とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 四十二話
救出部隊としか聞いていなかったのでどんな連中かと思いきや、公的機関の服装を着た者達だった。分かりやすく言うと、警戒心を与えない佇まいの連中である。
室内に入るなり、俺達を確認した者達は即座に駆け寄って保護。暴れていたマフィアの男は捕縛され、オットーは姿を消したまま退散していた。
可笑しな話だったのが、連中が真っ先に俺の存在を確認して安堵の様子を見せた事である。夜の一族の干渉が明らかに感じられて、内心ちょっと笑ってしまった。
フィリスとセルフィも当然のように保護、残るは応急処置をされたシルバーレイの存在。部隊の偉い人が、何故か俺に聞いてくる。
「情報によればこの者、マフィアの手の者との事ですが」
「まあ、そうかな」
「ちょっと良介さん、コウモリだってもうちょっと手のひら返しに悩みますよ!?」
頭を怪我している分際で元気に文句を言ってくるクローン女、うるさい奴である。結局フィリスが苦笑いを浮かべて、取りなしてくれた。
現場の状態を確認したかったのだが、その点はさすがプロと言うべきか、生産な場面は一切見せずに俺達はアジトの外までガッチリ連れられて、救急車に載せられる。
全員無事だったのだが、寝かされて身体を調べられた。潜入作戦を始めてから一体どれほど経過したのか、考えてみれば飲まず食わずで緊張を強いられたのだ。
事情聴取とかその辺は後回しで、俺達は病院で休まされた。
(リスティ達が心配ではあるんだが……やはり自由に行動させてもらえないか)
救出部隊には、リスティやさざなみ寮が襲われる危険性は伝えておいた。だが、それ以上の干渉は認められなかった。
考えてみれば無理もない。夜の一族というスポンサーがいても、俺自身は一般人なのだ。戦力として見なしてくれないのは当然だった。
むしろ夜の一族の連中こそ、俺に危険な真似をしてほしくないと思っている。プロを雇う資金も権力もあるのに、わざわざ危険な真似をさせる意味合いは全然なかった。
俺も気になるが、剣を持って戦いに行きたいかどうかと言われれば悩む。あくまでリスティがやばそうなので、力になりたいという気持ち程度でしかないからだ。
「とりあえず、寝るか」
果報は寝て待て、とよく言ったものだ。何も出来ないのであれば、何もする必要はない。
昔は剣を持って病院を脱走なんぞとやらかしたものだが、その行動の結果は悲惨なものだった。目も当てられない事態になって、余計なトラブルを招いてしまった。
何の情報もなく行動するのは危険すぎる。幸いにもディアーチェ達がいるので、あいつらが掴んでくれているだろう。
それまでは体を休めておくことにしよう――潜入作戦が開始してからほぼ一日、俺はようやく体を休めた。
思っていた以上に精神的に疲れていたのか、仮眠まで取ってしまった。
静かに休ませようという配慮なのか誰も訪ねてこず、病院のベットでガッツリ眠ってしまっていた。不覚である。
そもそも病院と言っているが、どの病院なのか分からない。窓から外を見れればいいのだが、この病室には何故か窓がない。
海鳴大学病院に運ばれているとは思えない、マフィアがフィリスを攫った場所だ。安全を確保するには、彼らの目から逃さなければならない。
「今晩は、良介さん。今起きていたりしますか」
「ドアくらいノックして入ってこ――お、お前、どうしたんだその髪!?」
俺の病室に無断で入ってきたのはシルバーレイ――なのだが、フィリス譲りの長い髪がカットされてしまっていた。
見事なまでのショートカットになっており、シルバーブロンドにフィリスの面影が消えてしまった。顔立ちもくっきり浮かび上がっている。
シルバーレイという名前の少女はもう、完全にフィリスとは一画する存在となった。二人が並んでも、よくて姉妹と言ったところだろう。
