とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 八十三話



アイリーン・ノア、クリステラソングスクールの卒業生。

年齢はフィアッセより1歳年上で、アメリカ人の歌手らしい。直接会う前に、フィアッセから簡単な紹介を受けた。

男の俺がいうのも何だが、女性の年齢を余裕でバラしているのだがいいのだろうか。それとも最近の若い女性は年齢にはうるさくないのか。


異世界などで組織を率いていた時、若い俺がリーダ格であることに周囲から驚かれた印象がある。自分自身年齢なんて気にしないが、十代や二十代相応であれば気にしないものかもしれない。


「改めて紹介するね。この人がアイリーン、私の友達で家族同然の人」

「あなたがディアちゃんのパパさんなんだ、よろしくね」

「……ディアちゃんって何?」

「我をなぜかこう呼んで聞かぬ。何度言っても改めないのだ、父よ」


 姉御肌で活動的な印象の女性が、俺と同行するディアーチェの頭を撫でている。プライドの高いディアーチェがげんなりした顔で無抵抗だった。諦めているらしい。

海外でも有名な歌姫で、フィアッセとも見劣りしない美人。生命力に満ちた魅力があり、直接歌を聞かずとも彼女が傍にいるだけで場が華やかになるようだった。

結構気安い雰囲気で、ファンサービスも旺盛なのかもしれない。まあ初対面の俺にまでにこやかなのは、フィアッセが一緒にいるからだろう。異性ともなれば警戒されるだろうからな。


彼女と対面したのはマンションの一室、フィアッセが住んでいる部屋である。


「貴方には以前から会いたかったんだ。フィーからよく聞いているよ」

「どうせロクな事を言っていないんでしょう」

「あ、別に敬語じゃなくてもいいよ。ここは女の園だけど、ガールズトークは時に男の子の存在も貴重だから!」


 快活に笑って、俺の肩を叩く。別に遠慮していた訳じゃない、フィアッセの友だちというだけであまり仲良くしたくなかったのだ。

案の定苦手な感じの女性ではあるが、挨拶を交えた程度でも善人らしいのはよく分かる。クセの強さも含めて、芸能界で生きている逞しさがあった。

考えてみれば芸能人と接触している訳で、世の男性からすれば憧れる光景なのかもしれない。大人の社会で生きていると、こういった感覚が麻痺してくる。


なにしろ宇宙戦艦を指揮する女艦長とか、異世界で大商会を切り盛りする女主人とかいるからな。世の中には、女傑と呼ばれる者たちが世界を成り立たせている。


「それでフィーの話だけど、君のことをナイトとかサムライとか言って毎日のように噂しているよ。カッコいいね」

「ナイトとサムライってえらく違うんだが……少なくとも今の日本人像から離れているな」

「フィーのことを守ってくれているんでしょう、ありがとう」


 そう言ってアイリーンは握手を求めてくる。信頼というよりも、感謝の証なのかもしれない。一応素直に応じておいた。

同居人らしいが、家族同然の付き合いなのは確からしい。単純な噂話ではなく、フィアッセの護衛をしていることも信じてくれているのだろう。

どう見たって素人丸出しの民間人が、フィアッセの護衛として側にいる。不審に思っても仕方がないが、彼女の表情から何も疑っていないところが見て取れた。


紅茶とお菓子を出してくれて、俺達がテーブルについた。


「アイリーン、でいいのかな。日本語が上手だな」

「祖母の紹介でね。同世代のフィーが居るクリステラ家で養育を受けたの。
フィーとは姉妹のような関係でさ、クリステラ家の家庭方針に則り日本語教育を施されたんだ。そしてソングスクールにも入学したってわけ」

