とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 九十六話



夜の一族は今、世界中で忙しなく活動している。欧州の覇者であるカレン達は言うに及ばず、世界に点在する一族が動き回っている。

今年に夜の一族の長が事実上の引退を宣言し、世界会議で次代の長としてドイツの一族であるカーミラが選ばれた。立場としては正式に認可された形だ。

異形の容姿を持つ彼女は純血種の月村すずかに次いで始祖の血が濃く、血統主義からは賛同され、カレン達が全面協力して統率を見せており、実力主義としても申し分ない。


とはいえ人間と同じく、勢力争いというのものは何時の次代でもあり、かつてない隆盛を誇る今の一族でも勃発しているらしい。


『本日はお忙しい中、お時間を頂きましてありがとうございます』

『ヤッホー、ウサギ。元気にしてる?』

「忙しさで言えば、お前らの比じゃないだろう。特に今は硬直状態だからな」


 フィアッセに送られた脅迫状を発端として起きた事件と並行して、カレン達も今それぞれ対応に追われている。

新時代の長として選ばれたカーミラのカリスマ性は高く、独特の価値観を発揮して統率する手腕は、かつて引き籠もっていた頃からは考えられない程に見事発揮されている。

かつては家族にさえ裏切られてしまったが、なし崩し的に俺と一緒に行動して覇権を握った彼女に迷いはなく、世界会議での論戦を終えたカレン達の協力もあって、夜の一族は今隆盛を誇っている。


特に裏社会は激動の次代を迎えており、ロシアンマフィアのディアーナとクリスチーナは寝る間も惜しんで暗躍している。


『貴重なプライベートのお時間を頂いたのです。
本来であれば無粋な会話はしたくないのですが、今日は無理を申しましてお願いに上がりました』

『もー、折角ウサギと久しぶりに遊べる時間が出来たのにふざけているよね』

「マフィアのボスになって半年以上になると言うのに、お前らは変わらないな」


 世代交代は夜の一族だけではなくロシアンマフィアにも起きていて、ディアーナ達も世界会議で世代交代した。

先代ボスはチャイニーズマフィアやドイツの一族(カーミラを除く)、月村 安次郎と手を組んで、武力で夜の一族を制圧しようとした。

切り札であった最新型自動人形とロシアンマフィアの手勢によって、要人達を人質に取って武力支配。最悪の事態となったが、その自動人形のローゼが余裕で裏切って先代は潰された。


結果として先代の娘であるディアーナがボスとなり、最強を誇るクリスチーナが力となって裏社会を激変させた。


『お願いを申し上げる前に、まず事情を説明させて下さい。
世界会議を終えてここ半年、先代が手を組んだチャイニーズマフィアに対して我々は報復を行いました。
ロシアンマフィアとチャイニーズマフィアが手を組む、異常事態。裏表問わず緊張感が高まり、どの勢力も動き出しを見せる。

そのような中で人質にまで取られた我々も黙ってはおられず、報復に打って出た形です』

『クリスも大活躍したんだよ。ウサギ、ほめてほめて!』

「御神美沙斗とも正式に契約し、あいつらの勢力を削ったんだよな。国際警防隊隊員とも協力して」


 夜の一族はチャイニーズマフィアで構成された龍に報復を決意し、テロ組織でもある龍は世界会議で邪魔をした俺に報復を誓った。

御神美沙斗は御神家に爆破テロを行った龍に復讐を誓っており、ロシアンマフィアのディアーナより龍の情報を得るべく接触して契約を結んだ。

復讐の連鎖の中心人物である師匠は日本人の剣士であり、サムライとして裏社会を暗躍。サムライを狙って武力行使に出たチャイニーズマフィアを倒し続けた。


これがこの半年余りでおきた事件。怨嗟の一念で起きた報復活動の数々には寒気が走る。


『壮絶な抗争となりましたが、結果として龍は弱体化。これを契機に表社会の治安組織は検挙を行い、裏社会は龍の後釜を狙って動き出した。
表裏から攻め立てられて、チャイニーズマフィアは追い込まれることとなったのです』

「今まで睨みを効かせて黙らせていたが、それも効かなくなって抑えが弱くなった各勢力が打って出たのか」


 長く裏社会に君臨していたとは言え、別に人望があった訳でもないようだ。恐怖と武力で睨みを効かせていたのだ、信頼関係なんてなかったのだろう。

その結果あらゆる勢力から攻められ、肝心の夜の一族から報復を受けて、チャイニーズマフィアも追い詰められる結果となった。

ここまでは知っていたが、改めて聞かされるとゲンナリする。完全に逆恨みだが、チャイニーズマフィアはこんな結果になってしまった発端である俺をさぞ恨んでいるだろう。


俺自身対処できているから冷静でいられるが、孤独だった過去であれば警察に駆け込んでいたかもしれない。


『そして今回私達ロシアンマフィアは、かねてからの悲願だったアジア進出へ打って出ました。
もう少し正確に申し上げますと、チャイニーズマフィアが確保していた貿易路、その中でも大きな利益を上げていた有力ルートを奪取したのです』

