とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 百十二話
                              
                                
氏名:イリス
 公式罪状:テロリズム幇助
 犯罪行為:テロリズム幇助・公共施設破壊・その他多数
 犯罪者ID:GG-X-25494-A165642137498-01
 判決:拘留・厳重監視・技術封印処置・ミッドチルダ追放
 判決備考:監視及び追放年数は再教育の状況による
 保護責任者:宮本良介
 
 
 
 うちの家族の中でイリスだけ扱いがややこしいというか、行動が制限されている。
 
 イリスが起こしたテロ事件は黒幕が別にいて、主犯はイリスではない。けれど半ば洗脳されていたとはいえ、本人には動機があり実行犯でもある。
 
 処置はかなり揉めたのだが、レジアス中将やカリーナお嬢様としても管理局や聖王教会側にも失態が大きかった事件を長引かせるつもりはなく、黒幕を徹底的に断罪する形で動いた。
 
 実行犯であるイリスを矢面に立たせてしまうと、彼女と戦ったことで痛手を負った組織側の失態も明るみに出てしまうので、彼らとしても表沙汰には出来ない。
 
 
 各方面のそうした政治的事情がプラスに働いて、イリスは惑星エルトリアに追放された。
 
 
 「あんたから離れないようにしつこく注意されたわ。全く鬱陶しい」
 
 「そりゃそうだろう、追放されてから一年も経過していないからな。
 まあ判決はあくまで『ミッドチルダ追放』だから、天の国とされている地球に来る事自体は処分に逆らっている訳じゃない」
 
 「……なんか詭弁に聞こえるんだけど」
 
 「お前の扱いはそれくらいデリケートなんだよ」
 
 
 黒幕であり事件の主犯であるフィル・マクスウェルは俺達がとっ捕まえて、レジアス中将に引き渡している。
 
 取引相手だった彼は時空管理局地上本部の権威と正義を示すべく、ミッドチルダや聖地に乱を起こしたマクスウェルを徹底的に叩き、事件解決の実績を世に知らしめた。
 
 一方で高度な技術を持って時空管理局や聖王教会を撹乱したイリスの存在は危険視しつつも、洗脳された経緯と俺との関係を考慮して、人の目につかない処分で済ませたのである。
 
 
 向こうからすればエルトリアにいようが、地球にいようが、ミッドチルダに全く関係のない世界で大人しくしていればどうでもいいのだろう。勿論所在はハッキリさせておかなければいけないが。
 
 
 「何だかよく分からないけど、家族が招待されているんでしょう。ユーリたちと家族水入らずで過ごせばいいじゃない」
 
 「何を言っているんだ。お前だって大切な家族じゃないか」
 
 「あんた……」
 
 「イリス……」
 
 
 「そんな事を真顔で言って、恥ずかしくないの?」
 
 「こういうのはノリでないと言えないの」
 
 
 照れの一つでも見せてくれれば可愛げもあるが、イリスは呆れた顔で指摘してくる。
 
 養子に迎えて一年経過していない娘の反応はこんなものである。事件時の敵意や殺意は最早跡形もないが、さりとて感情が急に反転したりしない。
 
 少女漫画は読んだことはないが、難関を越えた人間関係は普通発展していくものではないだろうか。家族になるというのはなかなか難しい。
 
 
 かつて父同然に慕っていたマクスウェルは現在第17無人世界のラブソウルム軌道拘置所に収監されている。少なくとも彼には最早二度と会いたくもないらしいが。
 
 
 「そもそも何? チャリティーコンサートだっけ、音楽とか全然興味ないんだけど」
 
 「俺も実はさほど関心はないんだけど、世界的規模で盛り上がっている演奏会なんだぞ」
 
 「あんたがそれに関わっているということは、またなんか事件とかに巻き込まれているんでしょう」
 
 「ぐっ、新参者のくせに鋭い」
 
 
 エルトリアから地球へ来る道中である程度事情は聞いているそうだが、ここまで断定されてしまうのはなんか心外である。
 
 イリスがチャリティーコンサートを嫌がっているのはチャリティー目的という善意が肌に合わないのと、服装をめかしこまれたからだろう。
 
 普段の実用的な服装とは違って、地球へ来たイリスは女の子らしい服装。エルトリアに残ったイクスヴェリアの見立てなのか、随分可愛らしい服で着飾っている。
 
 
 チャリティーコンサートでは招待客として、ドレスを用意させられたそうだ。だからこそ、本人もこんなに嫌そうな顔をしている。
 
 
 「ハァ、まあいいわ。それと聖典の復旧、目処が立ったから」
 
 「おっ、進めてくれていたんだな」
 
 「あんたの事だから忘れてたかと思っていたけど、ちゃんと覚えていたなら作業した甲斐があったわね」
 
 「アリサがきちんと指摘してくれたからな」
 
 「つまり忘れてたんじゃない!?」
 
 
 ジュエルシード事件から随分長くかかってしまったが、法術に関する手掛かりをようやく掴めそうだった。
 
 俺の法術は他人の願いを叶える能力があり、制御は不可能。他人の想いにより発動されるらしいが、発動のトリガーは分かっていない。
 
 自分の願いは一切叶えられないので、法術については未だにほぼ何も分かっていない。
 
 
 アリサやユーリ達、プレシアの娘アリシアやリニスなどは法術によって実体化している為、制御法が分からないと解除されてしまう危険性がある。
 
 
 「エルトリアの環境改善がユーリと協力してスムーズに進んだから、余ったリソースを回して今順調に再構築作業を行っているわ。
 分析はまだだけど、法術に関する記載をメインにピックアップするわね」
 
 「頼む。今はそれどころじゃないが、
 このチャリティーコンサートが成功してマフィア達が大人しくなれば、そっちに集中できると思う。
 
 ――お前には悪いが、ユーリ達のことは注意してみていてくれ」
 
 「はいはい、分かったわよ。たく、記憶がない今のユーリがアタシから見れば異常なのに」
 
 
 ユーリが闇の書から誕生する以前の話は聞いたことがないし、ユーリ達も覚えていない。転生を繰り返しているのかどうかも定かではない。
 
 ただイリスは過去の記憶を持っていて、ユーリに裏切られた事があるそうだ。その記憶も結局マクスウェルが洗脳していたせいで、真実も分からない。
 
 事件を通じてもユーリは結局何一つ思い出さず、イリスもマクスウェルも薙ぎ払って完勝してしまった。
 
 
 あまりにも記憶喪失すぎて、積年の恨みがあったイリスもついにバカバカしくなってしまったようだ。
 
 
 「お父さん、ただいま帰りました!」
 
 「うおー、おとーさん!」
 
 
 イリスより遅く事務続きを終えたユーリ達が、海鳴の入国管理局から出てくる。
 
 全員平和そのもので、戦火の影もない。過去に何があったのか、喜劇も悲劇も全て忘却の彼方へ消え失せて、平和な世に新しく生まれ変わった。
 
 イリスはそんなユーリ達を辟易とした顔で見やり、溜息を吐いた。暖簾に腕押し、過去の事は水に流すどころか消え失せてしまった。
 
 
 その気持ちはわかる。幸せそうなユーリの顔を見ていれば、毒気を抜かれてしまうから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 <続く>
 
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