VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 7 -Confidential relation-






Action10 −新兵器−




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 融合戦艦ニル・ヴァーナ元旧艦区。

通称男の区域と呼ばれる領域内での朝は、元海賊母船側である女の区域とは違って静かであった。

無論派遣された海賊団クルー達が懸命に働いてはいるのだが、以前は男の船だったので女性達クル−が担当となる職場は少ない。

更に元来植民船であった為に大半の機能は未だ老朽化されて麻痺しており、掌握にてこずっているのが現状だった。

マグノやブザムも敵の脅威や故郷への長旅の深刻度も考慮してシステムの復旧に励んではいるのだが、まだまだ道は遠い。

現在時点で完全な形で機能している区画はというと、メインブリッジに厳重に管理されているペークシスプラズマを有した機関部。

そしてここ、主格納庫であった。


「整備の連中、随分気合入れて頑張ってるみたいじゃねえか」


「この前すごい規模の艦隊が責めて来た後だもん。
ジュラやディータもそうだけど、メイアのドレッドなんてコックピットがやられちゃってるからね・・・
次の敵襲に備えて、皆一生懸命頑張って直してるのよ」


 主格納庫内には、現在活気に満ち溢れている。

整備クル−・機関クルーの両メンバーが力を合わせてトレーラーに乗って縦横無尽に駆け回り、機体の整備に取り掛かっているのである。

ここ主格納庫は元々タラーク軍の兵器が格納されており、対メジェールへの切り札蛮型九十九式が管理されている場所でもあった。

ところが船を海賊達に強襲され、海賊船と融合した現在はたった四機の機体保管場所として扱われていた。

ペークシスプラズマの暴走に巻き込まれ変化した四つの改良型兵器。

火力重視のドレッド・ディータ機、速度重視のドレッドメイア機、防御重視のドレッドジュラ機。

そして、SP蛮型と名づけられて機能が大幅にヴァージョンアップしたカイ機である。

四機は現存するマグノ海賊団戦力において重要な役割を示しており、「刈り取り」作戦を展開する敵との戦いに無くてはならない機体だ。

しかし――

現在、主力となるその四機は目に見えて欠落や破損が目立っていた。

ディータ機は作戦展開中カイと距離を取る事を否定して、敵攻撃が集中する中心部にいたままでいた。

お陰で雨のように降り注ぐ敵のビームに晒されて、装甲が焼き焦げて彼方此方に損害を被ってしまった。

ジュラ機はと言うと、連携が成り立っていない攻防戦の最中先頭に立って戦っていた為に船体そのものに深いダメージを負っていた。

特に鳥型に奇襲された時の被害は大きく、完全たる防御装備の六割以上が大破して不能となっている。

メイア機の被害は、ジュラ機・ディータ機の比ではない。

瀕死の危機だった味方を庇って、鳥型の鋭利な嘴の餌食となったのである。

ヴァンドレッド・メイアに匹敵する加速力を持っての突進は、コックピットに至るまで破壊されてしまった。

残るカイ機も無事とはとても言えない。

メイアを倒された怒りと戸惑いに我を忘れて、独断専行で駆け抜けた際に敵からの無数の攻撃を受けてしまっている。

作戦展開時も一番危険な役割を自ら買って出て、総攻撃をかける艦隊の攻撃の真ん中で戦い抜いたのだ。

先の戦いはカイの作戦で見事なる大逆転をもたらしたが、その被害もまた大きかったのである。


「本人達はピンピンしているみたいだけど、機体はそうはいかねえか・・・・」


「機体だって人間と何も変わりはないよ。
攻撃されたら痛いし、怪我したら動けなくなるんだからね」


 機体の整備と修理に余念のないクルー達で賑わう主格納庫内において、主力兵器四機の前で二人の人間が立っていた。

一人はブリッジより息せき切って駆け込んできたカイ。

そしてもう一人は整備・機関部クルー達を指揮しているパルフェであった。

新兵器の開発についての情報を聞いたカイは、真っ先にここへとやって来たのである。

様子を見に来たカイを快く迎え入れたパルフェは、今こうしてカイと話し合っていた。


「お前らしい意見だな。俺の相棒の様子はどうだ?」


 カイの見上げる先に、これまで共に戦い抜いた相棒たるSP蛮型の姿がある。

じっと視線を凝らしてみると、胴体部分の上方と頭部が破損しているのがはっきりと見えた。


「全体的に傷が目立つけど、頭部の破損が厳しいかな・・・・
次の戦闘に差し支える程じゃないけど、この前みたいな規模の敵が攻めてきたらハンディとなるかもね」

「そうか・・・・・」


 カイは苦々しい表情で、自分の肩口と額を触る。

鳥型との攻防戦で深追いしすぎた為に、敵からの反撃を食らって損傷を受けてしまったのだ。

自分の無茶のせいで被害を一番受けているのは、まぎれもなく目の前の相棒だろう。

そう考えると、カイは居た堪れない気持ちになる。


「・・・しっかり直してやってくれ。こいつにはいつも迷惑かけてる」


 自分の夢を叶える為に故郷を飛び出して得た最初の味方であり、最初の相棒である。

命がけの戦いを行う時いつも付き合ってくれているのも相棒なら、瀕死の時に助けてくれるのも相棒だった。

カイはこれまでの戦いを振り返り、改めて目の前の機体に感謝と労いの気持ちで胸を満たされる。

精一杯の思いやりがこもったカイの言葉に、パルフェもまたにこやかに笑って答えた。


「大丈夫。この子があんたに似てしぶといから。
おいそれと壊れたりはしないし、あたしも最後まで面倒は見るよ」

「おいおい、俺に似てってひでえな。
俺はこう見えても繊細なんだぞ」

「そういう台詞は自分の性格と、これまでの戦い方を振り返ってから言ってよね」


 カイとパルフェは互いに言い合い、二人して笑みを交し合った。

目の前の機体を思う気持ち、二人の間には共通してその思いがある。

思いあればこそ二人は互いの共感を得て、進展した仲を保っていた。

こと機体の事に関するとプロであるパルフェは、カイにとっても良き相談相手なのだ。


「青髪のドレッドはどうなんだ?
あいつ無茶な事やったから、かなりぼろぼろになっただろう」

「う〜ん、敵が次に何時攻撃してくるかによると思う。
明日とか明後日に来られたら、ちょっと厳しいかな。
飛ばす事くらいは出来るとは思うけど、長時間の戦闘にはとても耐えられないよ」


