とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 八十四話
その後なし崩し的に盛り上がり、歌姫アイリーン・ノアと一日過ごすことになった。
茶菓子を食べて歓談に花を咲かせ、ディアーチェと一緒にアイリーンが夕ご飯の買い出しへ出かけ、美味しい食事を囲んで打ち解ける。
気が合ったというよりも、アイリーンという女性の社交性にあるのだろう。お酒まで持ち出しそうになったが、ディアーチェが同席していたのでソフトドリンクに留まった。
そうして過ごした夜――
「フィーはダウンしちゃった。少し早いけど、今日一日盛り上がったから疲れちゃったかな」
「夜のテンションが怖いから、寝かしておいてあげよう。ディアーチェ、付き添ってやってくれ」
「承知した」
思いの外素直に承諾して、ディアーチェは席を立った。顔には出していないが、アイリーンに振り回されてあいつも疲れたかもしれない。
話には聞いていたが、ディアーチェが気に入られているのは本当らしい。買い物へ行った時は服まで買ってもらったようだ。
護衛の立場上あまり気軽な行動には出れないのだが、その点は月村すずかという最強の護衛がついているので心配はない。この子がいれば奇襲などは不可能だからな。
護衛が一番緊張するべき点を、妹さんが全て補ってくれるのは本当に大助かりだ。俺のような素人でも何とか護衛が務まっている。
「ふふふ、ここから先は大人の時間だね」
「マスメディアに知られたらザ・スキャンダルだな」
「噂のサムライと歌姫のカップルは、世界を震撼させるね」
一応指摘してみたが、案の定にこやかに返された。海外から日本へ渡って大成したアイリーン・ノアは、計り知れない。
サムライの名前がどこまで世界に浸透しているか知らないが、アイリーンが言うほど世間を賑わせてはいない。多分単純にフィアッセ経由で聞いたのだろう。
同居人のアイリーンがフィアッセのご両親やエリスと繋がっていない筈がないので、多分何らかの連絡は取れているはずだ。家族同然の関係と言っていたしな。
アイリーンは飲み物を出して、ソファーに座る、出された飲み物にアルコールがあるかどうかは伏せておく。
「二人っきりになったんだし、子供の前では言えない話でもしよっか」
「ガールズトークが本番だな」
茶目っ気たっぷりに言っているが、忍やフィアッセのような恋愛の雰囲気はない。文字通り、子供の前では言えない話をするつもりなのだろう。
こちらが素直に応じたのは、彼女自身と俺も話をしたかったからだ。フィアッセと子供の頃からの関係であれば、クリステラに深く通じているはずだ。
親父さんやエリス相手ではどうしても社会経験の差から圧倒されてしまうが、肉親同然の彼女から聞ける情報もきっとあるはずだ。
やはり一番探りたいのは親父さんやエリスがなぜ俺を指名したのか、その意図を確認したいところだ。
「フィアッセから何度も聞かされたけど、リョウはいい人だね。今日一日遊んでた時も、フィアッセの事を気にかけてくれていた」
「まあ一応親父さんからも頼まれているしな」
「ぶっちゃけて聞くんだけどさ、フィアッセのことどう思っているの?」
「同じ居候先で知り合った同居人だよ」
「私が聞きたいのって、温度感なんだけど」
「そのまんまの意味だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ふーん……マジっぽいね」
グラスを傾けて見やるアイリーンは真剣な眼差しだったが、直ぐに口元を緩めた。真意は伝わったのだろう。
これは本心からはっきり言えるが、フィアッセへの恋愛感情なんぞない。そもそも俺は今特に気になっている女性がいない。
ヴァイオラとの婚約や、カレン達の愛人話、異世界での政略結婚など色々出ているが、個人への執着はなかった。
相手が想ってくれているので人間関係は真剣に考えているが、自ら率先して発展させようという意思まではない。
「そもそも真剣かどうかという点では、あいつも同じだろう」
「フィアッセは君に熱心な様子だけど」
「口では色々言ってるけど行動には出ていないだろう、あいつ」
「おっ、ちゃんとその点は気づいているんだね」
フィアッセはいつも俺へ気持ちを色々口にしているが、自ら率先して関係を進展しようとはしていない。
ご両親へ俺を紹介したリはしているが、あくまで機会があってこそだ。自分の気持ちを最優先に行動することは今まで無かった。
恋愛脳なのは確かにそうなのだが、どちらかといえばそういったことに憧れている面が大きいのだろう。特に失恋した後だからな。
あいつは多分俺が嫌がるのを分かっているから、積極的に恋愛を口にできている。
「よかったよ。私はどちらかといえば恋愛話とか好きだし、フィーのことは素直に応援してあげたいけどさ。
こういう状況なのも会って、もし君が真剣に受け止めているのなら話し合わないといけないと思って」
「安心してくれ。フィアッセは美人だと思うが、面倒くさい奴でもあるから、色ボケはしていない」
「ちょっと、姉妹同然の私にフィーの悪口はNGだよ」
「姉妹同然だから普通に言えてる」
「おっ、いいね今のセリフ。フィーにもたまにはいってあげてね」
アイリーンはフィアッセの気持ちをきちんと分析できているようだ。多分、認識は俺と同じだろう。
俺のことを想ってくれているが、同時に自分のことをあまりきちんと想っていない。
恋愛をするなら想いを叶えたいと思うはずだが、前向きな気持ちを持っていない。だからいつも口にするだけだ。
このままでは発展していくことはないだろうし、フィアッセも今の状況では無理だと分かっている。
「君はフィーのこと、知っているんでしょう」
「……あんた自身はどうなんだ?」
「それなりに、かな。勿論家族として知るべきことは分かっているけれど、逆に言えば家族だからこそ知られたくないことだってある。
フィアッセの両親、私にとっても家族そのものでもあるんだけど、今回の事はちゃんと聞かされている。
多分リョウは身内以外で初めて知った人なんじゃないかな」
「そうか? あいつの交流関係からすれば、俺以外にも知っているやつはいるだろう」
「ううん。それを証拠に、君にフィアッセの護衛を任せているでしょう。そしてフィアッセは喜んで受け入れている。
今のフィアッセに必要なのは、そうした適度な距離感を持った人だと思う」
「それだったら身内の方がいいんじゃないか」
「さっきも言ったけど家族だから言えないことがあるし、身内にはしられたくないことがある。
そういった事も君なら上手く付き合える筈だよ」
「やけに断言するな、ってまさか」
「うん、今日一日観察させてもらったからね」
げっ、こいつ。俺が今日探りをいれるつもりだったのに、逆に探られていたのか。
フィアッセとの関係を勘ぐられる程度に思っていたのに、フィアッセとの関係はもう把握済みで俺自身を調べていたのか。
くそっ、情報を聞き出したかったのにむしろ与えてしまった。
<続く>
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