とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 九十七話



 海鳴の高級ホテルで起きた爆破テロ事件と、さざなみ寮で起きたマフィア襲撃事件。

龍というチャイニーズマフィアが展開した二面作戦は失敗に終わったが、だからといって被害者達をそのままという訳にはいかない。

主犯達は国家が威信をかけて追い詰めているが、被害者達もマフィアという脅威に追い詰められている。時間をかけた後処理が必要となった。


この件はどれも俺が関わってしまっている為、最後まで面倒を見させられる羽目になった。


「フィリスは大学病院に戻るのか」

「安全が確認された為隔離施設からは既に出ていますが、正式に職場復帰となります。
今の状況ですと隠れ潜むよりも、人目のある職場に従事した方が健全な生活を保たれるという判断によるものです」


 フィリス・矢沢は誘拐こそされているが、手口としては身内が攫われたことによる脅迫に屈した形だ。

HGS患者の一人であり、かつてリスティと同じく超能力兵士として創り出された存在。連中からすれば垂涎の目標だったのだろう。

主犯達が国際政府から徹底的に追跡されており、フィリスに手出しする余裕はもうないという見解。


そして人目の多い大学病院であれば、余程の実力行使でも行わない限り手出しできないという判断によるものだった。


「とはいえ事件解決まで夜勤は禁止ですし、研究棟への立ち入りも厳禁になりました。
テロ組織に狙われているということもあり、研究施設もしばらく閉鎖となる為ですね」

「今回の件で病院や研究等のセキュリティも見直しされるそうだな」


 チャイニーズマフィアの目的はHGSにあると判明し、研究員のフィリスまで狙われたのでは致し方なかったのだろう。

国際救助隊のシェリーが誘拐されてアメリカ司法局も動き、政府も事件の肥大化を防ぐべく対策を講じている。

囮潜入して二人を救出した俺の存在は秘匿され、今後事件を未然に防ぐべく施設や研究員に防止策を行っていた。


マフィアという恐ろしい存在に脅迫されたフィリスに、事件の影はない。


「ちなみに入院していた良介さんが過去脱走した時から指摘が入っていたんですよ」

「うっ、申し訳ない……」


 フィリスが俺の鼻を突付いて、くすくす笑っている。影響がないどころか、むしろ少し明るくなった感じさえする。

一応助けには言ったけど、囮作戦だってシルバーレイが居なければ成立していたか怪しい。あいつが裏切ってくれなければ、スムーズに事は運ばなかっただろう。

救出した時は危険な真似をした俺を叱責しつつも、えらく感激されてしまった。結局あんまり活躍しなかったはずなのだが、こうして感謝までされている。


まあ被害者である本人が落ち込んでいないのであれば、それに越したことはない。


「それに行動も制限されています。日中は仕事で、夜はシェリーと一緒にさざなみ寮でお世話になることになりました」

「結構内輪でもめたみたいだな、さざなみ寮も」

「リスティも事情を話して避難を提案したそうですが、むしろ一致団結する流れになってしまったようです。
結局一部の学生さん達が一時的に別寮へ移動し、古参の住民さんが残る形となったようです。

私やシェリーは空いたお部屋でしばらくお世話になることになりました」


 リスティ・槇原本人もマフィアに狙われている一人なのだが、あいつは力ある存在なので当事者として立ち回っている。

本人は随分悩んだそうだが、今度も寮が狙われる危険性を苦慮して、さざなみ寮の主だった面々に相談したらしい。

全員の退去が望ましかったが、寮の住民から反対や指摘の声が幾つも上がり、リスティを思い遣る発言が多かったそうだ。


住民も決して我儘を言っているのではない。テロに屈してはならないという義憤と、同じ住民のリスティを気遣う優しさによるものだ。


「それで関係者を集めた上で、警備を強化することになったのか」

「警察の協力者という立場と人脈を最大限活用して、あらゆる方面に働きかけを行ったようです。
シェリーもしばらく安全を考慮して日本に滞在することになり、アメリカからの援助も受けられるようですしね。

あ、それと」

「なんだよ」

「良介さんにも寮への移住を進められていますよ。私からも声をかけてほしいと言われました」

「女性率の高い寮はちょっと遠慮したい……」


 俺も海鳴へ流れ着いた家なき子だったので、寮への移住が叶うのであれば選択肢の一つではあった。

独り身であれば別によかったかもしれないが、俺はシュテル達がいるので一家移住となってしまう。

子供がいるのであれば、独身生活を満喫するわけにはいかない。それにあの寮はクセのある奴が多いから気疲れしそうだった。


フィリスからも妙に熱心に進められたが、遠慮しておいた。


「フィアッセの様子はどうですか。
私達の事でも気負わせて申し訳ないくらいなのに、ご家族のこともあって心配しています」

「今のところ特に思い悩んでいる様子はないな。コンサートが開催されるとあって、作曲に悩んでいるくらいか」


 フィアッセはHGS患者の中でも特殊な部類であり、暴走する危険性を孕んでいる。

精神的に追い詰められると制御が外れてしまい、どのような状態になるのか危惧されている。

そういう意味でもマフィアに狙われている現状はあまりよろしくないのだが、本人は気負った様子は特になかった。


能天気だと嘆いていると、フィリスは珍しく意地悪げに微笑んだ。


「良介さんが護衛として傍にいるから安心しているのでしょう。少し羨ましいです」

「たとえ家族でも距離感は大事にしてもらいたいんだが」

「良介さんは極端だと思いますけどね」


 こうして一連の事件を通して取り巻く人間模様は、それぞれ動きを見せている。

犯人達は追われ、それでいて狙い続ける。俺達は事件を追って、それでいて防ぐべく行動している。

そうした攻防が一種の硬直状態を生んでいたが、やがて終わりを告げる。


フィアッセ・クリステラに、電話が入った。














<続く>








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