とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 五十一話



 シルバーレイが正式に仲間入りしたので、アリサが引き継ぎをしてくれる事になった。惑星開拓という単語に、非常識な存在である超能力者が目を回してしまった為だ。

俺がリーダーとしての責任より事情を説明しようとしたら、アンタだと余計ややこしくなるとアリサに部屋から追い出された。ガッデム、メイドめ。

とりあえずフィアッセは親父さんとセキュリティーサービスに任せる事になり、フィリスとシェリーは夜の一族が管理する隔離施設で保護。


つまり、俺達は一旦お役御免という事になる。


「これからどうするのだ、父よ。これで終わりとは到底思えぬが」

「マフィアの戦力は削れたけど、根絶した訳じゃないからな」


 一室で休憩を取りながら、ディアーチェは俺に今後の方針を尋ねる。聖地では王として君臨する少女も、地球ではこうして父の顔を立ててくれる。

言われてみればこの脅迫事件が起きてからというもの、物事に対してどこか受け身でいた。護衛という立場が、先制という手段を許さなかった。

脅迫には屈さず、暴力から護る。護衛であれば当然の判断であり、だからこそ打って出る訳にはいかなかった。護るとなれば、構えなければならない。


その立場を他で引き受けてくれるのであれば、俺達の行動は変わってくる。


「とりあえず夜の一族に連絡を取ってみて、足並みを合わせる。勝手に行動するとうるさいからな」

「お父様が先頭に立つのでは駄目なのですか」


 ディードは珍しく不満を表情に出して、異を唱える。聖地の王であるディアーチェは口にこそしないが、同意の沈黙を見せてくる。

多分子供達からすれば、父親が他の女達の言いなりになっているように見えて面白くないのだろう。そうした子供なりのワガママに俺は苦笑する。

生まれこそ違えども、ディアーチェやディード達はやはり俺に似ている。少なくとも放浪時代の俺であれば、他者の言いなりなんて良しとしなかっただろう。


そうした負けん気は今もなくなってはいない。ただ義理人情が出来てしまったからこそ、自分の気持ち一つで動かなくなっただけだ。


「個人ならともかく組織が相手だからな。こちらも総掛かりで挑む必要がある。
聖地やエルトリアだって、俺一人で全て決めていた訳じゃない。聖王教会や連邦政府と話し合い、時には対決もして物事を進めてきたんだ。

王は民がいなければ成立しない。お前達も一人で生きようとするのではなく、他者と共存して生きていけ」


 ――不思議と、すんなり他人との強調を我が子に言えた。考えて言ったのではない、今この時の自分だからこそ伝えられた言葉だった。

一年前、海鳴に来た頃の自分では絶対に言えなかった。来年の自分なら言えるかどうかも分からない。過去でも未来でもなく、今の自分が言える素直な気持ちだった。

子供達はいたく衝撃を受けたように、自分の中で噛み締めて頷いている。否定はしなかったが、肯定もしなかった。多分まだ、きちんと自分の中で受け止められないのだろう。


それでもいいと、思う。この子達は俺とは違って、本当の強さがある。


「今はまだ分からなくていい、ゆっくり考えてみるんだ。俺は連中に連絡を取ってみる」


 退室する。難しいことを言ったつもりはないが、それでもあの子達の生き方に関わる話だ。真剣に受け止めてくれるのであれば越したことはない。

実際問題、マフィアが相手でもディアーチェ達なら戦えるとは思う。魔法や固有能力を使えば、アジトごと吹き飛ばす真似だってできる。ただ、ここは地球なのだ。

異端の力を使えば、異端であることが明るみに出る。地球で生きていくことが難しくなってしまう。それでもあの子達なら生きていけるだろうが、時には迫害も受けてしまうかもしれない。


