とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 五十八話
――結論から言うと、爆弾の解除は成功した。
位置は特定できているので、御剣いづみの指揮による現場統制。忍者である彼女ばかりに注目しているが、警護チームメンバー全員も専門のプロであるらしい。資金と人材運用に相当な力が働いていると聞かされてビビった。
日本の治安組織には爆弾の位置を二箇所伝えて合同作業。残る一箇所は戦闘機人と夜の一族の王女が解除。セインの初任務が護衛を除けば爆弾解除となってしまい、得難い経験だと後にジェイル・スカリエッティが笑っていた。
爆弾解除に成功した一番の秘訣は、俺が車内待機していたからだと総論されて、釈然としなかった。俺の存在意義とは何なのか。
「戦闘機人なんぞという特殊能力は流石に分からないでしょうけど、日本の爆弾処理班が解除した物はスナッチ・アーティストにバレると思いますよ」
「過激な行動に出る前に手を打ったほうがいいな、フィアッセに連絡を」
かつてチャイニーズマフィアに所属していたシルバーレイは、スナッチ・アーティストなる爆弾犯について知っている。会った機会は少ないようだが、特徴的な人物ではあったらしい。
事件は解決していないが、少なくとも脅威となる爆弾は取り除かれた。後はシルバーレイよりテレパシーでフィアッセに状況を伝え、英国議員の親父さんに対処してもらうしかない。
うーん、責任を取る仕事なのは理解しているが、自分が動いてどうにか出来ないのはもどかしい。サラリーマンは社長を目指すようだが、こういう立場になっても辛いのではないだろうか。
くれぐれも動くなと念を押されているので、判断としては正しいのだろうか静観もなかなか辛い。
「状況が動きました、良介さん」
「どうなった」
「ホテルに警察が踏み込みました。脅迫には屈しないと、明確なメッセージを出したようですね」
脅迫材料がなくなった以上、爆弾犯の命令に従う義理なんぞ従う必要はない。議員は早速外部へ働きかけて、救援要請を出したようだ。
シルバーレイのテレパシー1つでよく動いてくれたものだ。そもそもシルバーレイだって元はマフィアの兵士だったのだ、罠である可能性を考慮しなかったのだろうか。
不思議に思っていると顔に出ていたのか、シルバーレイがニヤニヤしながら突っついてくる。
「良介さんの名前を出したらフィアッセという女、すぐ父親に嬉々として伝えたようですよ」
「そこがそもそもおかしいんじゃないか。俺という一般人が爆弾を解除したという連絡の何処に信憑性があるんだ」
「何を言っているんですか、その点が面白いんじゃないですか。よくそこまで信頼されていますね。
テレパシーしている限りではあの女、恋愛脳がエグすぎますが、それはそれとして議員も良介さんがやってくれたと判断したのでしょう。
良介さんがどうこうよりも、自分の見る目と判断を信じて動けるのが凄い所なんじゃないですか」
なるほど、俺への信用性はともかくとして、決断できる精神力と判断の賜物ということか。
俺も聖地では判断を迫られる時は多々あったが、自分よりも仲間達の優秀さを確信して事に当たっていた。
判断を間違えれば自分一人ではなく、多くの他人にも迷惑をかける。そういった中で信じて決断できる肝っ玉が優秀である証なのだろう。
逆の立場なら娘の友人だろうと、俺は信じられないかもしれない。その点が命運を分けるのだ。
「報告です。爆弾は解除しましたが、スナッチ・アーティストの行方は分かりませんでした。
現場の近くにいたのは間違いないですが、痕跡を追うのは現場の混乱から見て難しいでしょう」
「フィアッセ達の安全を確保しつつ追跡するのは難しい相手か」
「まあ、国際指名されながらもこれまで捕まっていませんからね。二次被害が出なかっただけでも御の字じゃないですか」
フィアッセを狙っている以上放置するのは危険な相手だが、被害を無視しない限り追跡するのは難しいか。
他人よりも自分という過去の考え方であればあるいは捕まえられたかもしれないが、ジュエルシード事件の時のように身内に被害を出していたのは間違いない。
今度は逆の結果となった。仲間は無事だったが、敵を逃してしまった。どっちが正しかったのか、それこそ判断するのは難しい。
今はこれで良くても、未来で被害が出ればこの時逃がすべきではなかったのだから。
「我々としては望ましい結果です。貴方に何事もなかったのですから」
「結局、何もしていないんだが」
「責任を負うのも重要ですよ。おかげで我々が動けました」
御剣いづみが静かに微笑む。そういうものか、と割り切れないのが素人と玄人の差なのだろう。
考えていても仕方がないので、セインと妹さんを呼び戻す。妹さんのサポートもあって、セインは無事だった。
状況を聞くと妹さんの魔法で凍結させてから、固有能力で爆弾をバラして地中深くに廃棄したらしい。
冷や汗ものだったと、セインは幼い容貌に果てしない徒労感を出していた。
「もう帰っていい、陛下。というかお風呂入りたい、手汗がすごい」
「爆弾犯を逃してしまったからな、これからも爆弾処理員としての活躍に期待する」
「絶対イヤでーす! そもそも緊急事態と言って呼び出されたんですから、早く帰って伝えないと増員くるよ陛下」
「しまった、聖地を荒らしたままになってたか」
「副たいちょーさん、怒ってたよ。事態が収まったら陛下を連れてきてくれって、言われてる。キレイな人って怒ると怖いよね」
「……すぐに帰ってお前が宥めてくれ、頼む」
迂闊に聖地へ連絡を取ろうものなら、呼び出された挙げ句後始末に追われるだろう。事務仕事が山積みで動けなくなる。
緊急事態宣言の影響力を思い知る。迂闊に緊急なんて出したら、そこまでパニックになるとは思わなかった。
事件はまだ解決していないのだから、聖地へ戻る暇はない。無事に解決したのだと、セインに宣伝してもらうしかない。
セインの能力は貴重だが、結局今の戦力で今後どうにかするしかないか。
「まあでも、陛下の力になれたのは良かったかな」
「……そうか、お前がきてくれて助かったよ。ヴィヴィオのこと頼むぞ」
「ししし、任せて。それがアタシの仕事だからさ」
入国管理局には後で送るので今すぐお別れではないにしろ、実質的にこれがセインへの別れの挨拶となった。
海鳴の高級ホテルで起きた、爆破事件。警察どころか日本政府が事態を重んじて、英国との国際的連携を視野に入れた行動に出ると表明された。
人々の不安を国家の威信が払拭するべく、各方面に働きかける。フィアッセの親父さんがこの件で良くも悪くも名を高め、騒がれるようになる。
そうした未来の動向はともかくとして、事態が落ち着いた頃にシルバーレイが声をかけてきた。
「フィアッセ、というか彼女の親が呼んでますよ。是非ともお礼がしたいので、ホテルに来てほしいそうです。
アタシはもう帰りたいんですけど、良介さんはどうするつもりです?」
「俺も帰りたいけど、このまま無視する訳にはいかないだろう」
「そうじゃなくて」
「なんだよ」
「さざなみ寮、任せっぱなしでいいんですって話」
「あっ」
ディ、ディアーチェが頑張ってくれてるし……という訳にもいかないか。
<続く>
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