とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 八十七話



「爆破事件だ。国際的な犯罪組織が会場に爆弾を仕掛け、両家を全滅させた」


道場で話すべきことではないのだろう。

他人に語るには明らかに重すぎる過去であり、家族に語るにはあまりにも悲しすぎる事件。

高町恭也という男は決して場が読めない男ではない。剣士として空気を読めないようでは、大成はできない。恭也という男の剣は優れており、彼という男の在り方を示している。


彼の大切な妹と、自分の大切な娘が剣を振るう道場。この場であるからこそ打ち明けられる事実がある。


「不躾な質問で悪いが聞いてもいいか」

「気にするな、慣れている」

「なんか引っかかる言い方だな……」


 美由希もそうだが、恭也も最近俺に対して遠慮がなくなってきた気がする。一年前に出会った頃は実に他人行儀だったというのに。

通り魔事件で高町なのはを、あくまで偶然だが助けたことで、放浪暮らしだった俺を居候させてくれた。高町の家とはそこからの縁だった。

同じ剣士ではあるが、同じ家族として扱うには少々敷居が高く、お互いに牽制して遠慮していた。それが今ではこうして家族の秘密を打ち明けられている。


道場での立ち話が案外、話しやすい空気を作ってくれているのかもしれない。お互いに剣士だからな。


「そもそも何で国際的な犯罪組織が、日本の両家なんぞ狙ったんだ。なんか恨まれるようなことでもしたのか」

「それについては俺達が使う古流武術について説明しなければならない」


 ……実をいうと高町美沙都から聞いていて既に知っているが、敢えて言及したりしなかった。

俺が師匠と仰ぐあの人からある程度事情は聞いているが、込み入った話までは聞けていない。

少なくとも復讐という動機でマフィア殲滅に動いている以上、想像は容易くつくというだけだ。あの人は恭也や美由希を非常に気にかけていたからな。


公平な立場というのは案外、気を使うものだな。


「古武術『永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術』


この御神流は先程話した両家、御神家と不破家が代々受け継いできた武術だ。
小太刀二刀を主武装としているが、"飛針"や"鋼糸"などの暗器も同時に操る殺人術でもある」

「殺人術……海鳴という平和な町中の道場で学ぶ剣とは思えないな」

「否定はしない。この剣の歴史は血塗られており、人を斬ることを恐れない剣術だ。剣の本質と言っていいかもしれない。
ただ剣の本質を理解しているからこそ、俺達は剣に精通し、剣を振るうことに意味を求める。

正義を名乗ることはしないが、邪剣を振るうことを良しとせず、血刀を振るうことで道を開いてきた」


 目の前を見る。ディードを指導する美由希の剣術は真っ直ぐで、曇りなき刃を示している。

俺も恭也や美由希を悪人だとは思っていない。むしろ俺などよりもずっと立派で、真っ当な善人だろう。

そんな彼らが血糖を振るうという事実は意外性と、ある種の納得があった。少なくとも町道場で得られる強さではないから。


高町美由希と真剣勝負を行った俺だからこそ実感できる。


「時には政府でさえ求められる御神真刀流。
御神家が伝える『御神流』と、不破家が伝える『御神流・裏』が強さの純度を磨き続けてきた。

完成の領域にある御神の剣士は、100人でかかっても倒すことはできない。全員が重火器や爆弾でも装備していない限り、倒すことは不可能だろう」


 ――高町美沙都、あの人の強さは別格だった。

悪人であれば容赦なく人を斬るし、マフィアという組織さえ恐れさせる破格の強さがあった。

俺もこの一年で強くなったとは思うが、あの人の足元にも及ばないだろう。異世界や宇宙の外で数多くの強敵と戦ってきたが、あの人を超える存在はいなかった。

御神の剣士はそれほどの強さを持っている。戦争の局面を変えてしまうほどの強さ。恭也の話が本当なら、マフィア達が恐れるのも無理はない。


ま、まあユーリとか異次元の存在もいるのだが、太陽と人間を比べるのは間違っているのでやめておこう。常識がねじ曲がってしまう。


「100人でかかっても倒すことはできないとあれば、御神の剣士を恐れるのは当然か。
不破家と御神家の力を恐れたマフィアが爆破テロを起こしたんだな」

「長いこと平和だったため、油断していたのもあるのだろう。
両家の隙をついてマフィアが爆弾を仕掛け、全滅させてしまったんだ。本当に、痛ましい事件だった」

「……それで両家はどうなってしまったんだ?」

「俺達がいるから察しているとは思うが、生き残ったのはごく僅かだ。
まず俺の父と、息子の俺は事情があって式には参加できず、偶然だが難を逃れられた。

そして当時熱を出して病院に行っていた美由希と――娘に付き添っていた母『高町美沙都』の4名のみだ」


 ――表情には、出さなかったと思う。必ず話に出てくると、分かっていたから。


高町美沙都と高町美由希。二人の関係性は事情を聞けば、俺のような頭の悪い人間でも理解できる。

これまで背景は察することしか出来なかったが、恭也の話を聞いてようやく全て分かった。あれほど娘を思っていた女性が何故、マフィア殲滅に命をかけているのか。


マフィアによって親類縁者を皆殺しにされたら、復讐に走るのも無理はなかった。


「母親の美沙斗さんは美由希を俺の父へ預け、その後行方知れずとなった」

「そうか」


「あの人の居所は、お前が知っているな」

「ぶっ!?」


 サラッと言われて一瞬硬直してしまい、その後恭也を見やると睨まれている。しまった、態度に出してしまった。

こいつ、駆け引きなんぞしないと高をくくっていたのに、何で勘ぐりやがったんだ。というかこれを言いたくて話をしていたのか。

恭也という男に名探偵の素質はないが、剣士としては破格の才覚がある。そして指導者としての素質と経験は十二分に持っている。


知識とはいえ俺が振るう剣の数々――そして俺の剣に憧れるディードから、御神流を見出したのだろう。くそったれ。


「あの人は、俺の父に頼み事をした。
"剣の家に女はいらないから捨てた"のだと、美由希に伝えてくれと」

「なっ――」


「美由希は、実の母親に捨てられたと思っている」


 ――以前素性を隠し、俺を通じて電話越しに美沙都師匠と美由希を会話させた。

あの人はあの時、涙を流していた。


一体、どれほどの感情が溢れていたのだろうか。














<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.