変だと言うつもりはない。フィリスとはタイプの異なる美人になったというだけだ。
「怪我の治療がてら、スッパリ切ってもらったんですよ。元々鬱陶しかったですし、ちょうどいいかなって。
どうです、似合いますか」
「個性が出ていいんじゃないか」
「せめて素敵だねとか言ってもらいたかったですが、まあ良介さんに望むのは酷ですね」
最近出会ったばかりの女の髪型が変わったことに、大げさな感想を求められても困る。本人もそれは分かっているのか、ノホホンと笑っていた。
一応マフィアの手先だった女なのだが、監視の一人も付けられずに一人でここへ来たらしい。それはそれでどうなんだろうか。
俺が裏切りの手引きをしたからと言って、全面的に信頼されている訳ではないはずだ。案外、俺の傍なら害はないとでも判断されたのだろうか。
シルバーレイはベットの傍の椅子に腰掛けた。
「色々うるさく取調べされましたけど、とりあえず良介さんの味方をした功績が認められて制限付きで行動が認められました。
良介さんの言う通り、クローン研究はこちらの方が進んでいて、アタシのメンテナンスもやってくれるそうです。
一時はどうなることかと思いましたが、少しは未来が見えてきましたかね」
「契約はこれで果たしたな」
「ええ、まあ一応約束を守ってくれたことには礼を言いますよ。超能力の使用は盛大に制限されちゃいましたけどね」
さすがカレン達、情には一切流されずに容赦なくシルバーレイの能力に制限を加えたらしい。
まあ救急車を遊び半分で暴走させるような女だ、首輪の一つでもかけられていた方がいいに決まっている。
シルバーレイ本人も不服そうではあるが、制限をかけられた事に対して抵抗はしなかったようだ。立場をわきまえる理性はあるのだろう。
オリジナルがフィリスなだけに、お人好しな部分も少しは受け継いでいるのかもしれない。
「お前はこれから先、どうするんだ」
「良介さんを手伝いますよ」
「は?」
「日本のアジトを一つ潰しましたけど、組織はまだ健在。裏切ったことまで伝わったかどうかはわかりませんが、敵側に捕獲されたのは明白。
下手すると処分されちゃいますし、だからといってコソコソ隠れているのも割にありません。
良介さんがマフィアを潰してくれるんなら将来安泰ですしね」
「待て待て、俺はマフィアを潰すのが目的じゃないぞ!?」
「分かってます、LCシリーズ――他のHGS患者を守るのが目的なんでしょう。
アタシはオリジナルとは違って戦える力がありますし、一人や二人余裕で守れます。
今回の件だって良介さんの目の届かないところで起きていますよね。これから先も同時に狙われると厄介なのでは?」
「うぐぐ……」
ニヤニヤ笑いながら痛いところをついてくるシルバーレイに、俺は黙り込む。
実際日本でフィリスが狙われて、セルフィが海外で誘拐された。同時に狙われてしまうと、厄介なことになる。
夜の一族や俺の仲間たちの協力を得れば同時展開は可能だが、間違いなく大事になってしまう。少数精鋭が望ましいのは事実だった。
それにシルバーレイは元組織の人間。奴らのやり口には精通している。
「メンテナンスの件もあるので、本当は嫌ですけどしばらくオリジナルの所でお世話になることになりました。
もう一人のセルフィ、でしたっけ。あの子も安全が確認されるまで、日本に滞在するようですよ」
「えっ、本国へ帰らないのか」
「ここの守りの方が固いらしいので、事件が解決するまで休暇を取らせるようです。
良介さんに守ってもらうみたいなんで、頑張ってくださいね」
「ちゃっかり押し付けられてる!?」
ようやく救出できたかと思ったら、単に護衛対象が増えてしまっただけという現実。
味方は増えたけど、シルバーレイは明らかに面白がっていて、こいつも制御不能な存在。
一つの局面が終わりを迎えたが、事件の解決まではまだ程遠い。
<続く>
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