とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 八十九話
直接事件解決に繋がるような情報でこそなかったが、事件との因果関係を知るうえでは重要な話だった。仕方がないので、こちらからも情報を提供することにした。
とはいえ一般人の身の上であれば平気で打ち明けられるが、タイミング悪く先日アルバート議員や警備会社のエリスと仕事の契約を行ったばかりである。
半ば押し付けられた感じはあるが引き受けた以上、情報共有を軽はずみに行う訳にはいかない。信用を失う結果にあるし、信頼を得る機会が失われる。
フィアッセを見捨てれば済む話ではあるが、あんな恋愛脳な女でも一応高町家の居候生活で世話になった人間だ。このまま見捨てる訳にはいかなかった。
「情報料代わりに、とりあえず話せる範囲で説明してやる。
お前なら改めて口止めする必要はないが、桃子達に勘繰られないようにしろよ」
「ああ、信頼には応えよう。下手に隠し立てしても探られるだけだから、自分の中で情報を取捨選択しておく」
「全てに口をつぐむのではなく、小出しにして納得させるのか。さすが御神の剣士、学生時分には出来ない配慮だな」
「茶化すな。美由希とディードのかかり稽古も熱が入っている。今なら話せるぞ」
「相変わらずよく見ているな……分かったよ」
厳密に言えば親父さんとの契約において口止めされている機密は少ないが、言い換えるとこちらが弁えていると判断してくれているからだ。
社会人になれば、大人達は一から十まですべて教えたりしない。こちらが察することを前提に、お互いに仕事を行っている。
まず師匠について話せるのは、海外に怪我の治療へ行った時にお世話になった事。素性を明かさず、匂わせる形で関係性を詳細ではなく経緯で述べた。
そもそも御神美沙都本人だって詳しく語ってくれた訳ではない。素性を探らず、俺が何となく察しただけだ。
「そうか、今あの人は要人のボディーガードを……」
「お前の話を聞いた後だと、御神家としてはむしろ真っ当な生き方といえるのか」
「一般常識とは確かにブレを感じるかもしれないが、御神家や不破家がそういった職務を行うのも事実だ。
実際、俺もまだ心配ではあるが少し安心した。
良介が海外で世話になった方を警護しているのだろう。ならば素性面でも安心できる」
「う、うん、まあね……」
――ロシアンマフィアの新しいボスだけどね、その女。ディアーナの愛らしくも冷酷な微笑みを思い浮かべて、げんなりした。
ま、まあ世界会議以降は近親相姦しようした父親を破滅させた後に、裏社会の一掃を断行。ここ一年で大改革を行って、勢力図を激変させた。
悪を倒す巨悪といえばいいのだろうか。ディアーナとクリスチーナの極悪姉妹は高町美沙都と正式な関係を結び、龍というチャイニーズマフィアの組織を潰すべく動いている。
言葉を濁してしまうのは真っ当とは言い難いからだ。俺の味方になってくれているから、何もいえないだけである。
「才能がないのなら知識を叩き込んで、生き残る努力をしろと言われて剣の技術と知識を教えられたんだ」
「なるほど、才能ばかりはどうしようもないからな。実践で鍛えるには強さが不可欠、それが足りないのであれば技術と知恵ということか。
御神の理念に沿った生き方が、お前やディードに影響を与えていたのであればいいのだが」
「複雑ではあるのか?」
「いや、お前たちに他意はないし、少しでも力になれているのであればよかった。ただどうしても日常から遠ざかってしまう部分もある。
母さんはお前を我が家に招き入れた時、恐らく孤独だったお前の生き方に寄り添おうとしたのだと思う。
事件に巻き込まれたなのはを救ってくれたお前を、日常の温もりを伝えようとした。それに反していないか、気になってる」
なるほど、確かに御神の剣を知れば突き止めたくなる。剣を追求していけば、おのずと日常から遠ざかってしまう。
一方で多くの事件に関わった俺が生き残るには、剣が必要不可欠だった。素人だった俺が戦い続けるには、知識と技術が必要だった。
恭也が御神を頼ってくれたことに嬉しく思いつつ、高町の温もりから離れていってしまうのではないかと懸念しているわけだ。
俺は嘆息した。
「心配するな、恭也」
「うん……?」
「こんな俺でもこの家で生活するようになって、他人との縁に恵まれた。今ではあんなガキンチョを、自分の子供として育てている始末だ。
剣も頼みにはしているが、今ではむしろ出会った人達が力になってくれているよ」
そうして俺は今回の事件について説明して、ディアーチェ達の活躍を語った。
賢岳を頼りにしていたら、多くの事件を解決するなんて到底叶わなかった。ユーリ達が一生懸命力になってくれたからだ。
そういう意味では御神の剣にも大いに救われたが、仲間達には大いに助けられた。
桃子が教えてくれたことだって立派に力になっている。情報を通じて、俺は恭也に伝えた。
本人も安心したように頷いた。
「この際だから聞くけど、お前の父親が亡くなったのは?」
「……察しているようだから言おう。
当時の父は要人警護を引き受けたのだが――
爆破テロに巻き込まれてしまった」
「……そうか」
若くして病気で他界したという楽観的な発想は、これで消えた。
経緯を聞けないので断定は出来ないが、ここまで繋がると御神の剣士である父親も狙われた可能性はある。
御神の剣を断絶するのであれば、恭也や美由希の存在も知られるとまずいだろう。幸いにも御神は名乗らず、あくまで高町を名乗っているが。
ただ問題は、美沙都師匠は完全に御神を名乗っているんだよな……ちょっと心配だし、連絡を取ってみるか。
鬼神のような人なので心配無用だと思うが。
<続く>
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