とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 五十七話
正直言って駄目元だったけど、緊急事態ということで一応申請してみた。
”聖王”の名前を出して海鳴にある入国管理局に申請し、聖地の聖王教会に打診。時間がかかるようなら諦めて別の手を模索する、苦肉の手段。
友好関係を結べている聖女カリムに伝わればあるいは、と思っていたが――
何故かさほど時間もかからず、ぐるぐる巻きにされた戦闘機人が運ばれてきた。
「ここは何処!? アタシは誰!?」
「すげえな……110番かけるのと同じくらいの早さで急行してくれるとは」
「ちょっ、説明してほしいんですけど!」
戦闘機人の一人、セイン。チンク達と同じ過程で製造された女の子である。
水色の髪をした、愛嬌のある幼気な風貌の少女。同年代、と言っていいか分からんが、うちの子ヴィヴィオの護衛を務めている。
ジェイル・スカリエッティ曰く純粋培養ではあるが突然変異体であるらしく、特化した能力を持っている戦闘機人だ。
明るくポジティブな性格で、言動も容姿同様子供っぽい少女。急に連れてこられて、目を白黒させている。
「落ち着け。説明すると、お前に爆弾処理をしてほしい」
「緊急事態ということしか分からない!?」
「どうせお前は暇だろう、頼んだぞ」
「暇で爆弾処理とは命じられたらたまったものじゃない!?」
連れ込まれた車の中で横暴だのなんだのと、ギャースカ騒いでいる。うるさい奴だった。
どういう経緯で連れてこられたか分からんが、多分抵抗か何かしたんだろう。見事に縛り上げられている。
このままパニックになられても時間の無駄なので、御剣に頼んで拘束を解いてやった。さすがプロ、拘束術も心得ている。
開放されて少しは落ち着いたのか、キョロキョロしながら話しかける。
「なんか陛下より緊急事態要請との事で、咄嗟に逃げようとしたらシスターのお姉さんに怖い顔されて縛り上げれたんですよ」
「シスターシャッハかな、この馬鹿の逃走を防ぐとはよくやった。お前も何で逃げようとしたんだ」
「大人の人達に怖い顔で緊急だって取り囲まれたんですよ!? 逃げません、普通!?」
「うーむ、どうしてだろうな」
「どうしても何も、陛下が”聖王”の名で緊急だなんて言ったら大騒ぎですよ!
大人の人達は失敗したら神罰だとか言って脅してくるし、ご息女のヴィヴィオちゃ――様はおとーさんの力になってあげてねとか笑顔で圧かけてくるし」
……セインの話では今、聖地では混乱の極みになっているらしい。聖王教会は応援要請があり次第騎士団を派遣するとまで言っているそうだ。
人員を大量に送る話も出ていたそうだが俺の部隊、特務機動六課の副隊長が宥めてくれたようだ。緊急の意味を課題解釈しないように、といってくれたらしい。ナイス。
ちなみにその美人副隊長さんから後で、まず私を通してくれと死ぬほど怒られた。正座で大説教かましてくれやがった。
貴方の名前で緊急事態を宣言するのは、世界の危機に捉えられるらしい。大袈裟だな、と笑ったら始末書の束で引っ叩かれた。あの女は、上司への尊敬が足りない。
「カリム様も何故か同行するとか言って破廉恥な格好に着替え始めて、シスターが慌てて止める騒ぎになりましたし」
「嘘つくな、あの聖母のような女性がエッチな格好なんぞするわけないだろう」
「はいはい、それで何がどうなってるんです?」
とりあえず妹さんからセインに事情説明している間、シルバーレイや御剣達に爆弾処理についての対応を説明する。
戦闘機人であることは伏せた上で、セインにはシルバーレイと同じく超能力めいたスキルがある事を伝える。
セインの能力は突然変異体ゆえに発現した、無機物に潜行する「ディープダイバー」。無機物に潜行し、自在に通り抜けることが可能な能力。
無機物内部を泳ぐように移動することで、地下や建造物の内部も自由に移動できるのだと話すと、彼女達は驚いた顔をする。
