とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 六十六話



 かつてお世話になっていたからと言って、突然家に帰るような真似はしない。高町なのはには前もって帰宅を告げておいた。

俺が高町の家に帰る事をなのはは大喜びして、桃子達にも嬉々として伝えてくれたようだ。小学生は何事もオーバーで困る。

平日の昼間ではあるが、爆破テロ事件が起きたとあってなのは達も今日は休んだらしい。家族の一人がテロに巻き込まれたのだから、気が気でないのだろう。


御剣いづみは警備目的と、俺に気を使って周辺警戒で場を辞した。俺達だけで玄関のチャイムを鳴らすと、なのはが駆け出してきた。


「おかえりなさい、おにーちゃん!」

「ほら、ドヤ顔してるだろう。絶対こいつ、いの一番に迎えようと一時間くらい前から待ち構えていたんだぞ」

「必死だね、なのはちゃん……」

「帰ってくるなり色々言われてる!? すずかちゃんも視線が冷たいよ!」


 私服姿でニコニコ駆け寄ってきたなのはに対して論評すると、妹さんも静かに頷いている。嬉々としていたなのはは仰天していた。

身内が事件に巻き込まれた影響があるかと少し気にしていたが、思いがけずなのはは元気そうだった。

気にしていない訳はない筈だが、フィアッセが無事なのは伝わっているので、心配ではあるが落ち込んではないのだろう。


むしろなのはは俺の隣りにいるディードを心配そうに見ていた。


「ディードちゃん、大丈夫!? 怪我してる!」

「不覚はとりましたが心配には及びません、なのは叔母様」

「おばさんって言われた!?」


「父より叔母さんはお父様の妹と伺いました」

「うっ、立場的にはそう、なの、かな……」


 高町なのはとディードは面識があるが、俺とディードが親子であることには今も受け入れがたい様子だった。まあ、俺も正直現実味は今もちょっとないけれど。

そもそも俺となのはは兄妹ではないので苦悩する必要はまったくないのに、なのははくだらない事で悩んでいた。

皆良い子だし、アリサが金を稼いでくれているので苦労はないのだが、もし浮浪者時代に子供達を預けられたら、生活や家庭環境で地獄を見ていただろう。


子供が可愛いというだけでは、人間一緒に生きていくのは難しいのだ。


「相変わらず騒がしい男やな」

「お帰りなさい。美味しいご飯たらふく作って待ってましたよ!」


 鳳蓮飛ことレンと、城島晶。青髪の少女と緑髪の少女が顔を揃えて、出迎えてくれた。

この二人は立場的に俺と同じ居候組である。レンは両親の海外出張のため高町家に滞在し、晶は家を空けがちな両親の都合で住んでいる。

最初は全く気にしていなかったが、両親がいつまでも不在なのを以前指摘すると、お互いに放任主義であるらしい。


俺とは違って高町の家に生活費等は振り込まれているので、生活面の苦労はないそうだが。


「レンに聞きましたよ。どうして俺も呼んでくれないんですか! 力になったのに」

「アホか、昨日のニュースを見たやろ。ほんまものの事件が起きてるのに、アンタみたいなのを連れ回せるかいな。
うちかてクロノさんの力になりたいけれど、自重して無事を祈ってるんやで」

「先日はありがとうな、助かった」

「何やっとるねんと言いたいけど、あんたも苦労していることは聞いてるよ。話は聞くけど、まあゆっくりしていきや」


 レンはジュエルシード事件でお世話になったクロノとその後手紙のやり取りなどをして、関係を築いている。クロノ達が海鳴に派遣されてからは、異世界の地に馴染むよう力になっているようだ。

クロノ相手に献身な姿勢を見せている影響か、日々勃発していた晶との喧嘩も最近鳴りを潜めているらしい。晶も晶で、俺の留守中は人助けとかで大いに活動しているようだ。

晶は俺の事情に巻き込んでしまったので、ある程度こちらの事は把握している。だからなのか、少女とは思えないほど冒険心を満たされて、俺を手伝いたいとあれこれ干渉してくる。


二人の意見や考え方は違うが、俺達のことを心配してくれているのはわかった。


「帰ったか、宮本。なのはからも話は聞いた。大変だったな、本当に」

「フィアッセの事、守ってくれて本当にありがとう。
本当は力になりたいけれど……事情もまだきちんと分かってなくて、恭ちゃんとやきもきしてたんだ。

無事なのは分かってるんだけどやっぱり心配で、話を聞かせてね」


 高町恭也と、高町美由希。俺にとっては始まりの剣士であり、今も遠い目標となっている二人。

以前高町の家では問題が起きて家族分裂しかけていたが、その後の経過もあってどうやらきちんと立ち直れたようだ。

不安や心配こそあるが、顔色は悪くない。精神的にも落ち着いていて、先弓が見通せない状況でも把握しようと努めている。


剣士としてはきわめて真っ当な姿勢で、安心できた。


「お前たちに後で頼みたい事がある。この子に剣を指導してやってくれないか」

「初めまして、ディードと申します。御指導よろしくお願いいたします」

「きゅ、急な話だな……」

「……何か圧の強い子だね。良介によく似てる」


 容姿はぜんぜん違うはずなのだが、俺に近しいものを感じたらしい。二人して気後れさせられたようだ。

こうしてみると、不思議な因縁を感じる。俺はかつて自分の力不足を痛感して、御神美沙都に教えを請うた。


師匠は才能がないのであれば、知識と経験で補うよう徹底的に叩き込んでくれた。あの時の教えがなければ俺は生き残れなかっただろう。


そして今俺の娘であるディードは、御神に縁のなる高町兄妹に教えを請うている。

この子は俺とは違って才能にあふれているが、それでも知識と経験は圧倒的に足りない。


成り行きでしかなかったが、高町恭也と美由希に教わる事は必ずプラスになるはずだ。


「ふふ、可愛いお弟子さんが出来たわね」

「……桃子」

「ほらほら、まずは言うべきことがあるでしょう」


 高町桃子――家族分裂の危機で悩んでいた女性は、真っ直ぐに立ち直っていた。

陰りはもはや微塵もなく、家族への愛と母の逞しさに溢れている。

家を守り続けている一家の大黒柱は、家族の明るさに照らされて母の愛を取り戻していた。


そんな彼女を目の当たりにして、俺も不思議と笑うことが出来た。



「ああ、ただいま」














<続く>








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