とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 四十五話
フィアッセ・クリステラの両親とは一度海外で会っている。夜の一族の世界会議による覇権争いに関わった際、ドイツの地で話す機会があった。
母親はティオレ・クリステラ、歌手の養成学校であるクリステラ・ソングスクールの校長をしている。御年配の女性で、柔和な雰囲気のある人間で話しやすい印象だった。
父親はアルバート・クリステラ、イギリス上院議員で政界の著名人。この人に支援をお願いして、俺は覇権争いを何とか凌ぐことが出来た。
そういう意味ではフィアッセの縁によって救われた形となるので、少々複雑である。
『スラド前英首相ら来日、人権問題など対中政策で国際議連。
本、米国、欧州、オーストラリアなどの議員らで構成する列国議会連盟は、会合を開かれる。
英国のスラド前首相、オーストラリアのノリソ前首相らを招く。自治区の人権問題や台湾情勢を巡り意見を交わし、有志国で協調する姿勢を示された』
「この来日ニュースに乗っかって、クリステラの親父さんも日本へ来たのか」
「うん、会合には欧州議会や英国の議員も参加していたの。パパも議員で忙しいから、家族優先で行動するのはなかなか難しいから。
それでもきちんと段取りを付けて、私に会いに来てくれると連絡があった」
英国の一議員が来日しても国際ニュースが大騒ぎすることは基本的にないのだが、アルバート・クリステラ上院議員は影響力のある人間なので世間が黙っていない。
娘可愛さで極秘に来日してもいいのだが、万が一にでも発覚すると人の目が厳しくなる。自分の影響力で家族を傷つけてしまう結果になりかねない。
ならば政務に合わせて、日本の私用を済ませればいい。家族が日本にいるのは事実なのだから、後ろめたいことはなにもないのだ。
その点を心得ている親父さんの基本姿勢には、素直に感心させられる。俺は自分勝手に動いてしまい、アリサ達に怒られるからな。
「今晩、海鳴のホテルでパパと会う約束があるの」
「へえ、家族水入らずで楽しんでね」
「絶対そういうと思ったけど、リョウスケも来てね」
「何でだよ、お前の問題なんだから家族で話し合ってこいよ。一応言っておくけど、俺のスタンスは親父さん寄りだからな」
マフィアに脅迫されているフィアッセを助けたい気持ちはあるが、それが別に俺である必要性はない。
これまで夜の一族という権力者に頼れなかったのは、アイツラがフィアッセを見捨てるべきと主張したためだ。協力はしてもらっているが、あくまで俺への支援である。
だがアルバート・クリステラ議員は、フィアッセを守るべくわざわざ日本にまで繰り出している。娘思いの家族に対して、あんたの娘は俺が守るから帰れなんて言えるはずがなかった。
自分の恋人とか婚約者なら話は違ったかもしれないが、フィアッセは俺にとってあくまで居候先の身内である。赤の他人とは言わないが、自分の手で何もかも守りたいという気持ちはない。
「リョウスケ、甘いよ。私、こう見えて失恋して強くなったんだからね」
「ほほう、例えばどのような?」
「今から私がホテルまで行くでしょう」
「うむ」
「今のリョウスケは私の護衛だからついてくる必要があるんだよ!」
「そうか……そうかな?」
い、いやまあ、フィアッセの言うことは正論――なのか? なんか根本的な所でおかしい気がするんだけど。
マフィアに狙われているのに出歩くなと注意しても、クリステラ議員の下であれば安全という理論は確かに成り立つ。
そもそも親元のほうが安全だから帰れと俺が言っているんだから、その安全性を否定する事はできない。親父さんのところは安全だから行く必要がないというのも、護衛として無責任である。
フィアッセの理論は確かにその通りなのだが、俺は感情的に納得できなくて首を傾げる。
「ほらほら、行くよ。迎えの車まで用意してくれているから」
「お前、この避難場所を親父さんに教えたのか」
「ううん、アリサが協力してくれたの。送迎ルートをお膳立てしてくれているから、ここの安全は確保されているよ」
