とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 百話



 その日の夜。俺の雇用主であるアルバート議員、フィアッセの親父さんを護衛するエリスとの定時連絡でも確認してみた。


『申し訳ありませんが、クリステラ御婦人の強いご希望です。可能であれば是非とも御了承頂けると助かります』

「……あの、わたくし全くもって地元民ではないのですが」


 フィアッセ・クリステラの母親ティオレ・クリステラより、海内の観光案内役を仰せつかった。思わぬ大役抜擢にゲンナリである。

そもそも俺は約一年前に海鳴に流れ着いてきた旅人、というか自分で言うのも情けないが浮浪者である。孤児院から飛び出して、何の宛もなく旅をしてきた。

何の因果か、何の奇縁か、この街に流れ着いて人との出会いに恵まれて、根無し草が自然豊かな優しい街に根を下ろすようになったというだけである。


正直この街よりも、この街に生きている人達の方が詳しかったりする。観光名所とか本当に知らないしな。


『名所案内を希望されている訳ではありません。貴方とフィアッセとの観光を求められています』

「まあ観光に付き合うくらいなら……」

『その上で貴方にご案内頂ければ幸いです』

「結局俺が案内するんじゃねえか!?」


 この街に流れ着いて一年、その半年近く町に居なかった男に何を期待しているのだろうか。

しかも俺が不在の間に夜の一族がテコ入れしまくったせいで、海鳴は今大発展して国際都市化まっしぐらである。

確かクロノやレンの話だと最近視聴が変わり、権力構造が一新されたらしい。街の法律も是正されて、諸外国の有力企業が多大な資本と人材を注ぎ込んでいる。


絶対大富豪のカレンとロシアンマフィアのディアーナの仕業だろうが、町並みも激変している。無茶苦茶な改造はしておらず、街の優しい風景は維持されているが。


『案内役をお願いすることになりますので、当日の護衛については我々が責任を持って担当させていただきます。
あくまで貴方はクリステラ御婦人とフィアッセとの観光に集中して下さい』

「元々警備会社に所属するプロであるあんた達に比べれば、たしかにあまり力になれていないが」

『以前私が言ったことを気にしているのであれば、ご容赦下さい。
確かに剣について思うところあれど、貴方自身がフィアッセの力になっているのは事実です。

クリステラ御婦人が貴方に依頼しているのも、貴方が御婦人にとって何より大切な御令嬢を守っているからです』


 自分の私情を覗かせつつも他者への配慮を忘れず、実績を実直に口にできるのは確かにプロだからであろう。若い女性ながらも割り切りが正しく行えている。

実績と言われてもピンとこないが、とはいえ自虐や謙遜をするつもりはない。護衛として雇われている以上、最大限に努力して結果を出すのは当然だからだ。

そうした立場を理解しつつ、こうして依頼するからには本人たっての希望であることは間違いない。護衛という立場を求めつつも、依頼を出している。


そこまで襟を正してくれるのであれば、俺もウダウダ言わず立場を弁えて返答するべきだろう。


「分かった、依頼人の希望であれば引き付ける。やってはみるが、旅行会社みたいなのは期待しないでくれよ」

『引き受けて下さってありがとうございます。勿論全て承知の上で、貴方にお願いしています。
それに御婦人からの希望もありますので、それらを吟味した上で当日ご同行頂ければ問題ありません。
ルートは全て確保いたしますし、現場での対処や安全確認も全て我が社が行います。

スタッフも派遣しますし、私も事前に現地へ向かいますので合流いたしましょう』


 ……そこまでやってくれるのであれば、むしろ俺がいらないのではないだろうか。率直に疑問に思ったが、口には出さない。

フィアッセのお袋さんは純粋に俺やフィアッセとの観光を楽しみにしているのだろう。俺に観光案内させるのは余興にすぎない。

俺を弄びたいのではなく、自分の娘と仲の良い人間に観光案内させて、どういった人間なのか見定めようとしているのだろう。


とはいえ見定め方が観光案内なあたり、本人も相当イタズラ好きの人間のようだ。


『世界ツアーの開催も決まり、今後事態は大きく動いていくでしょう。我々の立場は非常に重要となります。
警備や護衛は我々プロに任せて、とは言いません。まだ付き合いは短いですが、貴方は十分に務めてくれている。

同じ立場の関係として、これからもよろしくお願いします』

「こちらこそ頼りにしている」


 そこまで言うとエリスは少しだけ微笑む。彼女から向けられた微笑みには今までもない親しみを感じられた。

彼女が俺のことを素人だと判断するのは正しい。実際そうだし、学生でこそないが社会経験だって乏しい。護衛なんて履歴書に載せられる経歴はない。

誘拐事件を解決できたのも、爆破テロを阻止できたのも仲間達の力であって、俺個人で成し遂げたのではない。それでも彼女は俺を対等に評価してくれた。


俺のこれまでの働きで何か評価できた点があるのであれば、少しは経験も積めているのだろうか。今のところ、あまり実感はない。


「海鳴の観光か……パンフレットでも見てみるか」


 考えてみれば、これはある意味で良い機会かもしれない。少なくともこの先しばらくは、海鳴を離れるつもりはない。

ディアーナやクリスチーナからも先日、絶対日本を出ないでほしいと懇願されたばかりだ。海鳴からも離れてもらいたくはないのだろう。

もし世界ツアーの同行まで依頼されれば流石に断るしかないので、せめて日本にいる間くらいは雇い主の希望くらい叶えようか。


そこまで考えて、ふと思い出した。


「そういえばフィアッセの母親からも希望があるのだったか」

『はい、墓参りに行きたいそうですのでお願いいたします』

「墓参り……?」


『……ご婦人にとって大切な友人の墓です。
貴方は事情を把握していますので、伝わるのではないかと』


 フィアッセの母にとっての知人、日本に来てまで冥福を祈りたい人間。

エリスの口ぶりからでも十分すぎるほどに察せられる。


高町なのはの父、テロにより命を落とした故人だ。














<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.