだよな?」
「?そうだよ。何か問題でもあったのかい?」
「問題でもあったのかい、だあ〜?
お前の胸にでも聞いてみやがれ、こら」
「??何の事だかさっぱり分からないねえ・・・・」
本当にカイが何を言っているのか分からないのか、マグノは疑問符を浮かべて聞き返す。
その仕草をとぼけているのだと思ったカイは、カードを再び艦長席に叩きつけて言った。
「さっき白ご飯食おうとしたら、機械がエラーって出たんだよ。
表示内容を見たら、こうだ。
『このカードにはポイントがありません』
だとよ!
何か?俺はポイントまで0だって言うのか、ええ!!」
バーネットに事情を問いただした後、空腹に負けてカイは仕方がなく食事を取ろうとした。
白ご飯と野菜サラダという食生活に憤りを感じるが、仕方がなかったのだ。
が、その結果がこれである。
ポイントがなければ注文ができない。
すなわち、食事の一切が取れないのと同義である。
「正直に言おうぜ、ばあさん。
あんた実は俺をこの機に抹殺しようとか思ってるだろう」
「おかしいね・・・・お前さんのカードにはちゃんと加算したはずだよ」
カイの抗議は、マグノの心当たりのない話だった。
待遇こそ一番低い位置ではあるが、マグノはきちんとカイを評価はしている。
前回の戦闘で無事に生き残れたのがカイの奮戦によるものだとは、マグノが一番そう認識していた。
だからこそ、ポイントも充分以上の値を加算した筈だったのだ。
「しらばっくれるのもいいかげんにしろよ、こら!」
「ちょっと落ち着きな。BC!」
「了解。カイ、カードをかしてみろ。
情報をスキャンする」
ブザムに促されてカードを渡したカイは、そのままブザムがコンソールを立ち上げるのを見つめる。
もし何か不都合でもあったら、容赦なく文句をいってやるつもりだった。
そのまま作業に没頭する事数分、ブザムの優秀な解析能力によりすぐにスキャンは完了した。
「分かりました、お頭」
「ポイントはちゃんと加算はされていたのかい?」
「はい、ミスはありませんでした」
「ふざけんな!実際にポイントはないって・・・・」
「落ち着け、カイ。私は加算にミスはないと言ったんだ」
「?どういう事だよ?」
やや平静になってカイが尋ねると、神妙な顔でブザムが答えた。
マグノも興味があるのか、視線をブザムに向けている。
「今朝一番にお前のポイントを全て使っている人物が二人いる」
「なっ!?誰だ、その横取り野郎は!!
とっ捕まえて、ふんじばってやる」
ブザムの言葉にカイは怒りを露にするが、マグノは奇妙な顔をする。
「カイのポイントを他の誰かが使っているだって?
本人の許可なく使用するのは・・・・」
「ええ、規律違反です。ですが、
この二人によると、本人より許可はもらっているとあります」
「俺が許可を出している!?
誰だよ、そんな寝ぼけた事を抜かしている馬鹿は!!」
身を乗り出して尋ねるカイに、ブザムは真っ直ぐにカイを見つめて答えた。
「機関部のパルフェと、レジのガスコーニュだ。
理由にはこう書いている」
「あいつらが!?なんて書いてあるんだよ?」
予想もしない二人にカイが驚愕していると、ブザムは聞き覚えのないといった感じで答えた。
「『兵器開発の為』とある。
お前、何か心当たりはないのか?」
「兵器・・・・・・・・・・?
あ!『ホフヌング』か!?」
表情を一変させるカイに、マグノとブザムは顔を見合わせる。
「ほふ・・・ぬんぐ?」
「へへ・・・・それはひ・み・つ」
カイは今までの不機嫌さもどこへやら、上機嫌でそのまま颯爽と出て行こうとする。
訳も分からないままはぐらかされて、マグノはカイの背中を追ったまま話し掛けた。
「待ちな!それは一体何なんだい?」
「う〜ん、まあ簡単に言えば・・・・・」
カイは一度だけ振り返り、笑顔でこう言った。
「俺の新型兵器だ」
そのまま呆然とする二人を置いて、カイは軽い足取りでブリッジから出て行った。
<続く>
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