とらは

とらいあんぐるハート３　To a you side　第十三楽章村のロメオとジュリエット三十八話

　海鳴で行われる次なる作戦とは、残るHGS患者を捕獲する計略。

フィリスという研究者と、セルフィという人間兵器。そして俺という第一ターゲットを捕まえられたテロ組織は、俄然身を乗り出した。

調子に乗り始めたと言うよりも、後先を考える必要がなくなったのだ。海鳴での作戦が失敗に終わったとしても、俺達を捕まえただけで御の字という事だろう。

シルバーレイは困った顔で説明してくる。

「アタシが良介さんを捕まえられた事が評価されたんですが、その評価の向き方が予想以上に上向きだったんですよね。
HGSに関する研究も加速化するでしょうし、血統因子の成功が組織に新しい革命をもたらすと盛り上がっています。

HGS患者を捕まえてクローン体を製造し、血統因子を作り出せば、超能力者を量産することも出来ると張り切っていますね」

　俺の潜入作戦が彼らの過信を招くとは、夢にも思わなかった。もしかして夜の一族の連中が俺の作戦を馬鹿にしていたのは、彼らの過信を確信していたからか。

他のHGS患者を狙うとなると、まず間違いなくフィアッセとリスティがやばい。それにさざなみ寮には他のHGS患者もいる筈だ、制圧に出向く危険性がある。

その前にさっさとこの研究所を脱出したいが、今のところ救援が来る気配がない。そろそろ乗り込んできてもおかしくはないはずだが、オットー達からの連絡はなかった。

俺自身は今のところ無事だし、なまじシルバーレイを味方につけてしまったから変に安心させてしまっているかもしれない。

「下手に勘ぐられるのも面倒なので、そろそろ良介さんの切り札を出していただけると助かるんですけど」

「任せろ。この拘束を解いてくれれば、俺が大暴れして――」

「アクション映画は禁止でお願いします」

　敵のアジトから華麗に脱出するなんてスクリーンの中だけとほざく、シルバーレイ。フィリスのクローンにまで呆れられてしまった。

自分でも少しは強くなった自覚があるが、俺も流石にマフィア達を相手に空手形で戦えるとは思っていない。容赦なく蜂の巣にされるだろう。

潜入作戦のために剣は置いてきているし、夜の一族の連中から絶対俺自身は戦うなと念押しされている。

仕方がないので、別の手を考える。

「そもそも組織に捕まった理由はあくまでフィリスやセルフィの開放が条件なんだから、交渉させろよ」

「無抵抗で捕まった人間に、そんな権利が与えられるはずがないでしょう。交渉材料とかあれば別ですけど」

「俺のカルテを病院からパクったのなら、俺の身体について興味を示しているんじゃないか」

　以前フィリスに精密検査をされたのは、俺が異世界活動を繰り返していて身体を心配しての発案。

エルトリアのナノマシンやヴァリアントシステム、ユーリの生命操作能力で生まれ変わった俺の身体は、一般の病院には診せられない。

フィリスを信頼して診断されたのだが、その医療カルテを組織に奪われてしまったのだ。俺の身体に関する秘密が知られてしまっている。

エルトリアの技術なんてあいつらには理解できないだろうが、問題は理解できない要素が俺の身体にあるということだ。

「確かに組織がここまで追い詰められた原因の一つに、良介さんの身体への秘密が関わっているという話は出ていましたね。
裏社会に君臨していた組織には熟練の使い手も多かったのですが、ほぼ全て返り討ちになっています。

日本という国で生きてきた若者とは思えないと、深掘りされていました」

　実際組織の使い手をことごとく倒してきたのは御神美沙都師匠なんだけど、連中が知り得るはずがない。

向こうの立場で考えてみると、俺という人間がどれほど脅威なのか分かる。平和ボケした日本人に出来ることではないからな。まあ実際、俺がやったことではないけど。

そこへ俺のカルテを見た組織が、俺の未知なる部分に答えを求めたのだ。ユーリ達によって強靭な肉体を得た俺の秘密に迫り、サムライの強さの原因だと深掘りしてしまったのだろう。

前後関係は完全に逆なのだが、組織には絶対に分からない異世界ファンタジー要素だった。

「話は分かりましたけど、そもそも交渉なんてしなくても良介さんを強引に調べれば済む話ですよね」

「それを悟られないように、先に交渉を申し出てお前の手柄にするんだよ。筋書きはこうだ。

俺が文字通り身体を捧げるので、その代わりにフィリスやセルフィの身柄の安全を保証してほしい。
お前はその交渉に応じるフリをして、俺の身体を隅々までフィリスに調べさせると組織に交渉するんだ。

俺からの交渉ではなくて、手柄を立てたお前からの提案なら耳を傾けてくれるだろう。
俺を騙して骨までしゃぶってやるとでもいえば、今調子に乗っている組織だってそう疑わずに耳を傾けるんじゃないか」

「！　……なるほど、良介さん本人ではなくアタシの策略だと言えば乗ってきそうですね。
けれどそこまでアタシを信頼して身を預けてもいいんですか。アタシが裏切れば良介さんは終わりですよ」

「ニヤニヤしながら何いってんだ、お前。いい子ちゃんぶっていた最初のお前は何処へ言ったんだ」

「残念ですが今のアタシはシルバーレイであって、オリジナルとは違う存在なので」

　シルバーレイはそう言って肩をすくめる。名前を与えてからかどうかは分からないが、これまでの主張とは一変した。

オリジナルになろうという危険思想は完全に鳴りを潜め、むしろオリジナルとは違う存在であるのだと明言までしている。

心境の変化はそのまま彼女自身の目覚めを意味しているようで、苦笑する。皮肉げな感じではあるが、むしろこちらの方が地なのだろう。

クローン体に自我を求めない組織のやり方とは、決定的に離別している。俺の提案を受けて、シルバーレイは組織と交渉してくれた。

「ビックリするくらい簡単に許可が出ました。良介さんを徹底的に騙して、絶望させてやれとまで言ってます。
良介さんを捕まえたことで欲が出たのでしょう。簡単に血祭りにあげるのではなく、ジワジワ痛めつけてやりたいようです」

「よし、これで時間も稼げるし、フィリスとも合流できるな」

「何か君達、いいコンビになってるね」

　それまで静観していたセルフィが、やや呆れつつもそうコメントする。

やはり大事な家族が捕まっていたとあって、気が気でなかったのだろう。少なくとも合流できるのであれば、越したことはない。

俺に復讐する機会を得られた手柄がよほど評価されたのか、シルバーレイの行動に異を唱える者はいないらしい。

拘束されたまま、シルバーレイに連れられて俺達は別室へ移される――

「オリジナル、お客さんですよ」

「えっ、りょ、良介、さん……それにシェリーもどうして！？」

　アジト内の医務室で強制的に研究させられていた、白衣の女性。

シルバーレイが声をかけると神経質な表情を向けてきたが、俺やセルフィの姿を見て驚愕。

唖然とした顔をしているので、

「悪いな、俺も捕まった」

「ごめーん、私も」

「何でそんな明るく言っているんですか！？」

　俺とセルフィが一瞬顔を見合わせた後、二人揃って手をふる。

呑気な顔をしてマフィアに捕まえる俺達を、フィリスはやや呆れながら怒ってくる。

とりあえず元気そうではあった。

＜続く＞

小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]