とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 八十二話



フィアッセの現状はご両親にも伝わっている為、今彼女が住んでいるマンションにもエリスの警備会社より人員が配置される事となった。

エリス本人はアルバート議員の警護として英国へ同行するが、日本との連絡は彼女本人が行うようだ。この点は正直意外だった。

英国議員を任される彼女の立場は重要だというのに部下に任せず、日本との連携も行ってくれるらしい。ご令嬢であるフィアッセ本人の立場も重要だというのは分かるけど。


ということでこのマンションも物々しい感じになっているが、実情を知らなければ日本の片田舎になる新築マンションに過ぎない。


「日本に残る方が安全だという趣旨は分かったけど、お前は滞在中どうするつもりなんだ」

「勿論、リョウスケと一緒に住むよ」

「同棲感を出すな」


 マンションの一室。テーブルの向こうでニコニコ微笑んでいるフィアッセに、俺はげんなりした顔を向ける。俺の隣には普通にディアーチェが座っているのに。

親父さんとの宴席で聞かせられた情報を元に、アリサが情報収集と分析を行ってくれている。正式な護衛任務となり、アルバート議員とのパイプが出来たのは立派な成果だった。

夜の一族からも情報は共有されているが、英国でも有名な議員さんとの協力を受けられるのは大きい。チャイニーズマフィアとの戦いはこれまで受け身だっただけに、不安もあったからな。


爆破テロ事件の予熱は冷めつつあるにせよ、テロ撲滅に向けた声は大きくなっている。市民を脅かす事案だからな。


「本当は職場復帰したいけれど、パパからはあまりいい顔されていないの。リョウスケはどう思う?」

「お前の気持ちは分かるし、桃子の店が襲われる可能性は高くはないけど、今後を考えると今はやめておいたほうがいいと思うぞ」

「今後というのは何?」

「テロ事件がこのまま収束するならいいけど、今後また起きた場合はお前自身の顔や名前が出る可能性がある。そうなると桃子の店にも良くも悪くも関心が向くだろう」

「うーん、確かにそうかも……」

「それにチャリティーコンサートを強行するなら、どうしたって話題になるだろう。全部片付いてからの方がいいぞ」


 フィアッセ・クリステラは被害者ではあるのだが、問題は被害者だから世界の全てが優しくしてくれるとは限らないことだ。

世間一般は被害者には同情的にこそなってくれるが、同乗されるのもまた関心を向けられることではあるので、今の世の中騒ぎ立てられてしまう。

被害者への声も大きくなればそれはそれで騒ぎになってしまうので、目立ちたがり屋でもないフィアッセには負担となってしまうだろう。


名こそまだ知られていないが、フィアッセは歌姫なのだ。美人の英国女性、悲劇のヒロインとあれば注目は集まってしまう。


「チャリティーコンサートの件。親父さんに確認してもまだ話せる段階じゃないとか言われたんだが、結局どうするんだ」

「ごめんね、リョウスケ。私からもまだ話しては駄目だと念を押されているの。
日本で開催することは決定しているんだけど、その決定はあくまで家族間での結果でしかないんだ。

これから先各方面に調整して、正式な発表が行われるの。発表が決まる段階になれば話せると思うから、待って欲しい」


 フィアッセや親父さんも、俺が世間に言いふらすとは流石に思っていないだろう。

この用心はまだ十代のガキである俺への不安や警戒よりも、まだ家族間での決定で本当に実現できるのか、これから動き出す予定だからだ。

今から経緯を全て打ち明けて、結局開催できなかったとあれば、現場の混乱を招いてしまう。


親父さんやエリスは今のところ、フィアッセ本人を守ってくれることを第一に俺に望んでいるということか。


「私からも聞きたいんだけど、リョウスケはこれからどうしようと思っているの?」


 フィアッセが尋ねると、隣で静観していたディアーチェが目を輝かせてこちらを見る。おい、何を期待しているんだ。

爆破テロ事件が起きた後、自分の友人知人にはすでに根回しは終えており、各方面に協力は取り付けている。

夜の一族は今さまざまな事情の対処に追われており、こちらからコンタクトを取るのは難しい。フィアッセの護衛として迂闊な行動にも出れない。


この状況でできることといえば――


「もし時間があるなら、私に付き合って欲しいな」

「時間があるというか、お前の親父さんに雇われているから厳密に言えば今が仕事の時間なんだが」

「まあまあ、聞いて。まだ決定じゃないにしろ、チャリティーコンサートが開催される。
リョウスケは事情を知っているから言えるけど私、この間声が出せなくなった時期があったでしょう。
今はもう問題なく声は出せているけど、コンサートになれば技術が求められる。

練習は再開したけど正直言って、舞台に立てるレベルにまで復帰できていないんだ、私」


 ――なるほど、正直言って思いも寄らない問題だった。俺としては迂闊と言える。

俺が海外に行っている間高町家に問題が起きて、フィアッセが声を出せなくなった時期があった。

今はもう問題は解決して声も出せるようになったので安心していたが、声の技術までは回復していなかったらしい。


これは剣に例えれば納得できる話だった。剣だって鍛錬しなければ、技術は劣化してしまう。


『それでママやソングスクールの先生に相談したら、課題を出されたの」

「課題……?」

「私のオリジナルソングを作る事。自分自身が納得できる歌を作る事ができれば、歌姫として復帰できると諭されたの」


 何か分かるような、分からないような話だった。

剣の技術が衰えたことに悩んでいたら、必殺技を作れと言われたようなものじゃないだろうか。

必殺技ができれば強くなったように思えるが、そもそも技術が劣化しているのだから技どころの話ではない。


歌にしても同じであるはずで、実際フィアッセも困惑しているようだった。


「私も悩んでいて、リョウスケに付き合ってほしいの」

「ド素人の俺に何を求めているんだ」

「まず私の同居人であるアイリーンに相談するつもりなんだ」

「ほうほう」


「だからリョウスケの事、紹介するね」

「いきなり脱線しているじゃねえか」

「リョウスケの事、前から聞かれているの。お願いね」

「何が!?」


 いつの間にか後回しにされていたフィアッセの同居人への紹介。

隣に座るディアーチェでさえ翻弄されるアグレッシブな女性と聞いている。


確か忍も熱狂するほどの歌姫だと聞くが、あまり会いたくなかった。疲れそうだ。














<続く>








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