とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 八十六話
まずは準備体操とストレッチ。高町美由希指導の元、防具を一切つけずに丁寧に行う。
指導を受ける当初は準備運動に留めていたのだが、本人の強い希望もあって軽い素振りを取り入れるようになったらしい。
防具をつけて整列し、礼を欠かさない。一挙一動を指導する事は本人にとって面倒に見えるが、剣を追求する上で勤勉さを養うのが大切。
高町道場に入ったディードは一切不平不満を言わず、汗を流して取り組んでいる。
「ディードの様子はどうだ」
「お前の子供と聞いているが、指導をしてみて納得させられた」
「どういう意味だよ」
「優れた技術を身に着けているが、それはあくまで結果に過ぎない。取り入れる過程に欠けている為、柔軟性が足りない。
剣に通じる道は千差万別だが、あの子は二者択一で剣を振るっている。計算能力が優れているので欠点として現れていないが、経験豊富な実力者が相手だと剣筋を読まれてしまうだろう。
表現としてはいささか妙だが、温室育ちと言った印象を受ける。詮索する気はないが、どういった指導をこれまで行ってきたんだ」
「俺は別に温室育ちではないぞ」
「経験が足りていなかったという点では同じだろう」
……結構言うようになったな、こいつ。道場の師範代である高町恭也より説明を受けながら、内心げんなりとして聞いていた。
高町道場に預けたディードは稽古着に着替えて、高町美由希より指導を受けている。美由希も修行中であるはずなのだが、恭也曰く次へのステップなのだそうだ。
本来修行中の身で、他者への指導はまだ早い。本人が未熟の段階では他者より自身を鍛えるべきなのだから。
ただ高町美由希自身、伸び悩んでいる状態であるらしい。
「スランプという奴か」
「いや、目に見えて落ちている訳じゃない。俺の見立てでは美由希は大器晩成型だ。
天賦の才は凄いのだが、才能に恵まれていても成長速度はあくまでゆっくりだ。一度覚えた事は忘れないが、覚えは悪い。
俺としてはそれで問題ないと思っているが、本人はどう思うかは別の話だ」
「正確に言えば伸び悩んでいるように見えている状態という訳か」
「こういった場合指導者の俺が励ましても、気を使っていると思われて余計に思い悩んでしまう。美由希は特に剣に対して真剣だからな。
そんな時にお前からの依頼を受けて、良い機会だと美由希に指導を頼んだんだ。実際、妹弟子が出来て良い影響を受けているようだ。
案外、お前の子供だというのも美由希にとっては熱が入る要因かもしれないな」
「意趣返し的な意味合いに聞こえるぞ、おい」
高町家が荒れていた頃に、美由紀とぶつかりあった事がある。その後和解したが、当時の事件を経て他人行儀さはなくなった。ライバル的な立ち位置となった。
対抗心をむき出しにするほどではないのだが、意識されているのは確かだろう。俺自身、美由希については多少なりともそういった意識を持ってはいる。
そんな彼女が俺自身の子供を指導することになると、別の意味でも指導に熱が入るのかもしれない。美由紀の指導で俺を超えるほどになれば、ある種美由希の剣が上回ったと言えるからだ。
私情が入っていても、指導に手を抜く人間ではないので、その点は心配していないが。
「話は聞いたが、お前の遺伝子によって産まれた子供とはな……お前自身の意志ではないと聞いているが、大丈夫なのか」
「これがどうしようもない程憎たらしくて、手のつけられない子なら育児ノイローゼにでもなりそうだが、見ての通り淑女の見本のような女の子だ。
幼いながらに本人も経緯は理解しているはずだが、俺を父と呼んで慕ってくれている。
まあ幸いにも後継人や生活支援にも恵まれているから、あの子を迎え入れる上で不自由はないよ」
ユーリ達魔導書組とスバル達姉妹組、ヴィヴィオ達血縁組まで加わって、大層な家族構成となっている。俺の意思を超えて、大家族が出来上がってしまった。
日本を浮浪していた頃ならとても養子縁組なんぞ出来なかったが、人としての縁に恵まれてこうして家族が成り立っている。
むしろ一人でいた頃よりも生活水準が格段に上がり、子供達のおかげで文字通り命拾いまでした。これまでの苦難はこの子達がいなければ乗り越えられなかっただろう。
ディードも本来テロ事件なんかに関わるべきではないのだが、本人の意志で血刀を振るってくれている。
「……美由希は、俺やなのはの実の兄妹じゃない」
「恭也?」
「美由希は俺の父の妹にあたる人と御神家当主との間に出来た子供で、御神宗家の正統後継者だ」
美由希とディードが本稽古に入り、集中し始めた段階で、高町恭也が突然語り始めた。
そこで察する。突然俺の家庭事情に踏み込んできたのは、自分の家庭事情を話す前振りだったのだ。
打ち明けることに勇気がいる判断だったので、俺の家庭事情を聞いた詫びという名目で話し始めたのだろう。
不器用な男だと思う。けれど、自分自身素直ではないので分かる気もした。
「だから美由希は俺にとって従妹であり、なのはの従姉に当たる人間だ。うちにとっては家族同然ではなく、本当の家族ではあるんだがな」
「つまりディードと同じく、高町の家に迎えられた存在ということか。身内ではあるが、一人の子供を迎えるのは思い切った判断だな」
「……」
何気なく俺が尋ねると、恭也は黙って俺を見つめる。その視線は力強くありながらも、見定めようとする意思があった。
沈黙は決して長くはなかったが、お互いの中で緊張が生まれる。何を見ているのか、何を望んでいるのか。
一瞬考えたが、俺は静かに見つめ返すのみだった。茶化す場面ではないし、声をかけるべきときでもないと思ったからだ。
恭也が俺の態度をどう思ったのか分からないが、静かに語り始めた。
「――かつて。俺の父の実家である不破家と御神家との間で、婚姻が結ばれた。家の名前を出したが、本人達が望んだ縁であったという。
両家の間で結婚式が行われたのだが――事件が、起こった」
「事件?」
「爆破事件だ。国際的な犯罪組織が会場に爆弾を仕掛け、両家を全滅させた」
恭也の口から語られる壮絶な過去。
爆破テロと聞いてどうしたって連想してしまう、今の海鳴で起きた事件。
フィアッセより始まったこの事件は、過去からの因縁でもあった。
<続く>
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