とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 九十一話
日本を旅していた頃は全く縁がなかったのだが、今の俺は携帯電話を持っている。
子供の頃は公衆電話でも他人と手軽に話せるのが驚きだったのに、今では何処でも誰とも会話できるのだからすごい時代になったものだ。
しかも俺が持っているのは最新機種である。一応言っておくと、ハマっているのではない。俺は基本的に常に誰かと会話できるような状態になるのはむしろ苦手だ。
だったらどうして持っているのかと言うと、持たされているのである――夜の一族に。
どういう仕組みなのか全く分からないが、環境に左右されず何処でも繋がるものらしい。会話も多言語設定されており、セキュリティは万全。盗聴なんぞ以ての外、むしろ逆に突き止められてしまう程らしい。
電話以外にも色々な機能がついていてゲームなども出来るらしいが、基本的に興味がないので触っていない。ただメッセージやメール類のツールからはプライベートなラインが繋がっている。
海外の重要人物とはこの電話を通して一直線に繋がるらしいが、俺からかけることはあんまりない。逆に夜の一族の連中も俺の性格をわかっているのか、極度に通話を求めたりしない。
海外ではサムライとまで呼ばれて恐れられている御神美沙斗にも、同じ種類の電話を持たされている。マフィアを殲滅するべく血刀を振るうあの人は、悪党共から恨まれて恐れられている。
『良介、そろそろ電話が来ることだと思っていた』
「その様子からすると、日本での俺の活動が伝わっているようですね……」
『危険な事にはあまり関わらないでほしいのだがな』
対面ではないにしろ、話をするのはもうずいぶん久しぶりとなるが、相変わらず師匠は元気そうだった。相当な修羅場を潜っているはずだが、落ち着いたものである。
考えてみると俺も異世界へ行ったり、宇宙へ行ったりと、ずいぶんな冒険をしているのだが、裏社会で戦い続けてきた師匠と比較すると、大したことではないような気がしてくる。
師匠の声には咎めるような響きこそあるが、無事であった事に安心するような声色もある。心配をかけていたのだと思うと申し訳なくも思うが、この人も危険な事をしているのでお互い様な気がする。
師弟揃って平穏な日々とは程遠かった。
『お前の動向は聞かされているが、あくまで情報と分析によるものだ。出来ればお前の口からも直接聞いておきたい」
「何で俺の動向がそちらに?」
『あまり自覚がないのかもしれないが、お前の影響は大きい。お前が海外で巻き込まれた事件は裏社会の様相を激変させ、それにより起きた変化の波は劇的な衝撃を与えた。
それによりどの組織も巻き込まれ、勢力図も様変わりした。表裏揃って動きを見せ、私も乗じて活動を行ったのだ。
そんなお前の動向は、私の雇い主がリアルタイムで把握している。私の契約の一つにそれが含まれている』
「あ、じゃあサムライの名前が広がっているのは」
『妙な勘ぐりはするなよ。私はかつて大切な存在を守れなかった人間だ。過ちを悔いたことは数え切れないが、過ちを繰り返すほど愚かでないつもりだ。
お前の日常を護るのは、私にとっては当然のことだ。義務を果たすことが大人の責任だ』
こんなカッコいいことを堂々と言えるのが、すごいと思う。同じ子持ちとなっているが、責任感の度合いが違う。
どうして師匠があそこまでサムライとして認識されているか、これでよく分かった。この人は俺の動向を常に把握して動いていたのだ。
雇い主とはロシアンマフィアのディアーナだろう。妹のクリスチーナもやたら俺のことを気にかけていたし、ディアーナからすれば横展開するのは容易かったかもしれない。
それにしてもあのロシアンマフィアの姉妹、俺の動向を常に確認していやがるのか。
『国際手配犯が日本へ上陸したことも掴んでいる。特にその中には私が目をつけているものもいてな、お前の話を聞いておきたい』
「そこまで聞いているのなら、隠し立ては無理ですね。元よりそのつもりはないので、話しておきますよ」
この人は世界会議でも参戦していたので、夜の一族についてもある程度精通している。ロシアの一族とも契約を結んでいるので、影の部分も知っているだろう。
俺はすべてを話すことにした。戦闘機人や異世界の魔法は話し出すと摩訶不思議できりがないので、ある程度こちらの言葉で解釈できる表現にはしておいた。
発達した科学は魔法と変わらないと言うが、ミッドチルダの魔法や科学も地球側で表現を置き換えられるのだから不思議なものだ。
まあ映画だのアニメだの、最近はなんでもあるからな。結局信じてくれるかどうかだ。
『爆弾の解除にテロリストの撃退か……にわかには信じられないが、お前が嘘を言うとは思えない。そもそもお前自身にも不可思議な行動が散見されるからな。
時折地球上から姿を消している痕跡も見られているようだしな』
