とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 九十三話



爆破テロ事件より日数が過ぎてきた今の辺りで、一旦状況を整理することにした。

一人旅していた頃が懐かしく感じられるほど、今関わっている事件は自分以外に沢山の人間が絡んできている。

誰が今何をしているのか、把握していないといざとなった際、動きが取れなくなる場合がある。どうせ今率先して動けないのだから、今の内に整理していくことにした。


まずは今回の事件に関わるきっかけとなった、恋愛脳女の現状を確認する。


「駄目だね」

「お前の取り柄は歌しかないだろう、それが無くなればどうなってしまうんだ」

「どうして追い込んでくるの!? そういうのって自殺の原因にもなるんだよ!」

「頭がハッピーセットのくせに」


 フィアッセ・クリステラは俺達が護衛しているので、安全は保証されている。

本人は我儘を言わないので無駄な外出もせず、大人しく従ってくれている。そういった意味ではありがたい護衛対象だが、本人は作曲に悩んでいる。

チャリティーコンサートに向けた課題で、フィアッセが一曲作ることになっている。国際的にも話題になりそうなコンサートで、フィアッセの曲が採用されれば披露されることになっているらしい。


実に大胆な案だと思うが、本人は死ぬほど悩んでいた。まあ課題だからね。


「せっかくだからラブソングにしようと思って、リョウスケへの気持ちを歌詞に綴ったの」

「その時点で気持ち悪いな」

「そしたらアイリーンが、時代劇口調になってるとか言って笑われたんだよ。ひどくない!?」

「俺への気持ちは時代劇なのか!?」


 何の曲を作ろうとしているんだ、こいつ。今どきのテレビって時代劇とかあんまりやらないのに。

話は聞いてやったがとりあえず俺にはどうしようもない問題だったので、同居人のアイリーンに任せることにした。

ちなみにアイリーンにも確認を取ったが、ラブソング以外のジャンルも試みたそうだが、散々な出来だったらしい。実は才能ないんじゃないだろうか、こいつ。


フィアッセはとりあえず無事なので、雇用主に連絡しておいた。


『お疲れさまです、報告内容はチェックいたしました。問題ないので引き続きよろしくお願いいたします』

「そちらの状況はどうだ」

『チャリティーコンサートの開催が決定いたしました。
メディア関係にはまだ周知されていませんが、最初の開催国は日本となりそうです』

「日本になるのか……」


 最初の開催国を日本に指定したのはフィアッセの事情もあるが、恐らくマフィア関連のいざこざを含めての計画だろう。

コンサートを餌にすると行った危険な考え方ではなく、コンサートそのものを決意表明とした姿勢によるものではないかと考えられる。

国家とマフィア、クリステラとチャイニーズマフィア。テロを発端とした事件を解決するべく、一つの目標に向けて全てが集約される。


あらゆる勢力が戦力を注ぎ込んで、目的を達成するべく動くだろう。


『警備保障は我々が行いますが、議員は貴方との契約更新を望まれております。
危険な役割はお願いするつもりはありませんが、フィアッセには貴方が不可欠だと考えています。

正式な返答は段取りを整えた上で改めて伺いますが、よろしければ時間と場所を頂いて話し合いを望むことになります』

「分かった。俺も狙われているし、今更知らん顔する気はない。足並みを揃えられればと思う」

『ありがとうございます。くれぐれも剣を持って戦おうとは思わないように願います。
近代兵器化が進む今の時代、剣によるアクションシーンは披露できませんよ』


 若くしてマクガーレンセキュリティ会社を継いだ才女で、今回の事件においてはクリステラソングスクールの警備も担当するようだ。

正義感があって責任感が強い反面、堅物でかつ融通の利かない一面がある。何故か剣にはあたりが強く、何かと剣士である俺に言ってくる。


まあどう見たって素人丸出しなので、事件現場で剣を振り回すなという注意は至極当然ではあるが。


「お前も時代劇だというのか……」

『? 何の話ですか』


 作曲の話をしたら緊張感ある会話の最後で、エリス・マクガーレンが少し笑い声を立てた。

生真面目なエリスでも、フィアッセの天然ぶりが可笑しかったようだ。緊張感はほぐれたが、それでいいのだろうか。

本人としても友人のフィアッセはやはり心配なのだろう。空気は柔らかくなったので、フィアッセの近況は話しておいた。


エリスへの報告は終えたので、今度は俺が報告を受ける番だった。


「治る見込みが出てきた!? 本当か!」

『正確に言えば、命を繋げられる程度には落ち着いてきたといったところか。
まずハッキリ言っておくが、父親の長生きは望めん。改善すべき箇所が多すぎて、頭脳を除いて総交換したいくらいだ』

「車で言えば事故車を使い続けるより、新車に買い換えろということか」

『君と私だから言える表現だね』


 フローリアン夫妻の治療を行っているジェイル・スカリエッティより進捗報告があった。

余命幾ばくもないキリエとアミティエの両親について、奇跡でも起こらなければ回復の見込みはない状況だった。

願いを叶える法術も能動的に発動できない為、神にでもすがるしかなかったが、キリエに泣いて土下座までされた以上、出来ることをやるしかなかった。


生命研究の第一人者であるスカリエッティに渋々資金と資材を投入してお願いしてみたら、意外な成果が上がった。


『延命治療を続けて、出来る所からメンテナンスしていく事になるだろうね。
ナノマシンを含めたエルトリアの技術、以前のクライアントより享受した古代ベルカ技術、そして私自身が推進している生命探求。

あらゆる全てを注ぎ込むことになるが構わないかね』

「以前のクライアントって最高評議会だよな……色々パクってきやがったな、こいつ」

『彼らの金を私に根こそぎ強奪させた貴方が言いますか』


 何やら得意げに悪企みしているスカリエッティ博士に一言言ってやったら、秘書のウーノから実に恨めしげに反論された。そ、その節はすいません……

聖地で活動していた頃資金が必要になった際、ウーノに頼んで黒幕だった最高評議会より巨額の資金を強奪させた事があった。

当たり前だが金を全部持っていかれた彼らは死ぬほどこちらを恨み、実行犯のウーノを鬼のように追い立てた。彼らの金は表に出せないものだったので、表立って手配される事はなかったが。


こうしてなし崩し的に俺のところへ身を寄せるしかなかったウーノは、今でもこうして恨み節を言ってくる。


「とりあえず聖地から出るなよ、庇えなくなるから」

『無論だ。君と関わってからというもの、退屈しない日々を送っているからね。未知なる技術や知識、経験が湯水のようにあふれてくる』

「大げさなやつだな、まだたかが一年未満だろうに」

『この一年でどれほどの事件が起きたと思っているのかね。何やら話に聞けば、そちらの管理外世界でもテロ事件に遭遇しているそうじゃないか。
ただの一般人なら一生涯費やしても、それほどの事件に巻き込まれたりしないだろうよ』

『私もめでたく貴方に巻き込まれて、人生逃亡生活ですよ……一生養ってもらいますからね』


 こうして更なる資金や資材援助を約束させられて、報告は終わった。

結局まだまだ時間も治療も必要な様子だったが、改善する余地は若干見えてきたと言ったところか。

まあ寿命が伸びただけでも儲けものだろう。キリエは父親の余命が僅かだったから、暴走してしまったんだしな。


フローリアン一家はどうにかなりそうだが、クリステラ一家の受難はこれからだ。














<続く>








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