とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 七十四話
事件のその後については良いニュースと、悪いニュースがあった。
悪いニュースというのは結局、主犯が捕まらなかった事。政府と主要各国の協力による捜査が徹底して行われたが、犯人達は捕まらなかった。
国際指名手配されているだけあって、潜伏するのには長けているようだ。日本という異国でも活動できているのは、やはり潜伏先を幾つも確保していたからだろう。
この点については残念ではあるが、ある程度覚悟はできていた。捕まってくれれば解決だったのだが、そこまで上手く事は運べないだろう。
俺達が知る限りの犯人像は直接ではないにしろ、フィアッセの親父さんを通じて政府側には伝わっている。これまで以上に国際的観点からの締め上げが強くなるに違いない。
代わりと言っては何だが、マフィアに協力支援していた組織連中は軒並み吊るし上げられた。日本の所謂半グレやチンピラ、ヤクザ等で協力していた連中が潰されていった。
腰が重そうな警察がここまで率先して動いた背景を考えると怖いものがあるが、ひとまずチャイニーズマフィアの日本での活動が大幅に制限されてしまったのは明らかだろう。
良いニュースというのがこれに関係しており、マフィア達が表立って活動できなくなり、俺達がひとまず隠れ潜む必要がなくなった。
「明日から病院に戻れることになりました。改めて今回助けてくださってありがとうございました、良介さん」
「残念ながら私はまだアメリカには戻れないけど、当局と連絡が取れるようになったよ。
折角だから日本と交流を結んで活動範囲を広げるようにお達しがあったので、日本レスキュー協会の支部に行くことになったんだ」
「プレッシャーをかけるつもりはないけど、完全に安全となった訳じゃないから気を緩めないようにね。
政府からも人材を派遣してくれる手筈となったから、護衛は付くけどさ」
リスティを通じて政府や警察から正式に、夜の一族から内々に承認を受けて、俺達は隔離施設を出ることになった。潜伏生活はひとまず終わった事となる。
隔離と聞くと窮屈に聞こえるかもしれないが、実際は施設内の設備類は充実しており、監獄どころかホテル並みの過ごしやすさだった。気を使ってくれたのかもしれないが、やり過ぎとも言える。
マフィアに誘拐されたフィリスやシェリーも心身喪失等の悪影響もなく、家族が襲われて切羽詰まっていたリスティも暗い影一つない。
皆、明るい顔をしている。それはそれでどうかと思うのだが、悲壮感がないのは救いか。
「これでめでたく全員出所だな。もう帰ってこないように」
「その設定でいうなら、君が一番重罪人なんだけど」
刑務所からの出所であるようにからかうが、リスティが呆れた顔で指摘してきやがった。刑務所(隔離施設)にいるべきなのは俺だといいたいのだろう、生意気な。
隔離施設には出るが、フィリス達の行動はある程度制限される。その点は仕方ないし、本人達も安全を確保の上で職場復帰できるのであれば文句はなかった。
フィリスやシェリーは自分の仕事に誇りを持った職場人間なので、不自由も感じていないようだった。
まあプライベートで遊び歩くような女達ではないし、護衛する側からすればありがたい清貧さだろう。
「リスティの言う通りです、良介さんこそくれぐれも自重してくださいね。警護チームがついているとは伺っていますけど」
「所属さえ明らかにしてくれないんだよね、君のチーム。
プロ意識を考慮すれば当然かも知れないけど、実力もさることながら権限も高いみたいだから恐れ入るよ」
フィリスは不安そうに、リスティは口こそ悪いが半ば心配そうにこちらを伺ってくれる。
御剣いづみが率いる警護チームは一連の事件による功績を受けて、日本における護衛活動での権限を高められた。夜の一族へのホットラインも結ばれ、各組織との連携も強めているらしい。
人員も追加されて警護だけではなく、諜報活動も行えるようになったと聞いている。
妹さんはニンジャチーム結成だと、何処か嬉しそうに語っていた。日頃読んでいる漫画の影響だろうか。
「だからって何でアタシまで良介さんと一緒に行動しないといけないんですか」
「良介さんと仲良くしないとだめですよ、シルバーレイ」
「お姉さん面はやめてもらえませんか、お人好しな先生。
別に良介さん本人が嫌というわけじゃないんですけど、この人平気でアタシをコキ使うんであんまり一緒に行動したくないんですよ」
シルバーレイも事情聴取等を終えて、隔離施設から出ることになった。
元々チャイニーズマフィアで製造された超能力者の兵士だったのだが、組織を裏切って俺につき人命救助に協力した事で罪には問われなかった。
組織の情報も何の躊躇もなく全部バラしてくれたので、今回日本で行われた大粛清の主原因とも言える。
功労者だと敢えて言わなかったのは組織からすれば裏切りではあることと、何の躊躇もなく裏切りまくったので政府側さえ思わずドン引きした経緯があるからだ。
「あそこまで裏切りムーブを噛ましておいて、今更何言っているんだ」
「別に裏切ってませんよ、口止めされていなかっただけです。どうせ使い捨ての実験兵器だったんですし、悪びれる必要もありませんしね。
実際あいつら、アタシを置いてとっとと逃げましたし、いざ対面したらむしろこっちが罵ってやりますよ」
「こいつ、性格悪いな……」
うふふとエゲツなく笑う女に、フィリス達も疲れた顔を見せる。彼女達も短くはあるが一緒に過ごした隔離生活で、すっかり家族意識が芽生えていた。
フィリスなんて自分の妹のように可愛がっていて、シルバー令から嫌な顔をされている。嫌いというより、フィリスという善人が苦手なのかもしれない。
今回の沙汰だって当初フィリスとの同居の話もあり、フィリス本人も大いに乗り気だったが、シルバーレイが絶対嫌だと断ってこっちについたのだ。
裏切ったとは言え自由行動は流石に許されないので、夜の一族からも俺が面倒見るように言われている。
「それにアタシ、知ってるんですよ」
「何が?」
「アタシの面倒を見る見返りとかで、色んなことから生活費を含めた費用や謝礼をガッツリ貰ってるでしょう」
「えっ、何のこと!?」
「えっ、知らなかったんです!?」
寝耳に水だったので思わず聞き返すと、シルバーレイはしまったとばかりに口を手で覆う。おいコラ、どういうことだ。
犯人は一瞬で分かった。アリサを主導としたカレン達の仕業に違いない。あいつら、きっと厄介事を引き受けた見返りとして権限や支援を受けたに違いない。
俺に直接言わなかったのは面倒臭がるのと、支援を直接受けると俺が勝手な行動をすると高を括ったのだろう。なんて奴らだ。俺をそこまで信用していないのか、ガッデム。
金とか人材とかもらえるなら、俺だって剣士を揃えた現代版新選組とか作ってたのに! そうはさせじと勝手に判断しやがったな、アイツラ。
「こういう暇とか金があると余計なことしかしない奴だけど、しっかり面倒見てあげてくれ。シルバーレイは面倒見もいいし頼むよ」
「えー、アタシも面倒くさいんですけど……そもそも何するんですか、この人。前科とかあるんです?」
「木の棒振り回して道場破りとかしたよ、こいつ」
「鎖骨が折れているのに病院脱走するんですよ、困った人です」
「海外でマフィアと戦ったんだよね、君」
「ちょっと何してるんですか、良介さん!? ドン引きなんですけど!」
「全部バラすな!?」
――彼女達の家族であるフィアッセから後日、連絡を受けた。
<続く>
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