とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 八十一話



 歓談の席で説明された通り、フィアッセの親父さんであるアルバート議員は帰国することになった。

連日報道されていた爆破テロ事件については熱狂こそ冷めつつあったが、事件の進展としてチャイニーズマフィアに加担する勢力の摘発が報道されていた。

案の定日本にも研究施設があり、捜査の手が及んだらしい。詳しい報道こそされなかったが、クローン技術やHGS研究を匂わせる話題が飛び火していた。


さざなみ寮を襲ったクローン兵士達が製造された施設だと、何となく察せられた。


「それでどうしたの?」

「見ての通りです」

「ただいま、皆。改めて助けてくれてありがとう、これからもよろしくね」


 呆れた顔で事情を聞いたアリサに俺が恐る恐る返答すると、玄関先からフィアッセの笑顔が飛び込んできた。こいつ、行動が早すぎる。

きわめて常識的な判断と理由でお断り申し上げたのだが、見事なまでの善意と信頼という建前で押し切れられた。ふざけてる。

勿論単純な善意というお願い事ではなく、英国議員のご令嬢の護衛という事で正式な仕事の依頼をされた。子供のご英語っ子で終わらせるつもりはないらしい。


詳しいことは後日書面にするとのことだが、世間知らずのシルバーレイがひっくり返る程の額面と報酬を提示された。


『こんな事を言うのはなんですけど、この報酬で護衛のプロを雇えるでしょう』

『フィアッセを護るのに相応しい人材に必要な額面を提示しているだけだよ』

『必ず責任を持って引き受けていただけるという確かな安心感を持っております』


『日本には善意の押し売りという言葉があってですね……』


 あの手この手でお断りを申し上げたのに、笑顔で押し切られた。民間人一人が英国の有力議員に交渉で勝つのは難しい。

実際問題、俺に頼む理由がよく分からない。まさか本当に我が子可愛さで民間人に命を晒す真似はしないだろう。

俺の支援者を当てにしているのかもしれないが、夜の一族はむしろフィアッセの護衛には反対していると教えるべきだっただろうか。まあ正体不明な背景を全面的に頼らないかもしれないが。


その後各所の手続きを経て、フィアッセ・クリステラはあっさりマンションへ戻ってきた。


「なるほど、見事に押し切られたわね。そこまで言われたら拒否ではなくて拒絶するか、終了させるしかないわ」

「前者は分かるけど、後者はどういう事だ」

「フィアッセさん個人の依頼だから契約内容が曖昧だったけれど、その点をこちらから仕事として完了報告するのよ。
テロ事件が起きたのは事実なんだから、成果を報告して後任をお願いするの。職務を全うすることで責任を果たした事にするのよ」


 子供の遊びだと変に自重せず、胸を張って仕事を果たしたと誇ればよかったのだとアリサは助言する。

確かに俺はフィアッセ本人を含め、高町家に世話になった恩を返すべく引き受けた。フィアッセも俺への信頼をそのままにお願い事をした。

本人達が納得していたのでそれでよかったのだが、仕事として果たすのであれば大人の介入が必要だったかもしれない。そうした引け目があったからこそ、肩意地を張ってしまった。


その点を見透かして明確にしてしまったからこそ、正式な護衛任務となってしまった。


「どうでもいいですけどあなた達、本人の前で堂々と言っちゃっていいんですか」

「あはは、いいんだよシルバーレイ。リョウスケとアリサっていつもこんな感じで仲良しなの。
言いたいことを言い合える素敵な関係で、私の憧れなんだ」


「そんな大層な関係でもないんだが……」

「なんだかんだ言ってもまだ半年くらいだしね、あたし達」


 シルバーレイとフィアッセが耳打ちしている中で、俺とアリサが顔を見合わせた。

この一年間で何故か多くの人間関係が構築されたが、基本的に単純な友人や家族関係には収まっていない。

どいつもこいつも何らかしら複雑で、ややこしい経緯を持っている。アリサだって元幽霊だし、壮絶な過去を持った少女だ。


フィアッセとの関係は高町兄妹との関係も含まれているので、真っ当な友人関係というわけでもない。


「でも実際今の情勢を顧みれば、日本に残る選択肢は正しいと思うわよ」

「何でだ。親父さんと一緒の方が安全だろう」

「あんたは"龍"というチャイニーズマフィアばかり意識しているからそう思うんだろうけど、表や裏社会には横のつながりというのがあるの。
フィアッセさんのお父様は今注目された存在で、良くも悪くも目立ってる。公明正大で人望の厚い方だけど、そういった人間だって敵はある。政治家であれば特に。
テロ撲滅の旗印みたいになっていて主要各国も協力しているけど、この動きをよく思わない人間は一定数いるわ。表にも裏にも、どこにでも。

本国へ戻られるのは今の動きを止めないように足場固めするのと、反対勢力を相手に立ち回る為だと考えられる。となれば本国だって安全ではないし、アルバート議員の主戦場とあれば敵だっているわ」

「えっ、こんな状況で同じ政治家で足を引っ張り合うのか」

「何言ってるのよ、あんた。海外にいるあんたのお友達だって皆今必死で根回ししてるでしょう」


 フィアッセの前だから明白に口にしなかったが夜の一族、カレン達のことを言っているのは明らかだった。

カレン達は怒涛の勢いで表裏問わずに辣腕を振るっているが、各国で反勢力が活発化していって対処に追われている。実際今、連絡が直接取れない現状だった。

フィアッセの親父さんも爆破テロ事件の被害者として話題になっているが、同時に注目もされている。政敵がよく思わず、画策する可能性もあるのだという。


裏社会に至っては顕著で、チャイニーズマフィアに賛同する勢力だって当然ある。そういった人間からは今のテロ撲滅の動きを快く思わないだろう。


「その点この国はテロ被災の目に遭って世間も同情的だし、チャイニーズマフィアに協力する勢力も軒並み叩きのめされている。
本国に戻って政治的闘争や半テロ活動に巻き込まれるくらいなら、政治の場から遠ざけて日本の日常にいるほうが安全という見方もあるわ。

この街はいま大々的な操作が行われたばかりだし、マスメディアも多い。この状況で思い切った行動になんて出れないでしょう」


 親父さんの身辺は今ガッチリ固められているし、マフィア達もおいそれと手出しできない。とはいえ英国というホームグラウンドでは、敵味方問わず多い。

身の危険こそ無くても、クリステラ家族への注目が高い以上、精神的な負荷がかかる可能性もある。噂の議員のご令嬢、歌姫で美人となれば異性も黙っていないだろう。

そうしたあらゆる状況に護衛を高めて連れ回すよりも、平和な日本で護衛を置いて生活してもらった方がフィアッセの負担は少ないと考えての判断であると指摘する。


なるほど、その点は理解できる。だが、肝心な部分が不明となっている。


「それで何で俺なんだ」

「それはフィアッセさんの希望でしょう」

「じゃあやっぱりこいつの我儘じゃねえか!」

「誤解だよ、リョウスケ。私達、認められたんだよ!」

「そっちのほうがデマだろ、明らかに!?」


 ということで結局、まだしばらく事件にかかわらなければならなくなった。

チャリティーコンサートも強行するようだし、いよいよ本格的な全面戦争となりそうだった。














<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.