とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 百九話
その後何事もなかったかのように、ティオレ・クリステラ婦人は帰国された。この点については正直ホッとした。
ティオレ婦人の病状については衝撃的ではあったが、高齢であることを考えれば悲劇的と必ずしも言い難いかもしれない。
どれほど長生きしても人間いつかは死ぬんだし、どうにもならない時は必ず来る。冷たい物言いかもしれないが、彼女の場合それが今だということだ。
そんな俺の心境を見通している訳はないと思うが、追加報酬の連絡が入った。今回の護衛に対するお礼らしい。
『護衛契約の延長のつもりだったんだが……』
『此度の来日を、依頼主はことのほかお喜びでした。貴方なら大切な娘を任せられると仰られています。
今後とも宜しくお願いいたします』
……勘繰り過ぎだと思うのだが、もしかして口止め料も含まれているのではないだろうか。
エリスの口振りから全くそういう空気はないのだが、善意を疑ってしまいたくなるのは俺の性格が悪いからと思いたい。
疑いつつも別に言いふらすつもりはないし、受け取らない理由も特にないので、ありがたく頂いておいた。観光していただけで報酬をもらえたのであれば御の字というべきか。
とりあえずティオレ御婦人の来日で色々な話を聞けたので、今後についてうちの陣営で話し合うことにした。
「やはり御婦人は体調を崩されておいでだったか」
「えっ、分かっていたのかディアーチェ」
「無論だ、父よ。父もお分かりであったと思うが、時折疲労の影を覗かせていた。
周囲には気付かれぬように振る舞っておいでだったので、我も休息を促したりと気を使ったのだ」
洋服の買い物等といったディアーチェの趣味ではない行動でも文句も言わず付き合っていたのは、任務であるのと同時にティオレ御婦人を気遣っていたからか。
少し驚いたが、ディアーチェは歴戦の戦士だ。相手側の状態を把握できないようでは一流とはいえない。王としての気質も合わさって、観察眼も相当優れているのだろう。
そう考えると同行していた面々の中で気付かなかったのは、俺とフィアッセくらいかもしれない。ちょっと情けない気がするが、その分ティオレ御婦人の演技が優れていたのだと言い訳しておきたい。
ティオレ御婦人の事は口止めされてはいるが、事情を知らないといざという時に動けないので、口の固い身内には話しておいた。ディアーチェ達は余計な事は絶対に言わない信頼はある。
「日本での初公演はいいとして、世界ツアーとなればいずれ必ず発覚するわよ。あんたは海外まで同行しないんでしょう。
海外の地で発覚した場合、フィアッセさんのフォローができなくなるけど、その点はどうするのよ」
「フィリスが医療団として同行するのと、アイリーンとヴァイオラが歌姫として出演するから、あいつらにフォローしてもらうよ。
どうしたって避けられないから、気を強く持ってもらうしかないな」
アリサの懸念はもっともだし、フィアッセの精神が不安定になれば暴走する危険性はあるが、俺も一人の人間として限界がある。
俺が同行すればいい話かもしれないが、夜の一族との約束を破る事になるので、今度はアイツラが暴走する可能性がある。少なくとももう俺への支援や補助はしてくれないだろう。
そもそも俺もマフィアに狙われているので、海外まで同行するのはフィアッセ達のリスクを高めるだけだ。フィアッセの安全を考えれば、むしろ俺は日本にいたほうがいい。
正直同行をせがまれそうではあるが、その点は俺も狙われていることを理由に説得するしかないな。
「そもそもフィアッセが今安定していない理由の大半は、マフィア連中がフィアッセやフィアッセの身内を狙っているのが原因だからな。
この際日本での公演で狙ってくるであろう連中を俺達で叩き潰して、壊滅的な被害を与えてやろう。
主犯格を全員ぶちのめしたら、後は世界各国が徹底的に追い詰めてボコボコにしてくれるだろう」
「父の言う通りだ。民の安全を脅かすテロリスト達を、我等の手で一層してくれようぞ」
「あくまで警察関係に任せることを前提に、あたし達は護衛として動くだけだからね。率先して過激な行動に出ないようにしなさいよ、戦闘民族達」
戦力を整理してみる。
今俺の仲間は大半が聖地やエルトリアに出向しており、日本へ帰還しているのは一部のみ。俺やアリサを除けばディアーチェ、オットーとディード、月村すずか。
コンサートはうちの家族を招待してくれることになったので、シュテルにレヴィ、ユーリにナハトヴァール、イリスが一時帰還予定。
俺達が不在となる為、現地には冥王イクスヴェリアやリーゼアリアが残ってくれる。シグナム達も引き続き活動してくれるので問題ないだろう。
「家族を呼ぶのであれば、ヴィヴィオも連れてきなさいよ。
あの子、小さいながらにずっとあんたやディアーチェの不在をカバーしてくれているんでしょう」
「むっ、仕方のない奴め。聖女カリム様に留守をお願いしてみるか」
「戦力がいるってんなら、ミヤちゃんも呼んであげたらいいんじゃないの。あの子、ずっと聖地でボランティア活動しているんでしょう」
「もう半年くらいずっとやってるもんな、あいつ……デバイスのくせにはやての元から離れて、自由活動し過ぎだろう」
以前、と言うか今でも俺は魔法とか自由自在に扱えない分、ミヤがユニゾンデバイスとしてずっと手助けしてくれていた。
戦乱を終えて荒れ果てた聖地を憂いて、あいつは白旗として現地に残って活動を続けていた。それからずっとあっていなかったので、懐かしく感じる。
あいつの代わりというわけではないが、アギトが俺のデバイスとして助けてくれたのもあって、ミヤのやりたいようにやらせていたのだ。
かつての相棒とも言える存在を聞いて、なんだか懐かしくなった。
「小うるさい奴らだけど、久しぶりだし呼んでやるか」
「じゃあ早速手配しておくわね」
ヴィヴィオにミヤ、自分の遺伝子を継いでいる娘とかつての戦友。
懐かしむほどの期間でもないし、ほぼ間違いなく元気に生きているんだろうけど、決戦を前に第二の故郷とも言える海鳴で再会するのは悪くないかもしれない。
こうして久しぶりに、自分の家族を集結させることにした。
<続く>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.