こいつ、生意気にもアリサに相談しやがったのか。あいつなら夜の一族とも協力して、フィアッセと避難場所の安全を確保してくれるだろう。
スケジューリングが完璧すぎたので、渋々俺も同行する。俺達は今も夜の一族が用意してくれた避難場所で生活しているので、車をルートに沿って乗り換えてホテルへ向かう形だ。
車の助手席に妹さんも乗車してくれているので、マフィア達の不意打ちも万全。オットーは潜入捜査の長丁場で休憩しているので、ディアーチェが飛空魔法で警戒してくれている。
程なくしてホテルへたどり着き、フロントから案内されて一室へと押される。
「フィアッセ、無事で良かった」
「心配かけてごめんなさい、パパ」
アメリカンスタイルよろしく、父と子は抱きしめあった。なんだかんだどちらもお互いを思い、案じていたのがよく分かる。
ホテルは最高級スイートとまではいかないにしろ、英国議員が滞在するのに十分な気品を持っている。庶民が気軽に泊まれる部屋ではなかった。
国際化が進む海鳴に建築された、高級ホテル。単なる成金ではなく、セキュリティ面も含めて著名人が滞在するのに相応しい質を維持していた。
そうして親子の再会劇などという他人が見て面白いものではない光景から目をそらしていると――
「……」
ホテルの部屋に、一人の女性がいた。
フィアッセと同年代に見える凛々しい女性、立ち振舞に隙がなく他者への距離感を適切に保っている。スーツ姿の身なりも見事に成立していた。
随分と若いが、腕が立つのは見て取れる。もしかするとクリステラ議員の護衛なのだろうか。権力ある政治家が雇うには若すぎる気がするが、それほどまでに信頼と実績があるのだろうか。
その女性は俺とは違い、再会劇を目の当たりにして目元を柔らかくしていたが――俺の視線に気付き、鋭い目を向ける。
「リョウスケ君も久しぶりだね。フィアッセの傍に付いていてくれて、ありがとう。君には随分と世話になったと、娘から聞いているよ」
「こちらこそ、ドイツではお世話になりました。色々ありましたが、クリステラ議員のお陰で解決して日本へ無事帰国出来ました」
「君の尽力あってこそだろう。それに娘がお世話になっているんだ、お互い様だよ」
俺の返答にクリステラ議員は少し驚いた顔をして、笑いかけてくれた。一瞬眉をひそめたが、すぐに納得した。
彼に出会ったのは半年以上前の話、異国の地では何とか支援をもらおうと随分悪戦苦闘していた。
今でも十分とはいえないが、当時は礼儀知らずな人間だったので、失礼な態度をしてしまったかもしれない。
考えてみると半年前と言えばまだユーリ達がいなかったのだ、あれから子供が出来たと言ったらこの人はどんな顔をするのだろうか。
「"エリス"がパパの傍についてくれているんだね。久しぶりにあえて嬉しいよ」
「私も――と言いたいが、フィアッセは変わらないね。日本でいうお転婆のままだ」
「酷い、私だってもう大人になったんだよ――と、紹介するね。
エリス。話はパパから聞いているかもしれないけど、この人がリョウスケ。日本で出会った私の大切な人で、護衛をしてくれているの」
「この人が、貴女の……?」
一瞬目を細めてクリステラ議員のご映画俺を睨む――が。
すぐに困惑した表情になる。
「あの、初対面で失礼だけど」
「ええ」
「ひょっとして、貴方――フィアッセと同じというか、その」
「――素人っぽい、と?」
「まあ、その、なんというか、本当に失礼で申し訳ないけど、職務経歴は」
「プロか、アマチュアかと言われれば――後者ですね、ええ」
エリスと呼ばれる女性は、頭痛がするように額を押さえる。な、何か、すいません……
一応職務経験はあるんだけど、ミッドチルダで部隊を率いていたとか、惑星の開拓チームを指揮しているとか、主権をかけて政治家相手に議論したとか――
地球人に言えない経歴ばかりである。我ながらどうかと思う。
エリス・マクガーレン――彼女との初対面は印象が悪かったというか、むしろあまりの素人ぶりに頭を抱えられてしまった。
<続く>
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