とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 九十九話



 ――ティオレ・クリステラ。


フィアッセ・クリステラの母親であり、クリステラ・ソングスクールの校長をしている女性。

世界会議で海外へ出向いた際にちょっとした縁で会ったことがあり、少しお世話になった人物。

あくまでフィアッセの母親としての縁であり、そこまで親しい人物ではない。


「ごめんね、ママからの電話だった。日本に来るんだって!」

「課題については聞けたのか」

「えっ、だって日本に来るし……」

「こいつ、誤魔化しやがったな」


 当の母親から出された作曲について俺がせっかく助言したのに、フィアッセはどうやら怖気づいたらしい。ヘタレめ。

先生や師匠と言った存在であればまだしも、母親ともなれば子供としても思春期を過ぎれば聞きづらくなるものだろうか。

俺もあまり他人に率先して指南を受ける人間ではないので気持ちは分からないでもないが、延々と悩まれても困るんだよな。


当て擦っても本人が頭を抱えるだけなので、仕方なく話を変える。


「それで、お袋さんからどういった電話だったんだ」

「リョウ、あんまりプライベートを詮索したら駄目だよ」

「むっ、それもそうか」

「で、何の電話だったのフィー」

「おい」

「わたしは、身内同然だもん」


「俺も――いや、俺は違うな」

「ちっ、引っかからなかったか」


 こいつ、俺の口からフィアッセは家族だと言わせようとしたな。フィアッセもちょっと残念そうにしている、なんて奴だ。

この一年間での社会経験がなければ、感情に流されて勢い任せに失言したかもしれない。やはり女は侮れない。

アイリーンとしては俺とくっつけたいと言うよりも、フィアッセの不安を解消したい狙いがあるのだろう。


何だかんだ色々抱えているからな、こいつ。


「日本での生活について聞かれたよ。やはり心配してくれてた」

「そりゃあ脅迫状を送りつけられているしな。娘一人日本に残していれば心配にだってなるだろう」

「ううん。アイリーンやリョウスケの事を信頼してくれているから、あくまで気遣いだと思う」

「ほらほら、リョウの事も家族だと思われているよ」

「拡大解釈過ぎる」


 せいぜい同居人程度だろうに、アイリーンは大げさに言ってきやがる。一応親父さんから護衛として雇われているだけだ。

考えてみれば事件が起きる前からフィアッセは日本に住んでいて、両親は海外暮らしだ。距離は元々離れている。

フィアッセも喫茶翠屋でチーフとして働く社会人であり、厳密に言えば自立した人間だ。過保護になるのも変かもしれない。


まあ今はマフィアから狙われているのだから、心配するのは無理もないが。


「あとは課題の進捗についてやっぱり聞かれた……」

「話に出たのならそのまま相談しろよ!?」

「い、いや、こういうのは顔を見て相談した方が良いかなって」


 こいつ、回りくどい事をしやがって……親がお膳立てまでしてくれたのに。

ひょっとしてこいつ、作曲できない原因に薄々気づいているけど話しづらかったりするのだろうか。

だとしたら聞き出すのは困難だが、まあその辺はご家族に任せようか。


他人の方が聞き出しづらいし、聞き出せたら聞き出せたらで家族動線の関係だと勘ぐられるかもしれないしな。


「それでね、コンサートの日程が決まったから、ママが日本に来るんだって!」

「えっ、事前にそんな話は聞いていないぞ」


 仮にフィアッセとは家族同然だったり、恋人同士であったとしても、マフィアに狙われている要人の来日日程なんて教えないだろう。

ただ今の俺はアルバート議員から正式に雇われた護衛であり、未成年であれど契約の手続きを行っている関係だ。

事前に情報を聞かされなければ、護衛対象の行動にだって影響が出るし、護衛する側としても対応しなければならない。


その点を指摘したのだが、本人はキョトン顔だった。


「うん、今言ったよ」

「今って――おい、もしかして家族だから最初にお前に話したんじゃないのか」

「そうだよ、何か変かな」

「お前に話すのは変じゃないけど、俺に話すかどうかは事前に確認してくれ」


 話が全く逆で、テーブルに突っ伏しそうになった。多分この後か、今日の業務報告時に向こうから連絡が来る手はずだったのだろう。

身内からバラされたので別に非が生じる訳ではないが、本人が実に呑気なので困る。流石に赤の他人にバラすような女じゃないが。

とりあえず来日が決まったことだけ聞いておいて、正確な日時は後程の業務連絡で聞くようにしよう。


日程を言わせないようにしたが、フィアッセ本人に関係する予定は伝えられた。


「コンサート前にママが極秘で来日する目的として、海鳴に来るらしいの」

「お前に会いに来るだろうな、当然」

「そうそう、それでリョウスケにお願いしたいんだって」

「なにを?」

「海鳴を案内してほしいそうだよ」

「地元民に頼めよ!?」


 俺の素性くらい、英国議員の妻であれば余裕で伝わっているだろう。海鳴出身ではないことくらい分かっているはずだ。

そもそも俺、海鳴についてそれほど詳しくないぞ。一年間くらい住んでいるけど、その半分は海外とか異世界とか惑星とかに行ってたしな。

それに夜の一族の連中が好き勝手に国際都市化したせいで、海鳴が劇的に発展して訳分からんことになっている。俺も何が何処にあるのか、よくわからん。


護衛と関係あるようで関係無さそうなことを任されて、俺は頭を抱えたくなった。














<続く>








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