とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 六十七話
いつも悩むのはこの瞬間――他人に事情を説明しなければならない時である。
俺が全ての事情を知っているが、相手側はそうではない。それぞれの環境や立場、考え方や価値観をふまえて考慮する必要がある。
例えば高町家の連中に異世界の事を話しても埒が明かないし、ミッドチルダの連中に地球について説明するのは日が暮れる。他人に理解できるように説明するのは難しい。
今回の場合だとフィアッセ達HGS患者の事、超能力の事、チャイニーズマフィアの事、うちの子達魔導師や戦闘機人の事を、彼らに説明するのは困難だった。
「まず予め言っておくと、個人的な事情や政治的背景があって、お前たちでも話せない事がある。申し訳ないが、そこは分かって欲しい」
「まさかあんたの口から政治とか個人とかの配慮や言葉を聞くことになるとは思わんかったわ」
お茶やお茶菓子を用意しながらレンは茶化してくるが、批判ではなく肯定の意味合いで場を和ませてくれたのだ。
彼女はジュエルシード事件でプレシアに誘拐された経緯があって、異世界事情はある程度知っている。だから俺の言いたいことは察してくれている。
実際この事件でもシルバーレイの暗躍を、現場で見知って支援してくれた。まだ学生の身分だが、大人の事情を感じてくれてはいるのだ。
晶は再び俺に関われそうだと分かって興奮気味に頷き、恭也達も理解を示してくれた。
「そのうえでおまえ達だからこそ話せることもある。今から話すことは絶対に他言しないでほしい」
「分かったわ、約束する。私達のことを信じてくれてありがとう」
この中で唯一大人と言い切れる女性の桃子が代表して、嬉しそうに承諾してくれた。俺が心を開いてくれたのだと思っているらしい。
そんなつもりは別にないのだが、考えてみれば高町家相手に家族だからこそ言えるような話はあまりしてこなかった気がする。
別に避けていた訳ではないのだが、殊更になって打ち明けるのも気恥ずかしい気がして言えなかったのだ。
あるいは家族だからこそ、敢えて言えなかったという不思議な気持ちがあったのかもしれない。
「ではまずお前らが一番気がかりなことから話すと、フィアッセは無事だ。父親に保護されていて、事件による精神的なショックもさほどない。
今何が起きているのかについて、俺が海鳴に帰ってきてからの経緯を話そう」
HGSや超能力についてはフィアッセ個人の事情なので、俺から打ち明けるのは違うので黙っておく。誘拐や爆破テロについては、フィアッセのご両親の事情で説明できる。
その上で何が起きていたのかについては、ある程度正確に話した。この辺は俺の人間関係なので、別に隠し立てするほどではない。どうせバレるだろうし、ある程度は説明しておく。
なにしろディアーチェやディード達は自分から俺の子供だと胸を張ってるし、俺のような民間人が何の背景もなく事件に関わってるのだとすると桃子達も心配するだろう。
だから俺の事情を説明することでフィアッセの素性への関心を逸らし、この先も事件に関わっていくことへの免罪符とした。
「以前からある程度は聞かされてはいたが……その子は本当に、お前の子供なのか」
「俺の遺伝子より製造されたクローンだ。特殊な育ち故に、特殊な力を持っている。
今回の事件でもこの子達の能力を活かし、テロ事件を未然に防ぎ、フィアッセ達への支援を行っている」
「爆弾の解除に、マフィア達の襲撃阻止……またドエライことに巻き込まれてるな」
恭也達はともかく、レンはクロノからある程度聞かされているはずだが、この場で聞いた事にして感想を口にしている。
桃子は俺の留守中ナカジマ家の子供達の面倒を見てもらっているので、家族方面の事情は分かっている。
ディードがクローンとして創り出されたと聞いても、誰も眉を顰める素振りもない。肝の座った連中だと思う。
まあ、そういう奴らだと分かっているからこそ話しているが。
「では先日起きた爆破テロ事件はやっぱりフィアッセやご家族が狙われていて、それを良介が守ってくれたんだね」