 損傷率と復旧率を脳裏で素早く計算して、パルフェはカイに結論を述べる。

敵の襲撃は予測がつかず、いつどこで襲い掛かってくるか分からない。

その為に常に万全な体制を整えておかなければいけないのだが、それとは裏腹にメイア機のダメージは大きかった。

全速力でパルフェ達も整備と修理に掛かっているのだが、まだ数日間は出撃は不可能だろう。

カイは少し考えて、そっとパルフェに耳打ちする。


「お前、その事青髪には言うなよ」

「へ?どうして?」


 不思議そうに聞き返すパルフェに、カイは少し躊躇う素振りを見せて言った。


「もし敵が襲い掛かってきて、飛べるけど戦えないって言ってもあいつは納得しないだろう。
むしろ飛べるのなら出撃するって言って聞かねえぞ、あの馬鹿」


 メイアの怪我は重傷だったが、ドゥエロの治療とパルフェの献身的介護で無事に回復はした。

だがそれ以後まだ休息が必要であるにも関わらず、メイアは本来の業務に戻っている。

昨晩夜遅くまで仕事に励んでいるメイアの姿を思い出して、カイはげんなりとした顔をした。

自分の職務に熱心なのは結構な事だが、あそこまで徹底してやり遂げるべく頑張っている様子にはカイはどうにも閉口気味だった。

見ているだけで肩が凝りそうな真面目さなのだ。

カイの忠告を耳にして、パルフェは少し面白そうに口元を緩める。


「随分メイアと仲良くなったみたいだね」

「は!?俺とあいつが、か」


 寝耳に水といった表情で、カイはパルフェを見つめる。

パルフェは一つ大きく頷いて、光に反射する眼鏡を掛け直してカイに返答した。


「仲直りもしたみたいだしさ。
最近メイアと喧嘩したって言う話も聞かないよ」

「そういえば―――
あいつとはここ最近口喧嘩もしてないな・・・・」


 以前は顔をあわせるだけで険悪な雰囲気を作っていた二人だったが、先の戦い以後二人の衝突は急速に減ってきている。

意見の言い合いなどは今もあるが、同じ立場の同じ職場の同じパイロットとして話しており、対等だった。

昨晩でも女の区域に深夜に足を踏み入れたカイを、メイアは何も口にしたりはしなかった。

その時はあまり不思議にも思わなかったカイだが、パルフェの指摘で気づかされてしまう。

よく考えると、メイアの顔を見て疎ましい気持ちを感じる事はもうなくなってしまっている。

重傷を負って死にかけているメイアを見た時、心から死んで欲しくはないと思った。

嫌われても、憎まれても、何が何でも生きてほしいとは思った。

そして今メイアは生き、また日常へと戻っている。

友達どころか仲良くもなってはいないが、今の関係を悪くは思ってはいない。

カイは納得して、再びパルフェに向き直る。


「あいつとは諍いもあったけど嫌いじゃないからな・・・・
これから戦っていく上で一緒に戦わんといけない訳だから、ちっとは話とかしていくさ」

「うん、それがいいと思うよ。
この前の戦いも見たけど、カイも一緒じゃないとこの先厳しいと思うから」

「なかなかいい事言うじゃないか。ま、死なない程度には頑張るよ」


 カイの言葉に満足そうにパルフェは頷いた。


「他のメンバーもあんたの事、少しは受け入れているみたいだしね。
仲良くするのに越した事はないんじゃないかな」

「だろう?ま、少しは気にかけてやっても・・・・・・・・あ!」


 何か思い出したように、カイは顔色を変えて固まった。

いきなりの豹変に、パルフェはびっくりしたように尋ねる。


