とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 九十五話
聖地に連絡を取るべきか考えたが、副隊長の怒った顔がリアルに想像できるのでやめておいた。
海鳴で起きた爆破テロ事件の際に爆弾を解除するため、緊急事態と言って戦闘機人のセインを派遣させた事で大騒ぎとなってしまった。
"聖王"とされている俺の故郷である地球が天の国だと崇められており、その地で緊急事態が起きたとなれば聖王教会だって混乱するし、緊急の報を受けた信者達もパニックになったらしい。
教会騎士団を派遣する自体にまでなりかねなかったが、うちの特務機動課のオルティア副隊長が何とか取りなしてくれたのである。
『今度から、絶対に、私を通して申請して下さい隊長』
「す、すいません、でした……」
『ほとぼりが覚めるまで帰ってこないで下さいね』
元々フィアッセの事件が解決するまで海鳴を離れる気はなかったが、それはそれとして副隊長にすげえ怒られてしまった。美人が怒ると迫力が増す。
戦闘機人のセッテが率いる騎士団に応援要請する手もあるが、本人達もそれぞれエルトリアや聖地の事で頑張ってもらってるし、こっちの事まで関わらせるのは気が引ける。
戦力不足は多少なりともあるし、セッテ達なら俺の命令なら嬉々として従ってくれるだろうけど、どちらも大事な任務ではあるので、今は目の前のことに頑張ってもらおう。
ミッドチルダ関連で協力してくれそうな人たちは、他にもいるからな。
「よく来てくれた、ミヤモト。本当に大変だったな、関係者は全員集めている」
「大丈夫だったの、リョウスケ。君って子は、どうして危険なことに関わろうとするのかしら」
何かと事件協力してくれているクロノは労ってくれたが、爆破テロ事件に関わっている養子をクイントは咎めてくる。
向けてくる感情は異なるが、案ずる気持ちは同じことくらいは今の俺ならようやく分かる。揃った関係者達は一同に案ずる視線を向けてきた。
ここに揃っているのは管理外世界に諸事情あって左遷された人達だが、キャリアある立派な時空管理局員である。
世界を管理する規模の大きな治安組織、警察以上に頼りになる人達だった。この人達ならば隠し事はせず、事情を打ち明けられる。
「君個人を狙うテロ組織と、HGS患者を狙う裏社会の実力者達か」
「個人ではどうしようもない事態に対して、異国で知り合った権力者達に支援と協力を得て立ち回っているのね」
「君の周りにいるのはミッドチルダの関係者と、君故人の家族や仲間か」
まず空局に所属するリンディ提督とクロノ執務官、サポート役のエイミィは書記役件議事進行を行っている。
ミッドチルダ地上本部からゼスト隊長と、クイント捜査官にメガーヌ捜査官。実績のある方々が揃っているので、事態の精通は難しくなかった。
フィアッセ個人の事情は伏せた上で、HGSに関する情報も共有している。彼らも被害者の事情は察しているので、追求する真似はしない。
状況を理解して、話し合いに応じてくれている。
「管理外世界で起きた事件に関わる事はご法度になるけれど、民間人が襲われているのであれば話は別だわ」
「平和な街が脅かされているんだ、力になれると思う」
「まあ、空局で関わる事件ってグレーなのも多いしね。方便を駆使してあげるから任せておいて」
「ありがとう、助かるよ……」
彼らの言い分ではテロ事件の解決には貢献できないが、事件の被害が拡大するのを防ぐことには協力できるという。
テロ組織の撲滅に加担するのは法に触れるが、マフィアから民間人を守ることは理由次第で可能だと言っている。
管理外世界は時空管理局の法の外にある以上、立ち回る上では慎重を期す必要がある。
そういった意味でも彼らはベテランなのだろう、変に感心させられる。
「そもそもアタシ達だって、理不尽な理由で管理外世界に左遷されているしね」
「管理外世界に飛ばしておいて、管理外世界で起きている事件に関わるなっていうのも変だものね」
「お前たち、言葉を慎しめ――こういった事は行動で示せばいいんだ」
クイントやメガーヌは目配せするのをゼスト隊長は真面目な顔で咳払いしつつ、それでも黙認はしてくれた。
全員揃って強者揃いなのでテロ撲滅に出向いてくれれば、チャイニーズマフィア相手でも戦えそうだが、それは出来ないという。
だからこそ民間人を守るという理由で、専守防衛に努めてくれる。少なくとも海鳴で理不尽な被害が出ることは防いでくれるはずだ。
さすがに俺もフィアッセたちを守るのが精一杯で、海鳴そのものを守るのは無理だからな。
「クロノ達の観点として、フィアッセの親父さん達の決定はどう思う?」
「あまり懸命な判断とは言えない。少なくとも政治家としての判断としては厳しい目を向けざるを得ないな」
「危険だと知りつつ、チャリティーコンサートを強行するからか」
「それもあるが、最初の開催国を日本とするのは明らかに挑発の意味も籠もっている。犯人達を刺激するのは望ましくない」
「それはむしろ犯人達をおびき出すことで、片をつけようとしているとも言えないか?」
「リョウスケ君、それは事件を解決したいと願う貴方の強さが望んでいる現実に過ぎないわ。考えてもみて?
主催者や、あなた達関係者はまだいいわ。犯人達だって同情の余地はない。
けれどチャリティーコンサートには、お客さんも大勢来るのよ。何も知らずコンサートを楽しみに来る人達まで巻き込んでいい理由にはならないわ」
「あ……」
ここが決戦の舞台だと意気込んでいるのは俺達のような関係者だけだと、リンディ提督が釘を差している。
ヒーローと悪役が大暴れしても誰も巻き込まれないのは、あくまで映画の中だけの都合の良い舞台に過ぎない。
実際の現場には観客だって大勢いるし、コンサートを運営するスタッフたちだっている。テロ組織が全力を出せば炎上するかもしれない。
俺も最近テロ事件とかに関わってばかりだったので、感覚が麻痺してしまったかもしれない。
「年のために聞くけどコンサートの開催を決めたのはあんたじゃないわよね」
「当たり前だろう、俺に何の権限があるというんだ」
「そのフィアッセさんのお父さんは政治家としても優秀なんでしょう。あんたとは違ってその点はきちんと弁えているでしょう。
その上でコンサートを強行しようとしているんだから、よほどの事情があるんじゃないの?」
「だから犯人達を……」
「だーかーら、それもあるかもしれないけど、もっと他に大事な理由があるんじゃないかってこと。
あんたじゃないんだから熟慮して決めたのか、危険であろうとも強行するべき理由があるかもしれない。
あたし達はそういった動機を重視して、捜査を行うのよ」
動機か……確かに俺はフィアッセを守ることと、マフィア達を倒すことばかり考えていた。
フィアッセが悩んでいたから助けてやりたいと思ったが、親父さん達の事情まで深入りしようとは思わなかった。
チャリティコンサートを開催しなければならない理由。そこにもなにかあるのだろうか。
<続く>
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