とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 七十八話



 海鳴の高級ホテルで起きた爆破テロ事件と、さざなみ寮で起きたマフィア襲撃事件。

後者は表沙汰になっていないが、チャイニーズマフィアの動きそのものは政府側も認識しているのは間違いない。

協力すると決めた以上、情報を共有しておかなければならない。この点についてはアリサと事前に想定していたし、夜の一族も既に動いている。


事前の手筈通り、異世界に関する事柄は全て超能力で説明し、シルバーレイが協力してくれた事にする。本人は実に嫌そうな顔をしてそっぽ向いていた。


「このような経緯で当時組織に身を置いていた彼女が私達に協力してくれて、事無きを得た次第です」

「……話には聞いていたが、改めて感謝しなければならないね。娘のことだけではなく、友人知人も助けてくれた」

「誤解しないでくださいね。誰かがどうとかではなくて、単純にマフィアにこき使われるのが嫌でやっただけなんですから。
標的にされている良介さんの背景は不透明とはいえ、政府筋と繋がっていそうなのは確かでした。

行きがかり上協力すれば、アタシの今後に繋がると考えて行動したまでです」


 世界会議以後俺を逆恨みするマフィアが数々の報復を行ったが、阻止されるか返り討ちに遭うかしていた。

実際は夜の一族が手を回して報復を受けていたのだが、"サムライ"の暗躍もあって俺を単なる一個人とみなされていなかった。

その前提を考慮した上で、シルバーレイは裏切りの理由としてアルバート議員達を納得させる材料とする。事前に打ち合わせていた内容だった。


しかし俺も説得こそしたとはいえ、シルバーレイが組織を裏切ってまで協力してくれた明確な理由は今ひとつよく分からないんだけどな。まあ待遇も悪かったのだろうけど。


「事情を伺い調整もさせていただいていますが、今後も協力して頂けると考えていいのですね」

「大っぴらに能力を披露する気はないので、それこそ調整は任せますよ。面倒なんで」

「こちら側で調整できるのであればそれこそありがたいです。能力については――先生」

「政府への交渉については任せてほしい。いずれ明らかになるのかもしれないが、個々の尊厳と保証は明確に行いたい」


 シルバーレイはあくまで本人の証言に過ぎないが、製造の完成度からマフィア側の期待値も高く、取り扱いは大切にされていたらしい。

あくまでも兵士として重用されていたにすぎないにしろ、いきなり悪事に染める真似はされなかったようだ。実際むちゃくちゃやらせて裏切られては元も子もないし、国家が本気になって回収でもされたら目も当てられないからな。

実際の所フタを開けてみれば、日本での大事な任務で早速裏切られているし、政府への回収こそされていないが、こうして標的である俺と合流までしている。ほぼ最悪の展開だろう。


だからシルバーレイも少なくともテロリズムには手を染めていないようだ。だからこそこうして制限こそあるが、拘束はされていない。


"能力を大っぴらにしていないってお前、救急車を爆走されていたじゃねえか"

"ちょっとからかおうとしただけなんですけど良介さん、予想していた以上にビビってくれたのが面白くて調子に乗っちゃいました。てへ"

"救急車が運転手もおらず走り出して、空まで飛んで追っかけてきたら伝説の勇者だってビビるわ!"


 というかこいつ、そんな動機で俺を追い回していたのか。マフィアに狙われている状況で洒落にならないぞ。

クロノやレンが救援に来てくれてどうにかなったけど、こいつが悪乗りしていたらもっと人目について大変なことになっていただろう。反省しろ。

アルバート議員と警備会社所属のエリスが話を持ちかけて、段取りを調整してくれた。HGS患者の存在は明るみにこそなっていないが、存在自体は発覚していると見ていいだろう。


こういう言い方はよくないかもしれないが、アルバート議員の娘であるフィアッセがHGS患者なのが幸いしたかもしれない。身内だからこそ扱いは慎重にもなるからな。


「話を戻そう。シルバーレイ君の助力もあり爆破テロは未然に防がれ、大きな被害は出ずに済んだ。犯人達の追跡は以前続けられており、日本側の関連組織は判明して各所で検挙されている」

「日本にもチャイニーズマフィアに協力する勢力があったのですか」

「チャイニーズマフィアを母体とする"龍"はアジアに強い勢力圏を持っていて、日本にも進出している。以前より根を張っているというべきか。
不安に思うかもしれないが近年のテロ事件増加による影響も会って、各国の動きも活発化はしている。特に今年一年の動きは大きいね」


 ……夜の一族、カレン達が表と裏から活発に勢力を広げているからな。支援も受けている手前、大っぴらに話すことはできないけど。

ただ歴史の古い組織だけあって、それ以前からの影響力は大きいらしい。HGS関連にも前から手を出していて、研究も進められているようだ。

フィリスやリスティからこの点については話を聞かされているし、元々彼女達も関係者だったのには違いない。その頃から日本側にも協力母体や研究所があったはずだ。


ただ今回の一件もあっていよいよ見過ごせなくなり、動き出しているということなのだろう。


「特に主犯の情報をつかめたのは大きい。この点についてはシルバーレイ君の情報提供や、君からの証言や協力には本当に感謝している。
君たちにとっても無関係ではないだろうから、我々が今掴んでいる情報を限定的ではあるが共有しよう」