「げっ、そんな所までバレているのか」
多分ミッドチルダやエルトリアに行っていたことだろう。俺が地球からいなくなったから、夜の一族が捜索したのだろう。
事前に話はしておいたはずだが、それでも裏を取っているのだから恐ろしい女たちだ。隠し事なんぞ出来そうにない。
師匠は厳しい口調で続ける。
『チャイニーズマフィアの龍が非人道的な研究に手を出しているのも把握している。超能力者なるものを生み出し、新しい戦力にしようとしている事も』
「その辺ってやはり政府などにも伝わっているんですか」
『表沙汰にはなっていないが、危険視しているのは事実だ。実際に研究所の制圧も行っているし、被害者の保護にも全力を尽くしている。
被害者の中には女子供もいるんだ……外道共め』
優しい女性である師匠は復讐をやめないのは、復讐相手が情のかけらもない外道共だからだ。
せめて悪党であればまだ折り合いがついたかもしれないが、女子供でも平然と利用する外道となれば復讐心が滾るのは無理もない。
大義があればなんの遠慮もなく立ち向かえるし、立ち止まる必要性も薄れるだろう。こうして魔を狩る剣が生まれるのだ。
とはいえ、師匠も以前とは変わっている。
『話は分かった。以前にも話したが、私は雇い主こそ代わっていないが、所属は異なっている』
「確かディアーナのツテで、香港の警防隊に所属しているんでしたよね」
『正式名は香港国際警防隊だ。当初は協力による派遣だったのだが、皆の薦めやお前のこともあって、身を置く事になった。
香港警防は実力主義による厳しい現場ではあるが、何の因果か今では要職の地位についている』
「うお、すごいじゃないですか」
謙遜しているが、師匠の実力ならむしろ当然だと思う。鬼神のような人がこの世に何人もいてほしくはない。
俺のお陰であるような話し方をしているが、本当は多分高町美由希の存在が大きいのだろう。
世界会議で起きた事件や俺との関係、そして日本にいる美由希との関係性によって、彼女は表社会に身を置くことにしたのだ。
足を洗ったと言うべきかもしれないが、復讐は諦めず正攻法で倒すつもりなのだろう。
『お前から聞いた情報は非常に有用だった。お前の名前こそ出さないが、この情報を元に香港警防に申し出て対策を練る。近々動きを出すのでその時にまた連絡する』
「大人が動いてくれるのならそれに越したことはないですしね、頼りにしていますよ」
『ああ、ところでお前からも相談があると聞いたがこの件か』
「そうですね、今後について話したかったのですが師匠が動いてくれるならそれに越したことはないです。それでもう一つ」
『うむ』
「美由希が貴方と電話で相談したいと言ってます」
『なっ!?』
――美由希から呼び止められた。
『――ところでさ、良介に実はお願いしたいことがあるんだけど』
『何だよ、改まって』
『ひょっとしたら恭ちゃんから聞いているかもしれないけど、私じつは最近スランプ――というか、煮詰まっててさ』
『お、じゃあ再戦するか』
『弱ってるところを狙うの、やめてくれる!?』
思わず言葉に出してしまったが、考えてみればこいつがスランプである今が打ち倒すチャンスではないだろうか。
本人は常識人であるかのごとく振る舞っているが、実は剣がめっぽう好きなのは知っている。
俺もあまり人のことは言えないけど、剣の試合とか挑まれるのは厄介なので、今のうちに打ちのめしておいた方がいいのではないだろうか。
そう考えている間にも、美由希が両手を合わせて頼み込んでくる。
『それでさ、この前良介が取り次いでくれた電話の人がいたでしょう』
『電話の人……?』
『名前はきちんと教えてくれなかったけど、剣に詳しい女の人。あの人に相談したいから、また取り次いでほしいの』
げっ、何でこいつ、タイムリーに頼んできやがるんだ。
こいつが言っている女剣士とは、言うまでもなく御神美沙斗である。以前電話で話していた時高町家との縁を感じて、俺が取り次いだのだ。
師匠は最初こそ大慌てで拒絶していたのだが、結局最後は電話越しに話して、最後は泣いていたのを覚えている。
今にして思うと、復讐のために捨てた我が子との会話に泣いていたのか。
『恭也に相談しろよ、お前の師匠だろう』
『それはそうだけど、今私が抱えている悩みはあの人じゃないと駄目なの!』
『なんで?』
『女同士というのもあるんだろうけど……何だろう、かーさんとは違った意味で何か話しやすいんだよね』
そりゃそうだろう、もう一人の母親なんだからな。
本当なら師匠も話しづらいだろうし、断るべきなんだろうけど……本心は多分師匠も美由希と話したいんじゃないだろうか。
余計なお世話かもしれないが、親切なんてだいたいそんなものだろう。やるか、やらないか、だ。
人間関係は、恐れていては発展しない。
<続く>
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