難しい話である。生きていくには強くなければいけないが、強くなれば生きていくのは難しくなる。難儀なものだった。


『リョウスケ、報告は聞いたよ。無事で本当に良かった』

「お前が窓口なんて珍しいな。カレン達はどうしたんだ」

『ゴメン、今日はボク一人なんだ。みんな忙しくて出払ってる』


 子供達が悩んでいる間夜の一族に連絡してみたところ、応じたのはフランスのみだった。いつも絶対全員集合していたから、拍子抜けだった。

フランスの貴公子であるカミーユは申し訳無さそうに画面越しに謝っていたが、むしろ今まで全員揃っていたのがおかしいというか、俺に配慮してくれていたからこそと言える。

そもそも日本と諸外国で時差も違う上、彼女達は若いながら各国でも有数の富豪達である。スケジュールなんてそれこそ分単位で刻まれているはずで、集合できていたのは時間を作ってくれていたからだ。


文句などありようはずはない、のだが――


「カーミラの奴はどうしたんだ、いつもドイツで暇そうにしているのに」

『世界会議後、ボク達は一丸として改革に乗り出してきた。そうした先進的な動きを見咎められたのか、先代の方々が気にして伺いに来たんだよ』

「世界会議に出席していた親族達だな」

『カーミラ、すごく機嫌悪そうに愚痴ってたよ。無視していたらリョウスケにも波及するかもしれないからって、鬱陶しそうに今収めるべく出ていってる』


 ――ビックリするほど納得できる理由だった。

そりゃそうだ、なにしろあいつら世界会議で一致団結してからというもの、ここ半年間やりたい放題やってきたのだ。

マフィアを叩き潰すべく世界各国の主要機関と組んで荒らしまくるわ、人間に敵対する人外種族を粛清するわ、先代の縄張りを牛耳るわ、とことん世界の勢力図を書き換えまくった。


俺は恩恵を受けているのでいいのだが、逆に言うと俺に貢献するべく荒らしまくっているのである。先代の連中からすれば、私情で荒らすなと言いたくもなる。


「ディアーナも文句言われているのか」

『そっちもほぼ同じ理由かな。
彼女をボスとする新生ロシアンマフィアが君のコミュニティを拡大したから、どうも反感する組織がチャイニーズマフィアと連携する動きがあるんだってさ』

「……クリスチーナが喜々として暴れまくっているな、これは」


 これもまた納得できる理由である。

今まで裏社会と言えばまずチャイニーズマフィアを連想していたが、世の中には悪い組織というのは他にも存在する。

ディアーナ達新生ロシアンマフィアは取り込んだり、時には叩き潰したりしてきたが、その思い切った手腕のツケが今回っているということだ。


ディアーナとクリスチーナであれば大丈夫だろうが、それでも本腰入れて対処する必要はあるだろう。


『カレンは君の後始末をしているよ。ほら君が助けたレスキューの人、ニューヨーク市消防局に所属していたでしょう。
リョウスケが救出して今保護化に置かれているけど、あの事件はアメリカでも大事になっているからね。

司法局とか色々動いている分、カレン本人が動かないといけない事態になってる。特に彼女、自分のテリトリーで誘拐事件が起きて怒ってたでしょう』

「……あいつ、絶対私怨で動いているな」


 裏社会で大きく揺り戻しが来ている間、表社会でも大きな影響が出ているようだ。冷静になって顧みると、国際的大事件だからな。

解決したからめでたしめでたしで終わる話ではない。むしろこういう事件は後始末こそがいちばん大変なのだ。

実行犯達は制圧されたが、黒幕の組織は健在なのでそのままには出来ない。カレンは俺やシェリー達に追及の手が来ないように主導してくれているのだろう。


そもそも俺にだって本来司法の手が及ぶはずだからな、こんな呑気にしていられない。


『言うまでもないけど、ヴァイオラは前言ってた通りソングスクールに戻ってる。君を心配していたけど、同時に信じてもいるからね』

「練習に励んでくれているなら何よりだ」


 しかしなるほど、あいつらもいま手一杯なのか。

むしろ彼女達が頑張ってくれているから、今こうして俺が事件後ゆっくり休めている。感謝するべきだろうが、とにかく今は彼女達と話せないらしい。


今――彼女達の目は、日本には向けられていない。














<続く>








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