とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 七十五話
最悪お礼だけで護衛の契約はそのまま終了になるかと思いきや、英国議員であるフィアッセの親父さんより招待を受けた。
呼び出されたのではなく、招待である。フィアッセが住んでいたマンションの隣室に護衛上の理由でそのまま住んでいたが、招待状が届いたのである。
俺達の所在は事前に知らせていたが、郵便ではなくわざわざ届けてくれたようだ。マフィアやマスコミに悟られないように、あらゆる配慮がされていると見ていい。
俺は今まで誰かの招待を受けられる身分ではなかったので、変に気を使ってしまう。
『すげえぞ、この招待状。宿泊の有無まで確認しているぞ、どういう事なんだ』
『事件が起きたホテル自体は移動しているんでしょうけど、ゲスト扱いね。宿泊費用については負担する旨まで記載されてある』
『泊まり込みで話し合うような事あったか』
『情報交換は勿論あるんでしょうけど、お礼を兼ねた歓待でしょう。
狙われている身だから表立ったお披露目は出来ないにせよ、家族を助けてくれたお礼をしたいんでしょうね』
『フィアッセの奴、大袈裟に武勇伝とか語っていないだろうな』
『爆破テロ事件を解決したんだから、全然大袈裟じゃないし』
招待状なんぞどう手続きしていいのか分からんので、アリサに解釈も含めて対応してもらった。うちのメイドは呆れた様子で手続きしてくれた。
招待は俺だけではなく、家族も含めてくれている。秘書役も兼ねてアリサを誘ったが、断られた。交渉役を担ってくれているが、表舞台に立ちたくはないらしい。
単純に目立つのが嫌なのではなく、交渉役が女の子だと舐められるからだそうだ。ホスト役が味方だとしても、政治家である以上はきちんとしなければいけない。
電話やネットを通じて大人顔負けの交渉はしてくれているので、招待が秘密だからこそ成り立っているとも言える。見た目が愛らしい女の子というのは必ずしもいい事ばかりではない。
『家族全員誘われているけど、アリサは欠席。ディードは怪我人の上に修行中だしな』
『ディードは行かないのなら、オットーだって不参加でしょう。ディードが頑張っている分、あの子も張り切っているしね。
このマンションもターゲットにされている可能性もあるから、防衛に回ってもらうわ。フィアッセさんの同居人が狙われるかもしれないしね』
『分かった。じゃあディアーチェとシルバーレイを連れて行くか』
隔離施設を出てフィアッセが不在のマンションに住んでいる理由はフィアッセからの連絡待ち以外に、同居人を守る狙いもある。
俺もまだ正式に挨拶した事はないのだが、フィアッセと同じ歌姫で芸能界でも活躍している人らしい。
結構月日が経過しているのにきちんと挨拶できていないのは主に、フィアッセの友人である点に尽きる。あんな恋愛脳な女と気が合うだけで恐ろしい。
芸能界入りしているだけあって美人らしいが、俺にとっては至極どうでもいい。ディアーチェがえらく可愛がられているらしく、王気質な我が子がタジタジだった。
『ユーリ達には些か申し訳ないが、父の娘として出席させてもらおう。安心してくれ父よ、恥をかかさぬように振る舞うぞ』
『ディアーチェはテーブルマナーとかも完璧なのよね。良介も見習いなさいよ――と言いたいけど、あんたもマナーは叩き込まれているのよね』
『海外でしばらく潜伏活動していた時に、カレン達もうるさく言われたからな』
世界会議で要人テロ事件がおきた後、会議はしばらく中止となり夜の一族が手配した場所で潜伏生活をしていた。そこへカレン達が乗り込んできて、強引に同居しやがったのだ。
あの時は半ば和解していただけに交流を持っていたが、あの女共はどういう魂胆か、俺にあらゆるマナーを叩き込んできやがったのである。将来必要になるからとか言って。
俺が誰かに笑われるのが何より腹立たしいとかで、どこへ出ても恥ずかしくないようにされてしまった。飴と鞭の使い方が上手いアイツラに乗り気にさせられて、俺は学ばされてしまったのである。
前々からフィアッセやフィリス、シェリーとの文通から教えてもらっていたが、英語とかの言語まで勉強させられた。俺を国際的にしてどうするつもりなんだ、あの女共。
