とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 八十五話
俺の雇い主はアルバート議員だが、現場責任者はエリスとなっている。フィアッセの護衛をする上で、日々の報告は義務となっている。
討伐任務では敵を倒せば成果となるが、護衛任務は対象者の安全が第一だろう。そういった意味で俺は成果を上げていると言えるし、そうでもないと言える。
フィアッセは元気に過ごしているが、今のところ誰かに加害を加えられていない。俺がいるから守られているとは言い難いので、成果と言っていいのか不明だった。
護衛任務にあたる上でセッティングされたホットラインで彼女に報告した内容も、一言で表現すれば「何もありませんでした」だ。こんなのでいいのだろうか。
『お疲れ様です、引き続きよろしくお願いいたします』
「あ、ああ」
その点について、警備主任のエリスから特に何も言ってこない。怠慢だと責めないし、過剰に労ったりもしない。仕事の上司としてのあり方だった。
この一年間海外や異世界、惑星外にまで進出したが、俺自身は民間人の域を出ない。プロとして人を護る仕事を行ったことはなかった。
振り返ってみれば聖女カリムの護衛を引き受けたことはあったが、あの時も聖女カリム本人が何故か嬉々として俺を雇い入れてくれて、過剰に称賛してくれたのであんまり参考にならない。
聖地で当時助けた娼婦の奴が謎の人脈によるコネを発揮して、職にありつけたようなものだ。結局あいつもどういう女だったのか、未だに分からない。いつも娼婦姿でニコニコして俺にくっついてきやがったからな。
『御要望ありました高町の件ですが、正式に承認いたします。ただし日程を指定しますので、その日の行動をお願いいたします』
「安全が確保できたということか」
思っていたよりも早く承認が降りた――これでフィアッセが高町の家に帰れる。
脅迫状が送られて以来、フィアッセは高町家を巻き込むことを恐れてマンションへ移った。アイリーンと同居して、自分一人で抱え込んだのだ。
家族会議で話し合った結果であり、桃子達にとっても心配でこそあったが、フィアッセの意思を尊重して送り出した形だ。クリステラ家の意向もあったのだろう。
その後状況が変化したので、フィアッセの希望も合わせて俺がエリス達に申し出てみたのだ。
『マスメディアも含めて対処済みです。ただし不要な行動を取らず、スケジュールに合わせた行動をお願いいたします』
「分かった、ありがとう。こちらも注意するが調整は頼む」
家に帰ると言っても、帰宅するのではない。帰省するという表現が近いかもしれない。
テロ事件こそ防いだが主犯は捕まっておらず、チャイニーズマフィアは健在。高町家に帰るよりも、護衛がいるマンションで安全に過ごしていた方がいい。
今回はあくまで元気な顔を見せるのと、テロ事件が起きた事で家族に心配かけたことへの謝罪に近い。フィアッセに何の非もないが、それはそれとして心配させたことを謝りたいのだろう。
フィアッセが高町家に居候していたのは、脅迫状が送られた点からも敵に知られていると言っていい。敵の立場であれば第一に見張っておくべきポイントだろう。
自分勝手にノコノコフィアッセを連れ出すのは、敵に見つけてくださいと言っているようなものだ。俺も狙われているのだから、護衛として出向くのも論外。
外で待ち合わせするのもあまり良い手ではない。人目を忍べば出来ないことはないのだが、高町家は人数が多いので何処からか足はつく。
よってエリスと連携して、各方面に調整してもらう。要するに敵の目を高町家以外に向ければいいのである。日本政府を筆頭に主要各国がテロ組織撲滅に徹底している今がチャンスとも言えた。
そうした段取りを行い、月村すずかこと妹さんの索敵も徹底してもらって、安全を確保したのである。
「おかえりなさい、フィアッセ。ニュースを見たわ、本当に大変だったわね」
「心配をかけてごめんね、桃子。大丈夫、リョウスケが守ってくれたから」
「うんうん、やっぱすげえよなうちのボスは」
「何であんたが胸を張ってるねん、この単純サルは」
高町桃子とフィアッセが再会の抱擁を交わし、城島晶とレンが安堵の口喧嘩を行っている。これで少しは高町家への恩返しも出来ただろうか。
爆破テロやさざなみ寮の襲撃については俺というより、俺の仲間が解決しただけなので、あまり胸を張れる功績ではない。まあでもフィアッセ本人が無事であれば良しとしよう。
事情は前もって話してあるし、高町家の連中には協力を申し出てある。ガキンチョも多い一家だが、年齢に合わず思慮深い奴らなので、表立って言い触らす真似はしない。
高町なのはも部屋から出てきて、ニコニコ顔で出迎えてくれる。
「なのはもそろそろマンションへ行こうと思っていたんですよ。会えてよかったです」
