とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 四十三話
                              
                                
	 
 結局、翌朝になっても開放されなかった。 
 
静養させられていた施設はやはり海鳴大学病院ではなく、夜の一族が建設した保護施設であるらしい。いつの間に建造したのか不明なのがちょっと怖い。 
 
マフィア達がこの施設を辿り着くのは不可能との事で、俺達の安全を考慮して保護と静養目的でこの施設に入れられていると聞かされた。 
 
 
俺にも所在不明なのが気になるが、フィリス達の安全も考慮されているのでありがたいと思うしかない。 
 
 
「剣士さん、おはようございます」 
 
「無事に合流できてよかったよ。妹さんたちも作戦に参加していたのか」 
 
「一人でも逃せば禍根を残すとのことで、私が敵の補足を務めました。アジトにいた者達は全員捕縛しております。 
ただ――」 
 
「ただ?」 
 
「アジトを調べていて判明したのですが、別の作戦を展開していたようでアジトを出ていた者達がおります。 
その者達については引き続き追跡中です」 
 
 
 妹さんこと月村すずかは申し訳無さそうな顔をするが、いもしない人間の”声”を探るのは流石に不可能だろう。 
 
万物の"声"を聞ける妹さんの能力はほぼ万能だが、聞いたことのない"声"の主を追うのは無理だった。 
 
そこまで特定できれば無敵だからな、夜の一族の王女といえどそこまでの祝福は与えられない。だからこそ、人間らしいと言える。 
 
 
妹さんより聞いた話だとディアーチェ達は全員参加したが、怪我人も出なかったようだ。 
 
 
「チームは今二手に分かれています。ディアーチェさん達はフィアッセさんを、ディードちゃん達はリスティさんを護送に出向きました。 
私とオットーちゃんがこの病院の防衛に努めているところです。もっともオットーちゃんも休養がてらとなりますが」 
 
「……なるほど、考えてみればオットーは昨日の朝から俺にずっと張り付いていてくれたからな。流石に疲れも出るか。 
ゆっくり休ませてやってくれ、妹さんがいれば安心だからな」 
 
「お任せください、剣士さん。残党達はアリサちゃんも夜の一族に協力して追っているので、剣士さんは何も考えずに休んでほしいとのことです。 
アリサちゃんも昨日からずっと働いているので、なのはちゃんがカバーしてくれています」 
 
 
 ……俺が何もしなくても各自、自分の役割を果たしてくれるので助かるのだが、俺がリーダーである必要があまりない気がしてきた。 
 
マフィアの残党達の動きは気がかりではあるが、アリサをブレインとして夜の一族が総力を上げてくれているのであれば問題ないだろう。 
 
ディアーチェ達も引き続きHGS患者であるフィアッセやリスティを守ってくれている。少なくとも彼女達がいれば、襲われても対処できるだろう。 
 
 
フィリスやセルフィを救出できたので、フィアッセやリスティをこの施設へ連れてくるつもりなのだろう。 
 
 
「俺はこのまま寝ておくのは駄目だろうか」 
 
「剣士さんが救出されたと聞いて感激していた様子ですので、立て籠もりでもしない限り押しかけてくるのではないかと」 
 
「ぐっ、お涙頂戴は苦手なのに……」 
 
 
 皆無事で良かった、めでたしめでたしでいいはずなのに、何故か俺を再会ドラマに立ち会わせようとしている。 
 
護衛として当然の任務だと言っても、聞き入れてくれないだろう。感謝感激雨あられという地獄が、今から待っている。 
 
事情を説明しないといけないし、仕方がないとはいえ、気が重かった。感謝されるのは苦手である。 
 
 
敵と戦って終わりというわけには行かないのが、人間関係の厄介な点だろう。斬り合いならば後腐れもないのに。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「フィリス、シェリー! 本当に無事で良かった!」 
 