「その話からすると小さい頃から、フィアッセの家でお世話になっていたんだな」


 祖母の紹介であろうとも、普通は両親の元で育つはずだと思うが、思い返してみると日本人の常識でしかない。

海外でも夜の一族の連中は小さい頃から活動していたようだし、異世界の連中も十代で既に自立している者が多かった。

かくいう俺も孤児の出だからではあるが、こうして十代で既に孤児院を出て生活をしている。アリサ達に頼りきりで自立していると言い難いが、生活の基盤はできているしな。


なので感心した素振りを見せていると、フィアッセが捕捉してくる。


「アイリーンには子供の頃からロンドン市内に連れ回されたりしていたんだよ」

「フィーを元気付けようと、お姉さんが外の世界を見せてあげていたんだよ」

「うーん、アイリーンの場合お姉さんというか保護者みたいな顔をしていたよね」

「むむ、同世代のお姉さんとしては聞き捨てならないな」


 後で聞いた話だが、フィアッセは幼少時に入退院を繰り返していたらしい。HGSの影響かもしれないが、そこまで穿って聞けなかった。

ただ子供の頃といえば精神も未熟な時期だ。特殊なHGS患者であるフィアッセは、能力面も含めて制御が未熟だったのかもしれない。

今でも暴走が懸念される身である。両親も含めて、専門機関が相当気を使っていたのは想像に固くない。


あまり歓談の場で話す内容ではないので、その辺は追求しなかった。


「エリスから聞いたけど、君もフィアッセのご両親と会って話は聞いたんだよね」

「まあこうして同じマンションのフロアで活動しているしね」

「だったら私も仲間だね。フィアッセに付き添って、今活動拠点を日本に移して同居しているんだから」

「芸能界とかには詳しくないけど、結構そういうのって思い切った決断じゃないのか」

「チッチッチ、どこの舞台でも結果を出すのがプロだよ」


 アイリーンは冗談めかしていっているが、実際はとんでもないことだと思う。

日本の芸能人が海外に拠点を移して活動する話は結構聞くが、成功例は限られている。日本とは文化も価値観も違うからだ。

海外で活躍していた歌姫が、日本に拠点を移すのは思い切った決断に思える。無謀と言い換えてもいい。


それでも結果を出しているのだから、本当にすごいことなのだろう。フィアッセも我が事のように目を輝かせていた。


「アイリーンには本当に感謝している。公私ともに支えてくれていて、励みになっている」

「あれ、じゃあ別にお前の親父さんに頼まれて俺が側にいる必要はない気がするんだが」

「全然違うよ!」

「違うってどんな感じに?」


「えーと、日本っぽくいえばアイリーンとリョウスケは……別腹?」

「どこが日本っぽいんだ、それ!?」


 フィアッセの精神安定剤としての役割も親父さんから任されているのだと勘繰っていたが、アイリーンがいれば不要に思える。

実際会ってみないとどういった人物か分からなかったが、非常に魅力的で好印象な女性だった。

単純な友達ではなく、幼い頃からの家族付き合いであれば、これ以上ない存在に思える。


親父さんやエリスはどうして改まって、俺に護衛を依頼したのか。まさか剣の腕を見込んだとは到底思えないしな。


「うんうん、私もその点は大いに興味ある。家族としてフィーとの関係が聞きたいな」

「親公認だよ」

「わお、すごい。一番難しい壁をクリアしているんだね!」

「一番難しいのは、当事者の俺が受け入れるかどうかだと思うぞ。ちなみに俺はこの仕事が終わったら縁を切る」

「それはそれで極端すぎるよ、リョウスケ!? ひどい!」

「あはは、なるほどね。何となく関係性はわかったかな。あ、君のこと私も名前で呼んでいい?」

「それは全然問題ない。こっちも呼ばせてもらっているしね」


「うん、じゃあよろしくねリョウ」

「……そんな呼ばれ方したのは初めてだ」


 こうしてアイリーンとの面通しは済んだ。好印象だったが、フィアッセ補正が強いのもあるのだろう。

しかし改めて思うが、俺の役割が見えなくなった。


親父さんやエリスの狙いはどこにあるのだろうか。














<続く>








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