「ど、どうしたの!?顔色が悪いよ」


 心配そうに尋ねるパルフェを見て、カイは肩を落としてため息をついた。


「仲良くするどころか、俺は今あいつらに近づくのもご法度だったっけ・・・・」


 今日より導入されたセキュリティ制度は、あらゆる部署に設置され規則として結びついている。

ここ主格納庫は男側の区域なので自由に出入りは出来るが、エレベーター階下からはカイはほとんど自立的な行動が取れない。

現状の立場に改めてカイは溜め息を吐いていると、横からクスクス笑い声が聞こえてくる。

訝しげに視線を移すと、口元を抑えて笑いをこらえているパルフェがいた。


「こら!何笑ってやがる、お前!!」

「あははは、ごめんごめん。今朝お頭から通達があったことを思い出して、つい」

「通達?」


 耳慣れない言葉にカイは眉をひそめると、パルフェは快活に話を続ける。


「セキュリティの話。
ドクターや操舵手の彼、それにカイにそれぞれの認証レベルを与えたから対処してくれって。
カイが0なのにはびっくりはしたけどね」


 女性側であるが付き合いのあるパルフェにあっけらかんと言われると、カイは余計に肩が重くなるのを感じた。


「俺もこんなに女達に嫌われてたなんて知らなかったからびっくりしたよ。
初めはばあさんの冗談かと思ったけど、思いっきり連中セキュリティを受け入れているしな。
お陰でろくに行動も起こせねえよ」


 そのまま天井を仰ぎ見て、投げやりに言葉を胸の奥から解き放つカイ。

悩みと言う程でもないが、現状のまま今後も続くのかと思うとうんざりはしているようだ。


一方そんなカイの独白を聞いたパルフェは、興味津々に言った。


「それでこれからどうするの?」

「あん?何がだよ」

「勿論、あたし達への付き合いだよ。
皆に嫌われているから、もう関わろうとするのはやめる?」

「それは・・・・・」


 厳重なセキュリティが女性達からの信頼を物語っているなら、カイへの評価は出会った当初からほとんど変わっていない事になる。

カイ自身好かれようとして行動していた訳ではないが、パルフェからの問いには悩んでしまっていた。

女への興味はない、と言えば嘘になる。


自分の知らない対極の存在、自分とは違うもう一つの性別を持つ種族。

故郷では忌み嫌われ討伐せんと息巻いている同類ばかりで、好意的な解釈を持っている人間は誰一人としていない。

こんな風に女との関係で悩むのは、何も意味のない無駄な思考なのかもしれない。

関わるか、拒絶するか。

この二つの選択は、女達との問題が起きる度にカイが常に考えてしまう事だった。

好かれているというのならまだしも、自分は嫌われているのだ。

ならば、わざわざ積極的に関わりあう事もない。

何の義理もない、何の温情もない、何の縁も繋がりもない。

苦労してまで歩み寄る事に何の意味があるだろうか?

そう考えれば考えるほど、カイは複雑な思考の糸が内部で絡んでいくのを感じていた。

生きていてほしい――

メイアが死に逝く時に心から焦がれたカイの願いだった。

死んでほしくはない、自分はメイアを決して嫌いではないのだから。

そう気づいた時心の奥底から晴れ渡っていくあの感覚は今でも忘れていない。

なのだが・・・・

戦いにおいて大胆な作戦を苦もなく結構できる決断力のあるカイだが、女性問題に関してはいつも明快な結論が出なかった。

嫌いではない、それは本当だ。

じゃあ好きなのか?

