とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百七話



 結局その日、何事もなく終わりつつあった。

俺も今日依頼者からの依頼で同行する側の立場だったが、一応護衛として雇われているので周囲は警戒していた。素人レベルに近しいけど。

ただ俺は素人でも、警護する側はプロ中のプロだ。護衛社の安全を確保し、日々を脅かす真似はさせない。俺が知らない間に、危険を排除してくれていたかもしれなかった。


妹さんこと月村すずかからの連絡もなかった、ならば本当になんの問題もなかったのだろう。何事もなくてよかった。


「ところでリョウスケ君」

「はい」

「そろそろフィアッセとの関係を教えてもらってもいいかしら」

「ぶはっ!?」


 観光日和だった今日一日の締め括りは、ディナーだった。ディナーと大袈裟に言っているが、実際は高町家で卓を囲んでいる。

家族(高町一家)水入らずと気を利かせたのに、容赦なく俺やディアーチェ達も同席させられた。高町家のご家族も揃って大所帯となっている。

しかも仕事を済ませたアイリーンも合流して、大賑わいだった。絶対この中に俺はいらないと思うのだが、ティオレ御婦人の前に座らされた。


その理由も今わかった。


「おっ、さすが先生。聞いちゃいますか、その辺」

「勿論よ。何のために極秘で日本へ来たと思っているのよ」

「そんな事のために極秘で!?」


 何しに来たんだ、この人。お茶目すぎてついていけないぞ、俺。

高町一家の前でその話題はタブー化と警戒したのだが、京屋達も含めて全員興味津々で見ていやがる。くそったれ。

というか恭弥や美由希は恋人同士となったんだから、肩身の狭い思いをしろよ。何で好奇心王政で聞こうとしているんだよ。


後で聞いたら、フィアッセは最近俺のことばかり話して惚気ていたらしい。せめて恋愛関係に発展してから惚気けろよ、おかしいだろう。


「おたくの娘さんから何を聞かされているのか知りませんし、母親の間でこういうのはなんですけど――
これ以上ないほど、赤の他人です」

「こう言っているわよ、フィアッセ」

「ママ、日本ではリョウスケのような人をツンデレと言うんだよ」

「――アホな単語を教えたのはお前か、アイリーン」

「日本語っていろんな表現ができて便利だよね」


 高町家で振る舞われた豪勢な和食を平らげながら、世界の歌姫は飄々と感想を述べる。こんな女のサインを欲しがるファンが世界中にいるのが信じられん。

まあでも母親としては、異国に住まう愛娘が男と一緒に行動しているのであれば気になるのは無理もないだろう。しかもその男は学歴なしの無職だしな。


そこで思いついた。それを言えばいいんじゃないか。


「ご安心ください。娘さんと俺では釣り合いは取れませんよ」

「あら、どうしてかしら」

「中卒上がりで、まともな学歴もないですしね」

「私の身の上話を聞かせたでしょう」


 ぐあ、しまった。予防線を張る意図も込めて俺に身の上話を打ち明けていたのか、やりおる。

確かにこの人、アジアの貧しい身の上で学歴なんぞある筈がない。自分の実力と幸運で立身出世した女性だった。

そんな人間に学歴や職歴のことを持ち出しても、通じる訳がない。自分の人生を変える努力をすればいいと説教されるだけだった。


しかもこの話題を持ち出したのは、完全にやぶ蛇だった。


「ええ機会やからいうけど、自分でそういうんやったらちゃんとした仕事につくなり、学校行くなりすればええやんか」

「気軽に言うな。どっちもやろうと思ってできることじゃないぞ」

「出会った頃のあんたやったらそうかもしれんけど、今のあんたは更生できてるやん。子供もいて、家族も支えてる。
うちが腹立つのはちゃんとしてるくせに、変なところで浮き世めいた考え方している点や。

どうせもう旅暮らしとかでけへんのやから、根を張った暮らしをしたらええやんか」


 ご飯をかきこみながら、レンは箸で俺を差して文句をつけてくる。聞いていた桃子もウンウンと頷いている。ぐっ、余計なことを言ってしまった。

仕事については正直定職につくつもりはない、というよりも色んな肩書や立場があるせいで一つの職場で働ける気がしない。


学校については……そう言えば以前恭也達の学校の女先生に言われたことがあった気がするが、もう半年以上も前の話だしな。


「アルが貴方のことを称賛していたわよ。若いのに立派に行動してくれているって。よかったらこのまま護衛を続けてみる?」

「安全になったらお払い箱にしてください……」

「私達のマネージャーをしてみるのはどうかな、リョウ」

「世界的に有名な歌姫のマネージャーなんぞ、素人に出来ないだろう」

「なのはと一緒に喫茶店をやるのはどうですか!」

「お前が二代目翠屋を継いだ時点で誘ってくれ」


 結局、ディナーの話題の中心となったのは俺の身の上と今後だった。せっかく来日したのに、フィアッセやティオレ御婦人の事を話さなくてもいいのか。

呆れた俺はコンサートの話題を振ってみると、日本を始めとしたコンサートツアーと海鳴での開催が改めて御婦人の口から告げられた。

全世界の国々を巡ってチャリティーコンサートを開催し、チケットの予約は既に英国では始まっているらしい。


程なくして日本公演の分も発売されるとのことだった。


「皆さんには初回・海鳴公園の特等席を用意しているわ。ぜひいらしてね」

「ありがとうございます、ツアーの収益は慈善事業に向けられると伺っています。良いお金の使い道ですね」


 ティオレ御婦人の好意に、高町桃子がにこやかにお礼を述べる。確かにこれ以上ないほど素晴らしい金の使い方だろう。

だからこそ、これ以上ないほどにマフィア達がムキになっている。夜の一族の話では、世界中でチャリティーコンサート裏社会に流れる金が極端に減る。

奴らが世界各地で行っているHSGに関する研究や、人体兵器の製造にも大打撃となるだろう。連中の製造元は困窮する国々の中で行われているとも聞いている。


コンサートを潰すには出鼻を挫かせればいい。まず間違いなく最初の開催である海鳴を狙う。


「シルバーレイもぜひ来てね」

「あ、遠慮します」

「そう言うと思って席を取っておいたからね!」

「強制じゃないですか、それって!?」


 後は無駄話ばかりだったが、今日一日で有益な情報はたくさん得られた。

特に危険なこともなかったし、蓋を開けてみれば本当にただの観光と案内役で終わったな。


――と思っていたのだが。



「すまない。依頼主から最後、君に話がある。出来れば一人で私ときてほしい」














<続く>








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