とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 九十話
御神美沙斗は現在ロシアンマフィアの新しきボスに君臨しているディアーナの護衛を務めている。
夜の一族の世界会議が終わり、仕事自体は果たされたが、ディアーナとの雇用契約でチャイニーズマフィアの情報を提供する取り決めがあった。
世界会議は結局ドイツの一族であるカーミラが覇権を握ったが、各勢力の和解は成立して、新しき体制の下で一致団結して精力的に活動している。
夜の一族の目的は多々あるが、その中に報復が含まれている――世界会議を荒らした武装テロ組織、龍への復讐が。
「直接電話しても繋がらないか……まあ今の時期、忙しいだろうしな」
そしてチャイニーズマフィアの組織、龍への報復は御神美沙斗にとって主目的である。よって、雇用契約は今も存続されている。
超一流の御神の剣士、そしてチャイニーズマフィアに異常な憎しみを持っている。夜の一族にとってこれほどありがたい存在はない。
世界会議での働きにより信任された剣士は夜の一族により情報提供を受けて、マフィアへ徹底的な弾圧を行った。
その恐るべき剣士の姿を目の当たりにして、裏社会は彼女をよう呼んだのである――"サムライ"と。
「俺の名前が完全に独り歩きしているけど……結果として本人である俺の身の保証がされているから、いいことなのか、悪いことなのか」
世界会議で多々発生したテロ事件に巻き込まれ、あくまで結果的に事件を解決したことで、テロ組織から問答無用で恨みを買ってしまった。
完全な逆恨みだが、彼らにとってはどうでもいい。肝心なのは自分たちの目的を阻止されたことであり、逆襲されて少なからず痛手を負ってしまった。
"サムライ"として狙われた俺に代わって、御神美沙斗という日本人の剣士が猛威をふるったことで、彼女がサムライだと誤認されてしまう。
容姿や名前どころか、男と女という決定的な違いがあるはずなのだが、テロ組織を追い詰めまくっているという点では、どっちも変わらないようだ。
「とりあえず伝言を入れておけば、都合の良い時間帯に連絡してくれるだろう。何か聞ければいいんだが」
そして今御神美沙斗は表社会の治安維持組織と連携するディアーナのコネで、確か『香港国際警防隊』に所属しているはずである。
当然俺のような一般人が知っているはずなんぞないが、香港国際警防隊は少なくとも実力主義でマフィアやテロ組織と行った裏社会の強大な組織を相手に戦っているらしい。
これまで夜の一族に雇われる形で戦い続けてきた彼女も、ディアーナの推薦により表社会の治安維持組織に入隊する決意を固めたようだ。
危険な仕事であることに違いはないが、復讐心一つで裏社会を荒らし回るよりは健全だろう――健全と言い切っていいのか、微妙だが。
「お疲れ、良介。よかったら一緒に訓練していく?」
「お前と戦うのは疲れそうだからやだ」
「おー、やっぱり子持ちになると違うね。昔は剣とあれば黙ってられないという感じだったのに」
携帯電話をポケットに直して思いを馳せていると、修業を終えた美由希が道場から顔を出してきた。
一緒に稽古をしていたディードを見かけなかったので覗いてみると、先程まで話していた恭也と何やら語り合っている。師範代として意見を述べてくれているのだろう。
初春でまだ涼しい時分だというのに、美由希は暑そうに流した汗を拭いている。相変わらず剣には熱心な奴だった。
俺も別に情熱が冷めたわけではないのだが、やることが多いので労力を使いたくなかった。
「それでさっきは恭ちゃんと何をコソコソ話していたのかな〜?」
「お前と別れたほうがいいぞって苦言してた」
「余計なお世話過ぎる!?」
高町恭也と美由希は家族上は兄妹だが、血の繋がりは無縁の義兄妹である。だから一応結婚だって出来る。
過去に起きた家族のトラブルで美由希は暴走してしまい、俺が止めに入って恭也がアフタケアを行った。その結果、二人は結ばれたのである。
幼馴染のフィアッセが割りを食って失恋してしまった訳だが、あいつはその後能天気に生きているので、別にいいだろう。
その点をからかえるくらいには、こいつとも気安くなった。
「フィアッセのことであれこれ聞かれたんだよ。この町で起きた事件にも関わっていると勘ぐられた」
「あ、それ、私も聞きたい。良介がフィアッセを助けてくれたんでしょう」
「不覚だった。一円にもならないことをしてしまった」
「いやいや、立派なことだからね!?」
流石に恭也ほど詳しく話せないが、道場で話していたのだから勘繰られるのも分かっていた。変に誤魔化すと追求されるので、事実で誤魔化すことにする。
話す内容はシンプルだ。テロ事件が起きたことは表沙汰になっているので、俺が陰ながら事件解決に貢献したというだけだ。
事件の全容やテロ組織の詳細なんぞ一般人の俺が知る訳はないと、押し通せば納得してくれる。本来であれば知っていることのほうがおかしいことだからだ。
実際俺の話を聞いて、美由希は理解してくれた。
「なるほど、ディードちゃんが事件に関わって不覚を取ったんだね。危ないことは本来させるべきじゃないけど、本人の意志であれば難しいか。
いや、こういうのって納得したら駄目なんだろうけどさ」
「まあ、親としてはまずいと思う。子供を危険にさらしたんだからな。だが、ディードはこの敗北で自分を見つめ直している」
「一生懸命だね。危なっかしいところはあるけど、子供とは思えないほど強いよ。稽古の様子は恭ちゃんから聞いているんでしょう」
「ああ、変に考え込むより練習していた方が心身共にいいだろうしな。納得するまで鍛えてやってくれ」
「うん、任されたよ。その代わりというのは何だけど、フィアッセのことはお願いね」
「この家に帰すくらいは約束してやる」
恭也と違って、美由希は直接事件に乗り出そうとはしていないようだった。俺を信じて任せてくれるらしい。
高町美由希は過去の事件は凄惨な思い出として覚えているのだろうが、今の事件と直接結びつけていないようだ。
事情に精通していないのもあるが、昔のことはあまり思い出したくないのだろう。このスタンスから見えてくるものがある。
やはりこいつは、母親が自分を捨てたと思っている。
「美由希」
「何?」
――母親とは電話がつながる、しかし話して何になるというのか。
美由希本人は母親を恨んでおり、母親は娘が恨んでいると思っている。この認識を覆す術がない。
赤の他人が介入できる余地はなかった。
「フィアッセの親父さんと挨拶する機会があって」
「うん」
「娘をよろしくと日本に置いていったんだが、これをどう思う?」
「外堀を埋められてますな」
「マジかよ、怖すぎる」
「フィアッセって私がいうのも悲しいけど、スタイル抜群の美女だよ。何が不満なの?」
「性格」
「致命的だね!?」
美由希から直接言葉では聞けなかったが、とりあえず恭也の話に関する裏付けは取れた。
根の深い問題ではあるが、その感情のお陰で美由希が直接事件に関わりそうにないのは不幸中の幸いだろうか。
御神美紗斗から程なくして連絡があった。
<続く>
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