とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 六十五話
昨日事件が起きたばかりで動く訳にはいかず、一旦その日は休養がてら様子見。
その間に政治的な交渉や調整が行われて、各方面で事件の後始末が行われたようだった。
結局事件を解決したのは日本側ということになり、自国で起きた国際テロ事件を自分達の手で解決する形で事が収められたようだった。
日本で起きた事件とはいえ、英国議員を狙った爆破テロというだけあって主要各国も足並みを合わせている。
「貴方が解決した功績を譲渡することを条件に、私の雇い主が日本政府や英国その他各国と交渉を進めています」
「政府側には真相が伝わっていると?」
「真実ではなく、あくまで真相ですね。超能力と言った説明できない部分を、雇い主による干渉で補足している状況です。
ファンタジーは説明できませんが、創り上げることは出来ます。資金と人材、そして権力を行使して脚本を描くのです」
今回の一件で夜の一族は日本政府に貸しを作り、各国に情報提供することで影響力を更に高めたようだ。
夜の一族の長であるカーミラは反対勢力を黙らせることに成功し、ロシアン・マフィアのディアーナ達はチャイニーズマフィア達への攻勢を強める。
アメリカで起きた誘拐事件を解決したカレンは政治経済への影響を強め、夜の一族の勢力図を劇的に拡大させていっている。
海鳴への干渉に更に強めることが出来るようだった。
「今回の功績が認められ、我々への資金援助と人材補充を申し出られました。特に貴方への判断に評価を頂けた」
「俺への判断ってなんだ」
「護衛対象だからと物怖じせず貴方の安全を第一として、事件への関与を最小限に事態を収めた事です。
事件当時の貴方の言動や行動を報告したところ、皆さん頭を抱えておられたご様子でしたよ」
「くそっ、あいつら……俺の判断を全く信用していないな」
夜の一族は俺がテロ事件に関与するのを望んでいない。フィアッセ・クリステラも見放すべきだと主張されている。
まあテロなんぞに関わるなというのは至極当然の忠告なのかもしれないが、関係者が狙われているとなると他人事では済まない。
だからこそ今回事件現場に乗り込もうとした俺の判断を静止し、干渉する範囲を慎重に見極めて進言した御剣いづみ率いる警護チームが評価されたようだ。
御剣いづみの裁量と権限は拡大し、人材と資金援助は約束された。
「状況次第となりますが、今後個人向け警護によるチーム構成ではなく、会社設立されるかもしれません」
「事業として成り立たせるということか!?」
「勿論私はあくまでライセンスを持った警護の人間ですので、事業を起こすのであれば雇い主が手続き致します。
ただ国内での要人警護のみではなく、訪問に同行しての警護等、貴方に関連する著名人等の警護も含むことも視野に入れるそうです。
実際今回の事件を通じて、私は貴方の行動による結果で、議員を始めとした関連各所の調整を行いました。
当初の予定では貴方の身辺警護のみでしたが、貴方のニーズに合致したパーフェクトな警護を行うのであれば個人では足りません。
チームとして今も動いてはいますが、今後を見据えて今事業化の動きがあるのだと覚えておいてください」
げっ、俺が今回やった行動の結果がここまで影響を及ぼしてしまったのか……
高級ホテルの爆破テロ事件を阻止して、さざなみ寮のテロ襲撃を防いだ。干渉は抑えたつもりだが、事件そのものがデカくなりすぎた。
さざなみ寮の一件はディアーチェの結界で近隣を巻き込んでこそいないが、それでも寮の住民にはバレたし、リスティ本人も今動いてしまっている。
爆破テロなんて言うに及ばずだ、日本も世界も大騒ぎしている。その事件の解決に一役買ったとなると、関係ないでは済まされない。
「あんたに重荷を背負わせたようで済まなかったな」
「……今から言うことは、独り言として聞き流してください」
コホンと、咳払いする。
「この町は、私にとっては故郷だ。テロリスト達に土足で踏み荒らされるなんて我慢ならない。
良き青春の思い出に悲劇で彩られたくはない。
この町を救ってくれて、ありがとう」
――御剣いづみはそう言って、目を閉じた。
断じて、言ってはならないことだった。彼女の雇い主は、事件への関与を認めていないのだから。
俺がテロ事件に関わることを、嫌っている。事件への関与を賛同してはいけないし――
事件を解決したことに感謝してはいけない。
「頼まれていた外出許可は明日より出ます。ただし行先は必ず私に告げて、単独行動は控えてください。
車を回しますので、徒歩で動き回るのもやめてください」
「分かった、行動予定を妹さんと話し合って伝えておく」
「承知いたしました、よろしくお願いします」
だからこそ、彼女は独り言を言った。
