とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 百九話
出来れば話をもう少し聞きたかったが、残念ながら面会はここまでとなった。
御婦人の身体を思えば、今日一日の観光だって相当無理をしたのだろう。俺に事情を打ち明けて、安心したように眠りについた。
あまり他人には関心を持たない俺でも少しは心配したのだが、単純に疲労のようだ。休めば少なくとも体力は回復するとのことなので、養生してもらう事にした。
見送ってくれるとのことで、フィリスが地下駐車場までついてきてくれた。
「私の口から事情を打ち明けられなくてごめんなさい、良介さん」
「いやまあ、お前は医者なんだし、患者のことをみだりに口にできないだろう。そのくらいは分かっているさ」
患者のことは場合によっては家族が相手でも慎重に取り扱わなければならないのだと、素人ながらに分かっているつもりだ。
まして俺なんてフィアッセの友人知人でしかなく、赤の他人に等しい俺に迂闊に打ち明けられないのは当然である。
そういった意味ではむしろ本人から打ち明けられた事自体異常事態であり、前向きに捉えれば信頼されたのだと考えられる。
フィアッセが恐縮する必要はないので、俺は軽く首を振った。
「良介さんのことは私も信頼しています。
ティオレさんの事はフィアッセ本人にも秘密にして下さるのでしょう」
「あいつに話せば精神的にヤバくなることは分かっているからな。
ただコンサートのスケジュールによると、日本をはじめに世界各国でツアーするんだろう。
重病の身で世界中を飛び回れるのか」
理念はすごく立派だと思うし、今行わなければ次はないことは彼女の疲弊ぶりを見れば分かる。
ただ同時にそれほど身体が危ないのであれば、世界コンサートツアーなんて出たら身が持たないのではないだろうか。
まあそれを加味した上でフィリスを含めた医療団をこうして結成し、彼女の身体を支える役目を果たしているんだろうけど。
当然だが俺の心配なんぞ、医者のフィリスからすれば当然の懸念だった。
「我々も全力を尽くすつもりですし、アルバート議員を含めた各関係者からのご支援もお約束頂いております。
今のところ今日良介さんがお時間過ごされた通り、医療管理とスケジュールの徹底を行えば、コンサートを行うことは可能です。
ただ今後となりますと余談を許さないのは確かです。
そこで良介さんにご相談があります」
「……嫌な予感がするけど、続きをどうぞ」
「良介さんの"事情"を考慮してご相談いたしますと、ティオレさんの現状を見ていかがでしょうか」
――俺の法術、ミッドチルダの魔法、ジェイル・スカリエッティの研究、ユーリの生命操作、エルトリアのナノマシン技術。
地球上にはない知識と技術、各方面の人脈を加味した上で、フィリスは願い出ている。
まず前もって言っておくと、フィリスは決してこんな安易な願い事をするような女ではない。
彼女は医者であり、生と死を見続けて立ち向かっている。不治の病に対して神様に懇願するような人間ではない。
ただティオレ御婦人の場合、事情が複雑過ぎる。単純に家族同然のフィアッセの母というだけではなく、HGSやチャイニーズマフィア、政治まで絡んでいる。
テロ事件も勃発しているし、今後も修羅場がほぼ確実に待っている。だからこそ将来的な悲劇を防ぐべく、彼女は俺に相談を持ちかけている。
正気に言おうと、俺も迷ってはいる。
(どうしたもんか……判断に悩むな)
法術は真っ先に考えて、真っ先にやめた。発動条件が未だにわからんし、制御不能すぎて重病患者に使えない。
そもそも法術が使えるのであれば、同じく死に瀕しているアミティエ夫妻の為に使用している。使えないから困っているのだ。
アリサやユーリ達に使えたのは結果論になってしまうが、俺にとって大事な人間になるからこそ発動できた。法術には想いが必要だという話だしな。
こういってしまうと大変申し訳無いが、ティオレ御婦人にそこまでの思い入れはない。
今日話した限り好印象は持っているし、立派な人だとは思う。仕事を抜きにしても、護衛するに値する人物ではある。フィアッセの母親だしな。
ただ法術が発動するほどかと言われると、多分そこまでではない。少なくとも一度成仏したアリサを蘇らせるほどの奇跡は絶対起こせない。
ユーリ達だって闇の書の中から誕生させただけで、別に死に瀕していたわけじゃない。交渉したシュテルの補助もあって、何とかなったのだ。
ナハトヴァールは思いっきり俺の影響を受けているしな。
(ジェイル達は今アミティエ夫妻に集中させているしな……これ以上頼むのはウーノに怒鳴られるだろうな。
それにコンサートツアーに出るから、異世界の医療機関に入院させられない)
ティオレ御婦人の場合厄介なのは、治療に集中できないという点にある。
本人は重病だと分かっていても、コンサートを成功させるべく鞭を打って舞台に立とうとしている。
治療に集中できない以上、ジェイルを医療団に入れるくらいしか出来ないが、俺の紹介で入れるものでもないし、あいつはアミティエ夫妻の治療に集中させたい。
流石に放置したら、キリエやアミティエに文句言われるからな。うーん、どうしたものか。
「分かった、じゃあこうしよう。どうせコンサートに招待されたから、俺の家族を呼ぶつもりだ。
その中に治療を心得ている者がいるから、そいつに一度見てもらうことにする。
俺の関係者とはいえ部外者同然だから、お前の口利きを頼みたい。勿論変なことは絶対しないし、不自然に思われない程度に気を使うつもりだ」
「医療団への配慮は私に任せてください。ありがとうございます、良介さん!」
「あまり期待するなよ、あくまで診てもらうだけだからな!?」
治療魔法を使えるシャマルを呼びたいがあいつはエルトリア開拓で無理だから、養女のユーリやイリスにとりあえず診てもらうしかない。
幸いにもHGS関連はティオレ御婦人も知っているし、シルバーレイの存在もあるから、魔法を超能力だと言って誤魔化すことは出来るだろう。
感知は絶対ムリだろうけど、生命力の供給であればどうにかなるかもしれない。ただ惑星とは違うので、迂闊なエネルギーの供給は慎重に行う必要があるだろう。
まあその点はユーリヤイリスの方が分かっているだろうから、相談してみよう。
<続く>
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