この先がどうしても声にも心の内にも、答えという姿を持って現れてくれなかった。

だからいつも悩んでしまう、考えてしまう。


「う〜ん・・・・・・」


 難しい顔をして黙り込んでしまうカイを、パルフェは好ましい顔で黙って見つめていた。

口をはさんでいい問題ではない。

カイが何に悩んでいるかは分かるが、口を挟める程浅い悩みでもないだろう。

パルフェはそう考えて、カイが悩むのに何も忠告もしなかった。

むしろ女との関係に真剣に考えるカイに、パルフェは今後の自分達と男達との関係の先が見出せような予感がしていた。

その数十秒両者の間には沈黙のみが漂っていたが、やがてカイが口を開く。


「俺さ・・・やっぱあいつらには嫌われてるんだよな・・・」

「う〜ん、どうだろう?あたし、そういうことには鈍いから」


 申し訳ないとばかりに困り顔で言うパルフェに、カイは苦笑して首を振る。


「別にいいって。
昨日の今日だから、セキュリティに関しては少なくとも文句は言えないからな」

「その事だけどさ。
あんたのセキュリティ、お頭はもしかしたら・・・・・」

「え?」


 何やら考え込んでいるパルフェに、カイは興味を引かれて耳を傾ける。

パルフェもそんなカイを仰ぎ見て、口を開いて―――


「主任!主任っ!!」

「っと、ちょっとごめんね・・・・」


 パルフェと同じツナギ姿で駆け込んでくる一人のクルーに、パルフェはカイに平謝りした後に近づく。

クルーはカイをちらりと見て、その後パルフェに話し掛けた。


「整備と修理の方は予定通り工程は進んでいます。ただ・・・・・」

「他に何か問題でもあった?」


 言い淀むクルーに優しく尋ねかけるパルフェに、クルーはもう一度カイに視線を向ける。

気づいたカイは目をぱちくりさせた。


「?何だ。もしかして、俺の機体に問題あるのか?」

「いえ、その・・・・・・
開発しているヴァンガードの新型兵器が第一次工程完了しましたので、今後の指示を頂きたいのですが」


 男のカイに少々の怯えを見せるクルーに構わずに、カイははっと表情を一変させた。


「新型兵器、順調に進んでいるのか!?」


「え、ええ・・・・
まだエネルギー効率が不十分なのと、『あれ』の進化が芳しくありません」

「『あれ』は調整が厄介だもんね・・・・
じゃああたしが後で見に行くから、第二工程の下準備に取り掛かって」

「はい、分かりました」


 指示を受けて敬礼するクルーに、カイは横から声をかける。


「悪いな、仕事忙しいのに手間かけさせて。
お前らだって自分の仕事があるのに」

「・・・・主任の命令ですから。
それに・・・・」

「ん?」


 聞き返すカイに、クルーは初めて小さな微笑みを見せていった。


「その・・・・面白い発想だと思いました。
今まで何度か開発に携わってきましたけど、あんな突拍子もない兵器は初めてです・・・・」


 クル−の素直な感想に、パルフェの声が重なる。


「あたしもカイに相談された時はびっくりしたもん。
まさか『あれ』を利用するとは思わなかったわ・・・・
確かに理論的には可能だけど、どう思いついたの?」

「思いついたきっかけは・・・ん?」


 そこでふとカイが気づいて周りを見ると、作業に取り掛かっていたクルーの殆どがカイを見ていた。

どうやら同じく新型兵器に携わっている者達なのだろう。

瞳から純粋な好奇心を光らせているのが見えて、カイは苦笑いを浮かべつつ言った。


「え〜とだな、あれはそもそもペイントガンを見て思いついたんだ」

「ペイント・・・・ガン?」


 パルフェが珍しくきょとんとした顔をすると、反応が面白かったのかカイはにっと笑って続けた。

「あの能天気が持ってたんだ。それを見てぱっと閃いたんだよ。
ペイントガンの特徴である・・・・・」


 カイが興味津々な周りに聞こえるように説明していると、突然天井から声が降り注ぐ。



『ドレッド並びヴァンガード、各パイロットに連絡します。
ミーティングを行うので、至急シュミレーションルームへ集合してください。
繰り返します・・・・・』



「シュミレーションルーム?何するつもりだ、一体」


 全域に広がる艦内放送に、カイは説明を止めて首を傾げた。

そんなカイの疑問に、答えられる者は誰一人としていなかった。

























<続く>

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