『にしし、ディアーナが主導して市場を独り占めしたんだよ。これで人も運べるから、日本への進出が可能になるよ』

「どんなルートを確保したんだよ……」


 チャイニーズマフィア、それもテロ組織が独占して大きな利益を上げていたのだ。多分兵器類とかその辺もあるに違いない。

裏社会のことなんて一般庶民の俺は知らないけれど、アジア側の貿易路を独占していたのであれば、やはり龍は相当巨大な組織だったのだろう。

御神美沙斗師匠は異世界や別惑星まで行ってきた俺からしても、異次元の強さを持っている。


それでもロシアンマフィアに接触してまで情報が必要だったのだから、個人で対抗できる組織ではないのだろうな。


『勿論アジア関連のルートを奪われたら、チャイニーズマフィアは今後進出が事実上不可能となってしまう。
彼らは反撃に出て、欧州側のルートを潰す動きに出ています。奪われたものを奪い返す目的もあるのでしょうけれど――

この動きの最大の目的は私でしょうね』

「ディアーナが目的?」

『欧州のルートが万が一奪われたら、ロシアンマフィアの面目が保てないでしょう。ディアーナも動かないといけなくなる。
ロシアにいればたとえ特殊部隊を送り込んできても返り討ちに出来るけど、ロシアから出ちゃうと流石に守りきれなくなる。

それを狙って生意気にもマフィアが行動に出ているんだよ』


 なるほど、ロシアンマフィアのボスであるディアーナにとって、ロシアは牙城。戦争を仕掛けられても返り討ちに出来る。

ここ半年余り裏社会の勢力図を激変させているのは、ディアーナの手腕。恐るべき女ボスをチャイニーズマフィアは何としても殺したいと思っている。

ロシアにいては手出しできない為、アジアのルートを奪われた報復も兼ねて、チャイニーズマフィアは今欧州のルートを狙って攻撃を仕掛けている訳か。


報復するにしても色々よく考えるものである。


『そこでお願いがあります。
貴方様は今フィアッセ・クリステラの護衛を行っておりますが――

絶対に日本から出ないようにして下さい。もう少し正確に言うと、海外には行かないようにお願いいたします』


「? いや、別に今のところ出る気は無いけど……」

『チャリティーコンサートを開催するんでしょう、ウサギ。コンサートは世界各国で行う予定だと聞いてるよ』

『クリステラから貴方に同行を依頼する可能性があります。何卒、その依頼は断って下さい』

「あ……」


 しまった、その可能性もあるのか。日本で決着をつけるつもりだったから、それで終わりだと誤認していた。

最初の開催国が日本であると言うだけで、世界ツアーにでればフィアッセも行く可能性だってある。

もし護衛として同行してほしいと言われたら、即答こそ出来なかったにしろ、フィアッセのためと押し切られたかもしれない。


いや待て、本当に頼まれたら俺はどうしようか……フィアッセには確かに恩はあるけど。


『貴方様の事情は理解しております。
我々はフィアッセ・クリステラの護衛に反対しておりますが、此度は私から貴方様へのお願い事でもあります。

もしお断り頂けるのであれば海外におけるクリステラ家の身の安全はお約束いたします』

『クリステラから何か報酬を提示されたら、その十倍は払ってあげる。だから絶対断ってね。
理由はさっきディアーナが説明した事情を聞けば、ウサギだって分かるよね?』

「……日本にいれば俺は安全だけど、海外に出てしまうと担保できない」

『仰るとおりです。貴方様は私やクリスチーナにとって何よりも代えがたい存在。
どうか臥してお願い申し上げます。クリステラへの恩義を曲げる形になろうとも、日本から出ないようにして下さい』


 今や裏社会で恐れられているロシアンマフィアのボスが、頭を下げて俺に願いを請うている。

海外にいかないようにしてほしいという遠回しな願いは多分、俺が異世界や別惑星に行くことを考慮した発言だろう。

ミッドチルダやエルトリアに行けば、流石にマフィア達も追ってこれないからな。地球にいる間、日本から出ないでくれと頼み込んでいる。


どうしようか正直悩んだが、流石に俺だって馬鹿じゃない。


「分かった、頭を上げてくれ。絶対海外には行かないし、頼まれても拒否するよ」

『! ありがとうございます……このお礼は必ずいたしますし、先程申し上げたお約束ごとは必ず果たします』

『偉いぞ、ウサギ。今度あったらナデナデしてあげる』


 フィアッセのことなら強行されることも考えていたのだろう、ディアーナやクリスチーナはホッとした顔を見せる。

勿論悩んだし葛藤はあるけど、そもそも前提として俺は夜の一族の支援を受けている身だ。彼女達のお陰で日常を過ごせている。

そんな俺が彼女達の願いを押し切ってまで海外に出て、危険なんて晒せない。フィアッセのためと強行して、俺が殺されでもしたら目も当てられない。


それにしてもこの話を聞いておいてよかった。多分事前に言われていなければ、海外に行っていたかもしれない……

案外マフィア達の日本でのテロ行為も、それも狙っていたのかもしれない。本当にやばかったな。














<続く>








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