とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百六話
しんみりとした墓参りが終わった後は、実に賑やかだった。
次のスケジュールはショッピング、国際都市化しつつある海鳴のショッピングモールでお買い物だった。率直に言って、無防備すぎて頭を抱えたくなる。
テロ組織にコンサートを中止しろと恫喝され、チャイニーズマフィアに狙われている要人がやることではない。
俺も大概非常識だが、この人の行動力は天下一品だった。こういう人物が天下を取れるのだろうか。
「ほら、貴女にとても良く似合っている」
「い、いや、あの……正直、我にこういったフリフリの服は似合わないと思うのだが……」
夜の一族の世界会議後、カレン達が何故か海鳴を国際都市化した事でファッション文化も劇的な改革を見せている。
大型ショッピングモールには洋服屋が並び、横文字の品々がこれでもかと言うほど並んでいる。服なんてどれほどの種類があるのか、見当がつかない。
海外のファッションセンスには長けているクリステラ母娘も大層喜んでおり、嬉々として服を買い漁っている。
歌姫というだけあって、洋服やドレスの類にはうるさいらしい。
「そんな事ないよ、ディアーチェちゃんはリョウスケの娘なんだよ。可愛いから自信持って!」
「うーむ、確かに父の子であるということはそれほどのステータスを持って然るべきではあるか」
「何故納得するんだ、お前……」
彼女達の標的にされたのはまずディアーチェだった。我が娘ながら、服に関しては無頓着もいいところだった。
汚らしい格好をしているわけでもないし、男勝りという感じでもない。普段は女の子の服装をしているが、着飾っていないというだけだった。
ただ素材は抜群の美少女なので、クリステラ母娘からすればもったいなく感じたのだろう。ファッションショーよろしく、ディアーチェに服を勧めていた。
これが赤の他人なら余計なお世話だとディアーチェも怒るだろうが、要人であるだけに無碍に拒否できなかった。
「ほら、シルバーレイもそんな白い服ばかり着てないで、明るい服も着てみようよ」
「遠慮します。そんな可愛らしいの、あたしの趣味じゃないんで」
「一度着てみたら恥ずかしくないものよ、買ってあげるわね」
「だから善意の押し付けはやめてくださいって!?」
二人に両脇から引っ張られて、シルバーレイは試着室に連行されていく。助けを求めるようにこっちを見たので手を振ったら、めっちゃ怒っていた。ざまあみろ。
ディアーチェはようやく解放されたと、深く嘆息している。聖地での戦争で魔女と戦っていた頃よりも疲弊しているかもしれない。
今日ほど男でよかったと思った日はない。ティオレ御婦人は俺の服を選んでくれるとは言っていたが、ディアーチェ達可愛い女の子が居るおかげで後回しにする理由ができる。
このまま時間が経過すれば予定終了になるだろう。それを祈るしかない。
「今日はこちらの意向を聞いてくれて感謝しています。気を抜くつもりはありませんが、今のところ問題も起きていません」
「依頼人の要望であれば、これくらいはかまわない。俺自身単純に付き合っているだけで、護衛としては何もしていないに等しいが」
「前にも言いましたが、貴女のおかげでフィアッセの心の平穏は守られています。
御婦人が買い物を楽しまれているのも、フィアッセが取り乱していないからです」
「買い物を楽しむのはいいんだけど、堂々と人前に出ていて大丈夫なんだろうか。変装はしているだけど」
「人目につかないことだけが安全ではありません。人の目は勿論ですが、このショッピングモールにはシステム面でのセキュリティも万全に敷かれている。
事前に調べましたが、日本の街にあるショップングモールとは思えない程の徹底ぶりです。
我々からすればありがたい限りですが、平和な日本でこれほどの警備システムが用意されているとは驚きです」
えっ、そうなの!? 海外の警備会社を代表するエリスがいうのだから間違いないだろうが、このショッピングモールにはよほどのセキュリティが機能しているらしい。
そういえば先日シルバーレイが起こした珍騒動でも、どこから来たのか外国人のチームが来て、事件現場を見事に整え直して平穏に片付けてくれた。
辺りを見合わしてみると、不思議と外国人の姿も多く見られる。店員さんも常にどこかにいて、不自然ではない程度に客の事を見ている気がする。
気のせいか、ロシア人の子供達の姿もよく見る気がする。ロシアンマフィアのクリスチーナと同じくらいの年頃だが、まさかな……まあ本当にロシア人かどうか、見た目でしか判断してないけど。
「――ティオレ御婦人の話を聞いたかと思いますが、あの方は以前貧しい暮らしをされていた。
私にも少し話してくださったのですが、幼少時服など満足に選べる生活は出来ず、可愛い服には特別な思い入れがあるようです」
「なるほど、着の身着のままな生活だったらしいしな」
孤児院で生活していた頃は、俺も服なんて全然選べなかった。まあ男だし、汚れていなければ何でもよかったけど。
ガリやデブもその頃可愛い服には無縁だったが、あいつらは女でこそあるが変わった人種だからな。参考にはならない。
自分が小さい頃可愛い服を着られなかった反動で、ディアーチェ達の女の子に可愛い服を着せたい衝動があるのだろう。
ある種の未練と言ったところか。
「英国へ来て生活も安定して来た頃には、既に大人になっていた。
人は過去には決して戻れない。可愛い服を買えるほどになっていた頃には、もう既に着れなくなってしまった。
あの子達からすればありがた迷惑かもしれませんが、お気遣い頂ければ幸いです」
「ディアーチェ達も少しは強引にでもしないと着ないだろうからな……悪いことではないと思う」
「ありがとうございます」
クリスは今クリステラ母娘の警護中、私語など到底許されないが、これもまた仕事の一環ではあるのだろう。
それと当時に一応俺も護衛の立場ではあるので、少しは気を許してくれているのかもしれない。彼女との関係は特殊だった。
考えてみれば家族や仲間は多くいるが、こういう同じ立場の同僚はいなかったかもしれない。戦友までいるというのに、不思議ではあった。
だからこそ俺も少し、口が軽くなっていたのかもしれない。
「そういう話をしてくるってことは、あんたもファッションショーの犠牲になったんだな」
「……正直、参りました」
「お前も困ってるじゃねえか!?」
フィアッセ・クリステラの母親、ティオレ・クリステラ。
今日一日経過して、少しは彼女のことが分かってきた。聡明でカリスマ性があり、それでいて茶目っ気のある女性。
少なくともこの仕事を行う上で、守りがいのある人とは言えるかもしれない。
<続く>
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