とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 百十一話



 チャリティーコンサートの開催が正式に発表された。

日本で起きた爆破テロ事件以後、世界は不穏と不安な気配に包まれていたが、そうした空気を吹き飛ばすビックニュースとなった。

俺本人は開催前から深く関わっていた為、世間の熱狂に加われないのは残念だったかもしれない。


こうしたお祭りはやはりサプライズだからこそ盛り上がるものだからな。


「お前の顔と名前がついに世に出てしまったな、大丈夫なのか」

「リョウスケの言う通り、今回の決断は一長一短あるから紛糾したよ。
パパとママ、ソングスクール関係の皆さんとも話し合って、結局発表することになったの。
もう犯人側にも私の情報は伝わっているからって」

「確かに少なくともマフィア連中はお前のことは確実に把握されているからな」


 ティオレ・クリステラとフィアッセ・クリステラ、正規の歌姫と愛娘の共演は特に大きな話題となっている。

恋愛脳な女だが、見た目だけはモデル並の美女だ。人目を惹きつける柔和な美貌は、話題性を大いに高める要素となっていた。

確かにこれほど注目を集めれば、逆に犯人たちも狙いづらいかもしれない。話題性が高まれば常に人の目があるし、警護を立てる理由にもなる。


まあ当の本人は今も、うちのマンションの部屋でのんびり過ごしているんだけど。


「クリステラソングスクール代表のコンサート発表も見たよ。本当に全世界を回るんだな」

「……やっぱりリョウスケも一緒に来れないかな」

「お前と地球一周するなんて目眩がする。親子水入らずでやってくれ」

「みんな一緒だから水入らずというわけじゃないんだけど」

「じゃあ俺まで一緒に行く必要がないだろう、断る」


「うう、寂しい、寂しいよー」

「いい大人がべそをかくな!?」


 発表によると、今回企画された全国ツアーは全世界の国々を巡ってチャリティーコンサートを開くらしい。全世界とかすごい規模だ。

自分の好きなこととはいえ、世界中を回るとなると凄まじい体力と気力、そして精神力が必要となるだろう。

ティオレ御婦人は重病の身の筈だが、よくそこまで決意できたものだ。俺も余生あと僅かだとわかれば、世界中を回って剣の試合をするとか出来ないだろう。


蝋燭の最後の火と聞くと不謹慎かもしれないが、それほど燃え上がっているかもしれない。


「チケットも既に完売ラッシュなんだろう、お前のファンが世界中で待っているぞ。男漁りでもしてこい」

「ファンの人達は大事だけど、やっぱり私は身近にいる素敵な人がいいかな」

「ふっ、俺も世界を狙えるイイ男ということか」


「うーん、良介の魅力は私だけがわかっていればいいかな」

「お前にしか分からないのかよ!?」


 チャリティーコンサートのチケットの予約は既に英国では始まっており、じきに日本の公演分も発売されるらしい。

英国では発売開始した瞬間に完売したとか、ネット上では予約に対する予約が始まっているとか、世界中で苛烈なチケット戦争が起きているようだ。

金を払って音楽を聞きに行く酔狂さを今となっては否定しないが、さりとて席の奪い合いにまで参加する気概はなかった。


多分フィアッセを客として応援する事になっても、そこまでの熱意はわかないだろう。


「お前の母ちゃん、近年は後進の育成に力を注いでいたらしいな」

「うん、だからこそ"世紀の歌姫"復活にみんな喜んでくれている!」

「全世界規模で派手にやるんだから、最後のツアーだと思うだろうし無理もないな」


 俺も世間の評判を聞いて知ったが、ティオレ・クリステラは世紀の歌姫と呼ばれるほどの人物らしい。

最近は若手の育成に力を注いでいて、クリステラソングスクールを運営していた。だからこそ現役で歌う機会はもうないと思われていたのだろう。

そこへ来て全世界ツアー開催となれば、お祭り騒ぎになるのは無理もない。既存のファンに加えて、話題性も高まって新しいファンを次々と生み出しているに違いない。


まして世紀の歌姫の娘として、フィアッセ・クリステラが表舞台に立つのだ。誰も皆その美貌と歌声に虜になるに違いない。


「お前に注目が集まりまくってるけど、肝心の曲は大丈夫なのか」

「う、うん、まだ出来上がっていないけど……ママの話を聞いて、自分なりに感じるものがあったの。
まだうまく形に出来ないけど、自分自身の想いを伝えられそうなんだ」


 俺への気持ちとか、ラスソングとかのたまっていた頃に比べて、フィアッセの表情は静かだけど眩しい。

俺は先程ティオレ御婦人のコンサートツアーを蝋燭の最後の火と表現したが、フィアッセより感じる熱もそれに近い。

燃え上がっていないけど、静かに深く熱を灯している。蝋燭という表現が、今のフィアッセに適している気がした。


母ちゃんの苦労話を聞いて何を感じたのか俺には分からんが、受け止め方は人それぞれだ。


「一線級で活躍しているクリスマス・ソングスクール卒業生の有志達も参加するらしいけど、これって現役の歌姫の事だろう」

「うん、アイリーンも入っているよ。リョウスケでも知っている人ばかりじゃないかな」

「俺でもってなかなか言うなお前……まあ芸能人とかあんまり知らないのは事実だけど」


 夜の一族の一人で俺の婚約者となっているヴァイオラも、新人ながらツアーの一員に加わっている。

全公演出演なのかどうか分からないが、少なくとも日本には来るらしい。本人から先日連絡があった。

話す時間はなかったが、選ばれたのが嬉しいのか、日本へ来る事自体が喜ばしいのか、一報ですぐ入ってきた。


有名人が次々と日本入りしてくる。


「近年最高、最大の音楽イベントになるだろうな」

「初回の海鳴公演の特等席、リョウスケのご家族の分も含めて全部準備したからね。絶対見に来てね!」


 俺は護衛側だから楽しめる余裕があるかどうかはわからないけどな……

ユーリ達にも連絡を入れたので、間もなく帰郷してくる。関係者一同が勢揃いする中で、世界最高の音楽祭が始まる。

コンサートを潰すのであれば、間違いなくこの日本公演だろう。ここで台無しにすれば、世界になんぞ羽ばたけなくなるからな。


今まで戦争にまで発展した戦いはあったが、世界規模での祭りとなれば別だ。これまでにない集団戦となるかもしれない。














<続く>








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