「守ったというか、爆弾の解除に協力しただけだ。警備をしてくれたのはあくまで親父さんが雇った連中だよ」
「エリス・マクガーレンか……彼女がフィアッセを守ってくれているのか」
感謝の意味を込めて事情を確認する美由希に大袈裟だと俺は手を振る傍らで、恭也はむしろフィアッセの護衛について考える様子を見せる。
少し聞いてみると、共通の幼馴染らしい。どう見ても外国人だった筈だが、フィアッセを通じて関係がある様子だった。
他人の人間関係なんぞ踏み込む気はないのだが、複雑な事情でもあるのか恭也は難しい顔を崩さない。
エリスも美人だったし、こいつ堅物に見えて女関係が広いな……羨ましいとは全く思わないけど。
「フィアッセさんが無事なのは安心ですけど、話を聞いた限りまだ帰ってこれないんですよね」
「犯人達はあくまで追っ払っただけで、捕まった訳じゃないからな。
ニュースでは解決したみたいな口ぶりだけど、諸外国とも協力してテロ撲滅に動き出すところだ」
「おにーちゃん、逃げた犯人さん達はまだこの町にいるんでしょうか……」
「少なくとも現場からは流石に撤退したはずだ。警察連中も鬼のように追跡しているだろうし、身を潜めるか距離を置くはずだぞ」
マフィア相手に常識を語るのも馬鹿らしいが、作戦自体は失敗の連続なのでこれ以上無理な行動には少なくとも今は出ないだろう。
警察や国の話をしているが、実際は夜の一族の連中も動いてくれている。彼女達にとっても敵組織が敗走している今がチャンスとも言えるからだ。
世界中から追われる身となっているが、チャイニーズマフィアという立場からすれば同情する余地なんぞ無いし、そもそも最初から肯定される存在でもない。
心配そうな晶やなのはに、俺は安心材料を口にした。
「と、ここまで口にしておいて何だが、この子に剣を教えてやって欲しい」
「……一つ聞くが、剣を学びたいのは犯人への報復の為か」
「その気持ちがないと言えば嘘になります。ですが私にとって一番の気持ちは、あくまでもお父様です。
お父様の娘として、私は剣を育てていきたい。
凶賊を逃したことへの責任は、自分の剣を見つめ直す形で取りたいのです」
そう言ってディードは深々と頭を下げる。長い黒髪を揺らし、声を震わせて嘆願した。
敗北を屈辱に思わないはずがない。初めての挫折に甘んじる真似は絶対にできない。
次こそ勝つという気持ちは犯人への復讐心は確かにあるだろうが、それ以上に自分の襟を今一度正したいのだ。
真っ直ぐな姿勢に恭也は感嘆の声を漏らし、美由希は少しだけ苦味のある微笑みを見せる。
「いやはや、こんな良い子が報復と思ってたけど……やっぱり良介の子供だね。負けっぱなしでは終われないか」
「どういう意味だ。お前だって似たようなものだろう」
「あはは、まあね。たとえ女だって、剣で負けたくないもん。すごく気持ちが分かる、一緒に頑張ろうね」
妹弟子が出来て嬉しいのか、なんだか美由希のほうが嬉しそうだった。桃子も笑って、家で面倒を見るとまで言ってくれた。
昔俺が居候していた部屋も、ディードに貸出してくれるらしい。しばらく表立って動けないので、俺と一緒に行動する必要もないしな。
ある程度話が一段落したことで、恭也が最後に確認をした。
「良介、フィアッセ達を狙った爆弾犯について何か知っていることはないか」
「何だ、急に。最初に言ったがまだ確定事項じゃないし、直接顔を見ていないのもあるから断言して話せないぞ」
「そうか……いや、少し気になってな。
お前にもいずれ――いや、お前だからこそ話したいことがある。
母さんとも話し合った上で心を整理して、伝えたい。後日改めて話せないか」
「? ああ、分かった……」
爆弾犯についてはコードネームとそれに纏わる逸話しか聞いてないので、恭也達には知らせなかった。
犯人の凶悪さなんて伝えても怖がらせるだけし、そんな奴に狙われるフィアッセのことが心配になるだろうしな。
ただ、彼らの暗い顔が少し気になった。
<続く>
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