「いわゆる壁抜けが出来る能力ということですか、手品じみてますね……何でそんなファンタジーな能力に目覚めてるんですか。
というか、そんな能力者を平然と呼べる貴方が何者なのか、ますます分からなくなったんですけど」
「俺から見れば、お前も立派にその一員だからな」
「自分に自信が無くなってきましたよ……とりあえず話はわかりましたけど」
「そうです。能力の説明を聞く限りですと、犯人に気付かれずに爆弾へ接近することは出来ますが、解除までは出来ないのではないですか」
シルバーレイと御剣いづみが同じ見解を述べる。彼女達は険しい表情を浮かべている。
セインは見た目、というか製造されて間もない無垢な少女。爆弾処理なんて危険な真似はさせられないという倫理観が働いているのだろう。
彼女達の考え方は正しいとは思う。危険な事をさせるのは間違いないし、子供に危険なことはさせられないのは至極正しい。
だが他に手段がない上に、今もフィアッセ達が脅かされているのであれば、誰かの責任でやらせなければならない。そして、その責任が今の俺に出来る仕事なのだ。
「ちょちょちょ、今この子から爆弾処理しろとか言われたんですけど!」
「頼んだぞ」
「いや、そんな爽やかな笑顔で言われても嫌だから! 第一アタシのディープダイバーでどうしろと!?」
「お前の能力って、たしか物体に接触していれば同様に潜らせることが可能なんだろう。
お前の能力で爆弾バラして地中深くに捨ててくれ」
このセインの馬鹿は昔、俺を地中に引きずり込もうとした事がある。後でめちゃくちゃ叱ったけど、そういった経緯で能力は把握済みだ。
俺が今回注目しているのは、無機物の潜行にある。能力を表面上で見ると単純に潜るだけに見えるが、この能力の本質は透過にあると睨んでいる。
地下や建造物の内部も自由に移動でき、物体も接触していれば同様に潜らせることが可能。人間サイズも引きずり込めるのならば、爆弾だって潜り込ませられる。
加えて透過も可能なら、無機物の中身を透過することも可能な筈だ。爆弾は形になってこそ爆発するものであって、部品を一つ一つ透過して捨ててしまえば成り立たない。
「いやいやいや、ちょっと待って!? 接触しようとしたタイミングで、犯人が爆弾を爆発させたらどうなるんです!?」
「そんなの可能性は低いだろう」
「低いかもしれないけど、可能性がある時点で嫌だと言ってるの!」
「文句の多い奴だな……妹さん、こいつのサポートしてやってくれ」
「お任せください、剣士さん。
爆弾の起爆は事前に察知出来ますし、念のため魔法で凍結しますので安全に処理できます」
「う、うう……どうしてもやらないと駄目ですか」
「嫌なら次の作戦として、シルバーレイに念動力で爆弾を地中に埋める作戦で――」
「ちょっとそこのガキンチョ、アタシも手伝いますからやってください。この人、マジでアタシに無理強いさせるんですよ!?」
アクビしながら話を聞いていたシルバーレイが突如目の色を変えて、セインと口喧嘩している。セイント二人して、俺を恐ろしい目で見上げていた。失敬なやつらだ。
こうして段取りは出来たので、御剣いずみに作戦の指揮を任せる。責任は俺が取るので、プロである彼女に現場を全て任せる。
そうまで言い切れば彼女も覚悟して、各所に連絡を取ってくれて行動に出る。これで爆弾は何とか出来るはずだ。
後は、現場のフィアッセたちだな。
「シルバーレイ、爆弾の処理が完了したらフィアッセ達に伝えてくれ」
「はいはい、分かりました」
ホテルで起きた爆破事件、警察どころか国家も動く事になるであろうテロ事件。
フィアッセへの脅迫より始まった事件が、いよいよ表面化してきた。
これから先はあらゆるものを巻き込んでいくのだろう――コンサートが開催されるのであれば。
<続く>
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