俺も何も言わず、聞き流した。
海鳴は一年前まで田舎だったが、夜の一族の手によって国際都市として急速に発展している。
政治面もここ一年で顔ぶれが変わり、経済についても企業面から融資や援助を受けて広がりを見せている。
急激な人口増加は流石にないが、人口密度は確実に高まっていると言える。夜の一族の関係者も続々と加わって、誘致政策も行われているらしい。
そんな海鳴も今日は昔のように平穏で、静かだった。
「事件は解決と日本政府が宣言していますが、この地で起きた爆破テロは確実に人々を震撼させました。
表立った制限こそされていませんが、住民は自発的に自粛しているようです」
爆破テロ事件は解決しました、もう大丈夫です――と言われても、街中のホテルで爆破が起きたらやはり怖くもなる。
特に海鳴は平和な田舎町だったので、テロ事件による余波は大きいだろう。自分の足元が崩れるとまではいかないにしても、不穏な空気は感じてしまう。
リスティによる積極的な働きかけで、警察も治安維持に動き出している。海鳴を守る使命で活動しているだろうが、警察官が多いとそれはそれで不安も感じてしまうというものだ。
御剣いづみが運転する車で、街の様子を聞かされる。
「学校とかも閉鎖されているのだろうか」
「政府は解決を喧伝している為、学校側の判断に委ねられています」
「確かに全校閉鎖とかだと、余計に不安を煽ってしまうもんな」
「月村忍さんと神咲那美さんは欠席されているようです」
「……何故その名前を?」
「事業を拡大する動きがあると申し上げたはずです。貴方の関係者について、安全を確認しております」
那美はともかくとして、愛人気取りの女なんぞ知ったことではない。それが顔に出ていたのか、運転席の御剣の頬が緩んでいる。くそっ、何だその見透かした目は。
那美はさざなみ寮が襲われたばかりだ、流石に学校へは行けないだろう。学業への影響はおそらくリスティがカバーしているはずだ。
忍はどうせこれ幸いと休んだんだろう。出席日数が足りず補修で頑張っていた分、休めそうな口実があればサボる。今ごろ家でゲームとかして遊んでいるに違いない、ふざけんな。
あのバカ女の妹は今日も護衛として同行。そしてもう一人、包帯が痛々しい少女も車に乗っている。
「私があの時成敗していれば人々の平穏を守れたというのに、不甲斐ないです」
「拡大解釈しすぎだ。あの実力からして主犯の一人だろうが、爆破事件の犯人じゃないんだ」
ディードは心こそ折れていないが、敗北の経験を味わっている。精神的に弱っているからこその弱音なのだろう。
精神的な在り方としてはいたく健全で、戦闘機人として製造されたとはいえ俺よりも余程立派に育っている。
犯人を逃したのは痛かったかもしれないが、ディードには良い経験になっただろう。実力は身に付ければいいのだ。
とはいえいきなりそんな事を言っても分かってもらえないとは思うので、親っぽいことは言ってみよう。
「俺もそうだが、俺の警護をしてくれている御剣さんだって敗北の経験はある」
「えっ、そんな……お父様ほどの剣士が!」
「誰だって最初から強かった訳ではない。敗北して反省し、学び直していくんだよ」
自分で言っていて何だが、この一年はひたすらその繰り返しだったと思う。
戦っては負けて、どうにかして生き残って、また次の困難にぶつかって悩み、立ち向かって進んでいく。
栄光とは程遠く、泥だらけで戦ってきた一年だった。仲間や家族が居なければ死んでいただろうし、ずっと一人きりだっただろう。
御剣いづみが負けたことのない人なら前提が覆るのだが、本人は頷いてくれてちょっとホッとした。
「今日これから会う剣士達も強いが、敗北した経験を乗り越えている。つまりお前と一緒だ、学ぶべき点はたくさんある」
「ありがとうございます、お父様。ご期待には必ず応えてみせます」
どういう解釈をしたのか分からないが、頬を紅潮させてやる気を奮い立たせている。うーむ、このすぐ真に受ける感性は俺譲りかも。
今向かっているのは、高町の家。先程話に出ていたが学校は自粛こそしていないが、欠席は特別に認められているらしい。
高町なのはを通じて伺ってみたところ、快諾してくれた。フィアッセのことがやはり気になっているのか、話を聞きたいらしい。
仕事も学業も休んで、家族が集っている。
「あの家に帰るのも久しぶりだな……」
赤の他人の家なので帰るという表現も本当は間違っているのだが、肝心の住民は歓迎してくれている。
妙な座りの悪さを感じているのは、俺自身も自分の家に久しぶりに帰る感覚に襲われているからだろう。
大人になっても、久しぶりの家に帰るという感覚はむず痒いものだ。
<続く>
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