とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 四十話
アジト内に衝撃が響いた。
爆破音ではなかったので、多分アジトに多くの人数がなだれ込んだ人の勢いが衝撃となったのだろう。
俺が潜入したことでアジトの位置を把握した夜の一族が、救援部隊を送り込んでくれたのだ。その中には俺の仲間も加わっているのだろう。
カレン達から迂闊に動くなと言及されているが、この状況からすると助けが来るまで待つべきだろうか。
「ちょっと良介さん、貴方のためにここまで尽くした健気な女に今の状況を説明してもらいたいんですけど」
「おっ、ちょうどよかった。今何が起きているのか、確認しに行ってくれないか」
「えっ、何で良介さんが知らないんです!?」
作戦の当事者がなぜ作戦の概要を知らないのか、驚愕しているシルバーレイ。だって教えてくれないんだもん、アイツラ。
作戦の細部に至るまで全て説明すると、余計なアドリブを入れて台無しにする可能性があると、カレン達が作戦立案から俺を排除した。何でやねん。
酷すぎる仕打ちだが、夜の一族の世界会議をある意味で混乱させた張本人なのだと、抗議が許されなかった。おかげで俺は今何が起きているのか、分からない。
大いに怪しんでいたが、俺の表情を目の当たりにして事実だと理解した瞬間、シルバーレイは口をあんぐり開けた。
「全然信用されていないんじゃないですか。本当に大丈夫なんでしょうね」
「安心しろ、俺の身の安全は一応保証されている」
「アタシが心配しているのは、アタシの今後についてなんですけど」
「お前、自分さえよければいいという考えはやめろよ」
「良介さんがそれを言いますか!? オリジナルの記憶を見ると、入院中の病院から脱走とかしているんですけど!」
くそっ、こいつフィリスの記憶を通じて俺の過去を知っているからやりづらい。平然と俺の黒歴史を罵倒してきやがる。
そう考えてみると、こいつは意外と俺に似た面を持っている。他人は二の次で自分が大事という、ある種人間らしいクローンである。
まあクローンとはいっても人間と同じ体なのだから、別に差別化する必要性はない。
ただ変に人間らしいと、それはそれで戸惑ってしまう。フィリスなんて自分のクローンなだけに、シルバーレイの感情に驚きを見せていた。
「今確認してきますから、逃げたりしないでくださいね。話がややこしくなるんで」
「頼んだ」
渋々という感情を全身から漂わせながら、シルバーレイはマフィアの連中に状況確認へ行った。
今がチャンスだ。あいつの事を疑っているわけではないが、あいつがもし監視とかされていたら話が伝わる危険もあるからな。
時間がある今のうちに、話をつけておこう。フィリスとセルフィを手招きして、耳打ちする。
(今アジトを襲撃しているのは、俺の知り合いが編成した救出部隊だ。法的配慮もされていて、何が起きても問題ないように国際的に対応できている)
(ちょ、ちょっとどういう事なの。本当に君、何者なの!?)
(お前が所属するニューヨーク市消防局にも話が通っていて、組織側の混乱も抑えられている。そういう政治的な話ができる奴とコネがあるんだ)
(シェリー、混乱する気持ちは分かりますが、良介さんの言っていることは本当なんです。彼は本当にサムライなんですよ)
(何でフィリスが嬉しそうに言うのか分からないけど……でもニューヨークにまで話をつけてくれているんだ、ありがとう。
皆に心配させて本当に申し訳なく思っていたんだ)
(ちなみに今姿を消しているが、その辺に一人俺達を守ってくれる子がいる)
(えっ、嘘!? 私の超能力にも引っかからない!?)
