とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 七十七話
宴席は関係者のみだったが、和やかに進んでいった。
さすがは国際的にも有名な実力派議員だけあって、偏見もあるかもしれないが接待に非常に慣れている。
俺のような若造相手であっても、会話は途切れることはない。世間知らずな人間でも会話は弾み、ディアーチェやフィアッセも笑みが途切れることはなかった。シルバーレイも興味深げに聞いている。
会話の誘導もスムーズで、初対面でも少し話したが、フィアッセ達の出会いから語っていった。
「通り魔といえば、君が帰国した時も娘を救ってくれたそうだね。あの時も直接お礼を言えず申し訳なかったが、私も妻も君には心から感謝している」
「うんうん、あの時も良介はすごくかっこよかったんだよ。白馬の王子様のように、私を魔の手から救ってくれたの」
「白馬の王子様は暴漢相手に戦わないぞ」
随分前なので俺自身忘れていたが、フィアッセが襲われたことがあった。犯人の顔は覚えていないが、動機は知っている。人目を惹く外国人の女性を狙った犯行だった。
律儀にお礼を言われてもピンとこなかったが、本人以外からすれば武勇伝なのか、クリステラ親子はおろかディアーチェも誇らしげにしている。
ディアーチェ達はあの時まだ合流していなかったので、この件は知らなかった。恐らくこの後ユーリ達にも伝わって盛り上がりそうで、ちょっとげんなりである。
こうしたフィアッセとの思い出を通じて、俺自身の経緯へと至る。
「私や妻と出会ったドイツの地で、確か君は当時治療を目的に来訪していたんだったね」
「ええ、個人の事情となりますので詳しくはご説明できませんが、日本では困難な治療となりますので異国のツテを頼りました。
由緒正しき一族と接点を持てまして、遠路はるばるドイツへ訪問してお願いに上がった次第です。
一族主催の会議が極秘で行われていたのですが、その場を狙ったテロ組織が今回話題に上がっている犯人です」
夜の一族の事自体は話せないが、世界会議でおきた要人テロ事件については世界でもニュースとなっている。関連性を話す分には問題なかった。
警備会社のエリスも当時の事件は把握しているのか、アルバート議員も話題を振る形となる。会食の話題を盗み聞く真似は当然していないが、主賓が許可すれば問題なかった。
話さないわけにはいかなかったので、現場にいた俺は当時の事情を夜の一族の要素を省いて説明する。彼らが聞きたいのは犯人側の事情なので、その点は隠し立てする必要はない。
それにしてもあの事件、解決する契機となったのは自動人形のローゼがこちらへ裏切ってくれたからだ。あのアホのおかげで解決したのだと思うと、ちょっと嫌だった。今頃エルトリアでアホなことをしてないか心配である。
「犯人グループが要人達を狙った背景がやや不透明だが、いずれにしても企みを阻止された要因となった君が逆恨みされてしまったのか」
「何でそんなハリウッドヒーローみたいな真似したんですか。
映画は何事もなくエンディング迎えてハッピーエンドで終わりますが、人生はそのまま続くので当然犯人から恨まれてしまうでしょうに」
「俺だってやりたくなかったけど、思いっきり巻き込まれたから仕方ないじゃねえか」
月村安次郎がロシアンマフィアと手を組み、世界会議を掌握するべく行われた要人テロ事件。最新型自動人形のローゼを味方にしたことにより強気に出た犯行だった。
自動人形は主に忠実であるということ、最新型のスペックは既存シリーズを遥かに凌駕することによる前提で成り立っていたテロ事件。
蓋を開けてみれば肝心の自動人形は、俺の作ったうどんを啜って餌付けされたという皮肉な結果である。こればかりは正直犯人側に失策はなかったと思う。
犯人グループだってまさか最新型の自動人形が、あんなアホだったとは夢にも思わなかっただろう。この点だけは本当に同情する。
「歓談の場でお話に割り込んでしまい申し訳ありませんが、お許し頂けるのであればお聞かせ下さい。
当時の犯行を阻止された事による逆恨みで貴方が狙われ、恩人の貴方を狙った事と自分達が狙われた事による報復により、その一族が今攻勢に出ていると判断してよろしいでしょうか」
「その認識に間違いないかと。ここ半年間による世界事情の激変ぶりが物語っています」
エリスとフィアッセの親父さんが頷き合った。今の質問は疑問よりも確認に近いのだろう。やはり事情は政府側も察していた。
アメリカのカレン達が表舞台を掌握し、ロシアのディアーナ達が裏社会を掌握する。この極悪な編成ぶりで世界秩序を震撼させる猛追振りを見せている。
おかげで俺は身の安全を半ば保証されているのだが、あいつら夜の一族も勢力図を劇的に拡大させているので恐ろしい。