『なんでアタシも一緒にいかないといけないんです。フィアッセとかいう女も、議員の父親とも話したくないですし、何ならどうでもいいんですけど』
『お前が来ないとやばいだろう』
『えっ、どうしてですか』
『爆弾をどうやって解除したのかとか、さざなみ寮の襲撃をどのように回避したのか、説明ができないだろう。
セインの能力やディアーチェの魔法に助けられたとでも言えというのか。
君の超能力で全て解決だ!』
『悪事を押し付けられるのも嫌ですけど、善意を強要されるのはもっと嫌なんですけど!?』
だって説明できないんだもん。爆弾をどうやって見つけたのか聞かれても、妹さんが"声"を聞いたからなんて言えるはずがない。
多分フィアッセから話を聞いて、親父さんも混乱しているだろう。爆弾を解除したのはセインが地面を潜航して捨ててきたなんて信じるはずがないしな。
だがフィアッセという存在からHGSを知り、超能力の存在は明らかとなっている。ならば能力面での解釈を提示すれば、納得するだろう。
シルバーレイというフィリスのクローン体は、絶好の説得材料となりえる。
『だったらその子達も超能力者で説明すればいいじゃないですか』
『HGSを特定する要素があるとまずいだろう。フィリスの病院だって研究しているらしいからな。
後から科学的分析とか診断で発覚するのはまずいし、ディアーチェ達を調べられたくはない』
普段何の違和感もなく生活しているので意識していないが、そもそもディアーチェは魔導書から法術で生み出された存在だからな。病院とかも安易には連れていけない。
ディードやオットーも戦闘機人だ、見た目は女の子だが中身は常人と異なる。俺はその点については彼女達を普通の人間として扱っていないし、彼女達もそれで大いに納得している。
人間であることにあまりこだわりはなく、特殊な生まれや環境も含めて彼女達は誇りを持って生きている。変に気を使わず、人間であることを強要するつもりはなかった。
それはシルバーレイも同じである。
『いやーほんと、いい奴が仲間に入ったよな。あらゆる異世界要素も全部、超能力でしたで済むんだしな』
『世の中の不思議体験を全部アタシのせいにしないでくれません!?』
『謝礼とか貰えるかもしれないぞ、良かったな』
『ありがた迷惑という言葉はこの世にはあってですね……』
シルバーレイはフィリスというオリジナルの存在を当初疎んでいたが、シルバーレイという自己に目覚めてからはあまり気にしなくなった。
HGSや超能力という存在も自分の要素であると受け入れて、彼女はシルバーレイとして成立している。俺はそれを尊重することにした。
クローンは倫理的にも、道徳的にも扱いが難しい存在だ。俺もあまり頭が良いとはいえないので、変に意識してギクシャクするより、彼女達をありのまま扱う事にした。
立派に生きているのだからそれでいいんじゃないかと思う。
『本人がいる場で話が出るかどうかは分からないが――フィアッセ本人が特殊なHGSで、暴走する危険性も話し合うかもしれない』
『HGSってまだ解明されていない面も多いですからね。そういう意味では政府よりマフィアの方が精通しているかもしれません。
道徳とか無視して実戦投入したりして、非人道的な実験もしてますしね』
『お前は見た感じ、平然としているな』
『むしろ良介さんは少し気を使ってほしいくらいなんですけど……アタシは自分で言うのもなんですが完成度の高い超能力者でしたので。
自分のような完成体を増やす必要があるからって、それなりには大事にされていたんですよ。代用がきかないですからね』
『……実際のところ、どうだ。完成体のお前が事故に目覚めて裏切ったんだから、組織も危険視してこれ以上量産するのは控えるとか』
『ありえなくはないですけど……それでも生産するのはやめないと思いますよ。アタシのデータを使って、失敗を生かした兵士を作るでしょうね』
『なるほど、その点も話し合う必要はあるな。個人で対処できない以上、国に動いて貰う必要がある』
シルバーレイを連れて行くのは思っていた上に有用かもしれない。
お礼の場として用意された席ではあるが、犯人達が逃げていて膠着している現状を打破したいところではある。
事態を動かすには、国に動いてもらわなければならない。
<続く>
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