(全然気づきませんでした……えっ、本当にいるんですか)
フィリスとセルフィは大いに驚いていたが、過去に修羅場を経験しているだけあって俺の簡単な説明で経緯を理解してくれた。
下手に騒がれると面倒だったが、その点は俺を信頼して状況に身を任せてくれるらしい。大いに助かった。
一般人よろしく取り乱されたり、騒がれたりすると、救出部隊の足を引っ張る羽目になりかねないからな。味方がいることには驚いていたけど。
次の瞬間、銃声が響いた。どうやら戦闘が始まったらしい。気にはなるが、動くなとは言われている。
(脱出することになるので、今のうちに準備しておいてくれ。それとフィリス、何か武器になるようなものはないか)
(! 駄目ですよ、良介さん。絶対行かせませんから)
(違う、違う。何かあった時のための護身用だ)
剣が欲しいと言っていないのに、フィリスにめっちゃ睨まれた。俺が単身で戦いに参戦するとでも思ったのだろう、その点の信頼はあまりない。
俺の説明を見いてもあまり納得してくれなかったが、フィリスは研究室内を見渡して取りに行ってくれた。俺の信用のなさを見て、セルフィは笑っている。
俺の新しい剣は呼び寄せることもできなくはないのだが、あの剣を呼ぶと俺に付き纏うオリヴィエが危険を察知する可能性がある。
あいつはアリシアに任せているので、元怨霊に干渉されたくなかった。
「これならどうですか、良介さん」
「これはメスーーじゃないよな」
「正確に言いますと、”安全メスホルダー”です。
先端の替刃をスライドさせて、ホルダーに着脱する構造となっているんです。だから刃物だと認識されなかったんですね。
本来は医療関係者が安全に使う為の構造ですが、おかげで取り上げられませんでした。どうぞ」
「助かる」
調べてみると軽くて、メスが適合替刃として収納されている。ステンレス製なので、意外と武器として扱える構造をしていた。
俺一人ならどうとでもなるが、フィリス達がいる以上全てを任せきりにするのは危険だ。この二人はHGS患者で、夜の一族が警戒している存在なのだから。
フィアッセに至っては排除するべきという意見まで上がっている。この救出もマフィアの殲滅が主であり、フィリスやセルフィの救出は二の次なのは間違いない。
一方、外から聞こえてくる声も優先順位を迫られているようだった。
『嫌だと言っているでしょう、戦いたいならご自分でどうぞ』
『ふざけるな、アジトが襲われてるんだぞ。組織の兵器であるお前が出て行って戦え!』
『今アジトを襲っている連中、明らかにプロの部隊ですよね。つまり、国家権力が関わっている。
なんで無謀な戦いにアタシが行かないといけないんですか、全滅させたってその後追われる身になるだけです』
『何を言っている、貴様は組織を裏切るつもりか!』
『どっちなんですか』
『何だと……?』
『どっちだって聞いているんです。アイツラを倒すのか、第一目標だったサムライやHGS患者達を逃がすのか。
どっちもなんて無理なんで、どっちか決めてくださいよ。
ちなみにアタシが外の部隊と戦って負けちゃったら、日本に唯一あったアジトは破壊されるわ、サムライ達は保護されるわ、目も当たられない結果になりますね』
『ぐっ……』
……あいつ、裏切ると決めたら言いたい放題いってやがるな。
多分判断を迫られているのは、このアジトの責任者だろう。おおかたシルバーレイに玉砕してこいと命令して、反論されまくっているのだろう。
冷静になって考えればシルバーレイを特攻させて、その隙に俺達を連れ出せばいいのだが、混乱した最中で判断を無理強いされて困りまくっているようだ。
味方としては頼もしいんだけど、だんだん気の毒になってきた。
『こうしましょう。サムライ達をここからアタシが連れ出すので、本国へ連絡して至急護送する手配をしてください』
『なんだと、連中を放り出しておめおめと逃げ出せというのか!』
『あいつらの目的は組織の殲滅と、人質の救助でしょう。前半は達成できても、後半は妨害できます。
成果を持ち帰れば、この失態も挽回できるでしょう。襲撃を阻止できなかったのは、アタシらの責任ばかりでもない。
ここ半年余りを思い出してください、組織は今世界中から目をつけられているんです。現場の人間に全て押し付けたらたまったものじゃない』
『ぐぐ……』
『アタシの超能力ならアジトの外へ逃がせますよ。さあ、どうします?』
『ぐぐぐ……』
不自由な選択肢という言葉がある。
一見片方が正確に見えるが、状況が圧倒的に不利であるとそう思い込んでいるだけに見えてしまう。
どちらも正しいという保証なんてないのに、片方があまりにも不利だと、もう一つが正解に思えてしまう悪魔の問いかけだった。
判断を迫っているとーー
『小娘相手に何脅されてるんだよ』
『えっーーきゃあっ!』
研究室の外から、騒音と悲鳴。声の主は、シルバーレイ。
俺は咄嗟にフィリスやセルフィを引っ張って、俺の背後へ下がらせる。
研究室の扉が開いてーー
「この場でサムライを殺して、トンズラすればいいだけの話だ。ついでに、役立たずの兵器も処分してな」
「うっ……この……」
入ってきたのは、一人の男。
手にするナイフの柄尻には血が滲んでおり、シルバーレイの額から血が流れている。
この状況ーー体の自由そのものはきくが、手が拘束されている。
<続く>
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