「お前は学業に勤しむべきだろう」
「それはそうなのですが、やっぱりフィアッセさんやおにーちゃん達が心配ですし」
モジモジしながらも、前向きな発言をしてくる。ジュエルシード事件を通じても子供らしさが失われることはなかったが、少しは前向きになったのだろうか。
高町なのはは魔導の才能があると聞かされているので、一応戦闘能力はフェイト並みにあるらしい。本人の性格や気質と全くあっていないので、宝の持ち腐れとなっているが。
そういう意味では戦力に数えられるのだが、戦う気がない奴に無理強いしても仕方ない。本人のやる気だけは買ってやって、適材適所で割り当てていこう。うちの仲間達もガキが多いしな。
フィアッセに関する件は再開させたことでほぼ為し遂げたので、俺は自分の要件に移った。
「ディードはどうしてる、様子を見に来た」
「あの子なら道場で訓練してるよ。ウチはクロノさんから聞いてるけど、良介からもちゃんと説明してや」
「説明……?」
「あの子、良介の子供とか言うてるやん。その説明」
「――うぐっ」
一瞬悩んだが、すぐに結論が出た。下手に誤魔化してもいずれ発覚する問題であると。
高町家には今まである程度事情は話したが、肝心なところはボカしている。ファンタジー過ぎて説明しても信じて貰えそうになかったのだ。
ディードも高町兄妹に鍛えてもらっているし、ギンガ達も俺が兄だと話していて高町家によく遊びに来ている。ディアーチェも父の子だと胸を張っている以上、ユーリ達のことも明るみに出る。
ということでもう少し詳細に話すことにした。ディードは故あって産み出された、遺伝子上の子供であると。
「えーと、つまり試験管ベビーってやつですか」
「お前も変なことを知っているな……とりあえず認識としてはさほど間違えていない。俺の遺伝子が流用されて産まれている。
違法といえばそうなんだけど、責任の追求は既に行われている。俺が引き取った形ではあるが、戸籍云々の手続きは出来ているので安心してくれ。
俺自身成人はしていないので、後見人はいる」
「私には以前少し話してくれたわね。話したと思うけれど、力になれることがあればいつでも相談してね」
「ああ、分かっている。ギンガやスバル達もお世話になっているからな、ありがとう」
「いいのよ、むしろあの子達に元気をもらえているわ。費用は遠慮したいんだけど……」
「その点は家族であろうともきちんとするべきだ、受け取っておいてくれ」
高町桃子は家庭の問題で一時期自信を失いかけていたが、日本へ引っ越してきたナカジマ一家と関係を持つことで立ち直れた。
元々子供好きなのもあって、元気な女の子たちの面倒を見て自信を取り戻したようだ。今ではつらつとしていて、高町家も元通りとなっている。
俺が裏でギンガ達に手を回したのもあるが、今ではすっかり高町家と交流を深めて日々元気に生きているようだ。その費用は食費も含めて支払っている。
クイントやアルピーノにも説明しているので、彼女たちからも費用は出ている。
「元気な顔を見せてくれて嬉しいわ。ご飯も作るからいっぱい食べていってね」
「うん、ありがとう。また家には帰れそうにないけど、全てうまく行ったらまた帰ってくるね」
「少し心配ではあるけど、良介も一緒だから安心ね」
「慥かにそうやね。フィアッセさんがいれば、良介も変な行動はせえへんやろうし」
「俺が面倒みられているような口ぶりはやめろ!?」
そうしてフィアッセは家族であり、友達でもある桃子と楽しそうに話している。俺の前ではのほほんと恋愛脳を全開にしているが、やはり家族がいると安心感が違うのだろう。
どこまで力に慣れているか分からないが、やはり家族がいるといないのとでは話が変わってくる。実の父親であるアルバート議員とはまた違った絆だろうからな。
フィアッセはもう心配なさそうだったが――桃子と話している彼女を見ていると、レンは俺を引っ張ってくる。
「あのディードって子、うちも面倒見ているんやけど」
「おう、お前も鍛えてくれているのか」
「変に踏み込むようで申し訳ないんやけど、もしかして昔何か手術とか受けたんか」
「手術……?」
「掌底を打ち込んだときの感覚になんというか、違和感を感じたんや。美由希ちゃんとかも鍛えていて気付いているっぽい。
こういう言い方は誤解を招くかもしれんけどあの子、普通の身体じゃないね」
――げっ、戦闘機人だとバレたのか。
戦闘機人は決してメカメカしい感じではないし、体が機械でできているわけではない。特にディードは天然培養だからな。
だがそれでも意中相手には違和感を与えてしまうのか。この点にディードの改善点に繋がる何かがありそうだな……
<続く>
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