「言うまでもありますが社外秘もあって、この場限りとさせて頂きます」

「承知いたしました。口外しませんのでご安心下さい」


 主犯達は確か国際指名手配犯だったので、政府側のほうが情報を持っているのは間違いない。共有してもらえるのは本当にありがたい。

本来なら民間人に何ぞ話せる余地はないが、マフィアの標的である事と、一連の事件に大きく関わっているのもあって、この場限りで共有してもらえるようだ。

フィアッセの件もあって少しは信頼されていると善意で受け取りつつも、俺を支援する背景からの協力をより引き出したい狙いもあるのだろう。その辺りは分かっているつもりだ。


剣での立身出世を狙っていた頃の俺なら垂涎物の情報だが、今となってはせいぜいナハトヴァール達に話す笑い話程度にしかならない。映画じゃあるまいし、誰も信じないだろうからな。


「先生が滞在していたホテルを狙い、フィアッセを脅迫していた犯人の名はファン、クレイジー・ボマーと悪名高い凶悪犯です」

「"スナッチ・アーティスト"の名で裏社会に広まっていると伺っています」

「爆発のプロフェッショナルですね。爆破工作の能力のみならず、近接戦闘力も高い難敵です。数多くの被害を出していて行方を追っています」


 げっ、爆発のプロフェッショナルと聞いていたから技術系のヒョロガリを想像していたが、近接戦闘力まで高いのか。別に侮っていたわけじゃないけど、先入観もあって偏見があったかもしれない。

事件が起きた当時は接触がなかったので分からなかったが、もし遭遇していればヤバかったかもしれない。妹さんやシルバーレイが傍にいたが、相手は脅迫犯だ。被害が出ていた可能性もある。

俺も少しは強くなったとは思うが、流石に世間知らずの浮浪者が長年国際社会がおっていた凶悪犯を相手に太刀打ちできると考えるほど自惚れていない。


人殺しの経験も当然あるだろう、人を斬り殺す経験をしていない俺との差は大きい。


「非常に残忍な性格で、目的の為ならば人命など取るに足らぬものと断じる人間です。
どんな卑劣な手段も平然と取る事ができる、裏社会に染まったプロ。だからこそ平然と、関係者以外も滞在していたホテルを容赦なく爆破できる。

探偵ごっこをするような人間ではないと分かっていますが、独断で追うのは控えて頂きたい」

「フィアッセの件もある。義憤にかられて追うのはやめてもらえるね」

「お約束どおり、この場限りと心しています」


 情報共有はこの場限りである以上、情報を元に独自で追跡するのも違反行為だ。話が伝わっていると判断してくれたのか、親父さん達は息を吐いた。

俺をどういう人間で見ているのか分からないが、義憤や正義に燃えて動くような人間じゃない。赤の他人が爆破テロに巻き込まれたと聞いても、気の毒にしか思わない。

今聞いている話だってテレビのニュースで聞いているのと同じ感覚だ。悪い人間がこの世にはいるものだくらいにしか聞いていない。手柄目当てでも追う気はなかった。


とはいえ俺もマフィアの標的、というか第一目標とまでされているので他人事ではない。


「スナッチ・アーティストなどと呼ばれている理由として、この男は独占欲が異常に強く、自ら欲しい物があると見境が付かなくなる性質のようです」

「……つまり、狙われると執拗に追ってくると?」

「フィアッセに脅迫状が送られていますが、恐らくこの男の仕業でしょう。
自身の能力に絶対の自信を持っていて、脅迫状などを送って見せびらかすのを好んでおります。

フィアッセにも脅迫状を見せてもらいましたが、恐らく始まりに過ぎません」

「始まり……?」


「この男にはシンボルがあり、"デスサイズと黄色のクローバー"のエンブレムを必ずマーキングします。
今はまだ脅迫でしかありませんが、次に送られてくるのは『犯行声明文』となるでしょう」


 デスサイズと黄色のクローバー、そのエンブレムを聞いた瞬間――フィアッセが、震え上がった。

フィアッセ本人が狙われているにしても、過剰な恐怖と緊張が感じられる。


フィアッセが追い詰められると暴走する――その事を知る俺は、思わず口から滑り出た。


「それは熱烈なラブレターですね。親御さんの前で言うのもなんですが、フィアッセはゲテモノに好かれやすいですしね」

「そんなことないよ!? リョウスケは素敵な人だから自信持って!」

「待てや、俺がお前を好いているという前提でフォローするな!?」


 フォローしてやったつもりなのに、何故か当の本人から嫌なブーメランを食らって仰け反ってしまう。

なんつ―女だ、恋愛脳は伊達じゃない。


親父さんはその光景を見て一瞬目を丸くしたが――俺の顔を見て、少し頭を下げてくれた。














<続く>








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