まあその強行ぶりが今祟ってしまい、カレン達も今反攻勢力の切り崩しにかかりきりになってしまっているのだけれど。
「本来であれば私達政府が君のような民間人を守る立場にあらなければならないのだが、なんとも心苦しいね」
「私も政府の事情を少し知りつつも、距離を置いてしまっているのでその点は責められません。
本来というのであればむしろ私が率先して頼らなければならないのですが、事情もあって頼り切りにできませんから」
「確かに君の立場を考えると難しいのかもしれないね。政府側に預けるのが正道であれど、君の立場を顧みれば複雑な手順を踏まなければならない。
我々政府も"サムライ"の名は聞かされているからね。治安当局とも連携していると聞くし、国際的な協調が必要となってしまう。
そういった動きこそ今必要とされているのだが、どこもかしこもなかなか腰が重い」
夜の一族がいなければ正直俺も一人では手に負えないので、頼っていたと思う。もしくは独力でどうにかしようとして、今頃抹殺でもされていただろう。
ただ政府に頼っていれば、ディアーチェ達と出会ったその後の出来事が全てなかった事となっただろう。日本と距離を置いていたからこそ、異世界事情に関われたのだから。
一応言っておくと、異世界に関わったから幸せになったとは言い難い。あっちはあっちで大変だったし、個性的過ぎる面々と知り合って苦労させられたからな。
出会って良かったと心から言えないのが、本当に厄介だ。イリス達とか本当に難儀させられたからな。
「そう考えれば此度の犯行は、日本に滞在する君とフィアッセを狙ったのだと言えるね。君の動きも把握されている」
「その点は一応当時組織にいた私が認めてあげますよ。だってこの人、平然とターゲットの周囲に平然といましたしね」
アルバート議員の話にシルバーレイが答える。やはり高町家やフィアッセの周囲は監視されていたんだな。
変にビクついても仕方ないし、ディアーチェ達も一緒だったので俺も警戒こそすれ、挙動不審にならずに行動していた。
妹さんが護衛してくれているし、奇襲とかの心配もなかったからな。そういった意味では犯人達から見れば、間抜けな姿に見えていたのかもしれない。
エリスが申し出てくる。
「貴方から提供頂いた情報は政府側にも受理されました。既に聞き及んでいると思いますが、貴方の行動は制限されています」
「はいはい、この人と一緒にいればいいんでしょう。私を気にするよりむしろ、この人の行動を気にしたほうがいいと思いますよ」
「確かに一理ありますね」
「おい」
冗談を言うようなタイプではないのか、エリスの発言にフィアッセや親父さんが少し驚いた顔をしている。
多分本人も意識していってくれたのだろう、それくらい軽口を言えるくらいには信用したという証左であった。
でも正直本心も少しあるのではないかと、勘ぐってしまう。俺の話を聞いていた時は若干頬を引きつらせていたからな。
そうして会食も終わりつつあり、上品な紅茶が運ばれてくる。
「君のことは理解した。個人的にも交換が持てる人物であり、何より娘が信頼する人間だ。
良ければ今後も君の協力を求めたい。勿論君の立場を考慮しつつ、私からも君をサポートできるようにさせてもらう」
「もし貴方が協力して頂けるのであれば、我々今回の事件で貴方より提供された主犯について、こちらも出来る限りの情報を提供できます。
お力添え頂けませんか」
意外だった。深入りしないように注意されるか、一方的な情報提供を求められるのだと思っていた。
勿論積極的にマフィアを撲滅してほしいとかではない。この会食の場は俺への礼であることは勿論だが、俺の事情や素性を知る場でもあったようだ。多分背景も含めて探りを入れたかったのだろう。
協力を求める上で背景が不透明であれば、どうしたって連携に制限が出てしまう。大人の事情と慣れば昔は嫌がったものだが、今では理解できる。
フィアッセの護衛は抵抗こそあるがもう引き受けたことだし、俺が今でも狙われているのは確かなので味方は多い方がいい。ディアーチェ達ばかりに頼ってしまうのもどうかと思っていたからな。
「分かりました、協力させて下さい。もう少し話せることもあるかと思います」
「ありがとう、君には心から感謝するよ。君が力となってくれるのであれば、私達の事情も話すことが出来る。
日本で開催する予定のチャリティーコンサートの件も含めて」
チャリティーコンサートが、日本で開催される!?
全く犯人の脅迫に屈していない、その強気ぶりに度肝を抜かれてしまった。
実に思い切った決断である。
<続く>
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