「心配したんだぞ、馬鹿! たく、怪我がなくて安心したよ……」 
 
「ごめんなさい、心配かけて」 
 
「もうそんなに泣かなくてもいいのに……大丈夫だよ、全部リョウスケが解決してくれたんだからさ」 
 
 
「おい、お前がフォローしたおかげだと言ってくれ」 
 
「いやですよ。良介さんならいざ知らず、あの人達に感謝されても嬉しくもなんともありません」 
 
 
 ディアーチェ達に護られて施設に到着したフィアッセとリスティが、出迎えたフィリスやセルフィと再会の抱擁を交わしている。 
 
さり気なく俺に手柄を押し付けるセルフィの言葉にうんざりして指摘したが、俺の隣で同じく嫌そうな顔をしているシルバーレイがそっぽ向いた。 
 
シルバーレイも感謝感激なんて嫌だったらしく、彼女達に立ち会うのを最初拒否したが、どうせ押しかけられると説得して渋々連れてきたのである。 
 
 
めちゃめちゃ喜んでいたフィアッセとリスティがひとしきり感動劇を終えて、駆け寄ってくる。 
 
 
「リョウスケ、本当にありがとう。私の大切な家族を助けてくれて。 
やっぱり私の騎士様は頼りになるよね、大好きだよ」 
 
「あんまり嬉しくない」 
 
「ええっ、ひどいよー! こんなに満たされた喜びを分かり合いたいのに」 
 
「分かち合いたくないから言ってるんだよ、馬鹿」 
 
「いつもならフォローでもしてやるところなんだが、今回ばかりはフィアッセと同じ気持ちだ。 
リスティやシェリーを助けてくれて、本当に感謝してる。 
聞いた話だと囮役をかってでてまで敵アジトを突き止めて、二人を救出してくれたそうじゃないか。 
 
何てお礼を言ったらいいのかわからないけど、告ってくれたら付き合ってもいい心境だよ」 
 
「世の中にはありがた迷惑という言葉があってだな」 
 
 
 美女二人に告白されるのは悪い気はしないが、大事な人を救ってくれたという感謝から出ている気持ちなので微妙である。リスティは半ば冗談だろうしな。 
 
こういう高揚はあくまで一時的なものなので、月日が経てば自然と気持ちは落ち着くものでだ。 
 
フィアッセやリスティなら感謝を忘れないだろうが、別に恩義を着せるつもりでやったわけではないので気持ちだけ受け取っておこう。 
 
 
そもそもそれで恋愛関係になんぞ発展したら、夜の一族の連中がうるさいからな。救出作戦はほぼあいつらがやってくれたんだから。 
 
 
「それでそっちの子がフィリスのクローンーーいや、シルバーレイだったか」 
 
「そうそう、それでお願いします。オリジナルとアタシは別人なので」 
 
 
 クローンと呼ばれる事を嫌うのは、HGS患者とマフィアに関わった者達であれば共通認識だろう。 
 
お互いその点を踏み込むような真似をせず、あくまで一個人として尊重することを選んだ。 
 
脛に傷を持つからこそ成り立つ配慮であり、気遣いだった。俺の場合はクローンに関わった事が多いため、自然と身についてしまった。 
 
 
なにしろディードやヴィヴィオ達、俺の遺伝子を継いだクローンが自分の子供になっているからな。もはや他人事ではない。 
 
 
「リョウスケにつけてもらった名前なんだよね、いいな」 
 
「別に茶化すつもりはないけど、名前の由来がどういったものか、余裕で検討つくな」 
 
「その点についてはアタシ自身どうかと思うんですけど、まあいいです。今ではそれなりに気に入ってるので。 
貴方達の事は名前で呼ぶので、アタシについてもシルバーレイでお願いします。 
 
仲良くする気はあんまりないですけど、良介さんに迷惑をかけない程度には良くしてあげますから」 
 
 
 どういう自己紹介なんだと思ったが、リスティ達は気を悪くした様子はない。個性だと好意的に受け止められているようだ。 
 
特にフィリスは自分のクローンなだけあって、シルバーレイを妹のように見ているらしい。色々気遣っている素振りを見せている。 
 
フィリスのそうした優しさを煩わしそうにしているが、文句を言うほどでもなく不満げにしながらも一応受け止めてはいる。 
 
 
いずれにしても今後なんとかやれそうではあった。 
 
 
「ここは安全と聞いている。フィリスやシェリーはもちろんだが、フィアッセもできればここで隠れておいてほしい」 
 
「う、うーん……どうしようか、リョウスケ」 
 
「安全第一なのは当然じゃないか。なんでそんなに悩むんだ、別にあのマンションでなくてもいいだろう」 
 
「そうなんだけど、ママやパパが」 
 
「お前の両親?」 
 
 
「うん、今回の件もあって心配だから本国へ戻ってきてほしいようなの」 
 
 
 ーー娘が滞在先でマフィアに狙われており、家族同然の友人達も誘拐に巻き込まれた。 
 
親なら当然の判断で、反論する余地は一切ない。むしろ今までの対応が甘かったというべきか。 
 
 
しかしそうなるとーーこの護衛ゴッコも必要なくなる。素人である俺はお役目御免となってしまうだろう。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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