とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 七十三話



フィアッセとはその後連絡はなかった。爆破テロ事件なんて起きたのだから、気軽に外部と連絡なんて取れないだろうけどな。

別に恋愛脳なあいつと話せなくてもいいのだが、一応護衛としていた手前今後どうするかくらい聞いておきたかったが仕方ない。

全く状況が分からないかといえばそうでもなく、英国議員の親父さんはむしろメディアを飾っていると言っていい。


日本の田舎町で起きた国際テロ事件なだけに、連日報道が踊っている。


「こんなに派手に紙面を飾っていて大丈夫なのか」

「警備上の都合もあるでしょう。常に隠れて怯えるだけが警備じゃないわ。
特に今回はテロ事件、無闇に怯えた顔を見せているとテロに屈していると思われる。

堂々とした態度でメディアに顔を出す事で逆に襲撃させる機会を減らし、堂々とした姿勢を貫くことで逆にテロを萎縮させるのよ」


 テロ発生後、マンションで情報収集に勤しんでいるアリサが開設してくれた。元幽霊のくせに世情に詳しすぎる。

テロ事件の被害者という立場を最大限に活用する、英国議員としての矜持。その仕事ぶりはテロの恐怖を一払してしまう程に清々しい。

温厚や有情であるだけでは政治家は務まらないということか。被害者とは決して弱い立場というだけではないのだと思い知らされる気分だった。


優良にして優良である証なだけに、優秀であるがゆえに狙われるという皮肉さもあった。


「このままお役御免になってくれればある意味楽ではあるが」

「絶対そうはならないでしょう。大々的に喧伝こそされなくても、日本の"サムライ"に救われたののは事実なんだから。
事が落ち着いてくれば、向こうからコンタクトを取ってくれるわよ。

報酬も必ず発生するだろうから、その時は交渉してあげるわ」

「えっ、でもフィアッセとそんな約束はしていないぞ」

「お姫様ゴッコでは済まされないことを、あんたがしたの。
こういう時は普通ごっこ遊びを大人から諌められるものだけど、あんたは本気で助けてしまったから報酬が発生する仕事になったのよ。

拒否するのはあんたの勝手だけど、フィアッセさんの護衛を継続するのは難しくなるわ」


 護衛であればまだしも、ごっこ遊びを続けられるのは困るということである。

テロ事件を解決するほどの成果を、ごっこ遊びで出せる道理はない。本当に解決したのであれば、それは仕事となる。

本人達がどう思うが関係ない。仕事として成立させなければ、責任が生じなくなってしまう。


遊びで済まされる範囲を超えてしまえば、責任問題が必ず発生するからである。


「フィアッセの護衛を続けるには仕事として成り立たせなければならない。つまり、親からの承諾が必要ということか」

「そういう意味でも潮時と言えるかもしれないわね。脅迫では済まなくなっているんだから」


 クリステラが企画するチャリティーコンサートの注意を要求し、フィアッセに脅迫状が送られた事が発端だった。

この時点ではマフィアの関与が疑われていたが、実効性までは疑問の余地はあった。犯人像だって明白ではなかったのだ。

だからフィアッセの護衛そのものよりも、フィアッセの心中を察してケアする事が主目的とも言えた。実際あいつ、俺が引き受けてからは能天気だったしな。


だが実際にテロが発生し、フィリス達まで誘拐されたのであればもはや遊びでは済まされない。


「結局、あんたはどうするつもりなの?」

「フィアッセとご両親次第だが、俺やフィリス達も狙われているからな。
各方面にも協力を呼びかけて、今後に向けて対策を練っているところだ。

スッキリしないのは事実だからなんとかしたいところではあるんだが」

「言葉を濁しているのは、どうしたって支援頼みになるからよね。
ユーリ達を呼び寄せれば話は早いけど、そういう訳にもいかないしね」


 自分達の戦力を無理に動かせないのであれば、どうしたって夜の一族などの支援頼みとなる。俺一人ではごっこ遊びになるだけだからな。

しかしクロノ達とも話したが、支援頼みで行動してしまうと梯子を外された時が厄介だった。夜の一族はフィアッセ達への関与に反対しているからな。


こうしてアリサと話しているのは、彼女達の動向を確認するためだった。


「カーミラ様はかなりややこしい状況になってる」

「ややこしい?」

「今まではカーミラ様達の先進的な動きを見咎められてたでしょう。ところがここ最近日本で起きている事件の数々が、世界にまで波及して情勢が変わりつつあるの。
勢力図を拡大すべきという先進派と、勢力図を維持するべきという保守派に分かれているらしいわ」

「それって先代の連中が派閥争いしているということだよな。切り崩しできているんじゃないのか」

「確かに先代連中の中でカーミラ様達を指示する動きが出ているわ。だけど派閥争いになったせいで、先代と今代の戦いじゃ済まなくなっているの。
論議が論議を呼んで、世界会議を再び開催するべきなんて言われているらしいわね」

「げっ、俺はもう絶対行かないぞ……」


 ピンチはチャンスという言葉もあるが、チャンスではあるが時間がかかってしまうという難儀な問題が起きているらしい。

独裁主義的なカーミラはイライラしていて先代を切り捨てたいようだが、次の長としての立場から渋々采配を振るっているようだ。


  無視していたら俺にも波及するかもしれないから、鬱陶しそうに今収めるべく出ていってくれているとの事だった。


「ディアーナ様とクリスチーナ様。ロシアン・マフィアは、チャイニーズマフィアと連携する動きを片っ端から潰していっているわ。
日本でおきた事件でチャイニーズマフィアも立場をなくしつつあるから、追い込みをかけているみたいね。

これを機にアジア圏にまで貿易路を拡大できるかもしれないそうよ」

「裏社会で通商契約が結ばれそうだな……」


 俺が何もしなくても、その内マフィアの連中も勝手に潰されるのではないだろうか。

こちらが事件解決に動いたからこそ連動したのだろうが、この動きからして俺の行動を逐一把握しているのは間違いない。

爆破テロなんてセインがいなければ解決できなかったのだが、何で俺が解決できるとふんで動けたのだろうか。


あのロシアンマフィアの姉妹、恐ろしすぎる。


「カレン様は日本と連動して動かれているわよ。アメリカで誘拐されたセルフィさんの事を契機に、日本も対岸の火事では済まされなくなった。
アメリカと日本、要人誘拐に爆破テロ。どちらも犯人は同じなんだから、今後密接に連携していくでしょうね」

「なるほど、そういう意味では夜の一族も他人事では済まなくなってきている訳か」

「こちらにとっても都合が良い状況ではあるのよ。フィアッセさん達の事は反対していたけれど、一族の事情と連動しつつあるからね。
風向きが変わってきているんだから、この際協力させちゃいましょう」

「させちゃうってまさか……?」


「もうとっくに動いているわよ、当たり前でしょう。あたしはあんたのメイドなんだから」


 そう言って、アリサは鼻歌交じりに話を切り上げた。

こいつが一番恐ろしいかもしれない。














<続く>








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