とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 四十四話
クリステラのご両親がマフィアに狙われている娘に、本国へ戻ってくるように諭している。
まあ、当然の話だと思う。むしろ遅いくらいであり、それくらい娘であるフィアッセの意思を重んじてくれたのだろう。
フィアッセは日本には思い入れはあるが、しがみつく程の執着はないはずだ。本国でご両親の庇護下に置かれれば日本にいるよりも安全だろう。
フィアッセ・クリステラはそこまで話した上で、おずおずと俺を見上げてくる。
「リョウスケ。私、どうすればいいかな」
「そりゃ帰った方がいいだろう」
「ひどい……リョウスケのバカ!」
「何で!?」
「ないわー、クローンのアタシが見てもその返事はないわー」
至極当然の回答をしてやったのにフィアッセは唇を尖らせ、シルバーレイは呆れた様子で感想を述べてくる。何なんだ、この女共。
フィアッセの態度からして俺と離れたくないらしいが、命に代えてもやらなければならないことでもない。もう二度と会えなくなる訳でもないしな。
そもそもの話、俺はフィアッセの事は身内としか思っていないし、美人であろうとも恋愛なんぞしたくなかった。
本人は嫌いじゃないけれど、ご両親の反対を押し切ってやるほどの思いはない。
「親が心配しているんだから帰ってやれよ」
「良介に言われても説得力ないよ。孤児院の人たちも心配しているよ」
「何でそれを知って――あっ」
「い、いや、ほら、高町の家にお世話になっていた以上、ある程度の事情は説明しないといけない訳で」
孤児院の連中が海鳴に来ている以上秒読みではあったが、フィアッセは余裕で俺の事情を口にしている。
一瞬疑問に思ったが、警察関係者を睨むと、リスティは困った顔で弁解していた。くそっ、永遠に口封じするべきだったか。
過去を知られて困ることはなにもない。親に捨てられて孤児院入りなんて珍しい話でもないし、盛り上がるような不幸話でもない。
ただフィアッセへの説得材料が減るのは勘弁してほしかった。
「せっかくだし、セルフィと一緒に飛行機に乗って帰ればいいじゃないか」
「話は伝わっているかと思うけど、少なくとも今は私は帰るつもりはないよ」
「ぐっ、セルフィはどうして帰らないんだ」
「職場の人達には申し訳ないけれど、組織に狙われている以上巻き込む訳にはいかない。
今回リョウスケに協力してくれた人たちのお話だと、本国のレスキュー隊にも事情は説明してくれているようなんだ。
私からもいずれ連絡はするつもりだけど、少なくとも今は日本にいた方が安全だからね」
「うんうん、そうだよね! シェリーもこう言っているよ、リョウスケ!」
「あ、君も私のことはシェリーでいいからね。仲の良い人からはそう呼ばれているんだ。
手紙とかでそう言ったと思うけど改めてよろしくね」
セルフィことシェリーを引き合いに出したら、やぶ蛇になった。ニコニコ顔で半ば無理やり握手してきやがる。
災害現場のどさくさで誘拐された以上、確かに職場復帰するのは問題かもしれない。下手をすれば、職場の人間を巻き込んでしまうことを心配する気持ちも分かる。
だが、日本にいた方が安全だというのはいかがなものか。ニューヨークでチャイニーズマフィアの誘拐事件が起きたと荒れば、それこそアメリカ当局が黙っていないはずだ。
その点を説明すると、不思議そうな顔をされた。
「でもここにいれば、君が守ってくれるんでしょう」
「お前、アメリカという大国と日本の一市民のどっちが頼れると思うんだ」
「うーん、私達を助けに来てくれたの、君だしね」
「そうだよ、私の大事な家族を助けてくれたのはリョウスケでしょう」
「俺も囮として一緒に救出されたんだけど!?」
いかん。劇的に救出された後なだけに、俺への信頼度が無限大に上がっている。待て女供、思い違いをしているぞ。
まずそもそもの話、俺がアジトを潰したのではない。あくまで救出部隊であり、夜の一族が資金と人材を投入して救い出してくれたのだ。
しかも肝心な話、その救出された中に俺も含まれていた。俺はあくまで囮としてアジトに潜入していただけで、一緒に助け出されたのである。
確かにこいつらの安全確認をしたのは俺だけど、それもシルバーレイの手引きによるものだからな。
「ハァ……意外と面白い茶番劇だったので黙ってみてましたけど、そろそろ脱線してきているので口出しを。
そっちのHGS、フィアッセでしたっけ。
貴女が日本にいたいとワガママを言うのは勝手ですけど、ご両親が反対しているっていう話でしょう」
「あっ、そうだった!?」
「そうそう、あくまで帰ったほうがいいというのは俺個人の意見に過ぎないから」
おいおい、極めて常識的な意見を言ってくれるじゃないか。アリサ以外にこういう冷静な指摘をしてくれるのは俺の周りでは案外少ないから、貴重だった。
俺がいいことを言ったとばかりに視線を向けると、シルバーレイは得意げな顔をして微笑んで見せてくれた。どうです、役に立つ女でしょうと言わんばかりに。
俺の右腕を自称するシュテルも頭がいい割にボケたりするので、こういう事を言ってくれる女は貴重だった。
意外な役割にちょっと驚きつつも、シルバーレイの意見に乗っかる。案の定、フィアッセは露骨に困った顔をした。
「リョウスケの言っていることは分かるし、ママやパパを困らせたいわけじゃないんだけど……
例えばリョウスケが一緒に来てくれるのは駄目かな。費用は全て負担するから」
「俺もマフィアに目をつけられているから、お前と渡航するとご両親の負担が増すんじゃないか」
「うーん、うーん、じゃあ……」
「あの――とにかくまずは、ご両親と話し合ってはどうですか」
『あっ』
今まで黙って聞いていたフィリス、海鳴の常識人が建設的な意見を述べる。
話し込んでいただけに見えなかった結論であり、第三者なら当然の指摘。
こうしてフィアッセのご両親と対面することになりそうだった、なんでだ。
<続く>
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